第86配信 パリオカートぶいなろっ!!杯⑥

 場面はパリオカートのゲーム画面へと切り替わる。そしてマーグンエリアのコースが選択されると八名の操作キャラがスタート位置についた。

 レース開始のカウントダウンが始まり信号が赤色から黄色、そして青色になると一斉に各キャラがスタートする。

 マーグンエリアのスタート地点である平地をトップで駆け抜けたのは女子校生(フェネル)だ。

 そのすぐ後ろに警官パリオ(ガブリエール)、マッシー(クロウ)が続き、少し間が空いてスーツパリオ(バハーム)、ヒャッハー(アマテラス)、酒瓶パリオ(ルイーナ)、素パリオ(エルル)、パンティーパリオ(ユニ)が追随する。

 スタート直後は出だしのスピードが速いキャラが一歩先を行く。その中で一人行動がおかしい者が居た。それはユニだ。


『一斉にスタートしましたぁ! 予想通りに出だしのスピードが速いキャラがトップに踊り出たぁぁぁぁぁ! ――ってあれ? スピード重視のパンティーパリオが何故か一番後列に居るわねぇ。ユニ選手トラブルかぁーーーーーー!?』


 司会のセリーヌとアンナマリーがユニに注目するとパンティーパリオは素パリオのすぐ後ろにピッタリとくっついていた。これは……!


『すぅー、くんかくんか……あ、ああ、アハハハハハハハハ!! あーーーーーー、たまらん! 芳醇なロリのかほりはやっぱり最高だぜ!!』


『ななな、なんとぉーーーーー! ユニ選手、エルル選手のすぐ後ろに張り付き流れてくるロリの残り香を堪能しているーーーーーーー!! 変態! これぞロリコンを極めた変態の所業だぁーーーーーー!!』


『どうやらトラブルでは無く平常運転みたいねぇ。やってる事はこれまでのレースと一緒でロリの後ろにずっとくっついて勝敗そっちのけでロリスメルを堪能しているのね。ぶいなろっ!!杯を一番楽しんでいるのは間違いなくユニでしょうね』


『そうは言ってもこれはパリオカートなので実際にエルル選手の香りを嗅いでいる訳ではありません! つまり、全てはユニ選手の妄想の産物! 想像上のスメルでイケる女、ユニ・ホーリーーーーーー!! 彼女は一体どこまで変態として上り詰めるのかぁぁぁぁぁぁ!?』


『そろそろ病院に連れて行った方が良いかもしれないわねぇ』


 ユニのロリコン変態性に共感する者とドン引く者の二つに分かれコメント欄で討論が始まる中、レースのトップ層は平地を終えてアエギ山を登り始めていた。

 アエギ山は比較的緩やかなコースで急なカーブも無い。つまりレース展開はライバーのテクニックよりもマシンスペックに左右される感じが強い。

 そして状況を揺るがす要因はもう一つ。それはレース中に手に入るアイテムだ。

 アイテムの内容はランダムで大して役に立たないものもあれば一発逆転を狙える強力なものまである。プレイしてみた感じだと後方に居る方が強力なアイテムが出やすい気がする。


『アエギ山のヒルクライムが始まって早々にトップが入れ替わるーーーー! エンジンパワーが高いヒャッハーが一番に躍り出たーーーー! 酒瓶パリオもグングン上位に食い込んでイクーーーーーー!!』


『ヒャッハーと酒瓶パリオは最初はスローペースだけど、動き出したら速いしエンジンも強力だから登りには強いのよねぇ』


『トップ層が熾烈な争いを始める中、エンジンパワーが低い素パリオは皆とどんどん差が開いていく一方だーーーーー! エルル選手はこの圧倒的不利な状況を覆すことが出来るのかーーーーーー!?』


 エルルとユニが引き離されていく一方でトップ層はアイテム入手エリアを通過し手に入れたアイテムで潰し合いを開始した。

 トップのアマテラスはスピードアップアイテムを使って他ライバーを引き離す。同じスピードアイテムを手に入れたライバーも引き離しに掛かり、動きが活発になって各キャラがぶつかり合う。


『あぎゃっ!』


『ぐふっ!?』


『あいったぁ!!』


 ぶつかったライバー達からアイドルVTuberらしからぬくぐもった声が聞こえてくる。アイドルだってトイレに行くし汚い声も出すのだ。これがネットの海で身体を張っている令和スタイルのアイドルの姿だ。


『これは……! ええい、ままよ!!』


 手に入れたアイテムの内容に一瞬戸惑うフェネル。逡巡した後に前方を走る連中に向かって何かを投げつけ、それがクロウに直撃する。


『きゃあっ! これってまさか!?』


『え? ウソ、急に止まれな……うわっちゃーーーーーー!!』


 コントロールを失ったクロウのマッシーがその場でスピンし、すぐ後ろを走っていたバハームとぶつかり吹っ飛ばされた。

 ぶつかる瞬間、普段クールキャラのバハームが余裕ゼロの叫び声を上げてクラッシュしたので、その意外性に皆ニッコリする。


『今しがたフェネル選手が投げたのはパンティーであった事が判明しましたぁ。パンティーがマッシーのタイヤに絡みつき動きを封じた模様でぇす!』


『フェネルが操作してるのは女子校生だから、まるで自分の脱ぎたてパンティーを放り投げたみたいになってるわねぇ。……大変エッチでけしからんわねぇ』


『な……!? ちが、違いますぅ!! そう言われると思ったから投げるの嫌だったのよ! もうヤダーーーーーーーー!!』


 恥ずかしさで半泣きになりながらフェネルはコースアウトしたクロウとバハームを抜いて走り去って行く。

 これによってアエギ山のヒルクライムの順番はアマテラス、ルイーナ、ガブリエール、フェネル、遅れてクロウ、バハーム、エルル、ユニとなった。

 そしてここから序盤の注目場面でもあるアエギ山のダウンヒル戦に突入する。

 傾斜もカーブも緩めでスピードを殺さずに上手くドリフトをするのが素早く下山するコツだ。


 現在トップのアマテラスがいち早くダウンヒルのロングカーブに差し掛かる。

 レース開始から一回も減速せずスピードが乗りに乗っているヒャッハーはその名前の如くご機嫌な爆走状態だ。


『……ここじゃあ! じゃけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!』


 アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!


 カーブ直前でドリフトに切り替えたアマテラスが叫ぶと緩やかな長いカーブを綺麗な弧を描いて滑り下りていく。

 この見事なドリフトが決まった瞬間、タイヤと路面の摩擦音がやたらといやらしく響いて聞こえた。この音はまるでアレの時の声のように聞こえる。


『さあ、皆様聞こえたでしょうかぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 今のがアエギ山名物ダウンヒルドリフトの嬌声音でーーーーーす!!』


『ちなみにこの嬌声音はエロ過ぎるとクレームが入りまして明日にはメンテナンスで修正される予定です。矯正される前にヨウツベで嬌声が聞けて本当に良かったわぁ』


 嬌声と矯正をかけたアンナマリーのダジャレなのだろう。応援席にいるライバー達は身を寄せ合ってこのダジャレブリザードの寒さを凌いでいた。


『『『『『『『『『『『『『さっむ!!』』』』』』』』』』』』』


 皆から冷たくあしらわれて涙を流すアンナマリーを他所にレースでは二番手のルイーナと三番手のガブリエールが接戦を繰り広げようとしていた。

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