第16配信 ナマって割と色々ある
自分が弄られている状況に苦笑いするも懐かしい感じもあって頬が緩む。
コメント欄が俺の貞操危機の内容だらけになり皆でふざけ合っていると、今まで嬉々として語っていたガブリエールの動きが止まり目のハイライトが消え何かを見つめていた。
『……そしたらワンユウさんがね――』
ガブリエールが止まっていたのは一瞬の出来事であり、何事も無かったかのようにすぐに彼女の笑顔溢れるトークが再開される。
しかし、熱心に話を聞いていたリスナー達がその一瞬の変化に気が付かない訳がなく混乱が起こった。
コメント
:え?
:え?
:ちょ、今のなに?
:一瞬、ガブちゃんの動きが止まったと思ったんだけど
:通信が不調だったんじゃないの?
:え、ちょっと待って。さっき一瞬だけ殺意の目をしてなかった?
:ほんの少しの間、闇落ちの目をしていたと思う……
:怖い怖い! 何かサブリミナル効果みたいで恐怖が植え付けられてるんだけど!
:これどう言うこと? 教えてーーーー! 有識者ーーーーーー!!
:皆さん、やっちまいましたね
:我々が何をやったと言うのかね?
:説明して貰おうか(ガクガクブルブル)
:さっきガブちゃんとワンユウ氏が清い仲と説明しましたが、実際は少し異なります
:何だって!? アタイ達を騙したのね! ぷんぷん!!
:ワンユウ氏は頑なに今の距離を保っていますが、ガブちゃんはワンユウ氏を……マジで狙っています!!
:ぷんぷ……え? そういう感じ?
:彼女は配信中のワンユウ氏のコメント及び彼がSNSに載せた情報などから生活区域を絞り込み、いつか本人を見つけ確保し……ああ! ここからは恐ろしくて話せません!!
:つまりガブちゃんは、いつかワンユウ本人と会ってセ〇ク〇する気満々だから、先に〇ッ〇スをしようとする連中を警戒している……と?
:ワンユウの貞操を奪おうもんなら天使が
:歌います。曲名は『攻撃範囲は無限天使』
:一万キロと二千キロメートル離れていても愛してる~~! 八千キロに近づいた頃からもっと気配を感じた~~ぁ~~!!
:怖い怖い怖い怖い!! どんどん近づいてくるじゃんかよぅ
:本当に逃げて、ワンユウーーーーーーーーーーーーーーー!!!
『――私がぶいなろっ!!の方からスカウトを受けて迷っている時、守秘義務でそのことを話せなかったんですけど、ワンユウさんが言ってくれたんです。私の幸福がリスナーの幸福だって。そうして私の背中を押してくれたから今、私はここにいられるんです。卒業配信の時も「俺が君を見つけるから」って言ってくれて……ハァ……ハァ……ジュルッ。だから私も再会に向けて色々と頑張れたんです。――その間ワンユウさんのZの更新が中々されなくて、もしかして彼女でも出来たのかなって気が気じゃなかったんですけどねぇ』
コメント
:話の途中で思い出し発情してるぞ、この天使!!
:途中まで凄く良い話だったんだけどね! でもね、でもねぇ!!
:最後に付け加えた一言……完ッ全にストーキングのそれでしょうよ!!
:この天使、
:もう狂気しか感じねぇよ!
:ええいっ、ぶいなろっ!!の天使は化け物か!
:あああああああっ!! 神よーーーーー!! この天使に裁きの鉄槌を与えたまえ!!!
:キエエエエエエエエッッッ!! オンシュ〇ソワカーーーーー!!!
:パキーーーーーーーン!!(効果音)
:なっ!? 真言が……神通力が防がれた! バリアを持っている……だと!?
『ふふふっ、その程度の攻撃は私に届きませんよぅ』
コメント欄で好き放題やっているリスナーにガブリエールが対応し、皆は喜びと恐怖を同時に味わい益々ヒートアップする。
一方、俺はガブリエールリスナーのコメント欄がかつての太陽リスナーのそれと同じ流れになっていたので呆気にとられていた。感染拡大しておる……。
コメント
:大変です。あの天使……A〇フィールドを持ってます!
:そりゃ天使だから標準装備してるわよ
:ふっ……心の壁だよ
:それじゃ人類に……我々リスナーに勝ち目はないじゃあないですか!
:いや……ある! あの心の壁を突破すれば勝機はある
:その通りだ。我々には切り札がまだ残っている
:汎用人型リスナー兵器 エブワンユウゲリオン――発進!!
:ワンユウ!
:ワンユウ!!
:ワンユウ!!!
:ワンユウーーーーーー!!
:Foooooooo!! ワンユウーーーーーーー!!!
「な……なんだこりゃ。天使相手に人類存亡の命運を賭けて戦っていたと思ったらリオのカーニバルみたいなハイテンションになった。……ずっと俺を呼んでるし。出来れば目立ちたくないんだけどなぁ……しょうがないかぁ」
このままにしておく事も出来ないので取りあえず最小限のコメントだけして引っ込もう、そうしよう。
コメント
ワンユウ:呼ばれたので出てきました。皆、何かゴメンネ。それと俺の名前でロボット造らないでね
:おいでなすったぞ!
:我々リスナーの希望、ワンゲリヲンだ!!
ワンユウ:さっきと名前違くない!? それにしれっと表記が新劇場版になってるし
:あっ、本当だ! こんな細かい部分に気が付くなんて……勝てる!!
:よぅし、ワンゲ……じゃなかったエブワンユウゲリオン出すぞーーー!
:仕様はテレビ版にする? 旧劇にする? それともぉ、し・ん・げ・き?
ワンユウ:うーん、ゲーム版で。マゴロク好きなんよ
:そこイクのかよーーーーwww オレ、ワンユウ好きになったわwww
:この武器知ってるとは、貴様ロボオタだなー? Zでフォローしときます
:発進!
:ズゴォーーーーーーーーージャキーン!
:エブワンユウゲリオン――リフトオフ!
どうやら俺は出撃したらしい。画面の向こうには天使ガブリエールが待ち構えている。
取りあえずコメントを打とう。今のあいつは配信が始まってからテンションが上がりすぎている。少しクールダウンさせないと……。
ここから俺とガブリエールの一騎打ちが始まる。
:「あの――」
『ワンユウさん、ワンユウさん、ワンユウさぁん、今日も来てくれたんですね! ありがとうございます。私、待ってました。あ、あ、あ、やっぱり昨日一日だけの生コメントだけじゃ足りなくてぇ。もっと、ナマをくら……くりゃはぁぁぁぁい!』
:「ステイ! ステイ! 落ち着け!!」
『はうっ』
昨日の様に暴走しそうなガブリエールを落ち着かせる為、刺激の少ないコメントで対応する。
襲う気満々の凶暴な肉食獣と一緒に檻の中に閉じ込められた気分だ。
『う~、お預けなんて酷いれすぅ。う~う~う~!』
うなり声を上げて頬を膨らませ怒るガブリエール。こんな細かい芸当も出来るのかと改めてこのアバターの精巧さに脅かされる。
:「いいかー、そう、そう、落ち着けぇ。――ここまで凶暴化したのは初めてだな」
『だって二ヶ月間もワンユウさんのナマ貰えなかったんですよ。昨日のだけじゃ満足出来ないんですぅ。私にはワンユウさんのナマが圧倒的に不足してるんです。昨日頂いた百倍は貰えないと落ち着けませぇん』
:「あのさ、せめてコメントまで言おう! ナマだけだと今配信観に来た人が確実に勘違いするから! そしたらお前、痴女天使とか言われるよ? いいの!?」
『もうワンユウさんのエッチ。ナマで連想するものならビールとかクリームとかキャラメルもあるじゃないですか。それなのにエッチなナマしか考えられないなんてぇ……この、ス・ケ・ベ!』
:「……もしかして俺、煽られてる? へぇ、そうかそうか分かりましたよ。そんなに俺のナマが欲しいのなら満足するまでくれてやろうじゃないですか」
『いっぱいくれるんれすかぁ? はぁん、嬉しいれすぅ』
心配した自分が馬鹿だった。誰の為に俺がここまで気を配っていると思ってるんだ。こうなりゃ配信がBANされようが知ったこっちゃない。この痴女天使にナマのバーゲンセールをお見舞いしよう。
覚悟を決め本気を出す前に自分が打ったコメントを改めて見返してみると余りにも酷い内容で目眩がした。
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