第15配信 ワンユウ布教配信の疑い

 ガブリエールの緊急生配信の開始まであと数分。

 既に準備万端の『ガブちゃん愛してるグループ』の面々とチャットをしながら待つ。

 その際、どういった経緯で俺がガブリエールの初配信を視聴したのか訊かれたので天使が出てきた夢の話をした。



ガブちゃん愛してるグループ

ホワリバ:何それメルヘンじゃん

ブラテン:不思議な話だね

ジン:結果、正夢みたいなものだったと言う訳だな

ロキ:あら~、めっちゃ良い話じゃない。私そういうの大好物よ

アータ:総帥ってたまにそう言う神がかりな事やらかすよな

ライト:想いの強さが運命をたぐり寄せたと言うべきか……

ブラテン:おや、随分と詩人だねライト

ホワリバ:詩人と言うより厨二病だろ。随分引きずってるなぁ

ワンユウ:ライト、お前腕に包帯とか巻いてないだろうなwww

ライト:ワンユウとホワリバは随分と貧しい青春時代を過ごしてきたみたいだな。どうせ今も女っ気の無い人生を更新してるんだろ

ワンユウ:……今度オフ会でもやらないか?

ホワリバ:奇遇だな。俺も同じ事を考えていたところだ

ブラテン:二人共大人げないよ。そろそろ時間だね。楽しみだなぁ



 配信開始時間となったのでチャットを終了して配信に集中する。デフォルメガブリエールが画面内を飛び回るオープニングに切り替わると二、三分ほどして本編が始まった。

 今回の背景は昨日の神殿とは違って温もりを感じる部屋の中だ。一人暮らしの女性の部屋みたいな印象を受ける。多分こんな感じだろう、きっと。

 その部屋の中に緊張した面持ちのガブリエールがいた。


『こんがぶー! ぶいなろっ!!六期生、ゴッド&デビルのガブリエール・ソレイユです。皆さんにまた会えて凄く嬉しいです。今日もよろしくお願いしまーす!!』


 コメント欄はガブリエールリスナーの挨拶「こんがぶー」で埋め尽くされ、俺や元太陽リスナーの面々もその中にしれっと交ざる。

 その時、少し不安そうだったガブリエールの目に強い意志が灯るのを見た。


『まず最初に昨日の初配信では恥ずかしい発言や姿を見せてしまい申し訳ありませんでした。多分この場にいるリスナーさん達の中には私の前世についてご存じの方がいると思います。そこでまずは私の前世である空野太陽について改めて説明させてください』


 ガブリエールは堂々と芯の通った声でかつての自分の話を始めた。

 その出だしは自分が個人勢VTuberとしてデビューしたものの、しばらくはリスナーもチャンネル登録者もいなかったというものだった。

 コメント欄には「それでよく心が折れなかったな」とか「自分だったら確実に辞めていた」など、太陽の奮闘を認める内容が次々と綴られていく。

 少ししんみりしたムードが漂っていた時、ガブリエールの声色が変わった。


『配信を始めてしばらくその様な状況が続いていた時、あるリスナーさんがゲーム配信を観に来てくれたんです。ゲームが凄く難しくてそっちに集中していた私は最初その人に気が付かなくて、結局気が付いたのは二時間が経過してからでした。その人は――』


 これは俺が初めて太陽の配信を視聴した時の話か。

 ……何だか嫌な予感がしてきた。複雑な心境でガブリエールを見守っているとAINEの着信があり、やり取りが始まる。



ガブちゃん愛してるグループ

アータ:さあさあ、ついに始まりましたよ!

ライト:親の顔より見た、いや聞いた太陽ちゃんとワンユウのノロケ話

ワンユウ:ヤバいよヤバいよヤバいよヤバいよヤバいよ……

ロキ:こうなると暫くはトランス状態で語るから誰にも止められないわね

ジン:これがここのリスナー達にどう受け止められるか……だな。我々はもう慣れたが

ブラテン:もしかしてやるんじゃないかと思ったら本当にやるみたいだね

ホワリバ:さすが太陽ちゃん。これに関しては転生しようが何しようがブレないなw



 心配が現実のものとなってしまった。

 さっきまでの記者会見みたいな空気はどこかに消え去り、配信はガブリエールの前世である太陽と俺の関わりを語るものへと変わっていった。


『そう、そこでワンユウさんが――。それでそれでワンユウさんったら――。その時、酷いんですよワンユウさんがこう言ったんです――』


 延々と続くガブリエールの前世と俺の話。俺のユーザーネームが何度も出てくるので皆に申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちで逃げ出したくなる。

 ガブリエール本人は何かが取り憑いたかのように目を見開き饒舌な口調で俺との思い出を語っていく。



コメント

:これアーカイブでよく見かけた馴れ初め雑談だぁ

:早々にこれを生で観られるなんて思ってなかったよ

:凄いぞ。ずっと喋っているのに噛んだりしないし止まらない

:これ、息継ぎしてる? マジでマシンガントークなんだが

:結構早口なのにちゃんと聞き取れる不思議。滑舌良いなぁ

:話し始めてから視線が一点に向けられたままだ。またキマってるぞコレ

:これはもしかして、反省配信に巧妙に見せかけたワンユウ布教配信なのでは?

:ガブちゃんは生きたワンユウ辞典ということかw

:それなのに、お互いのリアルを全く知らないと言う

:それマジ? 登録者数0の頃からずっと協力してたんでしょ?

:それマジだぞ。元太陽リス二年のオレが言うんだから間違いない 

:太陽リス達から総帥とか大将とか言われ尊敬されてた。本人はそれ嫌がっていたけど途中で諦めて受け入れてた

:そこまで尽力していちリスナーとしてのスタンス崩さないとか、仏なの?

:そんな風にずっと支えられたら好きになるよなぁ。俺なら惚れる

 


 ……そんな事ないよ、俺だって皆と同じ男だよ。夢の中で推しのアバターとラブホ行って不発に終わって本気で悔しがる只のスケベで不甲斐ない野郎だよ。ただヘタレなだけですぅ!



コメント

:あくまで自分をいちリスナーと考え推しを見守る。それが総帥ワンユウの生き様よ

:マジかぁ

:とんでもないリスナーがいたもんだ

:なるほど、只のおとこだったと言う訳か……

:気が付いたらガブちゃんよりもワンユウに対するコメントだらけになってないか?

:ガブちゃん前世のコメント欄も似たような状況だったよ

:配信二回目にしてワンユウが既にリスナー全員に認知されてるなぁ

:ワンユウかぁ、そんなに良い人ならオレが頂いちゃおうかしら?

:ナニ言ってんのよ彼は俺のモノよ! 

:ワンユウ貞操の危機ナリw

:ワンユウ、逃げてーーーーー!!



 ……何だかコメント欄の雰囲気が太陽の時と似てきた様に感じるのは俺だけだろうか?

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