第45配信 バニーメイデン③

 好感度の上がり方が遅かった中盤までとは打って変わってそれ以降は好感度の上昇具合はエグくセンシティブなイベントのオンパレードになった。

 メイド喫茶ではチェキ以外にもカラオケ(音ゲー)、囁きASMRなどが用意されているのに加えて、同伴出勤やアフターのデート、休日デートなどがある。

 他のヒロインの場合は好感度の上昇に沿ってそれらのイベントが少しずつ発生するのに対し、序盤イベントがなかった衣織は中盤以降でガンガンイベントが発生する。

 しかも彼女が凄く積極的なので、もはやプレイヤーが衣織を堕とすのではなく衣織がプレイヤーを堕としにきている感じだった。

 ドジっ子お姉さんの魅力にやられてガブリスは衣織に夢中になっている。


 俺はどうかと言うとニュー衣織がバニーメイド服を着た太田さんにしか見えなくて複雑な心境に陥っている。もしかしたら太田さんの職業はメイド喫茶の店員なのではないかと思うぐらい混乱してる。

 そして意外なのはガブリエールだ。今日の配信では途中から何かしら挙動不審な様子が見られている。

 彼女が配信中にハイテンションになるのは通常運転だが、ここまで動揺しているのは珍しい。


 こんな三者三様の調子でゲームは進行していき、衣織からの積極的なアプローチは止まるところを知らず旅行イベントが発生した。

 旅行イベントは各キャラに用意されている重要イベントだ。

 噂では他のキャラの旅行イベントは中々センシティブな内容らしい。それが衣織の場合はどうなるのか皆興味津々だ。



衣織:まー君、もしよかったら今度一緒に旅行に行きませんか?

優:旅行かぁ、それは良いね。何処がいいかな?

衣織:私、温泉旅行に行きたいです!

優:温泉……だって? それってつまり泊まりってこと?

衣織:勿論です。二人だけで一泊二日の温泉旅行に行きましょ!



『……ひゅっ』


 温泉の言葉が出てきた瞬間、ガブリエールから喉の鳴る音が聞こえてきた。多分、俺もほぼ同時に変な声が出ていたと思う。

 さっきから何なんだこのゲームは? この一週間の俺の経験をリピートするようなイベントが発生している。

 それと今のガブリエールの反応を見るに温泉に何かしら思い当たる節があるらしい。やっぱり彼女もあの夢を見ていたのか?


 俺とガブリエールの動揺を他所よそにゲーム内の二人はどんどん親密になっていく。

 衣織は優をまー君と呼ぶようになり、優は衣織を呼び捨てしている。

 このゲームって恋人関係になるのがゴールだったよね? 一緒に旅行に行くとか既にゴールインしてるのではないだろうか。



優:やっと到着したね。温泉旅館と言えば和室が趣があっていいよね

衣織:そうですね。それに外には深緑が広がっていて綺麗です

優:本当だ。それじゃ早速露天風呂に入りながら外の風景を楽しもうかな

衣織:言ってなかったですけど、ここは露天風呂付きのお部屋なんです。だから――



 どこかで聞いたような台詞と共に場面が暗転すると優と衣織が一緒に温泉に入っているシーンが画面に映る。温泉に浸かる衣織はフルヌードになっているが肝心な部分は謎の光が隠している。またこいつか……。

 コメント欄は謎の光への苦情が殺到していた。頭の中ではしょうがないとは分かっていてもやはり悔しいのだ。

 

 この展開は夢の中の俺とガブリエールがやった事そのものだ。相手が太田さんのそっくりさんに変わっているので頭の中がバグっている。


『はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……』


 ガブリエールは頻呼吸になっていて明らかに動揺している。その姿を見て俺は確信した。――やっぱり同じ夢を見てたかぁ……。

 衣織と優はすんごいイチャイチャしながら温泉を楽しみ、浴衣に着替えると夕食シーンに突入した。

 衣織は久しぶりに眼鏡を掛けていて以前の様なビン底眼鏡ではなく小ぶりなフレームの物に変更されている。

 それもまた太田さんが使用している物と似ていたのだが、ここまで来ると俺はもう驚かなかった。

 あと幸いと言うべきか俺とガブリエールがやらかした、おっぱい杯からの押し倒しイベントは無かった。

 何事も無く夕食シーンが終わり、ガブリエールは心底安心した表情をしていた。


 しかし俺たちは油断していた。就寝シーンになると衣織と優は布団を並べて、出会ってからの事を語りあう。

 衣織は自分に自信が持てない状況を何とかしたくてメイド喫茶で働いていたこと、優と出会って会話を重ねるうちに自信を持てるようになったこと、そして優のことを好きで堪らないことを告白した。

 当然ガブリエールは衣織の告白に対し、「俺も衣織が好きだ」と言う選択肢をチョイス。これでめでたく恋人同士となり後はエンディング突入と誰もが思っていた。

 ――が、就寝シーンはまだ終わらない。BGMが消えて何やら妖しいムードになる。



衣織:まー君……シよ?

優:……えっ?

衣織:私はそのつもりでこの旅行に誘ったんだよ? まー君はそう言うこと全然考えてなかった?

優:正直……期待してた。今日一日ずっと期待してて、お風呂の時とかヤバかった

衣織:うふふ、そうだよね。まー君……おっきしてたもんね

優:やっぱりバレてたか……

衣織:衣織お姉さんは目ざといんだよ。それじゃそっちにいくね……

優:……寒くない?

衣織:ううん、あったかい。長い夜になりそうだね、まー君……ちゅっ……



 ここで画面が暗くなると鳥のさえずりと共に画面が明るくなり朝になった事を知らせる。すると再び布団に入っている衣織が映るのだが、就寝前とは明らかに格好が違う。

 浴衣は着ていないし髪が乱れている。そして頬を赤く染めて蕩けた目をしている。――これ、完全に事後やろ。



優:う……ん?

衣織:あ、起きた。寝顔可愛かったよ

優:あ、オレ寝てた?

衣織:うん、一時間ぐらいかな。まー君……凄かった。私初めてだったけど、変じゃなかった?

優:や……オレも初めてだったから。でも衣織が綺麗でずっと夢中で……気が付いたら外が明るくなってた

衣織:えへへ、ありがと。まー君ずっと頑張ってくれてたもんね。嬉しかったよ

優:初めてだったのに無理させちゃってごめん

衣織:ううん、気持ち良かったから全然平気。帰ってもいっぱいシようね



コメント

:チクショーーーーーーーーーーーーーー!!!

:この台詞、もう確実じゃないですか!

:あいつらヤりやがったぞ!!

:会話付きの事後……だと!? 実質ピロートークですね!!

:有識者に訊きたい。他のヒロインってセッ〇スした?

:してない。多分衣織ちゃんだけ

:なんてこった……

:裏山けしからん

:初めて同士なら許してやろう

:朝までコースとは優のヤツ中々やるではないか

:どうして上から目線なんだよw

:羨まし過ぎるからに決まってるでしょうが!!

:これがリア充誕生の瞬間か……あ、爆弾百個買います

:早速爆破の準備をするんじゃないよ。……で、何処に設置する?

:嫉妬は人を狂わせる……オレもまた狂っている

:部屋にお風呂付いてる旅館予約しよ

:一緒に行く相手は居るのかね?

:いまぜぇぇぇぇぇぇぇん!!! 誰がおでをづれでっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

:必死か!! しかも連れてって貰う側なんかい

:まさか衣織ちゃんがここまでやってくれるとはゲーム開始時には夢にも思わなかったな

:優のヤロウ、こんな美人と幸せになりやがって……許すまじ!

:そういや優と書いて『まさる』だったな。オレずっと『ゆう』で読んでたわ

:読み方なんて大した問題じゃない。優という名の奴は全員敵じゃーーー!! そっスよねワンユウ指令!!

ワンユウ:そうですね



 いやいやいやいや、皆嫉妬に狂うのは分かるけど名前が同じ漢字だからって優を憎しみの対象にされちゃかなわんよ!!

 俺だってまー君けしからんからね。だってあいつ最後までヤってんじゃん。

 これ以上やったら夢から覚めるから我慢しようとか考えないで本能の赴くままヤってんじゃん!! しかも朝までヤり抜いて……クソッッッ!!!


『あばばばばばばばばばば……ゆう君と最後まで……しかも朝まで……あばばばばばばばばばばばば……』


:「ガブ!? 落ち着いて! それとあれ『ゆう』じゃなくて『まさる』だからね。そこ大事だからね!!」


 嫉妬と動揺が渦巻く中、ゲーム内の二人はめでたくハッピーエンドを迎えた。

 俺はこの配信中のガブリエールの反応を見て、あの夢は俺とガブリエールが同時に見ているものだと確信した。どう言う理屈でそうなっているのかは分からないが、実際そうなのだから認めるしかない。

 少し気になるのはガブリエールが温泉の場面以外でも動揺していた事だが、プライバシーに触れる事だろうし訊く事はしなかった。


 そして、このバニーメイデンなのだがガブリエールの配信があった翌日にセンシティブ過ぎるという理由でヨウツベで配信不可能になりアーカイブは全削除になってしまった。

 タイミングからして衣織さんの実力によるものだとガブリエールとガブリスは考えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る