ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第46配信 陽菜アフターセンシティブドリーム①
第46配信 陽菜アフターセンシティブドリーム①
◇
「――以上で六期生デビュー一周年記念コラボイベント前の打ち合わせは終了です。六期生の皆さんの調整は完璧ですし本番が楽しみですね」
「はい! 香澄さんにはいつもスケジュール管理をして貰って感謝です。お陰でデビューしてからこの一年、特に体調も崩さずに配信して来れましたから」
「それに関してはガブさん自身のタフさもあると思います。あたしが提示したスケジュールよりも多く配信してたでしょ?」
「あははは……ごめんなさい。二年目はもう少しペース配分を考えます」
ガブリエールの中の人である陽菜とマネージャーの香澄は陽菜の家でぶいなろっ!!六期生デビュー一周年を記念する配信前の打ち合わせをしていた。
イベントで行われる六期生メンバーによる3D歌配信の準備は順調でリハーサルの結果は太鼓判を押されていた。
「何事も健康第一ですからね。それとコラボイベントの翌日にガブさん単独の一周年記念配信がありますが内容は決めてありますか? あたしとしては前日に歌配信が行われるので喉に負担が掛からない配信が好ましいですね」
「それに関してはずっと前から決めていて、ゲーム配信をしたいと思っています」
「ゲーム配信……ですか?」
「一周年記念の配信としては適さないかも知れません。でも、どうしてもリベンジしたいゲームがあるんです」
「……分かりました。ちなみにどんな作品なんですか?」
「これです」
「これって……ああ、そう言うことですか! 分かりました。ガブさんの一周年記念配信はこのゲームで行きましょう!」
陽菜が見せたゲームソフトを見て彼女の意図を理解した香澄は快諾した。
これはガブリエールの前身である太陽にとって思い出深い作品でありながらアーカイブに残らなかった代物である。だからこそ、今度こそアーカイブに残したいと思う陽菜であった。
一周年記念配信に向けて話を進める一方で香澄は先日アーカイブから消される事になってしまったバニーメイデンの配信について陽菜と話をする。
陽菜の状況を知っている香澄としては、あのゲームで起きた内容は既視感ありまくりで笑い転げ……驚きっぱなしの連続であった。
「そう言えばバニーメイデンは災難でしたね」
「……悪夢を見ている気分でした」
「いやー、まさか衣織ちゃんがガブさんそっくりだとは……しかも相手は犬飼さんと同じ名前でしたし。まるで犬飼さんとガブさんが恋愛してるいみたいに見えましたよ。しかも最後は……ねぇ、あんなふうになっちゃったし」
香澄が口にした「あんなふう」――親密な男女がする蜜月の行為。
陽菜の脳内では自分が衣織に、犬飼がまー君に替わった状態で劇中でのやり取りが再生される。
あの既視感だらけの温泉のシーンを思い出すと恥ずかしい上にいたたまれない気持ちになる。
そして何よりも陽菜の胸中を支配していたのは、彼女が夢の中でワンユウと認識していた人物だ。夢から覚めて思い返してみると犬飼の容姿そのものだったのである。
今になって思い返すと夢の中でガブリエールになった陽菜は犬飼と混浴したり激しいキスをしまくったと言える。
「本当に私……最低です。夢とは言えワンユウさんを裏切るような事を……」
「……夢? ガブさん、そこのところを詳しく!!」
うっかり夢の件に関して口を滑らしてしまった陽菜は香澄の迫力に負けてワンユウとの温泉旅館の夢を洗いざらい吐いてしまうのであった。
それらを踏まえてバニーメイデン配信の内容を思い返す香澄はそっと瞑想する。ただ、その心中は落ち着きとは程遠く荒ぶりまくっていた。
(ウソでしょーーーーーー!! まただよ、また凄い奇跡を起こしてるよこの人! 本人は真実を知らないから悩んでるけど、ワンユウさんと犬飼さんは同一人物だから夢に出てきた相手はマジでワンユウさんなんですよ!! それにしてもバニーメイデンの内容も凄かったけど、ガブさんが夢でやった事もかなりセンシティブ! おっぱい杯Ver.ガブとか押し倒しベロチュー長時間耐久とか……普段大人しい人ほどヤる時はヤるって言うけど、今目の前に居るお淑やかな女性がそんなんぶちかますとか、溜まらんにも程があるわ!!)
「ふ……ふふ……」
「笑った!? 香澄さん、今笑いましたよね? 何で笑ったんですか!?」
「失礼……。いえ、ガブさんって何だかんだで犬飼さんにも好意があるのかなって。少女漫画でよくあるじゃないですか、二人の男性から言い寄られて気持ちがぐらつく展開が。羨ましいなぁ~」
(ガブさんの場合は蓋を開けたら同じ男性だったと言うオチが待っているんですけどね。ああっ、言いたい! 犬飼さんがワンユウさんだと言ってしまいたい。でも真実を知ってしまったら色々終わるから言えない! もどかしい!! でも楽しい!!!)
「もう! 人ごとだと思って~。私は真剣に悩んでるんです!!」
「まあまあ、怒らないでくださいよ。それにこれは良い経験だと思いますよ。恋は人を成長させると言いますし、より広い視野を持つ機会になるのではないでしょうか。ワンユウさんは確かにガブさんにとって大切な人かも知れませんけど、犬飼さんもそれに負けないぐらい良い人だと思いますよ」
「……香澄さん、さっきから思っていたんですけど妙に犬飼さんを押してきますね」
「そ、そうですかね?」
陽菜の悩み相談は恋バナへとすり替わり、香澄は満足しながら帰って行った。一人になった陽菜は天井を見上げて香澄が言っていた事を何度も反すうする。
「視野を広く持て……ワンユウさんだけじゃない……犬飼さん……かぁ……」
時計を見ると今日の配信までにはまだ時間があるし準備は既に終わっている。気晴らしにスーパーで買い物をしようと思い陽菜は外出した。
季節は初夏に入り夕方になってもまだ明るい。少し前までは肌寒かったのに最近は段々と暖かくなってきて、天気の良い日は暑く感じるほどだ。
今日は天気が良く夕方になってもまだ蒸し暑い感じがする。そんな陽気の中、陽菜はスーパーに到着し買い物を始める。
周囲を見ると買い物客は家族連れだったり夫婦だったりと複数人で来ている様子が目立つ。
こんな時は少しだけ孤独を感じるけれど配信が始まれば沢山のリスナーと楽しいやり取りが出来る。
そしてその中には意中のあの人も来てくれる。それが陽菜にとって一番の楽しみであり支えになっている。
しかし陽菜は自分が少しずつ贅沢になってきていると感じていた。足りない――コメントだけじゃ足りない。コメントが打たれる度に直接あの人の声が聞きたいと思ってしまう。
ワンユウはどんな人物なのだろう? どんな顔をしているのだろう? どんな声をしているのだろう?
「早く買い物を済ませて家に帰ろう」
孤独から逃れるように足早に店内を移動し買い物かごに必要な物を入れていく。そしてレジ前に並んでいる時に見知った人物とバッタリ遭遇した。
「犬飼さん?」
「太田さん、今晩は」
陽菜は仕事帰りの犬飼と挨拶を交わすと自分の心臓が早鐘を打つのを感じていた。
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