第24配信 Please call me zako

 ザコ呼ばわりされたガブリスがルーシーにコメントで噛みつく。しかし、その内容に攻撃力は微塵も無く、遠回しにおかわりを所望するものばかりだった。


『ふふふ、そんなにザコって言われるのが気に入っちゃったの? 変態じゃん~。いいよ、キミ達の気が済むまで言ってあげる。……ザーコ、ザーコ、ザーコザコ、ザーコ、ザーコ、ザーコザコ、ザコザコザコザコザコザコ、このザコザコザコザコ、ザァーーーーーコォ!』



コメント

:ザコが生意気言ってすんませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!

:生まれてきて女性にこんなにザコ言われたのは初めてだ……ハフッ

:真っ当な人生を送っていれば普通ザコなんて言われずに一生を終えるよね

:にも関わらずこれだけザコ言われるのは我々が真っ当ではない何よりの証拠

:今ので人生何回分ザコって言われたんだろう

:何でだよぅ……ザコって言われてバカにされてるのに、悔しいはずなのにムカつくのに……どうしてこんなに心地良いんだよぅ……

:だ、ダメだぁ……もっと……もっと欲しい。本能がもっとザコと言ってくれと言っていりゅ

:ボク達は女の子と手を繋いだ事もない恋愛弱小のみそっかすです! だからもっと強くザコと罵ってください!!

:既に服は脱ぎました。パンツも脱ぎました。生まれたままの姿の……防御力ゼロのオレに、クリティカルヒットのザコをお願いします!!



 酷い有り様だった。ガブリスの理性は崩壊しザコと言って貰うためならばなりふり構わない状態に陥っている。

 ガブリスはコメントにおいて攻めに転じる時の勢いは凄いが、どうやら防御力は低いらしい。

 元凶のルーシーは皆からザコと罵って欲しいとせがまれ、非常に嬉しそうな笑みを浮かべている。


『そんなに言って欲しいんなら言ってあげるけどぉ、その代わりルーの闇堕ち君になってくれる? 闇堕ち君になってくれたらぁ、もっと凄いことシテあげちゃうよ』


 これはもう悪魔の囁きだ。この堕天使の狙いはコラボ相手のリスナーを堕天……つまり寝取ることだったんだ。

 この状況は非常にまずい。ガブリスの心の支えたるガブリエールは学校のY談での3Pトークにやられて現在回復中のため不在。

 標的にされたガブリスの多くはルーシーにザコと言われて早くも堕天しかけている。


 俺はいちリスナーに過ぎないが、ガブリエールが戻ってくるまであいつの居場所を……ここを死守して見せる。

 大半のガブリスが既に『Please call me zako』としかコメントを打てなくなっているのでサシで勝負を挑むしかない。


:「どうも、ルーシー。よくもやってくれたね」


『あれぇ、まだ正気を保っているガブリス君がいたんだぁ。……へぇ、確かキミはガブのお気に入りだったね』


 よし、食いついてくれた。後はガブリエールが戻ってくるまでコメントを続けて時間稼ぎをすれば……!


:「ガブリエールとはそれなりに付き合いが長いんでね。それにしても随分と回りくどいやり方をしたじゃないか。ユニットコラボでは本性を隠していたんだな」


『ふふ、同期三人を同時に相手するような無謀はしないよ。ユニットコラボでは皆のリスナーの特徴を掴むために観察に徹したわけ。それで一番堕とし甲斐があるガブリス君から攻める為にガブにコラボを持ちかけたの。その結果は見ての通りよ』


:「そもそもどうしてこんな事をする? 堕天させるのは公式設定に過ぎないだろ」


『あー、それね。勿論公式設定なんて全然関係ないよ。こうやってリスナーを堕天させるのは……ルーの趣味だよ』


:「なん……だってぇぇぇぇぇ!?」


 この堕天使は今、自分が寝取りを趣味にしていると言った。何てこった本物の魔性の女だ。

 最悪だ……ぶいなろっ!!六期生にはまともな人間が一人も居ないことが確定してしまった。変態の集団だ。


『ワンユウ君はさあ、NTRネトラレとかを悪い事だと思ってるみたいだけど、それはおかしくない? だって恋愛感情の行き着く先って気持ちよくなりたいっていう感情でしょ? そこに中途半端に倫理観入れてどうするの? 気持ちよくなるならそんなつまらない考えなんて捨てて、とことん気持ちよくなっちゃおうよ。ルーはエッチな漫画とかゲームでNTRのことを知って、それが自分の性癖だって気が付いたの。もっともルーの場合は奪っちゃう側で興奮したんだけどね。最初はそんなの良くないって思ったけど、自分の欲望に素直になってみたらそれまでとは快感が全然違った。だからワンユウ君も自分の性癖に素直になってみなよ』


:「話が恋愛哲学みたいになってビックリしたけど残念だったね。俺にはザコと言われて興奮するヘキはないよ」


 そう、俺はルーシーにザコザコ言われてもそんなに響かなかった。あれが効くのはMマゾ気質の人間だけだ。だからどんなに罵られても耐え抜く自信がある。


『ふぅん、確かにザコ呼ばわりしても効果は薄そうね。でもルーは知ってるよ。ワンユウ君の、せ・い・へ・き』


:「俺自身そんなの分からないのに、どうして君が知ってるのさ? でまかせを言ったって俺は動揺しないよ」


『んふふふふ!! キミの性癖ならぶいなろっ!!のメンバー全員が知ってるよ。ガブが初配信で言ってたじゃない、「ワンユウさんのこ・え・フェ・チ」だって。くすくすくす……』


:「ハァッ!! しまっ――」


『ちょっと待ってて、今からルーの特別ASMRを聞かせてあげるから。そしたら、声フェチのワンユウ君なんてイチコロだよ。他のガブリス君もまとめて堕天させてあげるから楽しみにしてて。闇堕ち君も裸待機してお行儀良く待っててね~』


 ルーシーの声が遠くなり彼女のアバターの動きが止まる。ASMRをする為に道具を持ってくるに違いない。

 ヤバいヤバい、これはヤバい。あの堕天使のことだ、きっとすんごいASMRをやるに違いない。くそっ……ヤバいと思ってるのに期待している自分がいる。

 この心境ってザコ呼びを懇願してた皆と同じじゃないか! ヤバいよー、ガブリエール早く起きてきてー! いや、やっぱりゆっくり起きてきてー! 

 あああああああっ! ASMRを聞きたい自分(悪魔)と聞いてはいけないと思う自分(天使)が頭ん中でせめぎあってるよ!!



コメント

:ワクワクワク……

:ルーちゃんの特別ASMR楽しみだなぁー

:我々闇堕ちはコラボ開始から裸待機完了しております!

:大多数のガブリスはザコ呼びの影響で堕天寸前……

:残るはガブリスの総帥ワンユウと僅かに生き残ったM耐性がある者のみ

:君たちもやせ我慢なんかしないで我々の仲間になっちゃいなよ

ワンユウ:これがルーリスの本性……お前たちも昨日は猫を被っていたんだな

:ハハハハ! ワンユウ氏、今さら気が付いてももう遅い

:昨日のユニットコラボは中々楽しませて貰ったよ。ガブリスの諸君

:おや? コメントが無いなぁ。燃料切れじゃ仕方がないか

:けれど安心したまえ。これからルーちゃんがとっておきの燃料を投下してくれるよ

:それが君たちガブリスが堕天する瞬間なのだがね

:闇に堕ちろ、ガブリス!!

:そして我らが主君ルーちゃんに沼るがいい! アハハハハハハハハハ!!



 ルーシーと同様に本性を現わしたルーリスはテンションマックスでガブリスに堕天するように促してくる。

 初手で満身創痍のガブリスは好き放題言われるがまま抵抗のコメントすら打てない。

 その時、何やらガタガタと音が聞こえてきた。それがしばらく続き、終わるとルーシーのアバターが生気を取り戻した。

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