第25配信 堕天使の〇〇〇なASMR
『ふぅ、待たせてごめんねぇ。ASMRの準備ができたから早速やるね』
:「あのー、つかぬ事をお聞きしますが、一体どんな準備をしていたんですか?」
『あはっ、どうしたの改まっちゃってぇ。緊張なんてしなくても大丈夫。すぐにお耳と頭の中をトロトロにシテあげるから。今ねASMR用にマイクのKU百式をセットしたんだよ』
KU百式の名前が出た瞬間コメント欄がざわついた。それもそのハズ、KU百式とは優れた音声を提供可能なASMR界隈で有名なダミーヘッドマイクだ。
高性能故に値段も驚くほど高く、ASMRを本気でやろうとしている人など個人での所有者は限られる一品だ。
:「そんな凄いアイテムがそこにあるって言うのか……!」
『ふふふ、ルーはこれからASMRにも力を入れていくので奮発して買っちゃいましたー。おっきいから持ってくるのはちょっと大変だったけどね。このコラボでガブリス君を堕とす為の奥の手……と言うか、普通に使う気で持ってきました。闇堕ち君にも聴いて貰いたかったし!』
:「ASMRのためにKU百式なんて最高の機材を買って……ガブリスやルーリスに聴かせる為にそれをわざわざ用意したと。堕天させる為にそこまでやるの……?」
『そんなの当たり前じゃん。既に他のライバーに夢中になってるリスナーをルーの虜にするには、そのライバーより何かしらの魅力を持っているのは最低条件だもの。しかもそのライバーはVTuberの中でもトップクラスのぶいなろっ!!メンバーなんだから、常にルーは全力なの』
「……あ」
俺は思い違いをしていた。堕天と言う名の寝取りをやろうとしているルーシーをネガティブな先入観からちゃんと見ようとしていなかった。
リスナーを寝取るとか言ってはいるが、一時的に自分に興味を持って貰えたとしても魅力に欠けると思われればリスナーは推しの所へ戻っていく。
リスナーを留めるには他のライバーよりも魅力的であると証明しなければならない。
それをとてつもない人数が居るVTuberの世界でやろうと言うのだ。ライバーとしての才能だけではなく忍耐力や努力が必要とされるハズだ。少なくとも太陽はそうだった。
突き詰めればライバーにとって他のライバーはライバルだ。それは同じ事務所の仲間である、ぶいなろっ!!メンバーだって例外じゃない。
いや、むしろ実力のあるライバーが身近に居ることで、よりストイックにならなければならないとルーシーは考えてるんだ。プロ意識がしっかりしている証拠だ。
『それじゃあ、ASMRに必要な最後の道具を冷凍庫から持ってくるから。そしたら開始するね~』
:「その間にこっちも準備をしておきます」
『うん? もしかしてASMR対策に耳栓でも着ける気なのかな? そんな事をしても無駄だよ~』
コメント
:その通り、ルーちゃんの美麗ボイスは耳栓なんかじゃ防げないぜ
:逃げ……ろ、ワン……ユウ。お前が逃げ延びれば……ガブリスは……立て直せる
:そうだ。お前が無事なら……ガブちゃんも悲しまずに……済む
:音量を……消すんだ、ワンユウ。そうすれば、美麗ボイスだろうが……マンドラゴラの叫びだろうが……お前の耳には届かない
:――っ!? そうか、その手があったか!!
:しまった! オレは気ままな一人暮らしだから音量を消すなんて発想がなかった
:この野郎、あんな怪物の叫びとルーちゃんのキャワイイヴォイスを一緒にするとは! 表に出ろや!!
:服もパンツも脱いだ状態で表に出たらサツに捕まるだろうが!!
:全裸待機中だったか。メンゴ……
:まあいいさ。大多数のガブリスはこれで堕天する。そうなれば目的の90%は達成だ
ワンユウ:何か勘違いをしているみたいだけど、俺の準備は完了したよ。ASMR専用イヤホンを取ってきたんだ
:……は?
:ウソだと言ってよバー〇ィ
:ワンユウ総帥、アンタ正気か!? ASMR専用のイヤホンなんて着けたら感度三千倍だぞ!!
:感度三千倍でルーちゃんのボイスなんて聴いたら一瞬で耳も脳もトロトロのヌルヌルのネチョネチョになっちまうぞ!
:ルーちゃんの美麗ボイスはローションじゃ……いや、ある意味素敵な表現かも。お主は天才か!?
:感度三千倍でルーちゃんのASMRを聴いたら、ワンユウはきっとハイジンになっちまう。どうしてそんな事を……
『ふ~ん、それってルーのASMRはワンユウ君には効かないっていうアピールなのかな? だったら――』
:「アピールのつもりはないし、ルーシーのASMRは多分凄いと予想してる。だったら存分に楽しまなくちゃ勿体ないだろ」
『――え?』
:「俺はいつも自分はいちリスナーだと言っておきながら、その本質を見失っていた。それを思い出させてくれたのはルーシーとルーリスの皆だ」
『ど、どう言うこと?』
:「ルーシーがコラボ相手のリスナー堕天をやるのは今回が初めてだろ。つまり今のルーリスは堕天とか関係なく純粋にルーシーのファンって事じゃないか。俺たちガブリスと何も変わらないよ」
『それは……そうかも知れないけど』
:「昨日のユニットコラボの時、ルーシーは他の六期生メンバーが緊張してる中、率先して場の雰囲気を明るくしようと頑張ってたし、グラビア生配信の件も興味があると言ってメンバー全員が君に共感していた。ガブリエールもそうだけどトークを面白くしようと頑張っていると思ったよ。企画に対する前向きな姿勢にも好感が持てた」
『え、ちょ、ヤダ……それ以上言わないでぇ……超恥ずかしいんだけどぉ』
ルーシーの顔が真っ赤になり両手で顔を隠す。そんな事にはお構いなしに俺は言いたい事を言い続ける。
:「それに今回だってガブリスとかルーリスとか関係無しにリスナー全員を楽しませる為にKU百式って言う凄いマイクまで用意してくれたんだ。配信の為にここまで努力してリスナー全員のことを考えてくれるライバーは中々いないと思う。そんなライバーが自分に可能な最高のパフォーマンスでASMRをやると言っている。それなら俺はいちリスナーとして自分に出来る最高の環境でASMRを視聴したい。素晴らしい配信を視聴するのにガブリスとかルーリスとかそんなつまらない垣根を意識する必要なんて無いんだ。それを思い出せてくれてありがとう、ルーシー、ルーリスの皆。長々とコメントを入れて済まなかった。俺の準備は終わったからいつでもやってくれ。ルーシーのASMR楽しみだなぁ」
コメント
:な……なんだコイツーーーーーーー!?
:これがワンユウ……こんなリスナーが居たなんて……
:ここまでライバーの事を考えて視聴するリスナーが居るとは思わなんだ
:ガブちゃんが夢中になる訳だ。こんな
:ガブリスが総帥と崇める理由が分かったよ。この漢、リスナーとしての面構えが違う!
:ガブリスも夢中になる訳だ
:やはり、いちリスナーワンユウが最強か……!!
:オレ達はいつの間にか、ガブリスやルーリスと言う派閥を勝手に作って配信を純粋な気持ちで楽しまなくなっていたんだな
:思い出したよ。初めてVTuberの配信を観た時のこと。凄い驚いたりワクワクしたなぁ……そんな初心に戻れた気がするよ
:総帥、あんたやっぱりリスナーの
:そうだよ。こんなに頑張ってるライバーが最高のASMRをしてくれるんだ。その美声を1デシベルも聴き漏らさずして何がリスナーか!
:ちょっと待ってくれ、オレもASMR用のイヤホンを準備するから!
:俺も金庫から持ってくるから一分時間を下さい
:どんだけ厳重にイヤホン保管してるんだよw
:服とパンツを脱ぐから一秒時間を下さい
:お前の脱衣スピードおかしいよwww
:服を脱ぎパンツを脱ぎ、我が身に着けたるは両耳のイヤホンのみ。――いざっ!!
『ルーが考えてた堕天の流れと変わってる。全員ASMRの受け入れ準備万端で待っててくれてるの? ……しょ、しょうが無いなぁ。本当に皆ザコなんだから。いいよ、ルーも全力でASMRをやったげる……!!』
ルーシーはその場から一旦離れるとすぐに戻ってきた。そう言えばASMRに必要な物を冷凍庫から持ってくると言っていたが……。
『皆、お待たせ。それじゃルーの、お家デートASMRを開始しまぁーす』
お家デート……つまり二人だけの密室空間!? タイトルからしてセンシティブな雰囲気がする。これは期待できるぞぉ!
『オレ君がルーの家に来るの久しぶりだね。あー、何だか熱くなってきちゃった。アイス食べてもいい? ……うん、ありがとう』
もしかして、これからアイスを食べるのか? 咀嚼音のASMRがあるのは知っているけど……いや、違う。
ルーシーはあくまで自分の声を活用してくるはず。それにアイスは咀嚼に適さない、頭キーンてするから。
『ルーねぇ、子供の頃からソフトクリームの食べ方がお行儀悪いってママに怒られるの。でも、この食べ方が一番美味しいんだよぉ。――まずは蓋を取ってぇ、ソフトクリームの先端を舌先でペロペロするの』
なん……だと!? ルーシーが画面に顔を近づけてきて頬を赤くしながら口を開ける。すると舌をぺろっと出した。あ、このアバター舌出せるんだ……。そう思った瞬間――。
『れろ、れろ、れろ、れろ……ふふ、これでソフトクリームの先端を平たくしてぇ……このままだと太すぎるから周りを舐め取っていくの。れろ、れろ、れろ、ぢゅる、ぢゅる、ぢゅる、ぢゅるるるるるる! ぢゅちゅるるるるる! はむ、はむ、ぢゅる、ぢゅるるる~!!』
「ああっ!」
こんなASMRは初めてだ。最初は優しい甘々な口調で進めていき、いざソフトクリームを舐め始めるとそれまでとは打って変わって激しい舐めズリ音が鼓膜を刺激する。
甘い囁き声やザコ呼びで攻めて来るかと思っていたら、まさかこんな超センシティブ
『ふぅ、これでソフトクリーム全体が丁度良い太さになったね。ここからが一番美味しく食べる瞬間だからちゃんと聞いててね。お口を大きく開けてぇ思いっきり……あんむ、んん、んんんんっ! ぢゅるるるるる! ぢゅるぢゅるぢゅるぢゅるぢゅる! んんんんんんんんっ!! ぢゅぢゅぢゅちゅぢゅぢゅるるるるる~~!! っぷはぁ! はぁ……やっぱりこの食べ方が一番オイシ』
「はうあっ!」
このASMRは耳や頭の中をトロトロに溶かす様な類のものじゃない。超強力なバーナーで炙るみたいに焼き付けてくる感じだ。
ソフトクリームというアイテムを別のナニかに例えて疑似的なアレを全力でヤッテいる。
こんなFA〇ZA作品クラスのネタをかましてくるとは……完全にヤラれた、いいぞもっとヤレ!
『あっ、舐め残したソフトクリームがおっぱいに落ちちゃったぁ。勿体ないから一滴残らず食べないとね。こぼれない様に両手でおっぱい押してぇ……はい、おっぱい
おっぱい杯ってナニ!? え? おっぱい押して谷間強調してそこに溶けたアイス集めてるの?
もしかしてそんな悪い金持ちが考えそうな天然G
『おっぱい杯の所にトロトロに溶けちゃったソフトクリームを集めて~、いただきまふ……ぢゅるるるるるる! ずぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ~!! ぷふぅ、ご馳走さまでしたぁ。はぁ、美味しかったぁ』
ASMRが終わった時、コメント欄は停止しており俺を含めた全リスナーは果てていた。
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