第26配信 天使の〇〇〇なASMR
ルーシーが彼氏(設定)の目の前でダイナミックにソフトクリームを食らうASMRは視聴した全リスナーをノックアウトして終了した。
実にセンシティブでアグレッシブなASMRだった。こういう時の為にASMR専用イヤホンを買っておいて良かったとつくづく思う。
『ふぅ……ルーのASMRはどうだった? その……良かった?』
コメント
:新世界を見た
:今日ほどソフトクリームに生まれ変わりたいと思った日はない
:クソッ! どうしてオレはソフトクリームじゃないんだ!!
:ソフトクリームが妬ましくて仕方が無い!
:配信が終わったらソフトクリーム買ってくる!!!
:ボカァ、おっぱい杯になりたいです
:ふぅ……燃え尽きたぜ真っ白によぉ……
:軍曹……二等兵……無事か……!?
:隊長……二等兵が……二等兵が……誤射してしまいました!
:申し訳……ありません、隊長……ふぅ……
:全く貴様は……あれほど括約筋の訓練を徹底しろといっただろう!!
:――っ!? 隊長のライフルも残弾0じゃないですか!
:……戦いの中で戦いを忘れた……後は任せたぞ軍曹……ドサッ!
:隊長……二等兵……自分も残弾0です……バタッ!
:結局全滅かよ! 生き残った奴は誰も居ないのかぁーーー!?
:「実に素晴らしいASMRだった。皆大満足の全滅エンドだ」
『それなら良かった。……その……ワンユウ君は満足……興奮した?』
:「勿論! いやー、もの凄く興奮したよ。ソフトクリームであそこまで表現出来るなんて凄いよ!」
『あ、ありがと。そっかぁ……興奮したんだぁ……へぇ……クソザコだね』
ルーシーの声色は優しく安心した様子だった。ASMRでリスナーが満足できるか不安があったのかも知れない。だが、そんな心配は
全滅していたガブリスとルーリスが徐々に復活しルーシーのASMRを称賛していた。その場には堕天などという物騒なイメージは微塵も存在していない。
ただ純粋にルーシーの魅力に皆が夢中になっている。
:「そう言えば、ガブリエールは大丈夫かな? 今日はこのまま配信は終わるのかな?」
『ガブリエールただいま戻りました! ルーちゃん、ワンユウさん、ガブリスさん、ルーリスさん、心配をお掛けして済みませんでした』
『えっ、ガブ!? いつの間に戻ってきたの?』
本当だ。画面端で目を半開きにして停止していたガブリエールのアバターが、いつの間にか元気いっぱいに動いている。良かった、どうやら調子は戻ったみたいだ。
『え……と、ルーちゃんがお家デートASMRをやるって言ったところからだけど……』
『それってつまり最初から居たってこと!? もー、超恥ずかしいじゃん!』
『ルーちゃんのASMR凄かったよ。私はソフトクリームであんな音出せないし……舌とか唇でああいう音を出せるんだね。見てて凄く勉強になったよ。それに……その……表情とかも凄くエッチでキュンとした』
『もう! そう言うことは一々言わなくて良いからぁ!!』
ガブリエールとルーシーが楽しそうにじゃれ合っている姿が見られてリスナー一同癒やされる。
こうして見ると二人は本当に仲が良さそうだ。もしかしたらルーシーは最初からガブリエールのリスナーを奪おうとかそんな事は考えていなかったのかも知れない。
『それにしてもルーちゃん凄いね。KU百式は会社では見たことあるけど個人で持っている人なんてほとんどいないんでしょ? ぶいなろっ!!だとセリーヌ先輩とフェニママが持ってたハズだけど。それを買っちゃうなんて』
『これは自分への投資だからね。……そうだ、ガブもこれでASMRやってみる?』
『……ふぁっ!?』
ルーシーからASMRへの挑戦を促されて戸惑うガブリエール。最初は本人に迷いが見られたがリスナーが視聴したいと希望すると割と満更でもない様子だ。
俺は約二年前の彼女の喘ぎASMRを聞いたのが最後だったので心配こそあるものの、再び聴いてみたい気持ちの方が圧倒的に勝り皆と一緒に視聴希望のコメントを打った。
『あ……ワンユウさんも聴きたいんですね。……分かりました! ガブリエール・ソレイユ、二年ぶりにASMRにトライしてみます! 実はASMR用に色んなシチュエーションを考えていたんです。それじゃ、ルーちゃんKU百式を借りるね』
『ええ、良いわよ。他に何か必要な物はある?』
こうして急ピッチで準備が進められていき、誰も予想だにしなかったガブリエールのASMRが開始されることになった。
『お待たせしました。それではASMR新妻ガブリエールを始めます!』
な……新妻だって!? ルーシーのお家デートと言い、中々面白そうなシチュじゃないか!
ガブリエール、この二年でどこまで成長したのか視聴させて貰うぞ! どういう展開なるのか楽しみだぁ。
『あなた、お帰りなさい。今日もお仕事お疲れ様でした。ご飯にする? お風呂にする? それともぉ――』
早速始まった新妻ガブリエールは夫の帰宅時お出迎えのシーンから始まった。
新婚定番の台詞が飛び出し、ここで不自然に間が空く。――どれだ? ガブリエールの夫は三択のどれを選んだんだ!?
『――グチュ、グチュ、グチュ、ニチュ、ネチュ、ニュチュ、ネチャ、グッチュグッチュグッチュ、クチュクチュ……はぁ、はぁ、はぁ……ジュップ、ジュップ、ジュップ……』
なん……だ、これは……。粘性のある水音……? それにガブリエールの荒い息づかいが聞こえてくる……これは……大丈夫なのか?
『はぁ……はぁ……次はぁ……パン、パン、パン、パン……はぁ、はぁ……んっ! パァン! パァン! パァン! パァン! パァン!』
えええええっ!? な……これ……何だこれ? ガブリエールの艶のある吐息に混じって、まるで肌と肌が激しくぶつかり合うような肉同士による躍動音みたいなのが聞こえてくる!
画面には頬を赤く染めたガブリエールのアバターが妖しい笑みで佇んでいるが、その向こうでガブリエール本人は一体ナニをやっているんだ!?
『パァン! パァン! パァン! ……ボトッ! ボトトッ! ビチャッ! ……キャッ! ああ、少しこぼれちゃったぁ。勿体ない』
はぁぁあぁぁぁっ!? 今、何かビチャッて音がしてこぼれたって……それに勿体ない……? ガブリエール、お前ホント……ナニしてんの!?
やっぱあれか? 新婚だし、あんな可愛い新妻が迎えてくれたらご飯やお風呂はすっとばして三つ目の選択肢を選んだのか? つまり……これは本戦ASMRなのか!? そんなのやっていいのっ!?
『あなた、もうちょっと待っててね。もう少しでハンバーグが出来るからね』
ハン……バーグ……だと!? あっ! 最初のグチャグチャ音は挽肉に色々混ぜて手ごねしてる音か!
それじゃあ、後半の何かがぶつかってる音は……ハンバーグを掌に叩きつけて空気抜きしてる音だ! ボトッて言う音は空気抜き中に吹っ飛んだ肉片かよ!!
クソッッッ!! 途中で変な息づかい入れるから完全に勘違いしちゃったじゃないか!
『ふふふ、美味しい? ……良かったぁ、ハンバーグに肉じゃが……あなたの好物だものね。あっ、サラダもちゃんと食べなきゃダメよ? 目を離すとお肉ばかり食べちゃうんだからぁ』
ハンバーグに肉じゃが……いいなぁ、どっちも俺の大好物じゃないか。それに野菜も大事だよなぁ。俺も野菜が不足がちだから意識して食べるようにしないとな。
『……え? 時間は大丈夫なのかって? あ、イケないもうこんな時間だわ! それじゃ私、配信してくるね。……どうしたの、突然立ち上がって? ……ちゅっ、ちゅっ……もう、いつも突然キスするんだからぁ。……ふふ、ハンバーグ味だったね。あなたはゆっくり食べててね。それじゃ配信頑張ります!』
なるほど、ガブリエールは新妻でありつつ配信もやっているという設定なのか。キスの感じとか新婚ぽいし妙にリアル感のあるシチュエーションだな。成長したなぁ、ガブリエール。
『……ふぅ、今日の配信も楽しかったぁ! あなたも配信観に来てくれてたよね。コメント欄にユーザーネーム見つけたよ。いつも応援してくれてありがと……ちゅっ! そろそろお風呂に入って寝よっか』
……どうでもいいが、随分と頻繁にキスするな。それはそれとして夫はガブリスなのか。
この設定にする事でASMRを視聴しているリスナー自身が夫役になって一層感情移入が増した気がする。
『お風呂に入ってさっぱりしたね。……え、お腹を触りたい? いいよ……あ、今蹴ったみたい。パパに触って貰って嬉しいんでちゅねー』
妊娠してんの!? 新婚でもう妊娠してるって……これもしかしてデキ婚か? このバカ夫、幸せ家族計画の手順でフライングしたのか!
『……今日、定期検診で産婦人科に行ってきたんだけど、順調だって先生が言ってたの。それで、夜の生活は大丈夫ですかって一応訊いみたんだけど、母子ともに安定してるから激しい運動をしなければ問題無いだろうって……だから……その……する?』
へっ……? ガブ……お前ナニを言って……え? このASMRどこまでヤるの?
『ひゃっ! もういきなり押し倒すからビックリしたじゃない。でも優しく横にしてくれたから大丈夫だよ。……へへ、久しぶりだから何だか緊張しちゃうね。……うん、私も愛してる……ワンユウさん』
コメント
:グフォアッ!!
:カハッ!?
:ゴフッゲフッグフッ!!
:最後の一言で全てがひっくり返りおった。ゴファッ!!
:オレの幸せな新婚生活は幻だったと言うことかぁ!
:こんな……こんな結末ありかよぉぉぉぉぉ!! でも、何か興奮するぅぅぅぅ!!
:軍曹……二等兵……生きて……いるか?
:隊……長、二等兵は……即〇……です。自分も……もう……
:そう……か。私も……ダメみたいだ。ああ……妻の肉じゃが……また……食べ……ガクッ
:タイ……チョ……母さんのハンバーグ……バタッ
:うう……ううう……軍人三人組が逝っちまったよぉ……うぐ……
:そいつら〇にゲーのキャラ並にリスポーンするから大丈夫だぞ
:肉じゃが美味かったなぁ、軍曹、二等兵!
:そうですね隊長、ハンバーグも絶品でした!
:はい! ご馳走様でした隊長!
:この……! オレ達の涙を返せーーーーー!!
:丁寧に積み上げた幸せと言う名の積み木が最後の一言で粉々に崩れた。これがNTRか……
:まさか天使が堕天使を超えるNTRを仕掛けてくるなんて誰が想像したよ
:NTR好きとしてはとても染みる展開でした。ご馳走様でした
:NTRに対応したすんげぇ猛者がおった
「……俺は何てコメントを打てばいいんだよ……誰か正解を教えてよ」
新妻ガブリエールとの幸せな新婚生活は最後にあいつが放った一言でリスナーをNTRの沼に叩き落とし血の沼地獄と化した。
これじゃ俺が皆からガブリエールを寝取った元凶みたいじゃないか。どうすりゃいいんだよ、この空気……。
『ガブ……あなた、何て残酷な……』
『うう……皆ごめんなさい。感情移入しすぎて最後に初期設定でやっちゃったぁ』
『初期設定て……ワンユウ君相手に作ったの!?』
『肉じゃがもハンバーグもワンユウさんの大好物だし、野菜が不足がちなのも知ってたから、その設定を盛り込んでるの……』
:「ちょっと待った! どうして俺の好物や野菜不足のことを知ってるんだ?」
『え……だって、二年前の配信中にハンバーグ好きってコメントしてたし、一年前の配信で肉じゃがも好きって言ってた。半年前のZのつぶやきで野菜を意識的に摂らないとって言ってたから、結婚したらちゃんと食べさせようって……』
「ひぃっ!」
恐怖で変な声が出た。そんなのコメントした俺自身覚えてないよ。それに俺のSNSでのつぶやきを配信で言うのは止めて欲しい。
ガブリエールのこの発言で彼女にストーカー的思考があるとリスナーは思いだし、皆は即座に新婚夫の座から退場していった。
こうして変なゲーム配信から始まり堕天騒動やらセンシティブASMR配信の流れとなったガブリエールとルーシーのコラボ配信は最後までドタバタでありつつも大満足の内容で終わった。
まあ、こんなセンシティブな配信がヨウツベの目から逃れられる訳も無く、物の見事にアーカイブは残らなかった。
ただガブリエールとルーシーのチャンネル登録者数が激増したので、このコラボは成功っちゃ成功だったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます