ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第100配信 マネージャー香澄の萌え地獄 夏コミ編①
第100配信 マネージャー香澄の萌え地獄 夏コミ編①
暑い……夏の暑さだけじゃなく、大勢の人間が集まっているので体温と熱気で熱さ倍増中。熱中症対策としてこまめに水分補給をしながら長蛇の列の流れに沿って進んでいく。
「そう言えば陽菜はともかく
「問題ないわ!」
目をキラキラ輝かせている月には目立った疲労は見られない。この間は部屋の掃除でグロッキーになっていたのに。
「……元気だね」
「そりゃそうよ! だってコミケだよコミケ。昔から来てみたかったの。これくらいの暑さに負けていられないわ!」
意気揚々と答える月。彼女が着てきたTシャツには『ク〇リンのことかー!!』と書かれている。元気爆発惑星も爆発。
「陽菜は身体の調子はどうだ?」
「私は問題ありませんよー。こんなに大勢の人が集まるなんてコミケって本当に凄いんですねぇ」
体力自慢の陽菜だけあって問題は無さそうだ。――さて、ここでコミケでの目的を整理する。
俺は乱れ牡丹先生の新作エロ同人誌『
陽菜はコミケの空気を味わいたい、月はコスプレイヤーを見たいという目的がある。まずは俺の目的を達成して、それからコスプレイヤーの撮影エリアに行く予定だ。
コミケに来てまず思ったのはここを訪れた猛者たちの連携力の高さだ。無駄の無い動きによって列の流れを乱さず順調に進んでいく。コミケという戦場で鍛え抜かれた彼等はまさに百戦錬磨の
そうこうしているうちに遂に乱れ牡丹先生のサークルの近くまでやって来た。尊敬する人物がすぐ近くにいると思うと緊張する。
その時、陽菜と月が興奮した顔で周りを見ている事に気が付いた
「二人共、何か面白いものでも見つけた?」
「凄いですよ、優さん。ここにもコスプレイヤーさんが沢山います!」
「ふわぁ~! 可愛い……アニメや漫画、ゲームキャラのコスプレイヤーがこんなにいっぱい……凄い凄い凄~い!」
「きっと同人誌の売り子さんだよ。同人誌で扱ってるキャラのコスプレをして宣伝してるんだろうね」
コスプレ衣装は販売していたり自作したりするそうだけど後者の場合は相当大変だろうな。俺は裁縫の心得は無いので自作できる人は本当に凄いと思う。
乱れ牡丹先生のサークルの場所にはコスプレした売り子さんはいないみたいだが、女性スタッフが数名居るのが見える。あの中に本物の乱れ牡丹先生がいるのか。ドキドキしてきた。
「そう言えば優さんは去年もコミケで乱れ牡丹先生の同人誌を購入したんですよね? その時、本人に会わなかったんですか?」
「あの時先生は席を外していて会えなかったんだよね」
ようやく乱れ牡丹先生のサークルブースに到着した。そこには先生の新刊の同人誌が並べられている。良かった、新刊二冊ともまだ売り切れていなかった。
前に並んでいた人の会計が終わり俺の番が来た。目の前には乱れ牡丹先生と思われる女性が椅子に座って売り子さん達に指示を出している。
それが終わりこちらに振り向くと俺は思わずテンパってしまった。
「乱れ牡丹先生! ぶいなろっ!!を扱った最初の同人誌『アンナマリーのイケナイ懺悔室~シスター服の下にはヒミツがいっぱい~』の頃から大ファンです! よろしければサインをお願いします!」
「あら、それじゃあかなり前からのファンの方なんですね。嬉しいです」
勢い余って早口になってしまった俺に対し先生は朗らかに接してくれた。先生は思ったよりも若く二十代位に見える。お互い顔を合わせてみると思いっきり既視感を感じた。
「あ……れ……? さが……ら……さん?」
「いぬ……かい……さん?」
既視感の正体を確かめるようにお互いの名前を呟くと既視感は確信となって脳内を駆け巡り冷水をぶっかけられたみたいに驚愕が全身を震わせた。
「「ああああああーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」
――数分後、休憩室にて俺、陽菜、月、そして乱れ牡丹こと相良香澄は円陣を組む様に輪になって小声で話をしていた。
「ちょっと何でこんな所に犬飼さんが居るんですか? しかも、ガブさんとルーシーさんも一緒になって……。いいですか? ここはオタクのオタクによるオタクの為の
「それはオタクに対する侮辱でしょうよ! オタクだってパートナーが居る人は沢山います。オタクは非リア充という考え方は短絡的……いやいやいや! こんなオタクを題材とした討論する為に話をしたい訳じゃないんです。――相良さん、あんたここで何やってんの!?」
「何って見れば分かるでしょ? 作成した同人誌の即売会に参加してるんですよ。ここはコミケですよ? コミケに居るのにオタ活してない訳ないでしょう!? そう言う犬飼さんこそ、ここに何しに来たんですか? リア充見せつけに来たんですか? アアッ!?」
「何で威嚇してくるんすか!? 狂犬か、あんたは? 俺は乱れ牡丹先生の新作同人誌を買いに来たんですよ」
「あ、そう言えばそうでしたね。二冊ともお買い上げありがとうございます」
「サインありがとうございました。家宝にし……ってそうじゃなくて! 相良さんが乱れ牡丹先生で……でも、あなたぶいなろっ!!のマネージャーでしょ? それが担当しているVTuberの同人誌を描いてるって大丈夫なんですか? いや、そもそも正気か!?」
「正気に決まってるでしょう? 好きなものを自分の中で妄想しまくって形にする――それが同人誌! あたしにとって仕事と同じぐらい大事な生きがいなんです。どうでしたか、あたしの生きがいが生み出した創造物の味は?」
「毎回メチャクチャ美味しく頂いています。ありがとうございます! 今回もネットでサンプル画像を見た瞬間に興奮して眠れませんでした」
もう自分が何をしようとしていたのか分からなくなってきた。
相良さんが乱れ牡丹先生なのには驚いたが、そういやこの人は破天荒な人だしそんな自由な人が生み出したものなら、そりゃあれだけ刺激的な作品になるだろうなぁと納得する。
相良さんにほだされていると陽菜が口を開いた。そうだよ、陽菜からすれば身近に居るマネージャーが自分の分身であるガブリエールでどちゃくそエロい作品を作っているのだから複雑な心境に違いない。
「さっき思い出したんですけど、乱れ牡丹先生ってガブリエールのファンアートにも頻繁に投稿してくれていますよね。あれって相良さんだったんですね。こんなに絵が上手だったなんて知りませんでした。感動です! 今まで描かれた同人誌も幾つか見ましたけど、おっぱいや太腿の肉感がとにかくエッチで凄く良いです」
「ありがとうございます。ガブさんの同人誌を描いていると知られたらどう思われるか怖くて言い出せませんでした。申し訳ありません」
「そんな、謝る事なんてないですよ。それよりも相良さんに折り入ってお願いがあるんです。その実力を見込んで……あの……ガブリエールとワンユウさんのエッチな漫画を描いて欲しいなぁ……なんて……ダメですか?」
毎回の事だが陽菜を心配した俺がバカだった。あまつさえガブリエールとワンユウのエロ本作成を依頼するなんて……予想の斜め上を行く女、それがガブリエール・ソレイユ、それが太田陽菜。
「え~、それならルーシーとワンユウのも作って欲しいなぁ。必要な資材や依頼費は用意するので相良さん、時間がある時でいいからお願い!」
なんてこった、月まで乗っかってきた。とんでもない事を言い出す二人に相良さんも悩んでいる様子だ。
いくら破天荒なこの人でも一般人のワンユウを漫画に出すなんて非常識な事はしないだろう。
「ええ……と……そうですねぇ。その……実は今回の新作同人誌の内容がまさにソレなんですよねぇ。ワンユウさんをモデルにした筋骨隆々な巨〇男にガブリエールとルーシーがあの手この手で辱められ屈服しまくるんです」
「「実用と保存用に二冊ずつ下さい!!」」
「まいどありー」
「いや、ちょ、ま……はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ウソでしょ? 俺は一般人やぞ。それを同人誌に出演させるとか何考えてんだ、あんたは!? ……あっ! 悩んでいたのは二人の依頼を既に達成していたから何て言おうか迷っていただけか。しょーもなっ!!」
戸惑う俺とは対照的に陽菜と月は嬉々として同人誌を読み始め、相良さんは遠い目をして語り出した。
「今回の二つの同人誌は犬飼さんとお二人が付き合い始めたと聞いた時に強いインスピレーションを受けて描いたんです。もうね、アイディアがどばどば出てきて筆が止まらなかったんですよ。あたしの同人誌活動人生において、この昂ぶりを無視する事は出来ませんでした。そして今回二作の続編も既に構想は練っています。さすがに時間が無かったので社長と
「社長とあやママも相良さんが同人誌を描いているのを知ってるんですか!?」
「続編もあるの? それは楽しみだわ」
白雨綾――通称あやママはぶいなろっ!!全メンバーのキャラデザを担当しているイラストレーターであり、母親とも言える人物だ。そんな人とキャニオン社長が監修しているという事は、それはもう公式と言えるのでは?
ぶいなろっ!!の関係者はどいつもこいつも常識外れの人間しかいないよ。
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