第99配信 コミケ、それはオタク達の聖地巡礼なり

 現在季節は夏のまっただ中。夏には様々なイベントがある。学生は夏休みでテンションがブチ上がり、海に行ったり肝試しをしたり花火を見たり大人の階段をのぼったりする。

 それ以外の人々は夏休みでテンション上げ上げの学生を羨ましく思いながらも、今日も今日とて各々の生活のために頑張っている。

 大切な行事としてお盆がある訳だが、俺たちオタクにとっても重要な行事がある。コミックマーケット――通称コミケだ。

 コミケは世界最大規模の同人誌即売会だ。そこには同人誌を販売するサークルやコスプレイヤーの他にも企業が参加し、販売される品々を購入する為に大勢のオタク達が訪れる。


 八月某日、俺は目的のブツを手に入れるためにコミケにやって来た。――陽菜とルナを伴って。


 どうしてこうなったのか一週間前の出来事を説明させて欲しい。

 俺の家に陽菜と月が遊びに来ていたのだが、次に遊ぶ日を決めていた際、俺はコミケに行くことを二人に伝えた。


「コミケに行くんですか!? 優さんだけズルイです私も行きたいです!!」


「わたしも行きたい! コスプレイヤーさんも大勢来るんでしょ? 見たい見たい見たーい!」

 

「そうは言うけどその日の配信は大丈夫なの? それにそもそも君たちは有名なVTuberなんだよ? 万が一ガブリエールとルーシーだとバレたら危険だよ」


「配信だったら十分都合はつくし、地声は配信の時とは結構違うから大丈夫でしょ。事務所からも特に行くなとは言われてないしね~」


「でも、当日は凄く暑いし長蛇の列に並ぶ事になる。水分補給や体調管理が心配だ。興味本位だけで行くには危険すぎる。最悪命を落とす可能性だってあるんだ! コミケはそれほど危険な場所だ。戦場なんだよ。連れてはいけない!」


 ――てな感じでとにかく不安を煽る。あそこに二人を連れて行く訳にはいかない。実際二人がVTuberだと気づかれたら大混乱を招くし、何より二人がいると目的のブツを購入出来ない。だったら行く意味無いでしょうよ!!


「随分頑なですね。そうまでして私たちを連れて行きたくないのはエッチな同人誌が買いたいからですか?」


 ギクッ!! 待て待てたじろぐな焦るなテンパるな! きっと当てずっぽうで言っただけだ。ここは冷静になって心頭滅却の精神で対応するんだ。


「……チ、チガウヨ? ほら、コミケの企業ブースにはぶいなろっ!!も参加するじゃん。そこにはコミケ限定のアクスタとか缶バッジとかショートアニメを多数収録したブルーレイが売ってるから、それが買いたいんだよぅ」


「ふふふ、必死ですね。……私たちが知らないとでもお思いですか?」


 陽菜が目を細めて俺を見下ろす。何だこの目は? まるで俺の全てを見透かす様な……止めてそんな目で俺を見ないで! 俺の汚い心を見通さないでーーーーーーー!!


「ナ……ナンノコトデセウカ?」


「今度のコミックマーケットで販売される乱れ牡丹ぼたん先生の成人向けの新作同人誌……『ガブリ使エール散華~こんなに凄いの初めてぇぇぇぇ! もっと欲しいのぉ、いっぱいくりゃはい~』と『堕天使ルーシー無惨~攻められる悦びに目覚めちゃった。もっともーっとシよ?~』がお目当てなんでしょう?」


「な……何で知って……」


「ふふ、わたし達が知らないとでも思った? て言うか、あなた一年前の夏コミ前にZで乱れ牡丹先生の同人誌を愛読してるって投稿したじゃない」


「あれはさすがに内容がまずいと思ってすぐに削除したハズ……え? あの短時間でチェックしたの? 二人共……?」


「「勿論」」


 身体中から変な汗がどっと出てきた。俺が乱れ牡丹先生のエロ同人誌を愛読していると二人は知っていたって事か。つまり全てを知った上で今まで黙って俺を泳がせていたと?


「ワンユウさん……優さんのZは基本的に三十分おきにチェックしています。――今でも」


「今……でも!? もうそんな事する必要ないじゃんか!! SNSチェックは俺の行動チェックして居住地域を割り出す為のものだったのでは?」


「それはそれとして、わたしとガブにとって優のSNSチェックはルーティンになってるのよ。ふと気が付くと無意識にあなたのZを確認してるのよねぇ。最近は色々と忙しいみたいで半月ほど投稿していないみたいだケド」


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 

 俺の考えが甘かった。ワンユウとしての正体がばれて付き合い始めてからSNSなんて見ていないだろうと思っていたら三十分おきにチェックされていたなんて。

 俺は天使と堕天使にずっと監視されていたのか。


「乱れ牡丹先生はぶいなろっ!!発足後間もなくから、主にぶいなろっ!!メンバーの成人向け同人誌を描いてきた人物ですよね。六期生デビュー後は私……ガブリエールの同人誌を描くことが多いみたいですね。――優さんはこのぶいなろっ!!同人誌コンプリートしてますよね? しかも現物と電子書籍両方で」


「……そこまでバレているのなら隠しても無駄だね。そうだよ、その通りですよ、現物の同人誌はちょっと見たら収納ケースに保管して普段は電子書籍を見て楽しんでますよ。悪かったね君たちのガワのエロ同人誌を見て楽しんで、それが俺ですよワンユウって生き物ですよ。それが何か? 言っときますけどね、同人誌とは君たちと出会う前からの付き合いだからね。あっちが大先輩やぞ、俺を支え続けてきたスペシャルブックやぞ。……あ、ごめんなさい怒らないでください、調子に乗りすぎました、申し訳ございませんでした!!」


「別に怒ってませんよ。ただ、優さんが本当の事を話してくれなかったから……それがちょっと悔しくて……エロ同人誌を買いに行きたいのなら素直にそう言って欲しかったです」


 陽菜が悲しそうに言う。ただ、その内容が俺にとって余りにも情けないものなので涙が出てくる。


「わたし達だって自分たちがオタクだって自負してるし、彼氏がエロ同人誌を愛読してるからって別に引いたりしないわよ。むしろ、あんたがそう言う目でわたし達を見ていたんだと思うと楽しくなったぐらいよ。それに乱れ牡丹先生の同人誌を見たら面白かったし」


「見たのかあれを? あのどちゃくそエロいのを……自分の分身が触手責めにあったり、〇〇の〇〇に無理矢理〇されて〇〇〇〇を弄ばれ〇〇と〇〇に同時に〇〇〇を突っ込まれて何度も〇〇〇されているのに平気なの? 凄いなぁ……」


「優さん、今まで見た事がないくらい生き生きしてますね。そういうハードなシチュが好みだったんですね。スンゴイ変態さん……ハァ……ハァ……新しい一面を知れて嬉ひいれす」


「ハッ!? いや、ちが……わないけど、それはあくまで想像上の事で実際にはやらないよ? 二次創作だからこそ成立するお話です!」


 ――とまあこんな感じで俺の隠れ性癖が二人にバレてから一週間が経過した本日、陽菜と月は配信をお休みにし夏コミ用の装備を整え俺と一緒に夏コミにやって来た次第です。

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