第10配信 こんがぶー!
白い翼が羽ばたく度に白い羽が舞い、その美しい光景に目が釘付けになる。
事前にアバターの姿は確認していたが、実際に目の前で生気を帯びて動いているガブリエールはまるで本物の天使のように綺麗だった。――本物見たことないけど。
銀色とピンクが合わさった長い髪はふわりとなびき、大きくてクリクリとした丸い目と紫色の瞳は見ていると吸い込まれそうな深みがある。
衣装である純白のワンピースはロングスカートで彼女の可愛らしさと清楚さを十二分に際立てている。
それでいて胸はとても大きく、そこを強調するようにワンピースの胸元は大きく開いていてすんごい谷間が丸見えだ。清楚なだけではなくエロ度もかなり高い。
ぶいなろっ!!の先輩方に引けを取らない素晴らしいデザインだと認めざるを得ない。
「うわぁ……うわぁ……すっご……」
ガブリエールの姿に魅了された俺の
気が付くとついさっきまで静まりかえっていたコメント欄が爆走状態になっていた。
コメント
:天使降臨!!
:メッチャカワイイ!!
:カワユスカワユス
:なんて胸部装甲だ。厚い、厚すぎるぅ
:おっぱいデッッッカ!!
:富士山が二つある……だと!?
:おばさん、おっきい肉団子二つ入れて
:あら、まだ仕事?
:うん、今日は忙しいんだ
:タッタッタッタッ……!
:何だろう……あれは!? 親方ーーーー! 空から女の子がーーーーー!!
:バカ言ってねえでレンチよこせ
:親方ーーーーーー-! 空から巨乳のお姉さんがーーーーーーー!!
:ガキンッ! バシューーーーーー!!
:今日の仕事は終わりだ! 機械に油さしとけ!! ちょっとイッてくりゅ
:お、親方ーーーーーーーー!?
:なげえよwww
:いつ打ち合わせしたんだよ
:男の人っていつもそうですよね!
:いつも、オッパイオッパイオッパイオッパイ……
:私たち女性を何だと思っているんですか!?
:うーん、オップァイ!!
:あなた、最低です!!
:オッパイ多すぎる問題
:何てカオスなコメント欄なんだ……こんなの見たことねえぞ
:これは酷いw
「何だこれは……ガブリエールがまだ一言も喋っていないのにこのお祭り状態。これがぶいなろっ!!リスナーの本気なのか……ハンパないな。早速コメント職人が現れてるし」
主役そっちのけで盛り上がるリスナー達。当の本人は緊張しているらしくモジモジしている。
と言うか一目でモジモジしているのが分かってしまうほど、アバターの動きや表情パターンが細かい。さすが大手VTuber事務所の技術力と言ったところか。
感心しているとガブリエールが「スゥ」と小さな声を出して息を吸い込んだ。――来る!
『皆さん、こんがぶーーーー!! ぶいなろっ!!六期生、ゴッド&デビルのガブリエール・ソレイユでーす! 皆さんに会えて凄く嬉しいです。これからよろしくお願いしまーーーーーす!!』
エロ清楚な雰囲気を吹っ飛ばす明るくて元気な挨拶がかまされると再びコメント欄が大騒ぎになる。
そこにはカワイイとか声も綺麗などガブリエールを絶賛するコメントで溢れかえる。
ガブリエール本人もそれらコメントを確認したらしく、頬を赤く染めてはにかむ様子が見える。
コメント欄が大盛り上がりを見せる一方、俺はそれどころじゃ無かった。最初に歌声を聞いた時から思っていたが、今ガブリエールの声を聞いて確信した。
ガブリエール・ソレイユは――太陽だ。
「そうか……そう言うことだったんだな、太陽」
あの時、太陽はぶいなろっ!!からスカウトを受けていたんだろう。
VTuberの大手事務所からそんな良い話があったのに、俺たちリスナーの事を考えてどうするか迷っていたんだ。――いや、あのままだったら太陽はスカウトを断っていたと思う。
「ったく、あいつは……でも、本当に凄いよ太陽。今の君はあの頃よりも更に輝いてる」
現在、この配信の同時接続者数は約十万人でまだまだ視聴者数は増えている。既に以前のチャンネル登録者数を遙かに超える人たちがリアルタイムで彼女を見ている。
『わぁ……! ありがとうございます。これからよろしくお願いします』
VTuberとして高い資質を持っていると思ってはいたけれど、まさかこれ程になるとは予想もしていなかった。
きっと太陽……いや、ガブリエールはこれから大物VTuberとしての道を邁進していくに違いない。
身近に感じていた彼女が何処か遠い存在になった感じがするけど、元々俺はいちリスナーに過ぎない。これからもそのスタンスを崩さずガブリエールを応援していこう。
「えっと、チャンネル登録を済ませて……と。コメント欄に一言コメントを入れておくか」
依然としてコメント欄は爆速で進行しており、入力したコメントが一秒後には欄外に消えている。多分俺のコメントにガブリエールが気付くことは無いだろう。
「太陽……約束通りに君を見つけたよ。これからも応援するから配信頑張れよ」
「頑張れ」とだけコメントを入れると思った通りに一瞬で欄外に消えていった。特に目立つ内容でもなかったし彼女の目には留まらなかったハ――あれ?
『え……あ……』
ついさっきまで笑顔を見せていたガブリエールが目を丸くして驚いた顔をしている。新人VTuberの突然の変化を心配するリスナー達がコメントを入れていく。
皆が見守る中、ガブリエールの目が潤み大粒の涙がこぼれ始めた。
『うそ……ワンユウ……さん……?』
ガブリエールの口から出てきた俺のユーザーネーム。
俺の存在など知らない人々からすれば「ワンユウって誰?」となるだろう。実際コメント欄はそんな疑問がチラホラ出始める。
驚いたのは俺も同じだ。コメント欄に俺の名前が表示されていたのは、ほんの一瞬だけだった。それにも関わらずガブリエールは俺の存在に気が付いた。一体どんな観察眼をしているんだ?
「いや、そんな事よりもこの状況はマズい! 新人VTuberが特定のリスナーの名前を言うなんて、下手すりゃ炎上案件になりかねない。ガブリエールだってそれはちゃんと分かってるハズだ。ここはだんまりを決め込んで――」
『ワンユウさん! ワンユウさぁん!! 居るんでしょ、ワンユウさーーーーーん!!! どうして返事してくれないんですかぁ!?』
「あああああっ!! バカかあいつはぁぁぁぁっ!? 事の重大さを理解してないのか? 十万人以上のリスナーが観てんだぞ。下手なこと喋ったらヤバいんだぞ!!」
ワンユウという名前を叫び続ける新人VTuberとその様子を困惑しながら見守る十万人以上の人々の図――地獄かここは?
少なくとも俺には地獄にしか見えない。
ガブリエールに忠告したくてもそんな事をしたら火に油を注ぐようなものだ。ますますあいつは暴走するだろう。これ、もしかして――詰んだ?
脳裏をよぎるのは、最悪のシナリオだ。このままじゃガブリエールは大炎上して大変な事になる。
その一方でこっちの苦悩は知った事かとガブリエールは俺の名前を言い続ける。
『ワンユウさん、ワンユウさん、ワンユウさん、ワンユウさん、ワンユウさぁん、ワンユウさん、ワンユウさん、ワンユウさぁぁぁぁぁん、ワンユウさん、ワンユウさん、ワンユウさん――』
壊れた様に俺の名前を繰り返すガブリエールに俺も他のリスナーもドン引きしていた。
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