第11配信 ワンユウさんの生コメントくりゃはい

『ワンユウさん、何処ですかー? ここですか? それともここですかぁ!? あれ? 居ないなぁ。ねえ、ワンユウさん居るんでしょう? 出てきてくださいよぅ』


 初めて喋った瞬間はエロ清楚な天使としてキラキラ輝いていたのに、今画面に映っている天使は瞳からハイライトが消えワンユウと言い続けながら彷徨う亡霊みたいになっている。

 俺としては安易にコメントを入れる訳にはいかないので傍観せざるを得ない。するとガブリエールの様子が段々おかしくなってきた。


『ワン……ハァ……ハァ……ユウさぁん、コメントください。私、ワンユウさんのコメントが無いと生きていけない身体になっちゃったんですぅ! ハァ……ハァ……この二ヶ月間ずっと我慢しててぇ、アーカイブのワンユウさんのコメントを見てワンユウ成分を補充していたんです。でもそれじゃ圧倒的に足りないんですぅ!! もう……ハァ……ハァ……ワンユウさんの生コメントを貰えないとおかしくなりそうで……だからぁ、ワンユウさんの……生コメント……わたひにくりゃはい』


「な……何てこった……太陽が……変態天使になっとる……俺は栄養素扱いなの……?」


『生コメントぉぉぉ、ワンユウさんの生コメント欲しいんれすぅぅぅ! 後生ですからぁ、ワンユウさんの生コメントくらひゃぁぁぁぁぁぁい!!』


「何なんだよ生コメントって。生とコメントが合体しただけなのに段々卑猥な言葉に聞こえてきたぞ。しかも配信中に何てエロい声を出してるんだよこいつは!! このままじゃエロ過ぎてBANされるぞ」


 どうすれば良いのか分からないまま、センシティブ路線を突き進むガブリエールに目が釘付けになっていると彼女の様子が更におかしくなっていく。


『……そうですか、ワンユウさんっていつもそうですよねぇ。肝心なところでいつも日和ひよって無口になるんだからぁ! それならこっちにも考えがあります!!』


 リスナー全員がこれから何が始まるんだと注目する中、ガブリエールはえげつない爆弾投下を開始した。


『ワンユウさんなんて、ワンユウさんなんて……声フェチでおっきいおっぱい大好きでメイドバニースク水ナースが好きな変態さんで女性経験ゼロの童貞さんで人をその気にさせておいて肝心なところで日和っちゃう軟弱者のクセにーーーーーー!!!』


「うああああああああああああああ!! ぐほぁっ!!!」


 生まれてから今日に至るまでこれほど突き刺さる言葉の暴力を受けたことは無かった。

 ナイフより鋭利な刃物で心を抉られるようなこの感覚。心の中で俺は大量に血反吐を吐いた。



コメント

:ウギャアアアアアアアアアア!!

:ヒィイイイイイイイイイイイ!!

:言葉の弾丸が全弾命中するぅぅぅぅぅ!!

:ゲフッゴフッゲフゲフ……ガクッ

:衛生兵! 衛生兵ーーーーーー!!

:ダメです、衛生兵は既に〇んでいます

:衛生兵の奴、彼女いると言っていたのはウソかぁぁぁぁ!! ぐふっ!

:誰か、誰か生きている者はいないかーーーー!!

:あんな暴言のじゅうたん爆撃の中で生存者がいる訳なかろう……ドサッ!

:爺さん! 爺さんもオレ達と同じ童貞だったのか

:そのジジイこそ、お前の未来の姿なのです

:イヤーーーーーーーーーーー!!!

:この世のバカヤローーーーーー!!

:コスプレ要素にOLさんの追加をお願いしたく参上つかまつった!

:貧乳好きのボクはセーフですね。……ごめんなさいウソです。ハフッ!

:俺たちが一体ナニをしたって言うんですか、天使様ァァァ!!

:これが神族のやり方かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ヒデブッ!!



 俺への口撃は大多数のリスナーへも飛び火しコメント欄には断末魔の叫びが綴られていく。このクソ天使はやってはならない事をやってしまった。

 このまま黙っていようと思ったが堪忍袋の緒が切れた。後の事はもう知らん!

 好き勝手やっているこの天使にお望み通りにコメントを叩きつけてやる!


:「おっ前、ふざけんなよ! こっちが黙っていれば調子に乗って他人の性癖暴露して――この発情エロ天使がっ!!」


『――っ!! ふぁぁぁぁぁぁぁん!! ワンユウさん、ワンユウさんだぁぁぁぁぁ!! やっぱり居たぁぁぁぁぁ! ワンユウさんの……ワンユウさんの……生コメントキターーーーー!!!』


 ガブリエールは瞳の真ん中をハートマークにして翼を狂ったように羽ばたかせながら身悶える。

 あの翼はワンコの尻尾みたいに感情によって動きが変わるらしい。


『ナマナマナマナマナマナマナマナマナマナマナマナマ、生ワンユウさーーーーーーん!!』


:「いや、お前どんだけ生言うんだよ! この二ヶ月で変態にジョブチェンジしたのか? それがお前がなりたかったVTuberの姿だったのか? ただの変態じゃないか。この変態天使!!」


『あーーーーーアハッ! アハハハハハハハッ!! 染みるゥゥゥ、ワンユウさんの二ヶ月ぶりの生コメントが五臓六腑に染み渡るゥゥゥゥゥゥ!! あ、なんかもう、らめ……キちゃう……クる、クる、クる、クる、クる、ク――』


 狂ったように悶えていたガブリエールの動きが急に止まったと思ったら、時々身体をビクッビクッとヒクつかせ大きなクリクリの目は半開きになっている。

 この姿は大人向けのゲームで何度か見たことあるぞ。つまりこの天使、十万人以上が見守る中、イッ――!


『あ……アハ、アハハ……アハハハハ! 生……スッゴイれすぅ。ワンユウさんの生で私トんじゃいまひたぁぁぁ』


 呂律が回らず艶めかしい声でガブリエールが虚ろな表情のまま呟いた。

 おい、これもうセンシティブとかそんな次元の問題じゃないぞ。完全にヤバい人ですよ。色々とキマっちまった変態天使ですよ。

 二ヶ月前の最終配信の美しい思い出が変態色に塗り固められガラガラと音を立てながら崩れていく気がした。


:「……せめて生コメントって言って。それにしても変わっちまったな。久しぶりに会ったお前がこんな変態に堕天していたなんて……」


 ショックだよと言おうと思ったが、それ以上に俺自身興奮していたので言えなかった。何やかんやで俺はまたこのライバーに新しい扉を開かされたみたいだ。

 罵ってる時に何か気持ち良くなってしまった。俺もまた変態かも知れない。



コメント

:我々は一体何を観せられているんだ……

:えっ? 公開変態プレイなのでは?

:この天使、完全にキマってるぞ。星五つでお願いします!

:何の評価だよw オレも星五で!!

:来たな、ぶいなろっ!!の新しいビッグウェーブがっ!!

:エロ清楚と思わせておいてエロ変態だったなんて――

:――興奮するじゃないかっ!!

:この子、天使だよね? 堕天使の方じゃないよね?

:堕天した後にもう一回堕天して元に戻ったのよ

:ああ、なーる……ってそうはならんやろ!

:ってかワンユウって誰?

:一部界隈で有名なリスナーだよ

:二ヶ月前に引退した、あるVTuberのリスナーさんでしょ? 

:私、知ってるよ。そのライバーさんの卒業配信のアーカイブ凄いよ。何度も観返しちゃう

:オレも観たよ。ライバーとリスナーの息がピッタリで鳥肌が立つほど凄い

:そのリスナーのボスだったのがワンユウだったハズ

:……つまりこれってそう言うこと?

:……そうだよね

:二ヶ月前に引退したライバーとそのリスナーのボス、そしてこのやり取り……

:もしかして俺たちとんでもない状況に立ち会っているのでは?

:あっ、配信開始と同時に準備したカップ麺ができあがった

:何でそんなタイミングで……って、この天使まさか……

:デビューして三分で前世バレしちゃったってこと?

:ヤバいぞ、同接十五万人突破してる。まだ増えてるし、これマジで伝説になるかもしれん



 コメント欄の内容が取り返しのつかない状況になってる。

 これ完全にガブリエールが太陽の転生って事がバレてるよ。とびっきりの炎上案件だコレ。オワタ……。もう怒る気も失せたわ。

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