第72配信 デート③
陽菜と付き合い始めて一ヶ月が経過した。その記念としてデートを計画し今日がデート当日。生まれて初めてのデート……緊張する。
「大帝国ホテルのディナービュッフェの予約は無事に済ませたし、水族館の位置も把握してる。服もデート用を新しく買ったから問題ないハズだ。――よし、行こう!」
この世に生まれ落ちて二十四年、初デートのため家から出ると天気は晴天……素晴らしいデート日和だ。
マンションから出ると小学生くらいの男の子と女の子が手を繋いで歩いているのが見えた。
「ねえねえ、いつものお店に行こうよぅ。デートしよ」
「しょうがねえなぁ」
少年はぶっきらぼうな態度を見せながらも慣れた様子で女の子を抱き寄せ商店街の方へと歩いて行った。
……最近の小学生は進んでるなぁ。デート未経験の俺はあの小学生カップルに比べれば駆け出しに過ぎない。しかし今日のデートを経て俺はデートビギナーから脱却するんだ。
決意を新たにし陽菜の家のインターホンを鳴らすとすぐに彼女が出てきた。
「お待たせ」
「優さん、本日はよろしくお願いします」
陽菜は薄い水色のワンピース姿で清楚な彼女のイメージにピッタリ合っていた。もうこの時点で俺の幸福満足値はMAXに達している。
「この格好……どうですか?」
「凄く可愛い……ごめん、語彙力が無くて。でも、その一言に尽きる」
陽菜は、はにかむように笑うと俺の左側に来て腕を絡めてくる。その際彼女の胸が左腕に押しつけられた。
「あ……陽菜さん?」
「えへへ、今日は一日中このポジションです」
あー、もうこれ勝ったね。さっきの小学生カップルを超えたよ。俺の彼女可愛すぎるだろ。
いやー、デートって本当にいいもんですね。……ってちがーーーーーーーう!! まだ始まってないのに陽菜のデートファッション見て満足して終わるとこだった。
危ねえ、危ねえ。今日のデートで俺の幸福満足値のレベルを上げないとあっさり満たされて昇天してしまう。気をつけないと。
「よし……行こうか」
「はい!」
こんな感じで最初からクライマックスな感じで始まった俺と陽菜の初デート。
ディナービュッフェがメインなので昼下がりからスタート。電車で都内に移動したら水族館で鑑賞を楽しみ、夕方になったら大帝国ホテルのディナービュッフェにカチコミをかける。
マジで予約が取れて良かった。今日は天気も良いし運が味方をしてくれている。後は俺の頑張り次第だ。
最寄り駅に到着すると近くにある駄菓子屋が賑わっている様子が目に入った。
昔から地元の人々に親しまれている駄菓子屋で近所の子供たちにとってのオアシスと言っても過言ではない。五百円あれば豪遊できる。
「ちょっとー! 今日は私がマコトの彼女の日だよ。皆ズルいよぅ!」
「ケチケチしないの! 良いじゃん、あんたはマコトと同じマンションに住んでるんだから。登下校も一緒だし」
「そうそう。取りあえず酢イカでも食べなよ。アタシのあげる」
「おいおい、お前ら喧嘩すんなよ。俺はお前ら七人とも愛してるからよ」
「「「「「「「マコト~!」」」」」」」
駄菓子屋でさ〇ら大根みたいな甘酸っぱいピンク色のオーラを放っている小学生八人。
七人の少女が男子一名を巡ってワイワイやっている。よく見るとその少年は俺と同じマンションに住んでいる子だった。さっきデートに行くと言っていたがまさか再び遭遇するとは……。
しかも聞き間違えでなければ、あのマコトという少年は七人の女子と付き合っているみたいだ。パない。
「最近の小学生は凄い進んでますねぇ。あの男の子は七人の女の子と付き合ってるんですね。あれがハーレム……初めて見ました」
「女子七人をはべらせる男子小学生って一体。あの包容力なんなの? ゴッ〇ファーザー?」
陽菜もマコト君のハーレムを見て驚いている様子。あれが最近の恋愛の基準だったらどうしようかと思った。
それにしてもあの男気溢れるマコト君であれば彼女が何人いてもハッピーエンドを迎える安定感を感じるなぁ。……あれに恋愛偏差値で勝つなんて無理だろ。一瞬でも勝ったと思った自分が恥ずかしいよ。
「そろそろ電車が来る時間だ。ホームに移動しよう」
「はい」
駄菓子屋デートを楽しむ小学生ハーレムグループを尻目に俺と陽菜は都内に向かう電車に乗った。同じマンションに住んでいるからマコト君とはまた会う気がする。
とまあ、こんな感じで小学生ハーレム軍団に約七百文字を使ったのでサクサク進めていく。
大体一話は二千~三千文字程度が目安になっているのでマコト君たちに今話の四分の一の尺を使ってしまった。ここからはテンポよく行こう。
「水族館に到着しましたね」
「いや、ちょっと待って! 電車に乗ってから一瞬で水族館に着いたんだけど!? 今回初デートがメインの話だよね。デートの流れぞんざいに扱われすぎじゃないの?」
「作者さん恋愛経験ほぼ無いからデート移動中の会話とか良く分からないらしいです」
「それじゃ何でラブコメ作品やろうと思ったんだよ! 道理で所々粗が目立つと思ったよ」
陰キャな作者に複雑な感情を抱きながら水族館に入館する。
建物の中に入ると俺と陽菜は巨大な水槽の中に作られた海の世界に見蕩れてしまう。すぐに陰キャな作者――略して陰者のことなど忘れてしまった。
最初に訪れた巨大水槽の中ではイワシの群れが泳いでいて螺旋を描くように泳いだり球体のような形状になったりして楽しませてくれる。
イワシの群れ以外にも様々な種類の魚が悠々と泳いでいて海の中を演出している。
「イワシがキラキラ輝いていて綺麗ですねぇ。本物の海の中でもこんな風に泳いでいるんでしょうか?」
「群れで泳ぐことで巨大に見せかけて敵から身を守るんだったかな? きっと本物の海の中だともっとたくさん集まって群れを作るんだろうね」
続いて向かったのはクラゲの水槽だ。半透明のクラゲが無数に集まってフワフワ漂っている。見た目はこんなにゆるふわなのに毒があったりするから恐ろしい。
そう俺が思う一方、陽菜は全く異なる見解を持っていた。
「クラゲって何か……エッチじゃありませんか?」
「クラゲを見てそんな感想を持った人は初めてだよ。普通は神秘的だとか宇宙生物っぽいとか言うよ。ちなみにどうしてあれがエロいと思った?」
「だって透明だしキラキラ光って……下着みたいに見えるんです」
「あれはシースルーランジェリーじゃないからね。生きてるからね。生命の光だからね」
「優さん、クラゲって英語でジェリーフィッシュって言うみたいです! やっぱりあれは……!」
「ランジェリーフィッシュじゃないからね! たまたまジェリー被りしてるけどさ。もしクラゲがセクシー下着だったら海の中エロい……えらい事になってるよ。夏の終わり頃、海一面まっピンクだよ」
見た目は清楚に見える陽菜だが、やはりガブの中の人なだけあって頭の中は結構変態的思考をしている。それを瞬時に理解してツッコミを入れる俺も大概だなぁ。
暗い室内を出ると明るい場所に出る。そこではペンギンを始めとした愛嬌のある生き物たちが生き生きと生活していた。
陸上をゆっくり歩いているペンギンを見て陽菜が黄色い声を上げる。
「可愛い!! ぽてぽて歩いててメチャメチャ可愛い。連れて帰りたい」
「確かにペンギンって凄く可愛いよね。見ていて凄く癒やされる」
陸上エリアを可愛く歩いていたペンギンが水中エリアに入ると動きが別人みたいになった。
戦闘機が空を飛翔するが如く高速で水中を泳ぐ姿は格好いい。可愛い上に格好いいって最強なのではないだろうか?
水中のペンギンに注目していると六羽がフォーメーションを組んでアクロバティックに泳いでいる。その勇姿を見ているとある戦闘機が頭をよぎる。
「あの動き……あいつら絶対ブルー〇ンパルス意識してるだろ!」
ペンギン達はハートマークや六芒星を描くように高速で泳ぎ最後は水面に向かって猛スピードで急上昇すると、その勢いのまま水面から飛び出し六羽同時に陸地に着陸する。
このショーを見ていた客から盛大な拍手が送られ、心なしかペンギンたちは「いい汗かいたぜ」みたいな雰囲気を漂わせていた。
濃い……今日は俺と陽菜の初デートのハズなのに、行く先々に出てくるキャラ達が濃い面子ばかりだ。
さてはデート回をどう回せばいいか分からないから無理矢理ギャグ要素入れて誤魔化そうとしてるな。
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