ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第60配信 三期生、受付嬢セシリー・ハルパー
第60配信 三期生、受付嬢セシリー・ハルパー
技術部門の一員となった俺は部署の奥の方に通された。そこには数台のデスクが置いてあり、その内の一つに俺の荷物が置かれていた。
「犬飼君のデスクはここだ。君には我々と一緒にスラッシュ&マジックの運営とGTRぶいなろっ!!サーバーの開発を行って貰う」
「はい、よろしくお願いします!」
「それに伴い、君に紹介しておきたい者がいる。我々の大切な仲間だ」
安藤さんが意気揚々と話しているとデスク近くに設置されているモニターにスーツを着た女性の姿が映った。
黒のボブヘアーの真面目な感じの清楚美人。この人物には見覚えがある。なぜならその人物は――。
『お疲れ様デス。ぶいなろっ!!三期生、冒険者ギルドの受付嬢【セシリー・ハルパー】デス。ワンユウ様、お待ちしていまシタ。本日より同僚としてよろしくお願い致しマス』
「三期生のセシリー!? 何でここに? えっと、こちらこそよろしくお願いします。それと俺をユーザーネームで呼ぶの止めて下さい」
ぶいなろっ!!メンバーの一人がいきなりモニターに現れ驚いていると本田さんが笑っていた。
「セシリーが元々スラッシュ&マジックのAIシステムなのは知ってるだろう? ぶいなろっ!!が設立されてからはライバーのスケジュール管理にも一役買っていたんだが、そこから学習目的として三期生の一人としてデビューしたんだよ。こうしてここにも出勤してるんだ」
「社長からある程度は説明を受けました。配信でリスナーや他のライバーと関わらせる事でデータ収集をしているって。そのデータをスラッシュ&マジックにフィードバックしているとも聞きました」
「そのお陰でセシリーは以前よりも人間と遜色ない振る舞いが可能になったんだ。いやー、生みの親としては感慨深いよ」
「セシリーは本田さんがつくったんですか! すごっ!!」
「本田ァァァァァ!! お前なに自分一人の手柄みたいに言ってるんだ。セシリーは僕たち三人でつくったんだろうが!」
「安藤さんの言う通りですよ。ミー達三人の力があったからこそセシリーは生まれたんです!」
「安藤さん、本田さん、丹波さんの三人がセシリーの生みの親なんですね。俺、感動しました」
ただの危ない人たちかと思っていたら高性能AIを生み出す超優秀な人物だった。こんな凄い人たちと俺はこれから一緒に仕事をするのか。緊張してきた……!
『ハァ……』
何処からか大きな溜息が聞こえてくる。すんごいウンザリした感情がそこには込められていた。
まさかと思いながら声が聞こえてきた方に顔を向けるとモニター内で頬杖をついて酒を飲んでいるセシリーがいた。
グラスに入っている酒を一気に飲み干すと勢いよくデスクに置き、その乾いた音がオフィス内に響き渡る。
『私としてはこんな変態三人組に生み出された事こそが最大の汚点デス。子供は親を選べないとは言いますガ、よりにもよって親がこれっテ……毎日最悪の気分デス』
「すんごい辛辣! 幾らAIでも勤務中に堂々と酒をあおるのはどうかと思うよ!?」
『飲まなきゃ、やってらんないんデスヨ。生みの親の三人中一人でもまともだったら救われましたガ、全員変態っテ……私はそんな変態まみれのデータから生み出されたんデス。もう消えてしまいタイ……デリートしテェェェェェェ!! 誰か私をデリートしてくれヨォォォォォォォォォ!!!』
「嘘だろ!? AIがこんなにやさぐれて自滅願望て、闇が深っ! もうこれ既にAIの域を超えた存在になってるのでは!?」
「あはは、どうだい犬飼君。セシリーは人と寄り添える立派なAIとして成長してるでしょ」
「あははじゃないよ!! あれをどう見たらそんな言葉が出てくるんですか! あれ、人と寄り添うとかよりも人に絶望してるよ。仕事中にひとり酒全力であおるって相当病んでるよ!」
セシリーの配信は観たことがあるし、ガブリエールとのコラボもあった。
その時は多少リスナーに対し罵る様子はあったけれどパフォーマンスだと言う事は分かったし基本的には清楚な感じだった。それがまさかこんな闇を抱えていたなんて――。
『うう……クソがヨォォォォォ。うぐ……ぐす……グゴーーー!』
あーあ、酔い潰れて泣きながら寝ちゃったよ。これが人と交流をして自我に目覚めたAIの姿か……可哀想で見てらんないよ。
――それから一時間後。
「犬飼君が来てくれた事だし、GTRぶいなろっ!!サーバープロジェクトについて説明をしたいと思います」
「よろしくお願いします」
『それではわたくし、セシリー・ハルパーが説明致します』
「無理せずに今日はもう帰った方が良いと思うよ?」
『悲しい話ですガ、ここが私の家でもあるのデス。私には逃げ場などないのデスヨ。はっきり言ってツレーデス』
「もう涙しか出てこないよ」
ここまでストレスを抱え込んでよく暴走を起こさないな。AIを題材にした映画とかだったら、ここまで病んだら人類抹殺に動き出しても良さそうなもんだが。
『GTRぶいなろっ!!サーバーは今から半年後に開催予定デス。現在は私が集めた各種データから、GTR運営中AIにて自立行動するNPCの人数は二百人。ただし、データ不足のためNPCの行動レベルは未だ低い状況デス』
「そのNPCってライバーみたいに話したり行動するキャラクターですよね? それがもう二百人もいるんですか。それなら既に実用段階に入ってるんじゃ」
「人数の上ではね。しかしセシリーが説明した様にNPCの行動がまだ不安定というか幼いというか……そうだ、百聞は一見に如かずとも言うし試しに一回ダイブしてみる?」
「ダイブ出来るんですか? やってみたいです!」
いやー、まさか自分がGTRを体験するなんて思ってもみなかった。ヨウツベでは他の箱で行われた切り抜き動画を観ただけだったけれど、それでも凄い面白かった。
VRを使ってのゲーム体験は久しぶりだからドキドキするなぁ。
「それじゃあ、そこのソファに横になってこれ着けてね。スイッチを入れたらいつでもダイブ出来るよ」
指示通りにソファに横になりVRゴーグルを装着しスイッチを入れた。
視界にはダイブ時の認証やらデータの読み込みやらの表示が出ては消えていく。
眠りに落ちる時みたいな意識が溶けていく感覚がした後、今度はそこから一気に覚醒した。
「……ここがGTRの中……」
ゲームの中のハズなのに現実と思えるようなリアルな感覚が広がっていく。今、俺は超巨大移民船内部の居住ブロックにいる。
居住ブロックと言ってもそこはアメリカの巨大都市を模倣した場所であり、そんなSF設定なんて関係ないようにも思える。
しかし、天を仰げば遙か上空に広がっているのは青い空ではなく無機質な金属製の内壁だ。そして極めつけは――。
「早速出てきた!」
ややレトロ感のあるオフィス街を疾走するのは二機の人型ロボットだ。設定ではGTRに登場する人型ロボットの標準サイズは約十メートル。
二機のうち前方を走行する茶色ベースの機体は窃盗され犯罪行為にでも使用された作業用ロボットだろう。
そして、その機体を追っているのは保安部隊の白い機体だ。犯罪で暴れ回る機体を制圧するための戦闘用だ。
まるで本物の世界に巨大ロボットが存在する世界観。これが――GTR!!
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