第59配信 男は魔法とロボが好き

 相良さんに案内されて入ったオフィスでは大勢の社員がパソコンに向き合いキーボードを叩く音が聞こえる。この風景は俺が元いた職場とそんなに変わらないので安心する。

 相良さんに連れられてオフィスの奥に進んでいくと三名の男性が何やら言い合っていた。見た感じ三人とも三十代から四十代くらいだろう。


「だから魔法はメ〇系が最強だって何度言ったら分かるんだよ! メ〇ゾーマァァァァァ!!」


「〇ラなんて敵一体しか攻撃できないじゃないか。イ〇系は全部の敵を攻撃可能、雑魚はイ〇ラ撃てば大抵は終わるから皆〇オ系にお世話になってるでしょうが!!」


「メ〇も〇オも所詮は下々の魔法ですよ。デ〇ン系こそ嗜好。良いですかお二人とも、神話でも最強クラスの神は雷を操っているんです。故に最強の魔法はギガ〇イン以外にありえない! 火と爆発が雷に勝てる訳ねーんですよ!!」


 三人共大声で話すもんだからオフィス中に『どれが最強の魔法か?』という会話が響き渡る。それでも他の社員は顔色一つ変えずに仕事をこなしていくあたり、あそこの三人はいつもこんな調子なのだろうと思わされる。

 ――ここは中学校の休み時間か?


「……相良さん。まさかとは思いますけど、今から俺はあそこで騒いでいる三人組に紹介されるんですか?」


「その通りです。きっと仲良くなれますよ。皆さん、犬飼さんが来るのを楽しみにしていたんですよ」


「帰りたいなぁ」


 俺の嘆きは軽くスルーされて一歩一歩あそこにいる三人組に近づいて行った。俺たちに気が付くと三人は罵り合いを止めて不適な笑みを受かべる。

 もうなんかね、嫌な予感しかしないよ。


「お疲れ様です安藤さん、本田さん、丹波さん、犬飼さんをお連れしました」


「相良さん、お疲れ様です。なるほど、君が犬飼君か。――いい目をしているな。それに度胸もいい。ますます気に入ったよ」


「……まだ何もしていないんですが」


 すがる思いで相良さんを見ると彼女は営業スマイルを能面みたいに顔に貼り付け俺たちに会釈をする。


「じゃ、後はよろしくお願いします。頑張って下さいね犬飼さん。ではっ!!」


「ちょ! 相良さん、もう行くの!? 嘘でしょ待って置いていかないで!!」


 逃げるように立ち去る相良さんを捕まえようと手を伸ばすがそれ以上の速度で彼女はこのオフィスから脱出した。

 まるでロケットブースターでも使ったんじゃないかと思うくらいの加速だった。


「ああ……行っちゃった……」


 伸ばしていた手を引っ込めて再び三人組に向き合う。観念した俺は自己紹介をする事にした。


「本日からこちらに配属になりました犬飼優です。よろしくお願い致します」


「僕は【安藤】です。好きな魔法はメ〇系、好きなモビル〇ーツはウ〇ングゼロ(EW)です。よろしくね」


「私は【本田】です。好きな魔法はイ〇系、好きなモ〇ルスーツはア〇ックスです。よろしく」


「ミーは【丹波】と言います。好きな魔法はデイ〇系、好きなモビ〇スーツはエ〇リアル(改修型)です。よろしくお願いします」


「あの、皆さんの下の名前は……」


 一応訊いてみると三人は顔を見合わせる。


「「「……設定が無いから分かんない」」」


 クソッッッ!!! 何処から突っ込めばいいか分かんねーよ!! 何で初対面の挨拶で好きな魔法とモビルスー〇が出てくるんだよ。

 しかもいきなりメタ発言て……。最近この作品メタ発言多すぎだろ。コメントでメタ発言面白いって言われて味占めただろ。

 それにこの三人の設定なんなのさ。安藤、本田、丹波で頭を繋げるとアンポンタンって酷すぎる! 下の名前考えてないし! もうさーーーー!!


「そんな事より犬飼君に訊きたいことがあるんだ」


「自分の設定をそんな事呼ばわりしないで!」


「犬飼君の好きな魔法とモビルスーツを教えてくれないかな?」


 その瞬間、周囲がざわついた。これまでこの三人が大声を出そうが罵り合おうが我関せずだった社員たちの雰囲気が明らかに変わった。

 怖い怖い怖い怖い! 下手なお化け屋敷よりこのオフィスの方がずっと怖いよ! お家に帰りたい。

 でも、分からない話題ではないから言うか。何だかんだでファンタジーとロボットは好きだからなぁ。


「好きな魔法はメ〇ローアで好きなモ〇ルスーツはフリー〇ムです」


「「「なん……だと!?」」」


 ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……ざわわ……。


 好きな魔法とモビル〇ーツを口にするとオフィス内がさらにざわつく。安藤さんたちは明らかに動揺していた。


「ヒャ〇、ギ〇、ホ〇ミ、バ〇キルト……有名な魔法が沢山あると言うのに……いきなり極大消滅呪文とは尖ってるな!」


「落ち着け安藤。――犬飼君、君の好きなフ〇ーダムだが、その機体には種類が色々ある。どのフリーダ〇が好きなんだね? やはり無印かい?」


「ラ〇ジングです」


「なっ!? ライ〇ング〇リーダムだって? 何故だ、劇中では噛ませ扱いの機体なのに!」


「そうかも知れませんが、不意打ちで大ダメージを受けたのに粘りに粘る姿が印象的で好きになってしまって」


「なるほど……ネバーギブアップの精神かぁ……確かに、あれはいいものだ」


「ストーリーでは敗北する運命にあっても最後まで頑張ったもんなぁ」


「パイロットも無事でしたから立派に役目を務め上げたと言えますよね」


 お三方が拍手を始めると黙々と仕事をしていた社員たちが立ち上がり拍手し始める。これはもしかして俺はここの人達に認められたと言う事なのだろうか?

 スタンディングオベーションに困惑していると安藤さんが俺の両肩に手を置いて微笑んでいた。


「犬飼君……君がナンバーワンだ」


「いや、俺ここの仕事何も知らないのでワーストワンです。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」


 こうして俺はファイプロのスラッシュ&マジック及びGTR開発部門の所属となった。最初はここでやっていけるのか不安だったが、数分後には完全に馴染んでいた。

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