ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第58配信 ワンユウ ファイプロに異動する
第58配信 ワンユウ ファイプロに異動する
週明けに会社に行ってみると俺のデスクの荷物が全て無くなっていた。まさか既に実行されているとは思わなかった。
「あ、犬飼君! 既に話が通っているみたいだけど、君ファイプロ本社に異動になったから頑張ってね」
こんな軽いノリで俺は異動を言い渡された。デスクがもぬけの殻になっていたので、「おめーの席ねぇから!」とか言われるんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、皆は明るく俺を見送ってくれた。
給料はそこそこだったが同僚も上司も良い人たちばかりだったので名残惜しい気持ちはある。それでもやはりファイプロで働けるのは何だかんだでワクワクする。
俺の荷物は既に異動先に送ってあるらしく、俺は電車に揺られて移動し都内某所のファイプロ本社が入居しているビルに到着した。
巨大なビルを見上げながら自問する。え……俺、今からあそこの中で働くの? 何だかラスボスのいる城に来た気分なんだけど……本当にあそこに俺の居場所があるんですか!?
会社から受け取った社員証を首にぶら下げてビルの中に入ると広大なエントランスが俺を待ち受けていた。
ビクビクしながらエレベーターでファイプロのフロアに移動し受付に行くと担当者が来てくれることになった。
その数分後、現れたのは――。
「犬飼さん、待っていましたよ。先日のメン限配信、皆に祝福されて良かったですね。実際のところガブさんとは子作り順調な感じですか?」
意気揚々と現れたのはガブリエールのマネージャー相良さんだった。
「……チェンジで!」
「アハハ! 面白い冗談ですねぇ。ここはキャバクラでもなければデリヘルでもないのでキャストの変更は不可能ですよ。っていうか、そのどちらも未経験でしょう?」
「くっ……どうして相良さんがここに? ぶいなろっ!!担当だから別の場所にあるスタジオが職場ですよね?」
「普段はそうです。今日は犬飼さんがこちらへ初出勤ということで顔見知りのあたしが案内役を仰せつかりました。ここまで来るのに疲れたでしょうから、小休憩した後に本社オフィスをご案内します。そして最後は今日から犬飼さんの職場になるスラッシュ&マジックの部署にご案内します」
「分かりました。よろしくお願いします」
これまでの破天荒なイメージが強かったが、相良さんはファイプロで働いている社員な訳で通常は真っ当な社会人なのだと思い直す。
二人で休憩ルームでコーヒーを飲みながら先日のメン限配信の件を話して盛り上がる。何だかんだで推しが俺と同じだしガブリスの一員なので配信の件になると話が弾むため楽しい。
「あたしは特に心配はしていませんでしたよ。ガブリスは皆、ガブさんとワンユウさんのイチャイチャ配信を観にきているので、二人が交際を始めたと知ってようやく一区切りがついたなという印象です」
「そう言う感じだったんですか。当事者の俺には分からなかったです。ガブリスの皆とは一緒に同じ配信を観ていたのに、視点が違っていたんですね」
「ワンユウさんのポジションは特殊ですからね。でも、これからはもっと特殊で大変になりますよ。――GTRの成功には犬飼さんの力が必要ですからね」
「相良さんはGTRのことを知っているんですね」
「ぶいなろっ!!メンバーにはまだ秘密ですが、各マネージャーには話が行っています。GTRに噂のワンユウさんが関わると知って皆驚いていましたよ。まさかワンユウさんが同じ会社の人間になるなんて誰も予想していませんでしたから」
噂のワンユウて、俺はそんな風にぶいなろっ!!のスタッフに認知されていたのか。こういう裏話も同じ会社の人間だからこそ聞けたんだよな。不思議な感覚だ。
「それでは各部署の案内を始めましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
ファイプロは最初は小説投稿サイトの運営から始まり、それが軌道に乗るとファンタジー要素の世界観を生かしたVR型MMORPGスラッシュ&マジックの開発を始めた。
その際にAIを始めとする技術部門を作り関連企業と提携しスラッシュ&マジックは運営を開始した。
その後、キャニオン社長がVTuberの活躍に注目し技術部門のノウハウを使ってぶいなろっ!!の運営が開始されて今日に至る。
自分が趣味で小説投稿をしている会社に来ている状況に感動する。俺が投稿した小説なんてここの人々には認知されてはいないのだろうけど。
「そう言えば、犬飼さん最近小説投稿が止まっていますよね。ガブさんとの夜間プロレスにハマってそれどころじゃない状況ですか?」
「あはは、実はそうなんですよ。ネタは考えてはいるんですけどちょっと時間が……」
俺の前方を歩く相良さんが普通のテンションで話してきたので俺も自然に受け答えしてしまった。途中まで話して気が付いた。今、この人俺の小説の話をしていたのか?
「な、何で……知って……」
「だって普通にワンユウ名義で投稿してるでしょ。知っていますよ。ファンタジーとロボットが好きなんですよね。最新作の異世界転生ファンタジーもののヒロインってガブさんがモデルですよね。『銀髪巨乳の幼馴染みヒーラーが俺を甘やかすんだが!?』って犬飼さんの甘えん坊願望ダダ漏れで楽しいです。それにサブヒロインはぶいなろっ!!メンバーがモデルですよね」
「や……それは……その、気が付いたらそうなっちゃって」
「あれを読んでみて犬飼さんがどれだけぶいなろっ!!が好きなのか分かりました。ちなみに、あたしに小説を教えてくれたのはガブさんです。あと社長も知ってますよ。ストーリーにもう一ひねり欲しいのとヒロインとイチャイチャしっぱなしなのでたまには魔物退治に行きなさい、との事でしたよ」
追加で衝撃が来た。今まで俺のモノローグで語られていただけの小説投稿趣味がここで回収されるなんて思わなかったよ。
「感想ありがとうございます。その意見を参考にして今後のストーリー作りに生かしたいと思います」
「社長に伝えておきます。――実は犬飼さんが小説投稿している件も今回の部署異動の理由の一つになっているんですよ」
「そうなんですか? それは聞いてなかったな」
「スラッシュ&マジックはファンタジーな世界観ですしGTRはロボット戦闘がウリですから、その両方に造詣が深い人物がいると助かるんです。それでいてエンジニア経験があり、ぶいなろっ!!の箱推しの人材が欲しかったんです」
「なるほど、その条件に該当したのが俺だったと」
「その通りです。そして条件はもう一つ。配信者のエンターテイナー性を理解できる人物。――着きましたよ、ここが今日から犬飼さんの職場になるスラッシュ&マジック及びGTR開発部署です」
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