第61配信 世紀末ヒャッハーなGTR

 茶色い機体が道路を直進しながら逃げていく。その後方にいた白い機体は背部バックパックのメインスラスターを点火するとスピードアップし一瞬で追い抜く。そこから方向転換しながら手に装備しているライフルを発砲して相手の両脚を破壊した。

 両脚を失った茶色い機体は火花を散らしながら転がると近くのビルに突っ込み建物は崩壊した。ビルの破片が停めてあった車のボンネットに落下してクラクションが鳴りっぱなしになる。


「おいおい瞬殺だよ。ロボットが方向転換する時のアスファルトの抉れ具合とか建物の壊れ具合とか作り込みが凄い。こりゃライバー達が夢中になる訳だ」


 テンション上がるわぁ。人型ロボット同士の戦いを目の当たりにして喜ばない男はいないだろう。GTRって観るのも面白いけど自分でプレイすると桁違いに楽しいな。

 興奮していると茶色いロボットの近くに野次馬が殺到する。どいつもこいつも髪型がモヒカンでトゲの付いた服を着ている。まるで世紀末漫画にでも出てきそうな連中だ。

 何でこんな格好をしているキャラがSFロボットゲームに出ているのかと場違いな感じがしないでも無いがレイ〇ナーとかドラ〇ナーとか前例があるので一概に否定はできない。


 NPC達の動きに気を取られていると保安部隊の機体が左前腕からビームソードを発生させた。もしかしてあいつ、動かなくなった相手に止めを刺そうとしてない?

 まさかそんな。配信で観た時は保安部隊に所属していたライバーは相手を無力化したらコックピットから引きずり下ろして刑務所にぶち込んでいたんだよ。止めを刺す必要なんて無いじゃない。


 嫌な予感がして俺はビルの隙間に移動し様子を見る。

 すると白い機体は躊躇無くビーム刃を茶色い機体に突き立てた。破壊された機体は爆散、周囲は火の海になり近くに居たモヒカン野次馬たちは業火に包まれる。

 ロボットの残骸が幾つも飛び散ってきてビルの外壁は軽く削れていた。もしも隠れなかったらあの残骸が当たって悲惨な目に遭っていただろう。


「や、やりやがった……何だこれ。これは俺が知ってるGTRじゃない。こんな世紀末なゲームじゃなかったよ。群像劇を楽しむどころじゃないだろこれ」


『これが現在のGTRぶいなろっ!!サーバーの状況デス』


 すぐ近くからセシリーの声がして周囲を見回すといつの間にか肩にデフォルメされた彼女が乗っていた。ねん〇ろいどみたいで可愛い。


「とてもじゃないけどこんな場所にぶいなろっ!!メンバーを送り出せないな。それ以前にこんな凄惨な映像を配信で流すのはちょっと……」


 今も俺の目の前では盗んだバイクで火の海に走り出すモヒカンNPCの姿があった。行動が意味不明で訳が分からない。


『見て頂いたように現在NPCの知性は低い状態デス。収集したデータは主にスラッシュ&マジックにおけるプレイヤーと配信中のリスナーのもので、それを掛け合わせるとこうなりましタ』


「……それって俺が思うにRPGやってる時のプレイヤーの好戦的な部分とコメント職人のテンションぶち上げがミックスして世紀末ヒャッハーなNPCになったと言うこと?」


『その通りデス、ワンユウ様。理解が早くて助かりマス』


「なんてこった……それと俺をユーザーネームで呼ばないでね」


 ログアウトしてVRゴーグルを外すと安藤さんたちが苦笑いしていた。多分俺も同じ表情をしている。


「とまあ、現段階ではこんな感じでね。ロボットの動作部分はGTRオンラインのものだから全く問題ないんだけどNPCの知能レベルがこじらせまくった厨二病みたいになっているんだよ」


「あそこまでアグレッシブな厨二病は見たこと無いですよ。しかもNPC二百人があんな感じで暴走しているんですよね?」


 自分の中学時代を思い出し左腕と右目が疼く。俺もあんな感じだったのだろうか? よく思い出せない。いや、違うな。記憶が黒歴史を封印しているんだ。


「その通りです。今はNPCの知能及び行動のレベル向上のためにデータ収集を継続している状況です」


「データ収集を経てまずは真っ当な一般市民のNPCをつくり、その後は職業ごとに性格を肉付けしていく。アウトローなら犯罪行為やロボットを窃盗する傾向が強いというふうにね。本番では様々なイベントを用意して、そこにぶいなろっ!!メンバーを巻き込んでいく予定だ。無論その逆も然り、彼女たちが自発的に行動を起こす場合アシストするのが我々の仕事だ」


「なるほど……それじゃGTR開催中は仕事に付きっきりになりますね。生配信を観るのは無理かぁ。アーカイブで楽しむしかないですね」


「残念だけどそうなるね。それにGTR開催中、犬飼君には重要な任務があるから忙しいよ」


「……え? それってどう言う……」


 安藤さんたち三人はニヤリと怪しい笑みを浮かべている。社長もマネージャーも開発スタッフも怪しい連中しかいないのか、この会社は……。


「他のVTuber事務所のサーバーでGTRが開催されている最中に多数のバグが発生していたらしいんだ。例えばライバーが操作するアバターがちょっとした事で即死するとかロボットが無敵になるとかね。配信の裏では我々のような技術スタッフがデバッグ作業で大忙しだったらしい。GTR出演者が実際のライバーの場合でもそれだけ大変だったんだ。AIによるNPCで大部分の人数をまかなうぶいなろっ!!サーバーの場合は開催中にどんなバグが出現するか分からない。勿論、我々技術スタッフはデスマーチ覚悟で臨むつもりだ。そして犬飼君、君にはGTR開催中は実際にダイブしてバグの処理を現場で行って貰いたい。上手くやればバグを未然に防ぐことも可能なハズだ」


「俺がダイブするんですか!? 技術スタッフは他にもいるし俺よりも適任者がいるんじゃないですか?」


「犬飼君、本番中のGTRだよ!? 実際にぶいなろっ!!メンバーがプレイしていて配信中でもある渦中に我々にダイブしろと言うのかね? ノミの心臓たる我々がそんな所に行ったら緊張で瞬殺ものだよ! 我々に死ねと言うことか!?」


「よくもまあ、自分たちの事をそこまで棚に上げて俺にダイブしろって言えますね! 俺だって陰キャだから極力目立つことはしたくないんですよ!!」


「いーや! ガブリスの盟主にしてガブちゃんのステディであるワンユウ総帥なら本番中のGTRなんてスナック感覚でサクサクイケるさ!」


 何だ? 何だかこのノリは既視感バリバリだぞ。嫌な予感しかしない。まさかとは思うけど……マジで外れてくれ俺の勘。


「もしかして安藤さんたちって……ガブリス?」


「勿論だとも。僕たち三人だけじゃなく、このフロアに居る開発部門のスタッフ全員がガブリスだよ。皆、ぶいなろっ!!の箱推し連中ばかりさ。総帥がここに配属になるっていうから皆、朝から楽しみにしていたんだよ」


「「「「「「「「リアルでもよろしく、ワンユウ総帥!!」」」」」」」」


「いやあああああああああああああっ!!!」


 道理でずっとチラチラ見られていると思ったらそう言うことか。

 セシリーがずっと俺をワンユウ呼びしていたから気づかれているとは思っていたけど、まさか全員がガブリスて……俺は配信でもリアルでもガブリエールは勿論ガブリスとも運命共同体なのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る