第62配信 姫と魔王とのコラボ

 俺の生活は一変した。

 プライベートでは人生初の彼女が出来た。彼女の陽菜はVTuberガブリエール・ソレイユだ。

 俺が住んでいるマンションと陽菜の家は百メートルも離れていないので頻繁に互いの家を行き来して一緒に食事をしたりゲームをしたりと蜜月な関係を築いている。

 

「優さん、ほっぺたにご飯粒付いてますよ」


「え、どっち?」


「こっちです。……はい、取れた。ぱくっ、ふふ、美味しいです」


 毎日萌え死ぬかと思うほど幸せだ。……俺、明日死なないよね?


 そして仕事では株式会社ファイナルプロジェクトの技術部署に異動し、VR型MMORPGスラッシュ&マジックの運営とGTRの開発に携わるようになった。

 ちなみに技術スタッフは皆ぶいなろっ!!の箱推しでガブリスでもある。俺はここに来た瞬間にリアルでもガブリスと一蓮托生の運命を背負うことになってしまった。

 

「ワンユウ指令、GTR本番に備えて今日もダイブして街中を探索しながらプレイヤースキルを上達させてね」


「やっぱり俺がやる流れなんですね。分かりました、午後やります。それと自然な感じで言っていますが、俺をユーザーネームで呼ばないでくださいね」


「犬飼指令、ダイブする時はセシリーをアシスタントに付けるので心配はいりませんよ」


『そう言う訳なのデ、今日から私とワンユウ様は仕事上のパートナーデス。よろしくお願いシマス。これがマブダチと言うものなのデスネ』


「俺の呼称が交通渋滞起こしてるよ!」


 毎日大変ではあるけれどGTR開催と成功という目標に向けて皆で一致団結して頑張っているので非常に充実している。


 そんな感じで以前にも増してプライベートも仕事も気合いを入れて生活している。

 一方の陽菜もガブリエールとして二年目に突入し、コラボも増えて大忙しだ。今回、急遽一期生のメルア姫と二期生のサターナとのコラボ枠が立った。


 メルア姫は言わずと知れたぶいなろっ!!の一人目のメンバーだ。金髪碧眼のザお姫様のガワを被ってはいるが中身はエロゲーを始めとするエロ知識と性欲で支配された変態だ。

 サターナは最強の魔王が力を封印されて角の生えた黒い子猫の外見になっている設定だ。悪戯好きで舌っ足らずな話し方も相まってメルア姫と双璧を成すぶいなろっ!!の人気VTuberでもある。そして、そのメルア姫と同等のエロ探求者でもあるエロ猫だ。


 今回のコラボはそんな、ぶいなろっ!!トップにしてエロ狂いの二人から誘いを受けて実現したコラボ――何が起きても不思議じゃない。

 ガブが一年目の頃はそれほどセンシティブなコラボはなかったが、あれはまだぶいなろっ!!に慣れていない後輩に配慮したジャブみたいなものだ。そろそろ右ストレートが来るかも知れない。

 俺を始めとしたガブリスは姫と魔王が何故ガブと急遽コラボを計画したのか、それも含めて警戒している。ガブの脳内はピンクでも相手の頭の中はさらに濃度が高い濃縮ピンクなのだから。


『ご機嫌麗しゅう、勇者様。ぶいなろっ!!一期生、キングダムの姫メルア・ティオ・アルビオンですわ』


『こんでび! 二期生、魔王軍の魔王サターナ・バアルだにゃ』


『こんがぶ~! 六期生、ゴッド&デビルの天使ガブリエール・ソレイユでーす!』


 三人のコラボ配信が始まりコメント欄は三人のリスナーが一堂に会する事となった。

 メルリスとサタリスはぶいなろっ!!リスナーの古参ファンが多く全体的に落ち着いている感じだ。それでいて推しへのツッコミも適確でそのやり取りが切り抜き動画に上げられる事が多い。


『今回は急なコラボになってしまってごめんなさいね、ガブちゃん』


『そんな事は無いです。メルア先輩とサターナ先輩との同時コラボ……どんな内容なんだろうってワクワクしていました』


『ニャハハ! 中々可愛い事をいってくれるじゃにゃいか!』


『先日、ガブちゃんが噂のワンユウさんとお付き合いを始めたと発表したでしょう? だから一刻も早くこのコラボをしなければならないと思いましたの』


 えっ、このコラボって俺が関係しているのか?  

 そう言えば推しと付き合い始めた状況って、ガブリス以外のリスナーから見たらどんな感じなんだろう? それにぶいなろっ!!メンバーから見てもこの状況はどうなんだ? 

 心配になってきた……。


『他のライバーからすればリスナーと付き合うと配信で公表するのは異例だからビックリしたにゃ。でも、ガブとワンユウさんの場合は状況が特殊だからね。終始円満で良かったにゃ。――それも含めてぶいなろっ!!メンバーとして二年目に入ったからには、一年目よりも尻の穴をしっかり締めて頑張って欲しいのにゃ』


『お尻の穴を締める……ですか……?』


『サターナちゃん、それを言うのなら一層気合いを入れて、とかの表現の方が良いと思いますわよ。いきなりア〇ルの話なんて……それは四番目あたりにくる話題でしょう?』


『アナ……四番目!? 一から三番は何が来るんですか?』


『それは……ふふふ、配信ではちょっと言えない内容かしら。その件はまた今度お茶を飲みながらお話しましょうね』


 気になるよ! メルア姫とサターナの事だからセンシティブな話なのは間違いない。いや、それ以前に既にアナ〇言っててアウトだよ! 早速このどスケベ二人はノリノリじゃんか。俺たちの推しに悪影響が出なければいいんだが……。

 次に陽菜に会った時に淫語しか話さない人になっていたらどうしよう。


『これからガブちゃんはライバーとしても一人の女性としても一層忙しくなると思いますわ。それにより楽しいこと辛いことが沢山あると思います。わたくしとサターナちゃんは楽しいことはより楽しく、辛いことはより少なく出来ればと思い此度のコラボを考えたのですわ』


『ありがとうございます、メルア先輩、サターナ先輩。私、嬉しいです』


『良いってことにゃ。これはぶいなろっ!!の先輩として当然の役目にゃ。後輩が辛い思いをするのは嫌だし楽しく日々を送って欲しいのにゃ。その為に我やメルアの経験上のアドバイスをしたいと思ったのにゃあ』



コメント

:……なんか意外と良い話になってきたな

:確かに。二人が後輩思いなのは知っていたけど急遽コラボ枠用意してまで為になる話をしてくれるのか

:こんな先輩がオレも欲しいなぁ

:サターナ様、にゃあにゃあ言ってて可愛いな

:その「にゃあ」は興奮したりすると付けるの忘れちゃうんだよね

:そりゃ日常会話で語尾ににゃあ付けてたら実生活に支障あるだろ

:お会計一万円になります

:カードでお願いしますにゃあ

:これをやっちまった経験があるらしい。雑談枠で話してた

:おっふ!

:一万で何を買ったんだろう?

:エロゲーの『ニャンニャンパラダイス』だったらしい

:それならセーフかな? 社会的に命拾いしたな魔王様

:メルア姫もサターナもなんだかんだでエロだけじゃないと言う事か

:さすがぶいなろっ!!のトップ二人だ。面構えが違う

ワンユウ:あの二人の事だから変態トークでもするのかと思ってた。思い込みってよくないな。申し訳なかったよ

:総帥、それは多分ここにいるリスナーの大半は同じ考えだったと思うよ

:そうだよ。まさかこんな良い話になるとは思わなかったよ

:初っ端からア〇ル来た時は、いつもの流れになると思ったけど意外な展開になったね

:ガブちゃんにどんな為になる話をしてくれるんだろう?



『それでは今回のコラボ内容を発表致しますわ。それでは画面に出しますわね』


 一体どんなコラボをするのだろう。サムネイルにはコラボとだけしか書いていなくて詳細は不明だったからなぁ。

 あ、何か画面に数字が出た。……ん? 四十八?

 

『今回のコラボはゲーム『四十八手(カリ)』をプレイしますわっ!!』


:「一瞬でもあの二人を称賛した自分がバカだったよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る