第39配信 夢で逢えたら 温泉編①
◇
相良さんに太田さんの様子を見て欲しいと頼まれ数日が経過していた。正直俺は相良さんを信用してはいない。
悪い人ではないと思うが先日喫茶店で話をしていた時の俺を見る目が途中から変わったのを感じた。
そう、あれはまるでとても面白い何かを見つけた時のテンションぶち上げ状態の人間の目だった。
それにあの言動から察するに相良さんは俺が性欲に負けて太田さんを押し倒す事を期待しているように見える。
何はともあれ相良さんはガブリスの一員でもあるので警戒しておいて損はない。あの人に俺がワンユウだと知られたら絶対に玩具にされるに決まってる!
……途中で何回かワンユウと呼ばれた気がするけど気のせいだよね?
あの時は相良さんがガブリエール推しだと知って嬉しくなり色んな事を話したけどハイになっていたので正直内容をよく覚えていない。
俺がワンユウだと特定されるミスを犯していなければいいんだが……。
それにしても意外だったのは太田さんだ。初対面の時は危うい行動を連発していたが、それ以降は特に問題なく過ごしている。
ラッキースケベが起きないのはちょっと……ほんのちょっとだけ残念だけど平和なのは良いことだ。
そんな事を思いつつガブリエールの配信はお休み中なので仕事から帰った後はだらだら過ごして眠りについた。
「あれ、ここは……?」
おかしい。俺は確かに自分の部屋で眠ったハズなのに気が付いたら見知らぬ和室にいた。
和室には大きめのテーブルと座椅子が二つあり、俺はその一つに座っている。テーブルの上にはお茶とお菓子――モナカが二つ置いてある。
窓側には小さなテーブルと椅子が二つ設置されていて、大きめの窓の向こうには深緑で満ちた山々が見える。
この部屋の構図は見覚えがある。ここは温泉旅館だ。実家にいた頃に旅行で行ったことがある。
チェックインし部屋に着くと速攻でお茶菓子を食べ、温泉に入り、美味しい夕食に舌鼓を打ち、また温泉に入って寝る。
朝起きたら温泉に入って、朝食を食べて、温泉に入ってチェックアウトして家に帰る。――これが温泉旅館に宿泊した時のウチの家族のスケジュールだ。茹でダコになるんじゃないかと思うくらい温泉を堪能した記憶がある。
いや、そんな俺の家の温泉旅行事情なんてどうでもいい、きっと誰も興味ないだろう。
それよりも就寝したハズの俺が温泉宿にいるのはおかしい。しかも外は昼間だ。つまりこれは――。
「ワンユウさん、お部屋綺麗ですねぇ」
窓側の一室の奥から姿を現わしたのはガブリエールだった。いつもの天使風のワンピース姿ではなくキャミワンピを着ていてふわっとした印象を受ける。
ガブリエールは俺の正面にテーブル越しに置いてある座椅子に足を崩して座るとお茶を飲む。
VTuberのガブリエールが3Dモデルの如く俺の目の前に実在している。やはりこれは夢だ。
そう言えば以前にも太陽&ガブリエールとラブホにいる夢を見たことがある。
まさか、また同じ様な夢を見るとは思いもしなかった。しかも今度は温泉旅館宿泊シチュエーションで来るとは……。
「あのさ、ガブリエール。一応訊いておくんだけど、ここって何処?」
少々
夢である以上いつ終了するのか分からない。サクサク進めていかなければ何をするでもなく終わってしまう。
ここは温泉宿だ。これが温泉回ならば水着回と双璧を成す肌色成分多めのセクシー情報満載の話のハズだ。
この先にはきっと混浴イベントが俺を待っている。だから早くその混浴イベントを発生させる必要がある。グズグズなんてしていられない。
前回の夢のようにもったいぶっていたら、いざこれからと言う時に目が覚めて「夢オチかよっ!!」と悔しがるハメになる。ならばイベントを前倒しにしてヤる事ヤってから目を覚ましてやる。
推しのVTuber相手にナニエロい事考えてんだと言われるかも知れないが、夢ではこうして目の前に生身の状態でいるんだから俺はイク!
「もー、なに言ってるんですかぁ。ここはワンユウさんが探してくれた温泉旅館じゃないですか。自然に囲まれていて空気が美味しいです。それに旅館のすぐ近くに小さな川が流れていてお魚が泳いでいましたよ」
「なるほど」
どうやらこの旅館は俺が予約した設定らしい。当然の事ながら俺には全くそんな事をした記憶が無いのでいかんともしがたい。
とにかく、この部屋の状況をざっと見ておこう。
おもむろに立ち上がって室内の確認に向かう。
温泉旅館の客室として馴染み深い和室の部分をメインに据え洗面所やトイレ、冷蔵庫、貴重品用ボックス、アメニティグッズ等がある。夢だというのに中々設定が細かい。
「……寝る時は布団を敷いて寝るのかな?」
「違いますよ。寝室はさっき私が出てきた場所の奥にありますよ。一緒に見に……行きます?」
何やらガブリエールが頬を赤く染めながら言ってくる。寝室は一体どんな風になっているんだ?
窓側に行くと奥の方に続く通路があって、その先に寝室があるらしい。ガブリエールと一緒に入るとそこにあったのは綺麗にシーツが整えられたダブルベッドだった。
ベッドの頭側にはボックスティッシュが置いてあり如何にもな雰囲気を醸し出している。
「この寝室の照明凄いんですよ!」
ガブリエールがウキウキしながら照明のスイッチを押していくと寝室の照明が青、紫、赤、ピンク、黄色と様々な色に変化し部屋が照明の色に染まる。
「なん……だ、この機能は……!」
「照明の色が変わるだけで変な雰囲気になっちゃいますね」
そんな事を口走るガブリエールの表情は妙に艶っぽく、絶対に頭の中でいかがわしい事を妄想しているに違いない。
と言うか、いかがわしい事を考えてしまうのは俺も同じだ。こんなラブホみたいな照明は普通の旅館にないだろう。
これは俺の夢だから俺が無意識にこんなこと考えてたんだろうか、自分の妄想力が怖い。
「な、なるほどね。寝室はこんな感じかぁ。それじゃ、早速お風呂に入りに行こうよ」
「お風呂に入りに行く……ですか? 大浴場に行くんですか?」
「そうだけど、それ以外にお風呂があるの?」
何を言っているんだろうと思っているとガブリエールが俺についてくる様に促す。彼女の後に続くと室内の浴室の方へと向かっていた。
温泉旅館の室内浴室となれば大抵は簡素な作りであまり利用する機会はないと思うのだが……。
「私は今回大浴場に行かなくても良いかなと思ってます。だってここは露天風呂付きのお部屋ですから」
「……へ?」
浴室に続く扉を開けると岩風呂があった。大浴場のような大きな浴槽ではないが大人二人なら余裕で一緒に入浴可能だ。
なんてこった。俺はてっきりこの後は大浴場に混浴の露天風呂があってそこでガブリエールと鉢合わせして微妙な距離でてえてえする流れになるのかと思っていた。
「ふふふ、このお風呂の大きさなら二人で一緒に入れますね。ワンユウさんが露天風呂付きのお部屋を探してくれたのに忘れちゃったんですか?」
「室内露天風呂は俺の意志なのか!!」
まさか完全プライベート空間による岩風呂入浴シチュが用意されてるとは思わなかった。これだと微妙な距離じゃなくてほとんどゼロ距離で一緒に入浴するハメになる。
あ、いや待てよ。こう言う場合はあれだ。結局別々にお風呂に入る展開になるんだきっと。そうなるに間違いな――。
「それじゃ早速一緒にお風呂に入りましょ、ワンユウさん。源泉掛け流しですからきっと……凄く気持ち良くなりますよ」
この状況……絶対に途中で邪魔が入らないパターンじゃね? 部屋の風呂だから他の客が入ってきて隠れているうちにのぼせて強制終了とかあり得ないだろ。
それにガブリエールの目がヤる気になっている。これは温泉に浸かってぬくぬくしようとする人の目じゃない。これは獲物を前にした狩人の目だ。
この温泉回の雰囲気は少年漫画とかアニメ放送にありがちなパターンのものじゃない。
どっちかって言うと18禁作品系の確実にナニか起きるパターンのやつだこれ! ここからどうするのかちゃんと考えられているのだろうか?
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