第52配信 幾久しく④

 陽菜の手を引いて浴室に到着すると着ていた服を乾燥機能付き洗濯機に入れて洗い始める。洗濯機がゴウンゴウンと音を立てて動き出す中、俺たちはシャワーを浴び始めた。

 当然のことながらこれは夢ではないので謎の光の出番はない。シャワーにより発生する湯気も身体を隠すほど濃くはない。俺たちは衣類を一切纏っていないありのままの姿を互いの前に晒け出した。

 俺は表面上は平静を装ってはいるが、陽菜の裸を見て早々に理性が吹き飛びかけている。非常にヤバい。


「あ……ワンユウさん。その……」


 陽菜の熱い視線が俺の下半身に向けられている。くっ……そいつは嘘をつけない正直者だった。今は取りあえず正直者は放っておいて全身を洗うことに集中しよう。

 病み上がりの陽菜を椅子に座らせると各々髪と身体を洗い始める。勢いでここまで来たはいいがノープランなので取りあえず黙々と身体を洗っていく。

 エロ漫画だとシャワー中にいかがわしい行為をやったりするが、ずっとシャワーを浴び続けると体温が上がり過ぎて身体に良くないし、滑って転んだら危ないので特に何もせず浴室から出て身体を拭いてバスタオルを巻いて寝室に戻ってきた。


 陽菜が困惑した表情をしているのが横目に見える。ごめん、俺も困惑している。何てこった。「それじゃ行こう」とか偉そうなことを言っておきながら何もせずに戻って来ちゃったよ。


「シャワーを浴びてさっぱりしましたね」


「……そうだね。それと何かごめんね」


「どうして謝るんですか?」


「何と言うかその……期待させるような事を言っておいて、いざとなったら日和ってしまいました」


 正直に謝ると陽菜は声を出して笑う。昨夜あれだけ弱っていたとは思えないほど元気になっている。

 それに彼女がガブリエールだと気が付かなかった頃は大人しいイメージが強かったのでこんな風に明るく笑うとは思っていなかった。

 この天真爛漫な感じを見て改めて太陽とガブリエールなのだと実感する。


「ふふふ、普段のワンユウさんが弱腰なことなんてお見通しですよ。でも、そんなワンユウさんが本気でやると決めた時の行動力は凄いことも知ってますよ」


「そんなに行動力あるかな? 今だってガブの方がずっと率先して動いてるじゃないか」


「私が太陽を卒業する時の最後の配信、ワンユウさんが合いの手コメントを提案して動いてくれていたって話を聞きました。それに太陽のぬいぐるみが欲しいって粘ってたのワンユウさんですよ、覚えてます?」


「そんなに駄々っ子みたいだったかな? いや、まあ確かに太陽のグッズが無かったから何かしら欲しかったんだよ」


 ふいに陽菜の手と俺の手が触れ合うと先日の夢の件もあってか咄嗟に手を絡め合う。すると陽菜が驚いたように俺の顔を見た。


「今の手の絡め方……凄く自然でしたね。もしかしてワンユウさん、本当は経験あったりするんですか?」


「それはまあ温泉の夢でずっとこうしていたから……あ」


 俺が温泉と口走った瞬間、陽菜の顔が真っ赤に染まる。やっぱり陽菜も同じ夢を見ていたみたいだな。この反応を見て改めて確信した。


「な……え……? あれってワンユウさんも同じ夢を見てたんですか!? え、何で……ええええええ!?」


「驚くのも無理はないと思うけど、落ち着いて。信じられないかも知れないけど実際そうみたいだから受け入れるしかない」


「どうしてワンユウさんはそんなに冷静なんですかっ!?」


 動揺する彼女を何とかなだめると何かに気が付いた様子で俺を食い入るように見つめてくる。


「それじゃあ、あの夢で私を押し倒してずっとキスをしていたのはワンユウさん本人だったんですか?」


「押し倒したと言うかガブが浴衣の裾を踏んで倒れそうになったんでしょ。それを俺がこう、受け止めてその流れで……」


「それを知っていると言う事は間違いないですね。どうしてそんな大事なこと今まで話してくれなかったんですか? ずるいですよ」


「ずるいと言われても話すタイミングなんてなかっただろ。配信で言う訳にもいかないし、昨晩は熱出してたし……」


 弁明していると陽菜が非難の目で俺を見ているのに気が付く。本人は多少怒っているみたいだが、それが可愛くてあの夢の感覚が甦ってくる。

 そして見つめ合っているうちに互いに顔を近づけて自然とキスをしていた。


「あむ……うぅん……この感じ、あの夢の時と同じ。本当にワンユウさんだったんですね」


「だから何度もそう言ったでしょ」


 陽菜をベッドに押し倒してあの時と同じポジションで唇を重ねる。片手は恋人つなぎをしてもう片方はベッドに手をついて体重をかけないようにする。

 夢の続きをなぞるように絡み合うキスをして呼吸を整えるために一旦唇を離す。


「ふぅ……はぁ……私、卑しい女なんです。一年前はワンユウさんの生コメントを貰ってあんなに浮かれていたのにすぐにそれだけじゃ満足出来なくなって、ずっとワンユウさんの声を聞きたい、会話をしたいって思うようになっていました」


「……」


「そしてこの家に引っ越して来て犬飼さんに出逢いました。私が困っているところに手を差し伸べてくれて優しくしてくれて……気が付いたら好意を抱くようになっていました。私にはそんなチョロい部分があるんだって自覚したんです。犬飼さんがワンユウさんだったから良かったけど、そうでなかったら……だから、ワンユウさんが欲しいんです。会話をして触れられてキスをして、そしたらもっとあなたが欲しくなってしまったんです。もう他の人を見る余裕なんて無いぐらいに私の中をワンユウさんでメチャクチャにして満たして欲しいんです。だからお願いします、ワンユウさん……ください」


「……分かった。そこまで言われたら俺も止まれない。今日ここで最後までするから」


 陽菜はこくんと頷いて嬉しそうに微笑む。そんな彼女の笑みは綺麗で艶やかで俺の心をかき乱す。

 彼女の身体に巻かれていたバスタオルを取り払うと白磁の肌が全て露わになって大きな山が二つ大きく揺れる。

 俺は本能が暴走しないように理性を留めつつ彼女を抱いた。


 陽菜は初めてで一瞬苦悶の表情を浮かべるも「大丈夫」と言って俺を安心させようとする。その瞬間、俺はこの先何があっても彼女を守っていこうと決心した。


 一緒に蕩けていくような極上の快楽が俺たち二人を満たし全てが終わった後、俺も陽菜も荒い呼吸をしながらベッドに横たわり手を絡ませる。その優しい感触が心地よくて嬉しくて怖いほどに幸せだった。

 もし犬飼が俺でなかったら、そいつが俺の代わりに陽菜もこの幸福も享受していたと思うと自分の中にドス黒い感情が芽生えるのを自覚した。

 そんな感情を抱いてしまうほど、俺は目の前で微笑んでいる女性に徹底的に沼ってしまったんだ。多分もう二度と浮上出来ないほどに深く……。今はそれがただただ心地よく感じる。


「これからもよろしくな、陽菜」


「はい。幾久しくあなたの側に……優さん」




                                      

                                  ―fin―







 とまあ、当初はこんな風に完結するはずだったんですが、作者が陽菜→犬飼への好感度を爆上げしてしまった影響で色々すっ飛ばして互いがワンユウとガブリエールだと発覚して結ばれました。

 ……あれ? 最初はコメディ要素多めのラブコメを書いていたつもりなのに、いつの間にかエロ要素多めのラブコメになって……あれ、おかしいなぁ? ま、いっか。 

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