第2章 変態VTuber集団ぶいなろっ!!

第53配信 ワンユウとキャニオン①

 俺と陽菜が付き合うようになって数日が経過していた。

 彼女の体調は完全に回復し二年目最初の配信ではガブリスが心配する中、本人はこれまでよりも活力みなぎる姿を見せていた。


 今日も配信を終えた陽菜は俺の部屋に来てまったりしている。


「今日のゲーム配信はどうでした?」


「凄い面白かったよ。明日は続きをするんだよね?」


「はい! かなり内容にボリュームのあるゲームなので数回にわたって配信すると思います。――ところで優さん、例の話なんですけど……」


 付き合い始めてから、こうしてリアルで会っている時はお互いに本名で呼び合うようにしている。配信中は今まで通りガブリエールとワンユウ呼びなのでリアルの時と間違えないように注意が必要だ。


「俺たち二人が付き合いを始めたっていう報告だよね。長引かせるのも良くないから近日中にはやりたいね」


「明日、社長に直接報告してきます。それから報告配信の枠を取ろうと思っています」


「分かった。ごめんな、全部陽菜に任せちゃって」


「これは私の問題ですから自分でやりたいんです。それに私がワンユウさんを見つけてこういう状況になることは織り込み済みだったので、準備は出来ていましたから」


「頼もしい……」


 やはり陽菜の行動力は凄い。初志貫徹という言葉は彼女の為にあるのだとつくづく思う。


 翌日、陽菜からファイプロの社長に俺たちの件を報告したと連絡があった。それから話し合いをしてガブリエールの配信で俺との件を報告するという事も決定した。

 重要告知という案件なのでメンバー限定配信枠で発表する事になった。それから数日が経過しくだんの配信がある朝、俺の部屋のインターホンが鳴った。


「……ん? 何か配達なんてあったっけ?」


 インターホンのモニターを確認すると信じられないものが映っていた。

 サングラスを掛けスーツを着た小麦肌の巨大な男。服を着ていても分かるほど凄い筋肉をしている。

 多分これは人間ではない。きっと未来から俺をターミネートしに来たサイボーグだ。そうでなければこのような存在が俺の家を訪れる訳がない。


「……居留守を使おう」


 恐怖に駆られた俺は要件を訊くこともなく居ないふりをする事にした。この部屋の住人が不在だと分かれば諦めて帰るだろう。

 現実逃避をするようにぶいなろっ!!の切り抜き動画を観始め、十分ほどして再びインターホンのモニターをオンにしてみる。


「ひぃっ!?」


 小麦肌の巨漢はまだそこに居た。玄関のモニター用カメラをのぞき込むようにしていて顔がどアップになっている。


「どどどどどどどどうしよう。やっぱりこいつは本物だ。本気で俺を殺りにきたサイボーグだ。きっと俺を抹殺するまで帰らない気だ。警察……そうだ警察を呼んで……でも、こんなの相手にポリスメンで何とかなるのか?」


 どう対処すべきか悩んでいると外から男性の声が聞こえてきた。


『犬飼さーーーン、お届け物でーーーース!』


 嘘だっ!! だって明らかに配達員の格好してないもの! どっちかって言うと地球に住んでいるエイリアンを管理する秘密組織の一員みたいな外見してるもの!

 マジでどうしよう。こんな人がずっと俺んちの玄関先に居たら同じマンションの人に迷惑がかかるし、俺も危険な奴と思われてしまうかも知れない。

 かと言って正面から挑んだらターミネートされるか捕獲される。こうなったら最後の手段だ。インターホンの通話ボタンを押して交渉を開始する。


「あの……」


『アア、やっぱりいたんですネ。注文されたエロゲー百作品、お持ちしましター!』


「そんなの注文してませんよ、人違いです! ってかエロゲー百本って、どんだけ!?」


『それじゃあ、アダルトブルーレイ千本でいいヤ』


「増えてるじゃないか! それに俺はダウンロード派です」


『ハハハ! なるほど、データだったら彼女さんに見つかりにくいですもんネ!』


「大きなお世話だよ! とにかく人違いですから帰って下さい。近所迷惑ですよ!!」


『いいえ、間違ってはいないわヨ――ワンユウチャン』


「――っ!? 何でその名を……?」


『大事な話なのデ、出来ればお部屋の中でお願いしたいのダケレド……オーケー?』


 この人は明らかに俺の事を知っている。しかも確信を持ってワンユウだと言った。つまりこの人は――。

 玄関の扉を開けて直接対面すると本当に身体が大きい人物だった。多分二メートルぐらいはあるんじゃないだろうか?


「……ぶいなろっ!!の関係者の方ですね?」


「オフコース! 会いたかったわよン、ワンユウチャン」




 室内に通すとテーブル越しに向かい合う形で椅子に座る。最初は危険な人かと思ったが、所作の一つ一つが丁寧で礼儀正しい人物だった。


「済みません、何せ男の一人暮らしで来客もないのでペットボトルのお茶しかなくて」


「いいえ、ノープロブレム。むしろアポも取っていないのに、突然押しかけちゃってソーソーリー。それとこちらをドウゾ」


 お茶とお菓子を出すとお土産と言って包装紙に包まれた箱を手渡してくれる。何だろうと訝しんでいると開けてみてと言っている。


 包装紙を解いて箱を開けてみると、中にはぶいなろっ!!メンバーのアクリルスタンドが収められていた。それも俺が知っているタイプの物では無い。これは一体――?


「それはウチの子たちの未発売のアクスタヨ。全員分あるから飾ってあげてネ」


「発売前の!? あ、ありがとうございます。……んっ? アクスタに何か書いて……これ、もしかしてサイン入り!?」


 アクリルスタンドを幾つか手に取って見ると全てのメンバーにサインが書かれている。

 メンバー一人分のサイン入りだけでも入手困難なのに全員分あるなんて、こんなのファンからしたら喉から手が出るほど欲しいに決まってる。

 いや、そもそも全員分のサイン入りアクスタを手に入れようなんて発想自体思いつかないだろう。


「今、「ウチの子」って言いましたよね。もしかしてあなたは……」


「そうネ、多分あなたの予想通りだと思うわヨ。――アタシは株式会社ファイナルプロジェクトの社長を務めている峡谷雅也と言いまス。皆からはキャニオンの愛称で呼ばれているから、同じように呼んでくれると嬉しいワ」


 キャニオン社長から名刺を手渡され両手で受け取り、俺も自分の名刺を震える手で渡した。ファイプロはぶいなろっ!!を運営している会社でもあり、小説投稿サイトの小説家になろうよも運営している。

 俺からしてみれば自分の趣味を全部受け持ってくれている会社だ。しかも今目の前にいるのはその会社の社長、緊張しない訳がない。


 そして今日ここに来た理由もハッキリしている。俺がガブリエール――陽菜と交際を始め、今日配信でその報告をするから俺がどんな人間なのか見定めに来たんだ。


「キャニオン社長、名乗るのが遅れて申し訳ありません。私は犬飼優と言います。既にご存じと思われますが、配信の場ではユーザーネームワンユウでコメントを打たせていただいています。そして数日前からぶいなろっ!!メンバーの一人であるガブリエールさん……太田陽菜さんとお付き合いをさせていただいています」


「勿論、知ってるワ」


「本日はその件で私のもとを訪れたという事でよろしいでしょうか?」


「そうねぇ、それも含めテ……と言う方が正しいかしラ。今回の陽菜ちゃんとのお付き合いの件が無くても、ここを訪れる気だったから……ネ」


 それってつまり、どの道俺がワンユウだと知られていたと言う事だよな? それにしても陽菜と付き合う以外で俺に用事なんてあるのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る