第42配信 夢で逢えたら 温泉編④

「ふふふ、楽しいですねぇ。……ワンユウさんは楽しい……ですか?」


 ガブリエールの口調が元に戻っていることに気が付いた。まだ酔ってはいるみたいだけど、よく見ると彼女の手が微かに震えているのが目に入る。


「ガブ……どうした? 気分でも悪くなった?」


 ガブリエールは首を横に振り体調不良を否定する。気分が悪いわけではないので安堵するもそれなら原因はなんなのだろう?


「ワンユウさんは私のこと……どう思っていますか?」


「……え?」


「私はワンユウさんが大好きです。知り合ってからずっと配信で側に居てくれて、気が付いたらもう好きになってました。だけどワンユウさんはどうなんだろうってずっと思ってて。私が一方的に好意を寄せているのを迷惑に思ってるんじゃないかって……」


「そんな事を考えていたのか……」


 そう言えば配信中はいつもガブリエールや他のリスナーの暴走をいさめるのに夢中で俺の本心をちゃんと口にした事は無かったかも知れない。大勢のリスナーが視聴している中で言う訳にもいかないが……。

 そのせいでまさかガブリエールが不安がっているなんて思ってもみなかった。

 

 何かもうここまで来たら目の前に居るガブリエールが夢だろうが本物だろうが気にしない。

 例え目の前に居るガブリエールが夢の産物であったとしても俺の本心を伝えてみたいと思った。そうすることで本物の彼女に俺の想いが届く気がした。


「あのさ、ガブリエール。よーく考えてみ。迷惑に思ってるライバーの配信を毎回のように視聴する訳ないだろ。――好きだから、大好きだから、会いたいから、君の声を聞きたくて笑顔を見たいからに決まってるじゃないか。こんな恥ずかしい事をいちリスナーが配信中に告白出来る訳ないだろ。だから、ここでちゃんと覚えておいて欲しい」


「は……はい! ワンユウさんは私が好き……なんですよね? ライクじゃなくてラブの方で良いんですよね!?」


「そうだよ。ライクじゃなくてラブ。君の配信を初めて観た時からずっと……この四年間ずっと君に夢中なんだ。だから君の好意を迷惑だなんて思ったことは一度も無いよ」


 俺のありのままの想いを伝えるとガブリエールの表情がぱあっと明るくなる。

 そして彼女が立ち上がろうとすると浴衣の裾を踏んでいた為バランスを崩して後ろに倒れそうになる。


「キャッ!」


「ガブッ!」


 慌てて片手を彼女の腰に回し、もう片方の手を床について転倒を防いだ。ガブリエールの安否を確認しようと目を開けると彼女の顔が俺の顔のすぐ目の前にあった。

 

「ごめんなさい。私ったら本当にドジで――」


 それは一瞬だった。ガブリエールの不意を突いた一瞬の出来事。俺は無意識に自分の唇を彼女の唇に重ねていた。温かくてふわりと柔らかな感触がする。


「ん……んぅ……」


 重ねた唇の間からガブリエールの吐息の様な声が漏れ出ると俺は自分が何をしたのか理解しそっと唇を離す。


「ご、ごめん。いきなりで……」


「……ワンユウさん、もう一度キス……してくれますか?」


 ガブリエールは目を潤ませ頬を赤く染めてお代わりを要求してくる。それに対し俺は行動で自分の気持ちを示す。

 再び口づけをするとガブリエールは俺の背中に手を回して身体を密着させてくる。数秒間そのままでいたが息が苦しくなってきたので離すとお互い呼吸が少し荒かった。


「はぁ……はぁ……んっ、今度はBAN……されませんね」


「そう言えばそうだな。服を着たままのキスなら問題ないのかな。この夢のセンシティブ基準は良く分からないや。でも――」


「でも、キスがBANされないのなら……ワンユウさん、私もう一度キスして欲しいです。ダメで――」


 ガブリエールが言い終わる前に唇で唇を塞いだ。お互いにさっきよりも少し強く長い時間唇を重ねる。


「っぷはぁ……はぁ……はぁ……もう一回……」


 その後もガブリエールの「もう一回」は何度も続いた。キスをする度にその行為は激しくなっていく。

 最初、唇を重ねるだけだったソレはやがてその奥の粘膜さえも絡ませるようになり、それでもこの夢が強制終了しないと分かると俺もガブリエールも深く繋がるキスに没頭した。

 深くキスをする度に身体に電気が走るような刺激を覚え、その余りの快感に理性がドロドロに溶けて頭の中がバカになっていく感じがする。


 ただ、それでも互いに遵守じゅんしゅしたのは、この行為はキスまでと言うこと。多分、それ以上をやろうとするとこの逢瀬は終わってしまう。それを無意識に確信していた。

 だから、この四年間つのらせた想いを伝えられるこの瞬間を一分でも一秒でも長く続けたくて呼吸することも忘れてキスにのめり込む。

 息が苦しくなったら唇を離して酸素を取り込み、呼吸が整ってきたら再び長い口づけに没頭する。これを何度も繰り返していった。


「ぷはぁ……はぁ……はぁ……ふぅ……もう一回……」


「ガブ、もうそれ言わなくて良いから」


「ふぇ……?」


「この夢から覚めるまでずっとやるから……覚悟しろよ」


「ふぁい! よろしくお願いしま……んくぅ」


 俺の下にいるガブリエールに体重を掛けないように片手と膝をついて少し身体を浮かせ、もう片方の手はガブリエールの手と絡ませる。

 思考も口内の粘膜も溶けて一つになったみたいにグチャグチャで、この深いキスに堕ちていく彼女の口端からは唾液が垂れている。

 口の周りがベチャベチャになっているが、そんな粗相に構うこと無く夢から覚めるその瞬間まで獣のように唇をむさぼり合う。


「ワンユウさん、ぢゅちゅ……ワンユウさん……好き……ぢゅるるるる……大好き……」


「ガブ……はぁ……好きだ……ガブ……」


 俺が彼女と配信の海の中で出逢ってから約四年――その間に色んな変化があった。 

 当時学生だった俺は社会人になり、太陽として活動していた彼女はガブリエールに転生して以前にも増して意欲的に配信をしている。

 その中にあって変わらないものもあった。ガブリエールはずっと俺に好意を持ってくれている。それは彼女の行動を見ていれば明らかな事だった。

 そして俺もまた太陽を……ガブリエールを心底好きでいたのだとハッキリ自覚した。この夢の中で、俺たち二人以外が存在しない場所で俺はどれだけ彼女が好きだったのか自覚し自分の欲望を露わにした。


「これが夢でも……ぢゅるるるるる……幻だったしても……ぢゅりゅりゅ……ワンユウさんに求められているのが……んんん……凄く嬉しいれす……」


「え……夢……?」


 キスに夢中になり呆けた頭で彼女の言葉の意味を考える。

 ガブリエール自身はこれを夢だと認識してるのか? だとしたら……もしかしたら……この夢は……俺たちの……!


「ガブ……むぐぅ!」


「ワンユウさん……んむぅ……ワンユウひゃん……ぢゅちゅ……ワンユウ……ぢゅる……ぢゅりゅりゅりゅ……ワン……ユウ……」


 ガブリエールは自分から積極的にキスを求めて俺の唇を塞いでくる。その心地よさを優先して俺は脳裏をよぎった可能性を確かめることを忘れていった。

 いつか……いつか……いつの日か……本当の君に逢ってこの想いを伝えたい。そう決心し、ふと気が付くと俺は自分の部屋の天井をぼうっと見つめていた。


「夢から……覚めたのか……」


 身体が気怠い。寝ている時に思い切り身体を動かす夢を見たりすると覚醒した時にこんな感じになる。

 以前見たガブリエールの夢では中途半端な感じで起きたので後悔の念が凄かったが、今回は身体は疲れていても気分は晴れやかだった。

 俺のガブリエールに対する想いはちゃんと整理がついた。この想いをどうやって彼女に伝えようとかはまだ考えていないけれど、それは追々考えていこう。

 



 ――何だか物語のクライマックスが近いような雰囲気出してるけど、まだこれ割と序盤だったりするんだよね。ゲーム配信とかまだ本格的にやってないし、他のぶいなろっ!!ライバーは出る出る詐欺状態だし、ストーリーのテンポが悪いけど生暖かい目で見守ってくれたら幸いです。

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