第103配信 古参闇堕ちシロップの正体

 乱れ牡丹先生の同人誌が完売しそれぞれ健闘をたたえ合っているとメープルが陽菜とルナにお礼を言っていた。


「陽菜お姉様、月お姉様、あたしのコスプレ衣装を着て頂いてありがとうございました。お二人のお陰で凄く楽しいイベントになりました」


「いえいえ、とても貴重な体験が出来て私も楽しかったです。ありがとうございます、メープルちゃん」


「コスプレには前々から興味はあったけどまさか自分がコスプレ衣装を着られるとは思ってもいなかったわ。ありがとう」


「あっふぁ! あたしが作ったコスプレ衣装を着た美女二人が優しくしてくれてりゅう。はぁー、はぁー、幸せぇ……」


 ガブリエールコスの陽菜とルーシーコスの月に挟まれて今にも昇天しそうな相良メープル十七歳。限界オタク化した彼女は見るからにヤバい人になっていた。


「相良さん、あの子マジでもう普通の生き方出来ないよ」


「犬飼さん、そんな事は既に本人もあたしも承知の上ですよ。メイはあたしが責任を持って導いていくつもりです」


「……一応訊きますけど、具体的にはどうするんですか?」


「社長に土下座してぶいなろっ!!事務所になにかしらの形で就職させてもらい、そこで手腕を振るって貰います!」


「ナチュラルに恐ろしい事を企んでるな、あんたは!」


 こうして俺たちの夏コミはダブル相良によって思いがけない経験をして終わった。 

 相良メープル……叔母に負けず劣らずクセの強い人物だったがもう会う事はあるまい。




 後日、ルーシーのメン限雑談配信にて――。


『この間、夏コミに行って来たんだよー。初めてコミケに参加したんだケド、人が沢山いてビックリしちゃった!』



コメント

:ルーシー、コミケ行ったの!?

:オレも夏コミに行ったんだけど、もしかしたらルーシーとすれ違っていたかも知れないって事かぁ。感慨深い……

:ここで言うのもアレだけど、今回のコミケもぶいなろっ!!本がめっちゃあって沢山購入したでござる

:夏コミですんごくエロいルーシー本を購入しました

:貴様ァ~、ルーシーの前で何てこと言うんだ! それもしかしてワンユウ総帥みたいな人に調きょ、ゲフンゲフン! ……教育されるヤツ? 買った買った、あれはとても良いものだ

:その同人誌、俺も夏コミで買ったよ。やたら熱意のある男性の売り子さんが居てさ、思わず共感して買ったらこれがもう大当たり! 今度あのサークルの新刊出たらまた買うわ

:そのサークルってガブちゃんの本も出してたよね。そっちも内容凄かったぞ。しかも絵が上手いんだよ。あの作者さん、ライバーの解釈一致過ぎてマジリスペクトするわ~

:そこってさ、途中でガブちゃんとルーシーのコスプレイヤーさんが売り子してたよね。二人共美人でおまけにナイスバディで話題になってたよ。写真撮影はしてなかったのが残念だったなぁ



 これはマズい。夏コミに行っていた人が割と結構居る。あの時のガブとルーシーのコスプレイヤーが本人だと知ったらとんでもない状況になる事は必至。

 その男性の売り子って多分俺の事だよな。下手にコメント打って身バレしたら元も子もないからここは大人しくしていよう。

 ルーシーも多少動揺しているみたいだけど過剰反応したら身バレの恐れがある。ここは無難にスルーして……。


『ルーもその売り子さん達見たよー。二人共可愛くておっぱいおっきかったよね』


 ルーシー……おま、お前何考えてんだ? 何故にその話題に触れた? しかもさりげなく自画自賛……もしかして、このスリルを楽しんでる? いや、まさかそんな……幾らメスガキでもそんな無謀なこと……。


『実はルーもそこの同人誌を購入していたりして。ルーもガブも凄いエッチな目に遭ってて驚いちゃった! アハハハハハハハハ!!』


 ダメだコイツ!! 最近大人しかったから忘れていたがルーシーはこんな性格だった。確実に身バレのスリルを楽しんでいる。

 この堕天使はどうやら生まれる際に恐怖という感情を母親の胎内に忘れてきたらしい。この雑談配信……果たして無事に終わるのだろうか?

 この綱渡りな状況にドキドキしているとコメント欄が白熱する。ヤツだ……ヤツが本気を出してきた。



コメント

シロップ:本当にあのガブコスとルーコスの二人最高だったよね。一目見た瞬間、感動で身体が震えたわ。鼻血も大量に出て貧血になっちった

:そう言えばシロップはコミケ常連だったな。例のコスプレイヤーを見たのか。裏山

:シロップがそこまで絶賛するなんて珍しいな。いつもは割と辛口評価なのに

シロップ:今でも目を閉じると思い出すよ。美人だったなぁ……ハァ……ハァ……

:シロップがヤバいぞwww

:こいつ、発情してやがるwww

:いいぞ、もっとやりたまえシロップ君!

シロップ:アぁーーーーーーー!! 何であの時写真撮影お願いしなかったかなぁぁぁぁぁぁ!! 土下座でも何でもして数枚だけでも写真撮らせて貰えば良かったよぉぉぉぉぉ!! アァァァァァッァァァァァァァァッァァァァァァァア!!! シロップ人生最大の後悔!!

:メチャクチャ荒ぶってて草

:シロップは我々闇堕ちの中でもトップクラスのオタクだからな。オタ活を完遂出来なかった自分を許せないのだろう

:さすが闇堕ちのかがみ。殿堂入りのワンユウ総帥を除いてザ・ベスト闇堕ちの称号を欲しいままにしている逸材だな

ワンユウ:ザ・ベスト闇堕ちって何なのさ。そんな称号初めて聞いたよ

シロップ:ザ・ベスト闇堕ちはルーシーの一番の下僕って意味ですよ、総帥。総帥はアレでしょ? 毎日ルーシーにザコザコ言われて興奮してるんでしょ? 裏山過ぎる、シロップも毎日言われたいなり

:シロップ氏、今日はいつにも増してシロップしてるなぁw

ワンユウ:言われてねーよ!! 俺はMじゃないからね。虐げられて興奮しないからね。しかし、シロップがそこまで入れ込むなんて本当に珍しいね



 場の雰囲気に流されてついコメントを打ってしまった。こうなったら無難にやり過ごそ。


『アハハハハハ!! シロップ君は、そのコスプレイヤーさん達が本当に気に入ったんだね。でも、複雑だなー。シロップ君はぁ、ルーとルーコスの人どっちの方が好みなのかな? 知りたいなぁ』


 ルーシーは無難スルーどころかシロップを焚き付ける。どうしようもないんですけど、このメスガキ。その答え、どっちみち君の事でしょうよ。



コメント

シロップ:両方!!!

:シロップが返答コメント打つまで一秒掛からなかったんだけどw これが思考と反射の融合というヤツか

:シロップは強化人間だったらしい

:両方とは欲張りめ~w

シロップ:こちとら現役の高校生だかんね。反射速度が違うのよ

:ハイハイ、高校生乙。お前のような限界オタな高校生がいてたまるかwww

:仮に高校生だったとしても俺と同じ様な男だろう。俺がどんな男かは教えたげない

シロップ:折角のルーシーのメン限だし、少しシロップの事について語ろうか?

:ルーシーのメン限で何故にシロップ氏の事を教えて貰わないといけないのさ。語りたまえ

:興味津々で草



『ルーもシロップ君について興味あるなぁ。でも身バレとかあるから程々にねー』


 ルーシーのメン限雑談は結構フリーダムだけど今日は特に自由味が強いな。

 シロップは古参のルーリスで普段のオタク発言の内容から察するに俺よりも年上っぽいから高校生というのはネタだろうな。



コメント

シロップ:シロップは現役の女子高生やで。ちなみに二年生

:ウソを吐くなーーーーーーーーーーーーーー!!

:カンッ! カンッ! 現役女子高生偽証の罪で千年の禁固刑に処す!!

:自分を高校生だと偽るのには目を瞑ってきたが、女子と嘘を吐くのは度し難い!!

:それが真実だと言うのなら片手で目元を隠した制服姿の自撮り画像を送りたまえ

:それだといかがわしいお店の嬢の紹介になっちゃうよwww

シロップ:ホントホント、リアルセブンティーンだよ

:リアル……セブンティーンだと!?

:何てパワーワードだ……


 

 リアルセブンティーンと聞いてある人物を思い出す。香澄さんの姪っ子、相良メープル……まさかな。シロップと言ったらメープル……まさかな。

 ルーシーの様子を見ると俺と同じ事を思ってか表情がぎこちない。闇堕ち古参のシロップの今までの言動を思い出すと現役女子高生だなんて想像すらしなかったからなぁ。



コメント

シロップ:予想はしていたけど誰も信じてないみたいだね。この間の夏コミでも同人誌の売り子してたし、さっき話題に出たルーコスとガブコスのコスチュームもシロップが作ったんだよ

:それはつまりシロップがあの二名のコスプレイヤーさんのうちの一人だったって事? あのナイスバディー美女が? 

:あの色気は女子高生には出せないハズだ。ダウト!!

:危うく騙されるところだったぜ

:冷静に考えてみろ。推しライバーのメン限で俺たちと一緒にコメントで騒ぎまくり、オタクに理解があり、コスプレ衣装を自作し、おまけに現役の女子高生などという『俺たちが考えた理想の女子』みたいな存在がこの世にいる訳ないだろ! あ、目から何か熱いものが出てきた……

:エンディングまで泣くんじゃない!

:居たら女神として崇め奉られるレベルだぞ

シロップ:そんな大層な存在じゃないけどね。親族にたまたまエロ漫画が好きな人が居てその人の影響を受けて育ったからかな?

:まるでサターナ&ベルフェ姉妹みたいな境遇だな

:ちなみにその親族の性別は?

シロップ:女性だよ。シロップの叔母さん

:エロ漫画が好きな叔母に影響されてオタクに優しい女子高生になっただと? そんな奇跡を信じるほど俺たちはピュアじゃないぜ

:そうさ、オレ達は既に心が汚れきった大人になっちまったのさ

シロップ:言い忘れていたけど、あのコスプレイヤーさん二人はシロップがお願いして急遽コスプレをやって貰った一般参加者のお姉さん達だよ。すんごく優しくて綺麗だった。マジであの時写真撮影をお願いすれば良かったよぅ

:……何か冗談にしては妙に話が作り込まれているな

:まさかワンチャン真実だったりする?

:オレ……今から子供の頃の写真を引っ張り出してピュアとはナニか思い出してくるよ

:きっと君は昔の写真を見ても不純なままやで



 確定!! もうこれシロップはメープルで確定だよ。こいつのコメントから察するにシロップはリアルセブンティーンメープルで間違いない。

 嘘だろ? シロップのこれまでの言動はとても女子高生のそれではなかった。

 それどころか男と信じて疑わなかった。どうやら相良メープルの中身は三十代以上のオタクなおっさんらしい。


『へ……へぇ。メ……シロップちゃんは本当に女子高生みたいだね。ルーとしては闇堕ち君の中に女の子がいるのは凄く嬉しいな!』


 ルーシー危なっ! 今思わず「メープル」って言いそうになってたよ。こんなクセの強いリスナーが女子高生とは未だに信じがたいが事実なので受け入れるしかない。

 相良メープル……もう会う事は無いだろうと思っていたら既に随分前から知り合いになっていたらしい。相良香澄が育てあげた最終兵器は――危険極まりない。

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ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~ 河原 机宏 @tukuekawara

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