第69配信 太陽と月
◇
スラッシュ&マジックにおいてルーシーがブラックドラゴンをテイムした件は軽いニュースになった。その後、三期生の面々と一緒に冒険に出て魔物をテイムしまくった配信は同ゲームのビーストテイマー達に希望を与えたと話題になっていた。
それから数日が経過し、都内某所のぶいなろっ!!スタジオには3Dショート動画の撮影を終えた陽菜と月がいた。ライバー用の控え室には二人だけがいて隣り合って座っている。
「先日のスラッシュ&マジックの配信観たよ。強力な魔物いっぱいテイムしてたよね」
「三期生の先輩とブラックドラゴンが居たからね。ブラックドラゴンは戦闘も強いし空を飛んで移動も出来るからゲーム環境が変わったわ。絶対死なせないように気をつけてる」
「……そっかぁ。そうだね、ブラックドラゴン強いもんね」
「強いのもあるけど、あれはわたしが彼から貰った贈りものだと思ってるから。あの森でテイムするまでの冒険も含めてそうだって思ってるから」
「……」
月の迷いの無い雰囲気をヒシヒシと感じ陽菜は黙ってしまう。そんな陽菜の様子を見て月は苦笑した。
「わたしにワンユウ君をけしかけたのはガブでしょ。そんな事したらわたしがこうなるって全然想像しなかった訳じゃないでしょ? どうして彼をわたしのとこに寄越したの? そんな事しなければ、わたしは彼がこんなに近くに居るって気が付かなかった。彼の声を聞く事も無く、手が届かない存在だって考えてきっと諦めてた。それなのに頑張れば手が届くって知っちゃった。だったら、わたしは進むしかない。好きな人を手に入れられる可能性がゼロじゃないのならわたしは諦めない。わたしがそう言う女だってガブはよく知っていたハズよ」
「そうだね……うん、ルーちゃんの言う通りだよ。もしも運営さんの正体がワンユウさんだって気が付いたらルーちゃんは何が何でも手に入れようとする。それがルーちゃんなんだって分かってた。でも、それでもルーちゃんには元気になって貰いたかった。それに私だってワンユウさんが好きなのは同じ……ううん、ルーちゃんよりもずっと彼が好きなんだって思ってる」
「へぇ、凄い強気じゃん。でもガブがどんなにワンユウ君が好きでも、彼がガブ以外の人を好きになる可能性だって十分あるでしょ? そしたらどうするの?」
「そうはならないよ。だって私自信あるもの。私よりもワンユウさんを好きな人は居ないし、彼が一番好きなのは私だって思ってる。そういう関係を築くための努力はしてるつもりだよ。だからルーちゃんには負けない」
陽菜は月を真っ直ぐに見ながら視線を少しも外さずに言い切った。その意志の強さを前にして月はたじろぐ様子は無い。
「……言うようになったじゃん。強くなったね、ガブ。恋は人を強くするって言うけど、本当にあんたは強くなったよ。でもね、まだまだ考えが甘いね」
「どう言うこと?」
「恋愛には色んな形があるんだよ。これまで話した事はなかったけど、わたしは今回が初めての恋な訳じゃない。今まで何回か恋人ができた事もあるしセックスした事だって当然ある」
月の過去の恋愛話を聞いて陽菜は興味津々になる。姿勢を正しやや前のめりになっていると月は少し笑っていた。
「初めて付き合ったのは高校生の頃だったなぁ。高校に入ってからの友達だったんだけど、ある日わたしの部屋で一緒に遊んでたの。それでベッドでふざけてじゃれあってたら自然とその流れでね……。お互い初めてだったから印象深かったわ。エッチだったなぁ……」
「……ごくっ。青春だね」
「そうだね。今は何やってるんだろう? 元気にしてると良いなぁ――真奈美ちゃん」
「……え? 真奈美……ちゃん? え? え? 女の子?」
「そうだよ。今までわたしが付き合ってきたのは全員女の子。男性を好きになったのは今回が初。だから自分でもビックリしたよ。ああ、私ってレズじゃなくてバイだったんだって」
月の衝撃発言を聞いて陽菜は雷が落ちたような感覚に襲われていた。創作物では知っていたが実際に両刀遣いの人と会うのは初めてだった。
正確には知り合ってから一年以上が経過していたのだがそんな素振りは全然無かったので二重の衝撃であった。
「そ、そうだったんだ。ルーちゃん今まで女の子と……へぇ、凄いねぇ」
「そう? 同じ女だから自分がされて気持ち良い事を相手にもしてるだけよ。逆に男を相手にした事は無いから勉強中。まあ、何とかなるでしょ」
「ワンユウさんとやる気満々なの!? 行動力!!」
「わたしはヤると決めたらヤる女よ。今までの恋愛もそうだったからね。だからガブ、あんたもわたしの恋愛対象だからそこんところ忘れないでね」
「……はい?」
「六期生としてデビューする前から頑張ってるあんたの姿を見て、この子いいなぁって思ってたのよ。ガブはワンユウ君に対する想いが強いから落とすのは諦めていたし、わたし自身ワンユウ君にやられちゃってたから有耶無耶になってたけど。本当に変な一年だったわ。わたしの恋愛対象の二人がカップリング成立してんだから落ち込みもするわよ」
「あの落ち込みって私も原因の一つだったの!?」
「そうだよ。それなのにあんたが余計な事するからこんなに大変な事になっちゃったんだよ? 諦めかけてた恋愛対象の二人が同時に手に入るかもってラッキーにもほどがあるでしょ。もう後悔しても遅いからね、ガブ。ワンユウ君もあんたも二人同時にわたしのものにしちゃうから覚悟してよね。それと、今度あんたの家でオフコラボしよ。勿論、お泊まりでね。凄く楽しみにしてるから。それじゃ先に帰るね~」
「ルーちゃん、ちょ、ま……何か今までで一番良い笑顔見せて帰ってったーーーーーー!!」
月はこれまで見せたことの無い満面の笑みを陽菜に見せて部屋を後にした。
それは自分の性癖を思い人に告げたことによる開放感と諦めていた獲物二名を同時にゲットできるチャンスが巡ってきたからなのかも知れない。
衝撃の展開について行けず固まる陽菜。そして、この状況に固まっている人物がもう一人いた。
(あわわ……えらいこっちゃ。ワンユウさんとガブさんが早々にくっついて安心していたら、いつの間にかルーシーさんも合流してとんでもない状況に発展してた! こんな面白い流れに乗り遅れていたなんてこの相良香澄、一生の不覚!!)
ガブリエールのマネージャー相良香澄は控え室に隠れて場を和ませるために陽菜と月を驚かせようとしていたのだがタイミングを逸し出るに出られない状況に陥っていた。
しかし、その甲斐あって信じられないほど面白い情報が彼女の耳に入ってきた。
ワンユウ×ガブリエール×ルーシーの構図。
相良香澄――ペンネーム乱れ
今や乱れ牡丹の頭の中は三人の登場人物がメチャクチャになっているピンクなイメージが噴水のように湧き出ていた。
(か……描かなきゃ……このイメージを描いて投稿しないとあたし死んじゃう。この妄想を形にして出さないと妄想によって萌え尽きる。描く……描くぞ……メチャクチャエロい三人の3Pファンアートを描く!! ガブさんとルーシーさんの絡みをメインにして犬飼さんは竿役にでもすればいいか。それに今描いている夏コミ用の成人向け同人誌……すぐに加筆修正すれば間に合うか……? いや、間に合わせる!!)
犬飼、陽菜、月の状況が変化しようとする中、その裏では乱れ牡丹こと香澄による夏コミに向けた同人誌入稿締め切りとの戦いの火蓋が切られた。
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