ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第91配信 パリオカートぶいなろっ!!杯⑪
第91配信 パリオカートぶいなろっ!!杯⑪
ガブのフォーミュラパリオは弾丸の如く平地エリアに向かって飛んで行く。そこを五連ヘアピンを踏破したエルルの素パリオがゴール目指して走っていた。
『ニトロ終了まで五……四……三……二……』
『セシリー先輩、AI役ありがとうございました。掛け合い凄く楽しかったです』
『私も楽しかったデス。日頃ツッコミが激しいだけの相方とばかり仕事をしているので可愛い後輩と絡めて良かったデス。ガブリエール様、最後までレースを楽しんでクダサイ。それでは私は次の準備がありますノデ。また後で会いまショウ』
『はい、また後で!』
セシリーが居なくなって間もなくニトロが終了しフォーミュラパリオは警官パリオに戻った。
回転が止まった警官パリオは平地へリアに着地しゴールを目指して最後のストレートを疾走し始める。その前方にはエルルの素パリオが先行している。
『捉まえたっ!!』
『まさかあんな方法で五連ヘアピンをショートカットするなんて面白い事するね。本当に今回のレースは最初から最後までずっと楽しかったよ。それじゃ、後は――』
『はい! 後は――』
『『一対一のガチンコ勝負ッ!!』』
ゴールは目前、双方アイテムは無くマシンの純粋な最大スピードでストレートを駆けていく。性能差で徐々にガブがエルルに近づいていく。勝敗はこのままエルルが逃げ切るかガブが追いつくかの二択。
『あと……もう少しで……追いつける!』
『ゴールは間近……このまま逃げ切る!』
ぶいなろっ!!応援団とリスナーが固唾を呑んで見守る中、二人はほぼ同時にゴールした。
一位に輝いたのはエルルだった。ほんの僅かのタッチの差。コンマ数秒にも満たない一瞬の差によるものだった。
『勝利の栄冠を手にしたのはぶいなろっ!!のゲーマー・オブ・ザ・ゲーマーのエルル・アンバー選手! ガブリエール・ソレイユ選手は惜しくも僅差で二位! これはもの凄い激戦でしたね、アンナマリーさん』
『最初から最後まで見所満載のレースだったわねぇ。一位と二位の差はほんの少しだけだったし、実質同着みたいなもの。エルルもガブちゃんも本当に頑張ったわねぇ』
その後間もなく三位でアマテラスがゴールし他のメンバーも続々とレースを終えた。コメント欄はこの白熱したレースを称賛する声で溢れかえっていた。
パリオカートのゲーム画面から3Dの応援席画面へと切り替わり決勝戦を戦い抜いた八名を他のメンバーが労う。
レース中のドタバタの感想を言い合うなどして和気あいあいとしたムードが漂う中、エルルがガブリエールの所へ来て手を差し出す。
『エルル先輩?』
『今日は本当に楽しかったよ。また一緒にゲームしようね』
『はい!』
握手を交わし、レース中の出来事を楽しそうに話すガブリエールとエルル。そんな二人を恨めしそうに見つめる人物がいた。
『ハァ……ハァ……レースバトルした後に健闘をたたえ合うエルお姉ちゃん可愛い……。くぅ……どうしてあそこに居るのがシャルじゃないのぉ? ガブ……そこ代わってぇ……!』
『シャルル先輩……エルル先輩が本当に好きなんですねぇ』
『その通りよ! エルお姉ちゃんは私の全て! おはようから始まって眠たげな顔で起きてきたお姉ちゃんの髪を結って顔を洗って朝ご飯を食べさせて歯磨きさせてその日のスケジュールを説明して午前の仕事してお昼ご飯食べさせて歯磨きさせて午後の仕事してお夕飯食べさせて夜の配信してお風呂に入って歯磨きさせてお休みまでずっと! 欲を言わせて貰えばベッドも一緒にしたいぐらい!!』
『そんな事になったらそれこそ二十四時間一緒になっちゃうじゃないか。それはさすがに……』
『うぅ……エルお姉ぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!! でも、そんなちょっと素っ気ないところも大しゅき! ハァ、ハァ、ハァァァァァァァァァァン!!』
姉からちょこっと塩対応されて発情する妹……危険極まりない。
エルルもエルルでシャルルに世話されないと生きていけない身体になっているので一蓮托生だ。もうね、どうしようもないよこの双子姉妹。
『分かります! 大好きな相手の為なら全てを捧げて行動出来ちゃうんですよね。私もワンユウさんのコメントやSNSをチェックして住んでる街を割り出しましたもん! ……あ、何か思い出したら込み上げてきた。……ハァ……ハァ……ハフゥ……ワンユウひゃん』
『はっ! そうだったわ。ガブも好きな人のために頑張れる女子だったわね』
『『――同志!!』』
お互いシンパシーを感じたガブとシャルルは手を取り合って意気投合していた。
最近すっかり忘れていたけど、ガブも人の個人情報を収集分析して引っ越しをしてくるストー……行動派だった。
危険な人物二人が協力関係を結んでしまった。ヤバいとヤバいを掛け合わせる事によって激ヤバコンビになっている。事件が起きなければいいが……。
『さてと、それじゃ二人が仲良くなった所でそろそろ行こうか。ライブが始まるからね』
配信のセットがレース会場の応援席からライブ会場へと切り替わりぶいなろっ!!メンバーが集合する。その中心には今回のレースで健闘した八名がおり、上位三名のエルル、ガブリエール、アマテラスがセンターで歌う。
ライブ会場では先にレースから退席していたセシリーが待っていた。
『皆様、レース及び応援お疲れ様デシタ。それではぶいなろっ!!箱内コラボ恒例、ライブイベントを開始致シマス』
セシリーが指をパチンと鳴らすと全員の衣装がフリルスカートを特徴とするライブ仕様へと変わり準備が整った。
センターにいるエルルは両隣に立っているガブとアマテラスを交互に見やり抑揚のない声で言う。
『エルは歌うの苦手だからガブとアマテラスよろしくね。あんまり声が出ないんだよね……口パクじゃダメかな?』
『ダメですよ! 一位になったエルル先輩がメインなんですから。ソロパートもあるんですよ!?』
『そうじゃよ。それにエルル先輩、綺麗な声しとるんじゃけぇ頑張って! 苦手じゃのうてやる気の問題じゃけぇ』
『うーん、手厳しいなぁ六期生は……。よし、頑張るか!』
エルルはゲーム以外はやる気が低いが、各種能力は高く歌も上手い。アマテラスの指摘した通りにやる気の問題なのであって本気で歌い出すとリスナーを魅了する歌姫と化す。
エルルの歌を聴いて一番酔いしれているのはすぐ近くに居るシャルルなのだが、そんな様子が見られるのも箱内コラボのクライマックスで行われるライブイベントの醍醐味だ。
今回行われたパリオカートの決勝戦はぶいなろっ!!メンバーが勢揃いする箱内大型コラボであり、ゲームを主体とするイベントだった。
箱内で大規模なゲームイベントが行われる時はイレギュラーな状況が発生した場合に備えてファイプロのゲーム開発部署が待機している。
俺も今回の配信は職場で観ていた。配信中に大きな問題は無く無事にパリオカートが終わって皆安堵している。そして今は仕事の緊張から解放され、ぶいなろっ!!メンバー勢揃いのライブ配信を職場の大型モニターで皆と一緒に楽しんでいる。
「どうだったかな、ワンユウ君。君がここに配属されて初めての箱内ゲームイベントだった訳だけど、その最中のここでの仕事が何となく分かって貰えたかな?」
安藤さんがライブ配信を観ながら訊いてきた。今回のイベント中、ゲーム開発部署がバックアップに回る流れを経験する。それが今回の俺の課題だった。
「はい、配信を観察しつつ問題がないか常にチェックする。それが良く分かりました」
「今はそれだけ分かって貰えれば十分だ。今回はパリオカートという完成度が高くイレギュラーが起こりにくい作品だったのでゲーム中の我々の役目は特に無かった訳だがGTRは自由度が高い反面イレギュラーなケースが起こる可能性が高い。きっとこの職場はお祭り状態の大忙しになるだろう。GTR開催中、君には予定通り直接ゲームにダイブして現場で発生したバグの対処とぶいなろっ!!メンバーのサポートをして貰いたい」
「分かりました。そして安藤さん達がGTR配信中、リアルタイムにゲーム全体の調整をしていく流れですよね」
「うん、その通りだ。GTRぶいなろっ!!サーバーの基本調整がようやく終わったからね。後は微調整と各種サポート態勢の見直しとか細々とした仕事が沢山ある。それが終わったらいよいよ本番だ。――そろそろ歌が終わるね」
モニターの向こうでは歌が終わり配信も終了間近の雰囲気になっている。そんな中、今回の配信が始まる際に話されていた重大告知がメルア姫から告げられた。
『えーと、それでは重大告知について発表させて頂きますわ。今秋、ぶいなろっ!!においてGTRぶいなろっ!!サーバーイベントを開催致します。イベント開催期間は十日。メンバー総出のビッグイベントになります。詳細は後日発表させていただきます。――以上ですわ』
そう、今回の重大告知とはGTRぶいなろっ!!サーバーの開催決定のお知らせだ。
ゲーム内NPCのAI自律問題が解決され世紀末ヒャッハーな住民たちが比較的まともな市民へと成長した事をキャニオン社長に報告したところ「ワンダホーーーーー!! それでは早速発表しちゃいまショウカ!!」てな感じでまずはぶいなろっ!!メンバー全員に伝えられ、そして今回の発表の流れとなった。
GTRぶいなろっ!!サーバーの開催発表はリスナーに衝撃を与えこの日のトレンド一位になった。
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