第94配信 おなマン事件 File3

 今やこの部屋では酔っ払いVTuber六名が楽しそうに女子会をしていた。


「そう言えばさぁ、八尺様って怖い話があるだろ。その話を初めて聞いた時、わたしはてっきりエロい話かと思って~」


「分かるぅ~、八と尺を逆にすると……ねぇ。ヒャハハハハハハハハハ!!」


「サリッサもネプもスケベー!」


「そう言うシャロン先輩はどうなのかしらぁ?」


「それは……ヒミツだよぅ。へへへ……」


「絶対同じこと思ってたでしょー?」


「シャロン先輩、ムッツリー!」


「「「「「「アハハハハハハハハハハハハ!!」」」」」」


 女子会が始まって一時間以上が経過して気が付いたが、この人たちの会話内容のほとんどは下ネタだ。

 雑談配信でそういう流れになる時は多々あれどプライベートで酒が入るとここまでピンク一色になるのか。この状態で飲酒雑談配信をやったらとんでもない事になるだろうな。酔っ払い六人でエロトークとかヤバすぎる。


 それにしても凄く楽しそうだな。酒飲んでおつまみ食べて下ネタで盛り上がって……それに引き換え俺はスッポンポンにタオルケット一枚だけ羽織ってクローゼットの中で一人っきり。持っているのは回収した靴とスマホだけ。

 さっきはつい隠れる事を選択しちゃったけど、今思えば素直に事情を説明していれば良かったんじゃないか? ……今からでも間に合うかな? 陽菜とルナに連絡して取りなして貰えば何とかなるかな?


 スマホで陽菜に電話を掛けようとした時、彼女たちに動きがあった。


「はぁ~、凄く楽しくなってきちゃったぁ。――そうだ、このままゲリラで飲酒雑談配信でもしちゃう?」


「それいいねぇ。わたしはサンセー! 皆はどう?」


「シャロンも良いよぅ。面白そう」


「はぁーい、ママも賛成でーす!」


「私もオッケーです! 飲酒雑談したことないですけど、皆と一緒なら安心です。配信枠立てまーしゅ!」


「ルーも飲酒雑談やりたーい! SNSで拡散しますねー。ガブ、配信開始時間おせーてー」


 これはヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい! 語彙が死ぬほどヤバい状況になった。

 嘘だろ? このメチャクチャ酔っ払った状態で配信? しかも陽菜も月もノリノリだし……あいつらやっぱり俺の存在忘れてる。くそ、あの裏切り者共めぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

 それにしてもマジでヤバいよ。ベロンベロンに酔った六人のオフコラボ飲酒配信なんて面白そうじゃないか! こんな状況でなければ家で酒飲みながら楽しんで視聴出来たのに。

 でもどうしよう、配信中に万が一俺が彼女たちに見つかったら全国ネットで変態出現、それがワンユウだったって知れ渡って冗談抜きで社会的に……死ぬる!!


 スマホでルーシーのZを確認すると飲酒雑談配信をすると告知していた。所々文字変換をミスっているあたりかなり酔っている事が分かる。しかも開始時間を確認するともう始まるらしい。

 フォロワー達はこの突然の飲酒配信の内容に半信半疑だったりお祭り騒ぎだったり大混乱。もうダメだ。この配信はもう止められない。

 こんな短時間で配信の準備を終えるとはさすが配信のプロ集団だけの事はある。脳がアルコールで思考低下していても配信のやり方を身体が覚えているのだろう。もはや彼女たちは配信モンスターと言えるのかも知れない。


 スマホでヨウツベにアクセスすると間もなく彼女たちの飲酒配信が開始された。

 オープニングからベロンベロンに酔っ払っている六名のVTuberが現れコメント欄は大賑わいだ。 

 その中でも特に注目されていたのはガブリエール。ガブリスであれば彼女が今まで飲酒配信をした事が無いのはよく知られている。それがいきなりオフコラボで飲酒配信なのだからかなりレアな状況だ。


「おつがぶれす~。あれ……? あ、間違えた。こんがぶ~、六期生の天使ガブリエール・ソレイユれす~。皆さん、飲んれますかぁ? わらしはいっぱい飲んで良い感じれす」



コメント欄

:ガブちゃんが酔っ払ってる!

:これは激レアだぞ

:普段は可愛い系ボイスだけど、今はなんか色っぽいな

:お姉さん系ボイスだね。もしかしてこっちが地声に近いのかな? どちらにしても美声で実に良き。助かります

:ガブちゃんが酔ってる時点で神回の予感しかしない。その上これだけのメンバーが揃って酔ってるんだ。これはテンションが高まりますな!

:カシュッ! 今、俺も缶チューハイを開けたところだ。ほろ酔い気分で飲酒配信を観る。これ以上に楽しい事があるかい?

:プシュッ! オレは今、缶ビールを開けたところだ。マジ酔いで前後不覚に陥りながら飲酒配信を観る。こんなに楽しい事が他にあるだろうか?

:缶ビールの奴は配信を観た記憶は残るのか?

:確実に途中で寝落ちするパターンやろw

:それにしても今日はガブちゃんもルーシーも配信お休みだったよね? てっきりワンユウ総帥とデートしてるのかと思ったら違うのか。総帥は今いずこに?

:天使と堕天使に撃墜された総帥は今頃一人って事か。この配信に気づいているのだろうか?

:ルーシーも総帥に惚れてるのバレバレだったからどうなるかと思ったらギャルゲー主人公みたいな結末になって面白かったなぁw

:何が面白いってヒロインを攻略するんじゃなく二人のヒロインに同時に攻略されるギャルゲーだったってのがねwww



 この配信を俺はスマホの音量をミュートにして観ているのだがライバー達の美声は問題なく聞こえている。

 そりゃそうだ。だって今俺が居る場所から大体十メートル離れた所で配信しているのだから。よく考えたらすんごく贅沢な状況だ。VTuberの配信を生音声聞きながら視聴するなんて聞いた事ないよ。


 さて配信は順調な滑り出しで六人は酒を飲んでつまみを食べながら楽しそうに雑談をしている。さすがに下ネタは抑え目にしているけど普段よりもテンション高めなのでリスナーも大盛り上がりだ。


 配信開始から一時間が経過した頃、俺は身体に違和感を覚えた。正確には違和感では無く生理現象――トイレに行きたくなってきた。

 俺はコメントを打つ心の余裕も無くクローゼットの中で飲酒配信を視聴し続ける。「この飲酒配信オモロもっと観たい」と思う自分と「俺の尿意が限界に達する前に終わってくれ」と願う自分がいる。


 そんな複雑な感情を抱いたまま更に三十分経過、配信は益々盛り上がりライバーは益々酔っ払いどんちゃん騒ぎだ。クローゼットの外からは彼女たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。尿意にはまだ余裕がある。まだ大丈夫……大丈夫だ。


 更に三十分経過――酔いが回りまくった彼女たちは下ネタを徐々に開放していきコメント欄は配信がBANされないかヒヤヒヤしている様子。女子会はヒートアップ、これが配信だと忘れている可能性がある。俺の尿意は……まだ……大丈夫。


 それから一時間経過――アアアアアアアアアアアアアアッッッ!! クソッ! ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい、俺の膀胱レッドゾーン、配信センシティブレベルグレーゾーン、もう配信オモロなんてかましてる余裕ゼロ! この女子会いつ終わるの? 俺はもしかしてこのまま一生クローゼットの中で過ごすの? ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい、頑張れ俺の膀胱括約筋! 頑張れ頑張れ頑張れ! 君は出来る子やろうと思ったらやれる子! そうだろう? そうだよね? 俺が小学生の頃、授業中にトイレに行きたくなった時も君は頑張ってくれたじゃん! あの時に比べたら俺も君も大人に成長したからもっと頑張れるハズじゃん! 頼む頼む頼む、お前だけが頼りなんだここで負けたらくじけたら俺は人として何かを失う気がする! 耐えてくれ! 俺の膀胱括約きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!


 そして更に三十分経過――も……う……ら……め……ぼう……こう……かつ……やく……きん……げん……かい……。この……まま……じゃ……おーばー……ふろー……する。も……う……ここ……には……いられ……ない……。おれ……は……ここ……を……でる……。でて……といれ……いく……。

 

 俺は知性に回す意識すら膀胱括約筋の維持に回しダム決壊を何とか食い止めている状況だった。スマホで観た限りリビングで騒いでいるライバー達は相当酔っている。前後不覚になるぐらい酔っている。

 イケる……絶対イケる……あんなへべれけウーマン達であれば幾らでも出し抜く事は可能なハズだ。

 俺はトイレで用を足してみせるトイレで用を足してみせるトイレで用を足してみせるトイレで用を足してみせるトイレで用を足してみせるトイレで用を足してみせる……!!

 大人としての尊厳を守る為に、俺は今クローゼットの扉をゆっくりと開けた。

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