ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第110配信 GTR 1日目 ボッチのグルメ
第110配信 GTR 1日目 ボッチのグルメ
警察とギャングの初戦が終わった後、俺は逃げた。
足が付くのを警戒し病院の車両には乗らずに軽自動車を購入。今はそれに乗って『ネオ出島』と『ナロンゼルス』を移動し出現したバグを消して回っている。
『ワンユウ様、バグの反応デス』
「またか……今度は何処だ?」
『『ネオ出島』の郊外エリアデスネ。もっとも『ネオ出島』自体が
セシリーの言う通り『ネオ出島』は僻地だ。開発が進んでいる地区とは言っても現在は禄にスーパーもコンビニも置いてはおらず、その建設は急務となっている。
GTRのキャラには生命力の他に様々なパラメータがある。その一例が満腹値と水分摂取量だ。リアルであろうがゲームであろうが人間ちゃんと食べて水分を摂らないと倒れてしまうのだ。
食料入手の手段が限られる『ネオ出島』は言わば半サバイバル状態と言える。腹を空かしたNPCの中には海岸で魚釣りをしている者もいる。
『ナロンゼルス』市街地に行って買い物をすれば解決する話なのだが出不精の人間は現実とゲーム関係なく何処にでもいるのだ。
『到着しまシタ。この辺りでバグ反応がビンビンデス』
「はいよー」
軽自動車から降りて反応があるポイントまで歩いて行くと見つけた。一部空間に歪みが生じている。これを放っておくと歪みはどんどん大きくなって周辺のデータに影響を及ぼしイレギュラーを引き起こす。
そうならないように未然に防ぐのが俺の仕事だ。安藤さん達も常にデバッグをしてくれているが細かい部分はこうして現場で直接対処した方が早い。
「まだ規模は小さいみたいだ。――セシリー、例のブツを」
『合点承知の助。ハンマー出しマス』
令和生まれのAIとは思えない受け答えと共に俺の手元には対バグ用の道具ピコピコハンマーが出現した。それを手に取り空間の歪みに近づくと大きく振りかぶる。
「光になれぇーーーーーー!!」
ピコピコハンマーを歪みに打ち付けるとワクチンプログラムが発動し空間は正常に戻った。ともかくこれで一安心だ。
『ハァ……』
「溜息なんか吐いてどうしたんだ、セシリー?」
『飽きマシタ』
「初日から飽きるなよ! これが俺たちの仕事なんだからさ」
『今頃ぶいなろっ!!のメンバーはGTRを楽しんでいるというのに私たちは車で移動してピコピコハンマーでバグ修正シテ……分かっちゃいたけど活動が地味スギル!!』
GTR一日目にしてパートナーのセシリーのストレスが爆発。後で酒を買ってやると約束して彼女の機嫌は直った。
ただ、この時の彼女の言動は俺の中にしこりとして残った。待ちに待ったGTRなのに何だか物足りない感じがする。
「……そういや空腹になってきたな。コンビニで買った食料でも食べて回復するかぁ」
『それでしたら丁度近くにフェン様たちの食堂があります。様子見を兼ねてそこで食事を摂るのはどうでショウカ?』
「それは名案だね。バグ対処に追われてまだぶいなろっ!!メンバー全員の様子を直接確認出来ていなかったし行ってみようか」
軽自動車を少し走らせると『オーロラブリッジ』近くに一軒の食堂があるのを見つけ駐車場に車を停めた。
この食堂は食料入手がし辛い『ネオ出島』内では救世主と言える場所だ。忙しくてコンビニに行けない警察の他にギャングなども出前を注文して空腹を満たしている。
腹が減ったら最終的には死ぬので皆の胃袋を掴んでいるこの食堂が『ネオ出島』内のヒエラルキーのトップと言っても過言ではない。
俺のアバターが空腹状態になった。基本的にこのアバターは死なないので飢餓状態でも生き延びる事が出来るがその状態でずっといるのはさすがに嫌だ。
「あー、腹減った」
『時間や社会に囚われず幸福に空腹を満たす時、つかの間、彼は自分勝手になりフリーダムにナル。 誰にも邪魔されず気を遣わずものを食らうというボッチの行為。 この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒しと言えるのでア~ルゥ』
二人ノリノリで食堂に入ると数名の客がいた。ぱっと見た感じ中華料理屋のようだが、そう言えばこの食堂のメニューを知らなかったな。
どの席に座ろうか迷っていると和風メイド衣装に身を包んだルイーナが厨房から出てきた。
この食堂『亀甲縛り』は五期生のフェンが店主を務め、一期生のルイーナが看板娘、六期生のアマテラスが出前を担当している。
「いらっしゃいませー。あら、新規のお客様かしらぁ?」
「はい、初めてです」
「まあ、そうでしたの。この食堂は出前がメインですから、こうして直接食べに来て頂けるのは嬉しいですわぁ。では、そちらのテーブル席をどうぞ」
席に着くとルイーナが水とメニューを持ってきてくれた。
食堂『亀甲縛り』メニュー
メイン
・チャーアハン
・亀甲縛りチャーシュー丼
・トロットロ天津ハァァァァン
・お
・ラァァァメェェェン
・亀甲縛りチャーシューラァァァメェェェン
デザート
・あん!ニンドウフ
・パイパイプリン(サイズ選べます)
水で水分補給しつつメニューに目を通した瞬間、その内容に驚いて水を吹いてしまった。
「きゃあ! どうなさいましたか、お客様?」
「げほっ、ごほっ! いや、どうなさいましたかって……何なんですか、この悪ふざけ全開のメニュー名は!?」
「店主の趣味です。味は保証致しますわよ」
余りにも堂々としているので俺が過剰反応しすぎなのではと思ってしまう。
今さらだが店の名前からしてふざけているのでメニューが多少おかしい位で目くじらを立てるのは場違いなのかも知れない。
とにかく注文してみるか……。
「うーん、それじゃ亀甲縛りチャーシュー丼と……プリンをお願いします」
「パイパイプリンのサイズは如何しますか? ちなみにE、F、G、H、I、Jで選べますわ」
「……Iでお願いします」
「かしこまりましたわ! 復唱します。亀甲縛りチャーシュー丼とパイパイプリンIカップ、ガブリエール風のご注文でよろしいでしょうか!?」
「予想はついていたけどプリンのサイズってやっぱりそう言う感じ!? 恥ずかしいから大声で復唱しないで!」
ルイーナが厨房に入っていくと脱力してしまう。現在空腹状態とはいえ、このタイミングで連続でツッコミをするハメになるとは思わなかった。いつも以上に疲れる。
まさかぶいなろっ!!でも清楚枠のルイーナが普通に亀甲縛りとかパイパイとか言うとは予想していなかった。
これ、他のメニューを頼んだらルイーナが復唱してくれるんだよな? 天津飯とかラーメンを頼んだらどういった感じで言ってくれるんだろう? 今度また来よう。
間もなく注文した亀甲縛りチャーシュー丼が運ばれてきた。
名前はアレだがサイコロ状に角切りにされたチャーシューがたっぷり投入された見た目と特製ダレの食欲を刺激する良い香りがして非常に美味しそうだ。
「いただきます」
濃厚かつ繊細な味わいのタレだけでもご飯が進む。そしてこの丼の主役である角切りチャーシューは咀嚼の度に肉汁が溢れてきて口の中は芳醇な肉のスープで満たされる。
それら全てを同時に飲み込むと心が幸福で満たされる。
「くぅ~、美味い!」
GTRの味覚再現システムの出来は非常に良いと好評でプレイヤーの中には食事関連を極めようとする猛者も多い。
この亀甲縛りチャーシュー丼はそんな猛者たちの料理に比肩する出来映えだ。さすがフェンはリアルでも料理が得意なだけはある。
理屈は分からないけど黄金比率で縛り上げられたチャーシューは極上のジューシーさを誇っている。そんな極上を贅沢に使ったこの丼は贅沢な一品だ。
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