第48配信 六期生デビュー一周年ライブ
◇
仕事帰りに夕食を買いにスーパーに立ち寄ったら太田さんも買い物に来ていた。帰り道は同じなので一緒に帰った訳だが、どうも彼女の様子がおかしかった。
ずっと何か悩んでいる様子で時々寂しそうな表情をしているのが見ていて辛くて、自分に何か出来ないか考え焦りまくった結果AINEの連絡先の交換へと至った。
いざ冷静になって考えてみると、俺は自分でも気が付かないうちに彼女をかなり気に掛けるようになっていた。その理由も今になってようやく分かった。
――似てるんだ、ガブリエールに。
太田さんの声はどことなくガブに似ている気がする。落ち着いた声質なので最初は気が付かなかったけど、ふとした瞬間の声が似ている。
今日会話をしている時に彼女が発した「ふぁっ」という驚き方は太陽やガブが驚いた時の癖と同じだった。
それにガブが引っ越しをした時期と太田さんが引っ越してきた時期は丸かぶりだし、太田さんの友人の相良さんはガブリスだし……と言うより、あの人もぶいなろっ!!の関係者な気がする。
考えれば考えるほど、ガブリエール=太田さんの構図がしっくりくる。
「もし俺の考えが的中していたとして、いきなり太田さんに「あなたガブリエールですか」って訊くのか? それで別人だったら変人のレッテルを貼られるだろうなぁ」
時計を見ると本日のガブリエールの配信開始まで十分を切った。その時、AINEの着信音が鳴りスマホを手に取ると太田さんからだった。
「『今日はありがとうございました。今後もよろしくお願いします』か。えーと『こちらこそ』……送信、と」
短いやり取りを終えるとガブリエールの配信が始まった。
特に彼女に変わった様子は見られない。今回は六期生のデビュー一周年記念配信前の雑談枠ということでデビューしてからの振り返りをしていく。
この一年間の思い出深い配信や二年目にやってみたい配信などの話をしていき、そろそろ終了の流れとなった。
『それにしても最近暑くなってきましたよねぇ。家の中でも熱中症になるので使徒さんも気をつけてくださいね』
これは帰宅時に俺が太田さんと話した内容と同じだ。これは偶然なのか? もしかして――。
コメント
:まだ初夏だって言うのに暑いよね
:扇風機四台フル稼働して涼んでる
:何で四台もあるんだよ。エアコン使え
:エアコンを発明した人は神
ワンユウ:俺の住んでる所は夏はエアコン必須だよ。使わないと熱中症になる
:オレんとこも同じ。窓開けても生ぬるい風しか入ってこない
:いっそ家の中にビーチチェア置いて水着でいればリゾート気分にならないか?
:冷静になった瞬間に目から熱い液体出るから止めといた方がいいと思う
『……あ』
コメント欄に俺のコメントが表示された瞬間にガブリエールが一瞬だけ小さい声を出す。彼女の頬が赤くなり身体を軽くモジモジさせていた。
「この反応は……やっぱりそうかぁ」
椅子の背もたれに体重を預けて真上を見る。だからと言って部屋の天井を見ているわけじゃ無い。この四年間の太陽とガブリエールとのやり取り、そして太田さんとのやり取りを思い出す。
『それでは明後日に六期生による一周年記念3Dライブ配信がありますのでよろしくお願いします。そしてその翌日に私単独の一周年配信を行います。内容としましてゲーム配信をする予定です』
コメント欄がざわつく。一周年を祝う配信にしてはゲームは珍しい。
何のゲームをするのか皆興味津々の様子だ。ガブリスから質問が飛び交うとガブリエールはニコニコしながら対応する。
『当日プレイするのはポコボイの謎です。知っている人もいると思いますが、説明するとかなり昔の横スクロール型ロボットアクションゲームですね』
ポコボイの謎の名前が出ると再びコメント欄に大量のコメントが飛び交い始める。知る人ぞ知るクソゲ……もとい高難易度ゲームだからだ。
正直言って一周年記念の配信でやる物ではないと思う。……でも、このゲームは彼女にとっても俺にとっても思い出深い作品だ。
『実はポコボイの謎は昔挑戦したことがあって、一応クリアはしたんですけどプレイ時間が十二時間を超えてしまってアーカイブに残らなかったんです。――だから今度はアーカイブに残せるように頑張ってみたいと思います』
コメント
:ポコボイの謎か……なるほどなるほどw
:ふぅ~んwww
:ガブちゃんがポコボイの謎をプレイしている姿を観てるのは多分一人だけだなw
:そうですな。ガブちゃん前世にとって大切な出逢いの一作だもんな、ポコボイの謎
:親のノロケ話よりも聞いたガブちゃんのノロケ話
:親のノロケ話なんて聞いたことないよw
:あんなク〇ゲーが出逢いの切っ掛けというのもガブちゃんと総帥らしくて面白いな
:さりげなく暴露してて草。もう少し溜めないと
:あんな〇ソゲーが出逢いの切っ掛けというのもガブちゃんと雑炊らしくて尾も白いな
:どうしてそれで誤魔化せると思った!? 〇の位置とか変換ミスとかわざとやろ!
:カオスで草
:www
:草草草
:ガブちゃんの雑談で聞いたことがあったから観てみたいとずっと思ってた
:むしろガブちゃんの一周年記念配信としてこれ以上相応しいのは無いんじゃね?
ワンユウ:四年ぶりのリベンジって訳か。相手は強敵だけど、あの頃とは違って今度は応援してくれる人が沢山いる。きっと良い配信になると思うよ
『はい! もちろん裏技の残機九十九は使わずに挑戦しますので、使徒さん応援よろしくお願いします!!』
ガブリエールの残機九十九未使用プレイの告知を受けガブリスは驚きこの日の配信は終了した。――そして二日後、六期生によるデビュー一周年記念3Dライブ配信が始まった。
『こんてらー、ぶいなろっ!!六期生、ゴッド&デビルの女神アマテラス・ソルじゃよーーーー! 転生者さん、うちらいっぱい頑張るけぇ、応援してねーーーー!!』
『こんがぶ~! 同じく六期生の天使ガブリエール・ソレイユでーす!! 使徒さん、ワンユウさーん、頑張って歌いまぁーーーーす!!』
『こんべるー、六期生の悪魔ベルフェ・ナハトだ! 背信者どもよ、待たせたな!!』
『こん堕ち~! 六期生の堕天使ルーシー・ニュイで~す。闇堕ち君、観に来てくれてありがと。今日はコラボ歌配信だから、あまりザコザコ言ってあげられないけどぉ、ルー達の歌でた~っぷり堕天させてあげるから覚悟しててね!!』
六期生はコンセプトが神(アイドル性)と悪魔(変態性)と言っているだけあって、ここぞと言う時の輝きが凄い。
四人の高い歌唱力と彼女たちの魅力を引き出す演出が合わさって煌びやかな歌配信が行われていく。
所々でソロパートが入り、ガブリエールは新曲の『使徒さんと私』を歌った。彼女とガブリスの日常をイメージした明るい曲調でガブによるギャグテイストの歌詞も相まって思わず笑ってしまった。
六期生はこの一年で経験を積み、今ではぶいなろっ!!メンバーとして一人前のライバーへと成長を遂げた。
その一年の集大成となる3Dライブ配信は同時接続者数が三十万人を超える大成功を収め終了した。
その日の夜、太田さんからAINEがきた。
:明日の夜――終わった後に大事なお話があるのですが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?
:大丈夫です。明後日は仕事は休みなので何時でも問題ないです
:ありがとうございます。明日……頑張ります!
:頑張って。応援しています
先日の配信で互いにガブリエールとワンユウである事が分かった。だからAINEでも何が終わった後なのか確認する必要なんてなかった。
明日のガブリエールのゲーム配信が終わった後、その時に俺がワンユウだとちゃんと口にして伝えよう。そして彼女の話に真っ正面から応えよう。全ては明日――。
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