第49配信 幾久しく①

コメント

:うおおおおおおおおおおお!!

:頑張れーーーーーーーーー!!

:何でジャンプの着地点に敵が待ち伏せしてんだよ! 鬼か!?

:初見殺しのトラップばかりじゃねーか!!

:オレは未だに敵の弾が良く見えないんだが。年は取りたくないねぇ

:ポコボイの謎は子供の時にやったけど途中で挫折したなぁ。無理ゲーだとか言ってコントローラーを投げた記憶がある

:飛行形態で障害物に当たると破壊されるって中々エグいな

:オレはずっと一面の開始三秒でやられ続けたよ

:それはもう心が折れてゲームする気が失せてる証拠だよ

:イケイケいけぇぇぇぇぇぇ!! 頑張れガブちゃーーーーん!!

:ガンバれぇぇぇぇぇぇ!!

:ファイトォォォォォォ、いっぱぁぁぁぁぁぁぁつ!!



 六期生のデビュー一周年記念3Dライブ配信の翌日、ガブリエールは自身の一周年配信でポコボイの謎へのリベンジを行っていた。

 久しぶりのポコボイの謎ということもあり最初はボコボコにされていたが、あの時の勘が徐々に甦り見事な回避術を見せるようになっていった。

 それにこの四年の間に彼女は様々なゲームをプレイしており、その中にはポコボイの謎にも劣らない理不尽難易度のク〇ゲーが何本もあった。


 他にも高難易度の神ゲーだって幾つもプレイしている。ゲーマーとしての基礎力があの頃とは段違いに上がってるんだ。残機九十九なんて使わなくてもいけるハズだ。


『はぁ……はぁ……ふぅ……くっ!』


 ただ、気になるのは今日のガブリエールはいつもより体調が悪そうだという事実だ。ガブ本人は昨日のコラボ歌配信で頑張りすぎたからと説明しているが、それだけじゃない。

 時々咳もしているしどんどん調子が悪くなっている。

 そんな彼女を労るコメントがちらほら見受けられたがガブは大丈夫と言ってプレイしている。このゲームを何が何でもクリアーするという意気込みが画面を通して伝わってくる。


 皆、今のガブリエールを止める事は不可能だと考え、こうなったら早期決着の為にと彼女にエールを送り続け、俺も頑張れとコメントを打ちまくった。

 皆から応援されているガブリエールは不調とは思えないプレイスキルで敵の包囲網をかいくぐって遂にラスボスを倒した。ゲーム開始から六時間三十二分後の出来事だった。

 かつてクリアーした事があるとは言え残機九十九無しにやり遂げるのは至難の業なので皆からメチャクチャ称賛されていた。


『けほっけほっ! や、やりましたぁ~。今度はアーカイブに残りますね。使徒さん、応援ありがとうございました~!』


 俺たちはガブリエールに早く休むようにコメントを打ち彼女もそれを見て頷いた。


『えへへ、ありがとうございます。今回のポコボイの謎はプレイ中、皆の応援があって凄く心強くて嬉しくてとても楽しかったです! 二年目も頑張りますので、よろしくお願いします!!』


 こうしてガブリエールのデビュー一周年を記念するゲーム配信は有終の美を飾り終了した。

 俺は配信が終わると用意しておいたバッグを持って部屋を出て急いで太田さんの家へと走って行った。

 インターホンを押すと玄関ドアが開いて太田さんが咳をしながら出てくる。


「けほっ、けほっ、犬飼さん、ごめんなさい。私の方から行こうと思っていたんですけど――」


「ちょっとごめん!」


 彼女の額に手を当てるとすぐに分かった。――熱がある。


「太田さん、早くベッドに行こう!」


「へぇっ!? い、いきなりベッドインですかぁ! 凄いアグレッシブ」


「ごめん、言い方が悪かった! 体調が悪いんだから早く休んで」


 あの日以来久しぶりに太田さんの家に上がった。荷物運びをしている最中に色々とセンシティブな経験をした事を思い出す。

 でも、今はそれどころじゃない。太田さんの寝室は二階にあるらしく上がっていく。


「あの、訊いてもいいですか?」


「なんだい?」


「犬飼さんが持ってきたバッグって、もしかして中にはエッチなグッズがいっぱい入ってるとか……ですか?」


「……思ったより余裕がありそうなんで安心したよ」


 太田さんの部屋に到着すると彼女にはパジャマに着替えて貰う。俺は冷蔵庫の使用許可を得て必要な物をバッグから取り出してその中に入れた。


「あの……着替え終わりました」


 太田さんは可愛い猫のイラストが描かれたパジャマ姿に着替え終わっていて、その愛らしさに胸がドキドキする。


「それじゃベッドに横になって体温計で熱を測って」


「わ、分かりましたぁ」


 測定が終わり確認すると38.2℃もあった。さっきよりも顔が赤いし多分まだ上昇する。


「やっぱり熱があったな。太田さん、食欲はある? 食事は摂った?」


「えと、実はあまり食欲が無くて。ヨーグルトなら食べました」


「そんな状態でよくポコボイの謎をクリアー出来たな。飲むゼリー持ってきたけど、これなら飲める?」


「は、はい、ありがとうございます。ん……こく……こく……マスカット味で美味しかったです」


「良かった、こう言うのなら食べられそうだね。熱以外に症状はある? 咳はしてたけど頭痛とか……」


「少し頭が痛いですけど、それ以外は大丈夫だと思います」


「分かった。家の鍵借りるよ。ちょっとドラッグストアに行ってくる」


 ベッドの側から離れようとすると袖を彼女が掴んでいた。再び腰を下ろして彼女の顔を見ると目から涙がポロポロこぼれていた。


「ごめんなさい。こんなハズじゃ……本当なら色々話をして私のことをちゃんと説明しようと思っていたのに……ごめんなさい」


「そんなの気にしなくて良いんだよ。話ならこれからいつでも好きなだけ出来るから。今は体調を治すことに集中しよう。それに配信凄かった。とても格好良かったよ。ポコボイの謎、クリアーおめでとう。今度はアーカイブに残って良かったな。――ガブ」


 泣いている太田さんの頭を優しく撫でると彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「はい! 今度も最後まで見守ってくれてありがとうございました。――ワンユウさん」

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