第80配信 三人四脚③

「ガブ、起きていたのにどうして傍観してたの? わたしに遠慮したとか?」


「遠慮とは違うよ。お互いの事をより深く知る為にも二人だけでしっかり話した方が良いと思ったの。ルーちゃん、優さんとまだちゃんと話をしていなかったでしょ?」


 月が陽菜に訊ねると意外にも至極真っ当な答えが返ってきた。当事者の一人として陽菜も色々と考えているのだろう。


「気を遣わせちゃったか……ごめんね、ガブ。ここからはワンユウ君が言うように三人で話をしよ。わたし達三人にとって今後どうするかを決める大事な話なんだし」


「うん、分かった。三人でピロートークするんだね」


「陽菜……それ事後の会話のことだからね。それだと話し合いの前に大人プロレスしちゃってるからね。物事の順番がグチャグチャになってるよ」


「ちゃんと知ってますよ。それじゃダメなんですか?」


「ダメでしょうよ! 既に俺は陽菜と付き合ってるんだよ。それなのにお前以外とそういう事したら浮気になる。普通さ、自分が付き合っている相手が別の人間と親密な関係になったら嫌だろ」


「それはそうですけど、ルーちゃんなら構いません! むしろルーちゃんと二人で優さんを共有できたら楽しいと思います」


「なん……だと!?」


 驚いた。驚きすぎて言葉を失った。これが陽菜が導き出した結論なのか。俺の意見に対し返答に要した時間はほぼゼロ。

 全く悩んだ様子はないので本心なのは間違いなさそう。驚きのあまりフリーズしていると、月が陽菜に真意を問い始める。


「本当にそれで良いの? この話はガブにとって良い事なんて何もないんだよ?」


「そうでもないよ。私にとっても良い事はあるよ。三人でお付き合いが出来れば私はルーちゃんともっと仲良くなれるし、三人でデートしたり配信の話とか……今よりも色んな事が出来るようになる。むしろ全員にとって良い事しかないと思う!」


 陽菜に迷いは一切無い様子。四年前に配信の海で知り合った頃と比べてなんと逞しくなったのだろう。月も陽菜の予想外のポジティブ思考に面食らっているみたいだ。


「知ってはいたけど、あんたって本当に前向きね。それじゃ、現実問題として夜の生活はどうするの? 今まではガブがワンユウ君を独占できていたけど、わたしが入ったら二人で一緒に居られる時間がかなり減るよ? それでも良いの?」


「あ、それなら多分大丈夫。優さん、その辺りはチート設定だから」


「チート設定!? ちょっと待った、俺に一体どんな設定があるんだ? 俺自身そんな事実知らないんだけど、何か怖いんだけど!!」


 俺の知る限り俺は普通の一般人のハズだ。それにチートなんて大体はファンタジー作品の話じゃないか。これ一応現代日本を舞台にした物語だよね? 俺、いつの間にか現代ファンタジー的な世界に転生していないよね?


「優さんと付き合い始めてちょっと思うところがあったので作者さんに連絡して訊いてみたんです。その時のやり取りが以下になります」



陽菜:お忙しい時に済みません。ちょっと優さんについて気になる事があるんですが

作者:気になること?

陽菜:その……男性って賢者タイムというものがあるんですよね?

作者:あるよ

陽菜:それが優さんにあるように思えないんですけど。何回シてもずっと元気というか……

作者:そりゃそうでしょうよ。だってワンユウ君には賢者タイムなんて無いもの、ずっとバーサーカーのままだものwww

陽菜:それってどういう事ですか!?

作者:まあまあ落ち着いて、順を追って説明するから。その前提としてNTRネトラレって知ってる?

陽菜:はい、ヒロインを寝取られちゃう展開ですよね?

作者:うん。NTR展開って嫌悪感を抱く人も多いと思うんだよね。僕も初めてNTR作品観た時にそう思ったから。で、その後もNTR作品に触れた際に考えた事がありまして

陽菜:それは何なんですか?

作者:NTRの醍醐味ってさ、ヒロインが寝取り男に堕とされる過程だと思ったんだよ。その流れがこれです


① ヒロインが寝取り男に適当な弱みを握られ脅されたりして何やかんやで寝取り男と肉体関係を持つ。ヒロイン、心は彼氏のもの発言

② ヒロイン、寝取り男の異常性欲と彼氏のモノを凌駕する男性器によって肉体的な快楽堕ちになる。それでも心はまだ彼氏のもの発言

③ ヒロイン、寝取り男によって肉体に続いて心も快楽堕ち。これにより元彼氏はヒロインを奪われ寝取り男にオスとして完全敗北確定


この①~③の流れの中、NTR作品で彼氏に感情移入していると間接的に読者も寝取り男にオスとして敗北する感覚を覚えるから嫌悪感を抱くのではないかと考えた次第です。他にも色んな理由はあると思うけどね。この感情移入を調整するとNTR作品は楽しめると個人的に思いました。ドMな人は感情移入したままで楽しめると思います


陽菜:何となく言いたい事は分かりましたけど、それが優さんとどのような関係が?

作者:まあ、あれだよ。ワンユウ君には裏設定があって、NTR作品の寝取り男級の異常性欲と巨〇の持ち主で何回ハッスルしても賢者タイムなんて訪れないって訳ですよ。NTR展開なんて来ない物語なのに一人だけ性欲チート――それがワンユウ君です

陽菜:そんな裏設定があったんですか!? 後付け設定にしてもメチャクチャじゃ……

作者:バリバリ初期設定だよ。しかもそれワンユウ君に限った事じゃなく、他の作品の男主人公にも同じ特性ぶち込んであったりして。アハハハハハ!

陽菜:どうしてそんな共通設定を作ったんですか!? 何か意味でもあるんですか?

作者:特に意味はありません、何となくです!! あったら面白くて便利かなぁと思って仕込んでみました。――じゃっ、ワンユウ君によろしく!



「以上が先日の作者さんとのやり取りになります」


「あんのクソ作者ァァァァァァァァァァァァァァ!!! 何が棒盛と書いてバーサーカーだよ!! しかも俺になんつー訳の分からない裏設定ぶち込んでくれてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あいつ、バカなの!?」


 前々からこの作品、パロディ過多、エロ表現を攻め過ぎて運営に叱られる、メタ発言無法地帯などのやりたい放題だとは思ってはいたけど、まさか作者の他作品の主人公勢もこんな裏設定を仕込まれていたとは知らなかった。皆、あいつの悪ふざけの被害者じゃんか。


「ふぅん、確かに随分と悪ふざけが過ぎた設定だけど……この状況だと凄く使えるよね」


「でしょ? これでルーちゃんの心配は解決、私たちの昼と夜の生活は益々充実……だからこれからは三人で仲良くやっていけるよ」


 気が付くと陽菜と月は手を取り合い和気あいあいとしている。もしかして結論出ちゃった? 常識的な考えを通そうとしていた俺がバカだったという事ですか?

 

「……これって俺が不在時は百合になるんだよね? 陽菜はそれで大丈夫なのか?」


「はい! 実は私、百合に興味があって昔からそういう漫画とかアニメとか観ていたので、ルーちゃんともっと仲良くなれるのが嬉しいんです」


「へぇ、ソウナンダ……」


 実に清々しい返事をする陽菜。この三人の中でこの天使がダントツに逞しいよ。


「ガブ……ありがとう、大切にするからね」


「うん……よろしくね、ルーちゃん」


 俺の事はそっちのけで良いムードで見つめ合う陽菜と月。もうこれ、俺がいる必要なんて無いのでは?

 それにしても自分がNTR作品の寝取り男の要素を詰め込んだ主人公って何なんだよ。天然のクズ男ってこと? もう訳が分かんねーよ。


「さて……と、それじゃ色々と回り道した感じだけど……」


「そうだね、そろそろ……」


 自分の存在理由について色々と考えていると、目の前にいる二人がおもむろに服を脱ぎだした。あっという間に下着姿になり、その程よい肉付きの肢体に目が釘付けになる。

 陽菜は白、月は黒色の布地の少ない下着を身につけており、それぞれレースがあしらわれた代物で非常にセクシーだ。俗に言う勝負下着というやつだ。

 二人のIカップとGカップというボリュームのある胸がブラジャーからこぼれ落ちそうになっている。絶景……圧倒的絶景……!


「すご……ゴクッ!」


「ふふふ、ワンユウ君、見過ぎ。……何だ、心配して損しちゃった。そんなに興味津々ってことは、わたしの受け入れ態勢万全ってことじゃん」


「優さんって夜生活は特に元気だから私は心配してなかったよ。それにしてもルーちゃんの下着可愛くてエッチだね。今日の為に着てきたんだ?」


「まあね。そう言うガブこそ、そんな攻めた下着持ってたんだぁ。やる気満々じゃ~ん」


 ついさっきまで和やかだったリビングの空気が一瞬で淫靡いんびなものに変わった。その瞬間俺の思考にも変化が生じる。

 常識とか浮気になってしまうとか散々悩んでいたハズなのに、目の前に極上の獲物が現れた瞬間、思考からそんな常識云々は吹き飛んだ。


「あ……そう言えば、ワンユウ君がわたしをどう思ってるのか、ちゃんとした返答を貰ってなかったよね。君の好みじゃないのに関係を無理強いしたら悪いしぃ、ここから先は君の回答待ちって事で」


「それが終わるまで私も待機してますね」


 主導権を得た月は生き生きしていて、お得意のメスガキムーブをかましてきた。陽菜はそれに便乗し俺の行動を見守っている。

 ソファにはセクシー下着だけを身につけた半裸美女二名が座っていて悪戯な笑みを俺に向けている。まさかこんなエロ漫画みたいなイベントが俺の身に起こるとは思いもしなかった。

 

 ルーシーに対する俺の気持ち――正直に言って良いものか迷い続け、口に出すのをはぐらかしていたが……もうね、この状況でお預け食らっていたら頭がおかしくなりそうなので正直に言おうと思います。


「ルーシーは……好きだよ。そうでなきゃ配信を観たりしないよ。ただ、それはあくまでもいちリスナーとしてファン目線の話であって、本気で付き合いたいとかそんな大それた考えは無かったから……告白されて本当に驚いてる」


 正直に俺の想いを伝えると月は満足したように三日月目で笑ってソファから立ち上がる。陽菜も同時に立つと二手に分かれて俺の左右に移動してきた。

 そして陽菜と月は左右から俺の腕に身体を密着させてくる。ほぼ裸なのでダイレクトに二人の身体の柔らかさと体温が伝わってきて頭が沸騰しそうになる。


「そっか、そっかぁ~。ワンユウ君はわたしに少なからず好意があったんだねぇ。ま、今のところはそれで十分。ガブともウィンウィンの関係になれたし最高の結果だわ」


「ルーちゃんが可愛いから好きになっちゃうのは分かりますけど、私のこともちゃんと見ていてくださいね」


「はい……ちゃんと見てるので大丈夫で――」


 返答するやいなや俺は二人の天使ならぬ女豹に押し倒され、なだれ込むように合戦が開始された。

 夜中から始まったこの宴は外が明るくなるまで続き、終了する頃には陽菜と月はヘトヘトになっていた。

 今回も俺に賢者はやって来ず棒盛がずっと居座っており、自分に例の裏設定があって良かったと少しだけ……本当に少しだけ思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る