第82配信 パリオカートぶいなろっ!!杯②

 ペット枠のサターナと芸人枠二人目のノームは雑に扱われ、ホロウはシャロン、ナーシャ、フェンのロリ三人組のインタビューを開始した。


『それではぶいなろっ!!のロリっ娘たちにインタビューをしたいと思います。レースは残念な結果に終わってしまいましたが、この決勝戦に対する意気込みを聴かせてください。まずはロリ・オブ・ロリのナーシャさん、お願いします』


 ホロウに詰め寄られてビクッとする三期生、魔法使いのナーシャ。お互い三期生の同期で仲が良いからこそナーシャはホロウの演技に感心していた。


『ホロウ、本当にセクシーなレポーターみたいで凄いね。あたしはそんな風に色んな人物を演じたり出来ないから本当に凄いと思う。女優さんみたい』


『この場でいきなり褒めるな、照れるじゃないか。それに私はナーシャの方が凄いと思うぞ。リスナー全員お兄ちゃん設定にして純然たる妹キャラの道をひたすら走るお前には常に驚かされている』


『妹キャラ言うな。風評被害やぞ』


 ついさっきまで甘え口調だったナーシャの声質が一瞬ドスが利いたものに変化し周囲がどよめく。――が、これはナーシャのリスナーであるお兄ちゃん達には周知の事実であり、この黒ナーシャの出現にコメント欄は大喜びでこの機に彼女に罵って貰いたがるしょうもないお兄ちゃんが大量発生した。


『それでは妹キャラ設定にした事を今さら悔やんでいるナーシャさんのインタビューを終わりにして、次は……シャロンさんお願いします!』


『ひぃっ! 今度はこっちに来た。これインタビューと言う名の暴露大会じゃないよね? 凄く怖いんだけど、このアサシン!』


 ニコニコしながら早歩きで近づいてくるホロウにビビり散らし後ずさりする二期生、ネクロマンサーのシャロン。

 ぶいなろっ!!メンバーの中では古参でリスナーを煽るクソガキムーブに定評がある彼女ではあるがこの通り弱腰のビビり屋である。

 生意気発言をしてはすぐに分からせられるので彼女からしか得られない栄養があると語るリスナーは多い。


『シャロンさんは今さら暴露する事なんて何もありませんよね? クソガキムーブを噛ましてはすぐに因果応報の目に遭って泣いている。それがあなたの全てですよね?』


『ちょ、まだ何も言ってないうちから勝手にプロファイリングして結論出すな!! 皆気をつけろ、このアサシン……マジでシャロン達を暗殺しに来てるよ。ライバーとして築いてきたものをぶっ壊す気満々だよ!!』


 シャロンが叫び応援席にいるメンバー達が一斉に逃げ出す。そんな地獄絵図の中、ロリっ娘の一人、五期生のフェン・アイシクルが逃げずにその場に留まっていた。

 フェンリルの女の子という設定の彼女は、ホテルビュッフェや料理配信が有名で彼女の配信のお陰で陽菜との初デートが上手くいったと言っても過言ではない。

 そんな恩人にアサシンの凶刃が迫っている。逃げてーーーーーーーーーー!!


 俺の心の声が届くハズもなくホロウはフェンに近寄りインタビューを始めた。しかし、フェンは余裕の笑みを浮かべている。これは……。


『料理を食べるのも作るのも好きでお嫁さんにしたいVTuberランキング上位のフェンさんですが、噂によるとメンバー限定配信ではかなり攻めた内容とのことですね。それはつまり――』


『ふふふ、契約者君のお陰でボクは美味しいご飯が食べられているからねぇ。だからメン限でたっぷりお返しがしたいんだよね。ボクの配信は料理で契約者君の胃袋を掴んで~、メン限は別のナニかを掴んじゃう、みたいな感じかな~?』


『……酔ってる?』


『酔ってないよシラフだよ~。ま、基本的にメン限の情報は秘密厳守だからこれ以上は言えないけど、ホロウだってメン限の内容は中々でしょ? 同じドM同士仲良くしようよ~』


 ちなみにぶいなろっ!!メンバーの中ではこの二人に一期生の戦士サリッサ・アーガマを加えて三大ドMライバーとして世間では認知されている。

 実際、画面の奥ではサリッサが仲間に加わりたそうな顔をして二人を眺めている。その一方でホロウは不服そうな態度を見せていた。

 

『私はノーマルだ。け、決してドMではない!』


 フェンにはホロウの言葉の刃は届かず、逆にカウンターを食らってたじろいでいる。その様子を見たフェンはニヤリと笑っていた。


『ボク最近チャーシュー作りにハメ……ハマってるんだけど亀甲縛りにするとジューシーな肉汁が出て美味しいんだよ。だからさ、最近考えちゃうんだよね。これって人に対しても同じ事が言えるんじゃないかって。と言うわけでホロウ、一回縛っても良い?』


『こ、断る! 亀甲縛りされた上に天井から吊されるなんてまっぴらごめんだ!』


『あれあれぇ~、おっかしいなぁ。ボクは縛るとは言ったけど亀甲縛りとは言ってないし、吊すなんて一言も言ってないよぉ? ホロウったらどんな想像をしたんだい?』


『くっ……』


『縛られて天井から吊されたりなんかしたら一体どうなってしまうんだろう? はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!』


 煽るドMフェンリル、何やかんやでドMアサシン、いつの間にか側に居て会話に入ってきた想像力豊かな生粋のドM女騎士。

 ぶいなろっ!!のドM三銃士が揃うと発言のセンシティブレベルが爆上がりするため、BANされるのを防ぐ手立てとして慌てて画面が切り替わる。


 すると今度は応援席スペースの一角に突然部屋のセットが出現した。

 その部屋のソファに座っているのは四期生、ダークエルフのシャルル・アンバーと六期生、悪魔のベルフェ・ナハトの二人だ。

 シャルルは長い銀髪を両サイドで大きなお団子ヘアーにして黄色いワンピースを着ており、一方のベルフェは小柄なロリっ娘なのだが白い男性物のスーツ姿にサングラスという不可思議な格好をしていた。一瞬、七五三かと思ってしまった。


 ――さて、ここからはぶいなろっ!!名物『分かる人には分かるアニメのワンシーン再現コント』にお付き合いください。


『金髪のエルフが勝つわ』


『ん? まだレースは始まっていないハズだが……』


『分かるわ。その為に悪魔は私のような女を拾ってくれたんでしょう?』


『シャルルは賢いな』


『ふふふ……そういう言い方、嫌いです。大人っぽくって……あなた見た目子供のクセに』


『そうだな気をつけ――って今、ベル様の事さりげなくディスらなかった?』


 シャルルの予言めいた発言に対し大人ぶった話し方で答えるベルフェ。不思議な雰囲気で会話が進んでいると不意にシャルルのツッコミが入りベルフェは困惑していた。

 困惑していたのは他のぶいなろっ!!メンバーも同じで、この伝わってるんだか伝わってないんだか不明な会話をどうにかすべくノームが話に割って入る。


『お前ら何やってるんだ?』


『……ガ〇マか』


『ガル〇じゃねえよ、ノームだよ。ベルお前なんだその格好、七五三かよ』


 どうやら白いスーツ姿のベルフェを見て七五三みたいだと思っていたのは俺だけではなかったらしい。


『君は良い友人だったが……君の父上がいけないのだよ! ハハハハハハハハ!!』


『いやいやいや、オレの父親猫と戯れるのが好きな平和主義者だから! そんな物騒なおっさんじゃないから!』


 一人芝居を強行するベルフェに置いてけぼり感を食らってノームは益々困惑する。

絶好調のベルフェはグラスに入った飲み物を飲み干すとテーブルに置き、残った氷がカランと音を立てる。そして――。


『坊やだからさ』


『お前にだけは言われたくないよ!』


 見た目ショタっぽい二人のコントが終わりを迎えるとシャルルがクスクス笑っていた。


ときが見え――』


『もうお前等とっくにネタが尽きて知ってる台詞を適当に言ってるだけだろ! 一年戦争ネタは有識者の厳しいジャッジが入るかもだから、やるなら丁寧にやれとあれほど……』


 こうしてやりきった感を出し満足した表情をしているベルフェとシャルルに対しノームはレース前から既に疲労困憊の様子だった。彼女にこそピットインが必要かも知れない。

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