第97配信 おなマン事件 File6
「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽ……ぽぽぽぽ……ぽぽぽぽぽぽ……」
「ぽ」と言ってるだけで恐怖のどん底に落ちていく四人を見ていたら何だか楽しくなってきてしまった。
「ぽっぽっぽ、ぽーぽぽっぽー……ぽぽぽーぽ・ぽーぽぽ……ぽーぽっぽっぽ……ぽぉーーーー!」
「な……何だか既視感のある発音がちらほら……気のせいか?」
「そんな事より逃げようよ! 尺八様だよ、尺八様っ!! あんな大きいの絶対ムリだって!」
「さっきからあんたぁ、尺八、尺八ってわざとでしょー!! 尺八で大きくてムリとかヤバいよぉ。この状況で冷静なのフェニママしかいないじゃん。そうでしょー、フェニマ……マ? ああっ! 立ったまま気絶してるぅ!!」
「本当だ……道理でさっきから静かな訳だ。――弁慶かな?」
「うわぁーーーーーーーーーん!! フェニスが死んじゃったよーーーーーーーーー!!」
何だか「ぽ」言ってるだけで人を気絶させてしまった。とにかく四名が一箇所に集まった今なら……!!
「ぽぉーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
身に
「いやぁぁぁぁぁぁぁ、八尺様に攻撃されたぁ! ……って、あれ……柔軟剤の良い香りがするぅ」
「あ、ホント……フローラルなかほりが……それに温かい」
慎重に椅子から降りるとシーツに覆われた四人とすれ違いリビング目指してダッシュする。まさかここまで上手くいくとは。
「ぽーぽっぽっぽ! ぽーぽっぽっぽ……ぽぽぽ……ぐぽぉっ!?」
何かを踏んづけ滑って勢いよく転んで胸を床に強打。思わぬ大ダメージを受けて痛みと呼吸困難に襲われる。俺を転倒させた元凶を確かめるとそれはパンティーだった。
昼間に回収し損ねたパンティーか? くそっ、全部洗濯したと思ったのに洗い損じた奴がまだいたのか。まさかここに来てパンティーに足元をすくわれるとは思わなかった。
「ぐふっ……おう……うぅ……」
「激しい音が聞こえたけど何が起きたの!? それに何か男性の
くっ……このままじゃパチモン八尺様の正体が男だとバレてしまう。頑張れ……俺!
「……ぽ……ぽぅ~……ぽぅ~……」
「やっぱり八尺様の声が聞こえるぅ! でも何だか弱ってる気がするなぁ」
何とか裏声を絞り出す事が出来たが、それは余りにも弱々しいものだった。一瞬の油断でこんな状況になってしまうなんて……不覚!
長時間の飲酒によって思考能力と身体能力が低下したライバー達はすぐにはシーツから出てこられない様子。この隙にリビングに行って仕込みをしなければ……!
呼吸を整えながらドアに到達すると陽菜と
「ぽぽ、ぽーぽー……ぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ!! ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ。ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっぽぽぽぽ! ぽぽぽぽぽぽぽぽぽっぽぽぽぽぽ!!(ガブ、ルーシー……この薄情者がっ!! よくも俺を忘れてくれたな。そこで俺がする事を黙って見てろ! お前等の処遇は追って沙汰する!!)」
「ふぇ~ん! ごめんなさぁい、許じでぐだざぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「お願いだから怒らないでぇぇぇぇぇ!! ずみまぜんでじたぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぽぽ!(ふん!)」
泣いて謝罪する二人を尻目にテーブルに置かれた飲みかけのグラスに注目しスピ〇タスと書かれた瓶を手に取る。
「あ、それは……!」
「ぽぽっぽ!!(シャラップ!!)」
ガブを黙らせ、某裸とスキューバダイビングの漫画によく出てくるアルコール度数が危険な酒『ス〇リタス』を四人のグラスに適量入れてかき混ぜる。
それを青ざめた顔で見ているガブとルーシー。二人のグラスにもスピリ〇スを少量入れて提供する。
「ぽぽ、ぽぽぽぽぽ(さあ、おあがりよ)」
そう言い残すと俺は忍びの如くキャスター付き椅子と白帽子を回収し洗面室に戻って全ての部屋のブレーカーを復旧させた。それに合わせてセシリーもリビングの明かりを点けて部屋の中は光で満ちる。
「あれ? 明るくなった?」
「八尺様がいなくなったぁ? ネプ達は助かったのぉ?」
「ひっく……ひぐ……ざまーみろ、尺八ーーーーーーーー!! バーカ、バーカ、バーーーーーーーーカ!」
「……はっ! あらぁ、あたしは今まで何をしていたのかしらぁ?」
シーツから抜け出た、サリッサ、シャロン、ネプーチュ、フェニスの四人はリビングに戻ると号泣しているガブとルーシーを見て泣いた。
それはもらい泣きだったのか怪異が去った事による安堵によるものだったのか、とにかく六人のライバーは暫く泣きまくり、リスナーはこの不可思議な配信に興奮し気が付けば同接が五十万人を超える神回になっていた。
何やかんやで八尺様は去ったという事で六人は祝杯をあげる流れになった。
「それではぁ、生き残った事を祝いましてぇーネプが乾杯の音頭を取らせて頂きまぁす! それではかんぱーーーーーーい!」
「「「かんぱーーーーーーい!!」」」
「「か……かんぱぁーい」」
ス〇リタス入りの酒を飲んだ六人はグラスを飲み干すと間もなく全員酔い潰れた。残されたリスナーが困惑する中、セシリーによって配信はエンディングに突入する。
『ポポポポ(オシマイ)』
コメント欄
:ギャーーーーーーーーーー!!
:八尺様、まだおるやんけーーーーーーーーー!!
:ひえっ!!
:逃げてーーーーーー!
:六人はどうなったんだ?
:バッドエンディングじゃねーか!
:全滅だと!?
:誰かゴーストバス〇ーズを呼んでーーーーー!!
最後までカオスな状況のまま配信が終わりリビングに戻ってくると六人の女性がテーブルに突っ伏した状態で寝ていた。
陽菜と月以外のメンバーの顔を見ないようにして各々にタオルケットを掛けると再び潜伏するために寝室に戻る。
『ぽぽぽ……ぽぽ……』
何処からともなくこの短時間で慣れ親しんだ音声が聞こえてくる。
「セシリー、皆寝たし配信も終わったから八尺様の真似はもうしなくていいよ」
『私は何も言っていまセンヨ』
「……は?」
視線を感じ寝室の窓に目を向けると外に巨大な人影が見えた。白いワンピースに白い帽子。そして二メートル以上はある高身長の女性のフォルム。
そこに人が居るハズがない。だってそこはベランダで俺が知る限り人の出入りは無かった。その事実がそこにいる存在を人間ではないと言っている。
恐怖で身体が動かず視線がその存在に釘付けになる。そいつはゆっくり顔を上げると長い髪の隙間から覗いた目で俺を見た。
『ぽぽぽ……ぽぽぽ……ぽ……ぽぽ……』
互いに視線が絡み合い、そいつの目をもろに見てしまう。それは現世に生きる者ではなかった。本物の怪異……本物の八尺様だった。
「あ……あぁ……あ、ぽーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
意識が戻ると窓から陽光が差し込んでいる事に気が付く。俺は寝室の床に仰向けになっておりタオルケットが掛けられていた。寝ぼけた頭でこんな状況になっている経緯を思い出していると意識が途切れる前に見た怪異に行き当たる。
背筋が寒くなりタオルケットを抱きしめる。まさか本物が出てくるとは思わなかった。モノマネして悪ノリしたから「アンタ調子に乗るんじゃないわよー!」ってな感じでやって来たのかも知れない。八尺様の真似は封印しよ。
「あ、優さん目が覚めたんですね。おはようございます」
「ぽぽ、ぽぽぽぽ。ぽぽぽぽ……?(陽菜、おはよう。皆は……?)」
「皆さんはお部屋に帰っていきました。寝室で優さんが横になっていたので驚いていましたよ」
「ぽぽぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽ。ぽぽっぽぽぽぽ(と言うことは、昨夜の件は俺の仕業だってバレちゃったか。怒ってたよね)」
「実を言うと皆酔ってて配信中の出来事をあまり覚えていなかったんです。それでアーカイブを観直したら爆笑してました。優さんにありがとうって言ってましたよ」
「ぽっぽー(そっかー)」
安心していると月が帰ってきた。二日酔いの皆を送ってきたらしい。
「ただいまー。優、おはよう」
「ぽぽぽぽ、ぽぽ(おはよう、月)」
こうして後におなマン事件と呼ばれる騒動は幕を閉じた。実に大変で楽しくて怖かった夜だった。それにしても本物の怪異が出てくるとは思わなかった。
案外そのような存在は身近に居て自分たちが気が付いていないだけなのかも知れない。怪異が本当に存在するのかしないのか……信じるか信じないかはあなた次第です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます