第3配信 初めての登録者さんです①

『はぁ……はぁ……何とか五面まで来た。でもこれが最後の一機……どこまで行ける、私……?』


 手に汗握る戦いが続きVTuber空野太陽はポコボイの謎の五面までやって来た。

 このゲームの自キャラであるロボットは残機を含めて四機。つまり四回破壊されたら第一ステージの最初に戻される鬼畜仕様。

 ただし裏技がありコマンド入力をすれば残機を九十九機にする事が可能だ。しかも何回もこの裏技は使える。

 

 果たしてその裏技――残機九十九の存在を知らないのか、それとも知っていて敢えて使わないのか……途中から配信を観始めた俺には分からない。


「ゲーム配信をする時は大抵ネタバレ禁止とか助言無しが当たり前だけど、何処にもそんな事は書いてないな。でも……」


 配信時間は既に九時間を越えている。このままだと配信十二時間の間に全面クリアするのは不可能だ。このゲームは全部で十面ある。

 九時間かけてやっと五面まで来たのにあと三時間で残りを全クリするのは無理がある。


「確かVTuberの配信って十二時間を越えるとアーカイブに残らないんだよな。そこら辺どう考えてるんだろう?」


 アーカイブはいわゆる見逃し配信だ。配信が残ればあとで誰かに観て貰うことが出来るので大事なポイントのハズだ。


『うーん、この調子なら開始から二十四時間以内には全クリ出来るかなぁ……』


 ……どうやらアーカイブの事は考えていないらしい。余計なお世話かも知れないけど訊いてみるか。


「えーと、『ゲーム配信中失礼します。助言しても大丈夫ですか?』っと」


 入力するとコメント欄に俺のユーザーネームのワンユウと共に送ったコメントが表示される。

 

『へっ……?』


 呟くと空野太陽の動きが止まりロボットの動きも止まり撃破されてしまった。画面にはデカデカとゲームオーバーと表示されている。

 それでも彼女の動きは止まったままだ。長時間ゲームやってるし、もしかして具合が悪くなったのかも知れない。


「一応安否確認するか、『大丈夫ですか?』……はい、入力」


 俺のコメントが表示されると空野太陽のアバターが勢いよく動き出した。


『ふぁぁぁっ!! ごめんなさい! 初めてコメントを頂いたのでビックリしてしまって……。視聴ありがとうございます。空野太陽と申します!』


:「あ、これはどうもご丁寧に。犬……じゃなかったワンユウと言います」


『ワンユウさんですね。今、観に来て下さったんですか?』


:「いや、二時間前から観てました」


 俺のコメントが表示されるとアバターが大きく震え出した。どうしたどうした?


『ごごごごごごごごご、ごめんなさい!! 私、気が付かなくって……。そんな……二時間も前から観てくれていたのに何の声かけもしないで……ごめんなさい!!』


 ……この人、めっちゃ良い人だ。それにやっぱり綺麗な声をしてる。癒やされるー。っと、大事な事を忘れていた。


:「俺が勝手に観ていただけなので気にしないでください。それよりも配信時間大丈夫ですか?」


『……配信時間?』


:「配信時間が十二時間を越えるとアーカイブに残らないでしょう?」


『……ああああああああああ!!!』


 絶叫が響き渡ってアバターがワタワタしている。あー、これはやっぱり忘れてたな。ここからどうするつもりだろう?

 彼女の動きが止まり深呼吸の声が聞こえてくると暫くして会話が再開した。


『この際アーカイブに残るとか残らないとか関係ないです。今はとにかくこのゲームをクリアするのがいち配信者として私の務めですから!』


 何と言うハングリー精神だ。既にこの極悪難易度ゲームと九時間以上戦っているとは思えない気迫を感じる。

 かと言って、ここから更に長時間連続で配信していたら体調を崩す事も十分に考えられる。ここはやはりこのクソゲーもとい鬼畜ゲーに対し早期決着をして貰いたい。


:「さっき言いかけたんですけど、ゲームの助言しても大丈夫ですか?」


『助言ですか? はい、大丈夫です』


 良かった。今までと同じ条件でやると言ったらどうしようかと思った。それではネットで調べた裏技情報を伝えますかね。


:「ゲームオーバー画面の時に特定のコマンドを入力すると残機が九十九になる裏技があります」


『残機……九十九。きゅう……じゅう……きゅう……? 九十九ッ!?』


 何回九十九言うんだこの人は。テンションがバグっている。

 無理もない。九時間の間、ステージを進めては全滅して最初のステージに戻される苦行を何度も繰り返していたんだ。おかしくもなるだろう。


:「この裏技は何回も使えます。実質、残機無限です。これならゲームオーバーになる事はありありません」


『た、確かに。それなら最初のステージからやり直す必要もないですよね』


:「ただしゲームの難易度が優しくなった訳じゃないので全クリまでの道のりは険しいです」


『ありがとうございます。空野太陽、最後までこのゲームに粉骨砕身で挑みます!』


 言葉のチョイスが時々渋くなるので面白い。裏技のコマンドを教えるとピロリロンと電子音が鳴り残機が九十九になった。良かった、情報通りだ。


:「頑張れ!」


『はい! 空野太陽――いきまーす!!』

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