第4話 どうも。そんな馬鹿な!?
「到着いたしました」
アインさんにそう言われ窓から外を見ると、俺には想像も出来ないような大豪邸が目の前に広がっていた。
えっ横幅すごっ。えっ縦も……えっお城?
「うわぁ……」
馬車から降りて辺りを見渡す。
眼の前の家はどっかの博物館か図書館かよって思う位には大きく、馬車が停まっているこの場も庭じゃねぇだろってくらいに広い。後ろを振り返ってみると、門がすごく遠くに見える。
大貴族の家って本当に門から玄関までが遠いんだな。庭なのにバラとか色んな花が咲いてる空間が芸術みたいだし、噴水なんかもある。もう俺等平民との生活レベルが雲泥の差過ぎる。
「ヴェイル殿、こちらです」
「あ、はい!」
アインさんの後をついて公爵邸の中に入る。
中に入ってもやはり隅々までこだわりが感じられる。絵や壺なんかの調度品はどう評価したら良いのか分からないが精巧に作られているし、今俺が歩いている床にも綺麗な赤いカーペットがずぅっと敷かれている。
外を歩いた靴で踏んでしまうのが申し訳ないくらいだ。
「こちらです。まずはご当主様に挨拶しましょうか」
「え、ご当主様!?」
嘘だろおい。俺はてっきりノワと会うだけの簡単なお仕事だと思ってたんだぞ! ……いや、そういえばアインさん『我が家の夕食会にお招き……』って言ってたわ! ノワ様の食事会じゃなくて我が家のってことはそういうことかぁ……。
もうどう考えてもここから引き返すことは無理なので、観念して会うことにする。
はぁ、不敬ダメ絶対。
暫く歩くと目的の部屋についたようで、アインさんが扉をノックする。
「ミルガー様、ヴェイル殿をお連れしました」
「入っていいよ」
すぐに部屋の中から返事が帰ってくると、アインさんは躊躇なく部屋の扉を開けて入っていった。
俺も行かなきゃだよな。
「失礼します」
「やぁ君がヴェイル君か。ノワが君のことを気に入ったらしくてね。失礼だとは思ったけど調べさせてもらったよ。今日は食事会だけだから、肩の力を抜いて楽しんでいって欲しいな」
「あ、はい、ありがとうございます」
部屋に入るまでは相当緊張していたのだが、実際に当主にあってみると何だか拍子抜けしてしまった。こう言うと失礼かもしれないが、ただの好青年にしか見えないのだ。
ノワのお父さんだけあって彫刻かと思うぐらいに美形だ。それにノワの面影もある。
瞳は翡翠で、灰色の髪の毛1本1本がサラサラとしているのが分かる。というかノワのお父さん20代半ばくらいにしか見えないんだけど? ノワって三女だよね? 少なくとも3児の父だよね? え、わっかぁ。
「で、王族に不敬発言したってほんと?」
「え゙っ……」
優しそうな見た目に油断し過ぎて変な声が出てしまった。
なんで知ってるんだ。いやノワのお父さんだから知ってても不思議じゃないか。いやでもここに来てそんな不敬発言とか言いだす!? さっき楽しんでって言ってたじゃん。
嘘……油断させるための? いやでも平民の俺にそんな手の込んだ事する必要ある!?
「ねぇ、聞いてるんだけど?」
「あ、その……」
ふぅ、落ち着け俺。何も答えないほうが失礼だ。それにアインさんも言ってだろ、アインさんやノワを見る限り恐らくこの人も身分には興味がない感じの人だ。
それにまだアインさんとノワの2人としか話してないけど、多分この家の人は変! だからもういっその事失礼とも取れる意見が言える平民になってしまおう!
「はい、言いました」
「へぇ、そうなんだ」
表情がピクリとも明るくならない。むしろ少し暗くなった?
やっべーミスったかこれ……?
「でも私はあれが不敬発言だとは思っていません。ノワ様には『不敬じゃない?』と揶揄われましたが、私は良い戦略だと褒めただけです」
「なるほどね、ちなみになんて褒めたんだい?」
「金色の粒子に包まれてるのを国民に見せる事は、王族、ひいては王国は神から寵愛を授かっていると、都合良く民衆に広める良い機会だなと。効率よく忠誠心を稼ぎ、更に敵愾心を削ぐ良い作戦でもあるな、と褒めました」
「そんなことを言ってたんだね。そっか……」
苦しいほどの沈黙が俺に突き刺さる。さっきの馬車の中でのアインさんの沈黙も相当苦しいものだったが、ミルガーさんのは桁が違う。この圧迫感には息が止まってしまいそうだ。
どれほど経ったのだろうか、30分、1時間……いや、実際は数秒しか経ってないのかも知れない。それほどまでに、もうこの空間に居たくないのだ。
地獄のような状況を耐えていると、ノックの音が部屋に響いた。
誰か来たのか? 救世主!
当主であるミルガーさんの返事を聞かずに、その扉は開かれた。いや、ノックの意味よ。
だが、そこから現れた人物を見ればノックだけだったのも納得だった。
「お父様。さっきから聞いていたけれど、私と同年代の子にそれほど強い威圧を放つなんてありえないでしょう。娘の招待客にそこまでするなんて正直キモいわよ」
「キモッ……!?」
ノワさん。お父さんにキモいはもうクリティカルよ。なんかさっきまで怖くて逃げ出したかったのに、今はミルガーさんのこと抱きしめてあげたいくらいになっちゃった。
「じゃあヴェイルは私が連れていくから。アインはお父様の介抱をしてあげて。前回は丸1日寝込んだもの」
「かしこまりました」
かしこまりましたじゃねーよアインさん。てか前回ってキモい発言初めてじゃないんですね。
娘って……つえぇな。
ノワに手を引かれて部屋を出ると、ノワが楽しそうにクスクスと笑いながら話しかけてきた。
「本当お父様には困ったわ。でも娘にキモいって言われてあそこまで落ち込むお父様も可愛いわね。本当、お母様の言うとおり愛らしい人だわ」
「あ、そうなんだ……」
「そうよ。それにヴェイルもやっぱり面白いわね。公爵であるお父様を前にして、堂々と王族の事を馬鹿にしつつ、威圧を向けられても平気な顔をしているなんてますます気に入ったわ」
「ありがとう……?」
なんでこの子自分のお父さんにダメージ与えて喜んでんのぉ!?
「ここよ」
ノワに連れてられたのは中庭のような場所だった。色とりどりの花に小さな噴水が落ち着く空間を作り出している。
家の中ではあるものの天井はガラス張りになっていて空がよく見える造りになっており、今は綺麗な星空が顔を覗かせている。
「綺麗だな」
「私が?」
「いや違……くはないけどね! さっきのはこの幻想的な空間に言ったのであって! いやノワが綺麗じゃないとか言ってるわけでもなくて!」
「ふふ、知ってるわ」
「なんなんだよもう!」
なんてふざけていると、いつの間にかメイドさんが来ていたようでテキパキとお菓子と飲み物を用意していた。
褐色の肌に青い瞳をした綺麗な人だ。王都でもあまり見ないぐらいには美人で、ついつい目で追ってしまう。
ブルノイル公爵家は雇う人物を顔で選んでるのだろうか。公爵邸で見かける人は皆美形だ。
「あ、すみません気づかなくて。わざわざありがとうございます」
「いえ、これが私の仕事ですので」
メイドさんはその美しさに比例するように優雅な所作でお茶会をセッティングし、何を話しかけても謙虚な姿勢を崩さなかった。
はぇぇ、これが本物のメイドってやつか、ほんとすごいんだな。一挙手一投足全てが洗練されているというか、素人目から見ても努力の果に手に入れた所作なんだろうなという事だけは分かる。
ん? ってかお茶会の準備? 食事会では?
疑問を抱いてメイドさんを目で追うと、メイドさんはセッティングした席がよく見える壁際でノワのことを凝視していた。
「はぁ……はぁ……」
え、メイドさん? なんで椅子に座って紅茶を飲んでるノワを見てハァハァしてるの?
「あの、食事会は……」
「可愛い……可愛すぎるぅ……」
メイドさんメイドさん、出てる、口からよだれ垂れまくってるから!
「あの~」
「ノワ様最高、命、天使、神……!」
メイドさん目逝っちゃってる! 目が開ききってる! 人に向けちゃいけない目してる! メイドさぁぁぁぁん!!
「ふぅ、お父様の食事会をシカトして飲むお紅茶は美味しいわ」
お前がこのお茶会の犯人かこの野郎っ! ノワ野郎っ! メイドさんどうにかして!!
はぁ……もうほんとやだこの家の人達。大貴族の家ってみんなこんな感じなのか?
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