第100話 無機質な音。なんで?

「じゃあこれからどうしますか」


 俺はシャナの名前を考えたあの場所で、ドライアドさん5人とシャナとフブキと俺の8人で話をしていた。


 俺がこれから今日中にやるべきことは、【依頼達成報告】【シャナのテイム報告】【無機質な音の確認】【ドライアドさん達の今後】の4つだ。あ、ラン先生との食事もあるか。


「私達は森に帰ろうと思います」

「私達の子には頼れるマスターが出来たです」

「私達も悲しい」

「でも、その子はマスターと一緒にいるべきっす」

「マスター、いえヴェイルさん。その子を、シャナをどうかよろしくお願いします」


 ドライアドさん達が1人ずつ言葉を紡いでいき、最後に学園長と相対したドライアドさんが代表して頭を下げた。それを見て、その話を聞いて、シャナが泣き出す。


「やだ! シャナやだ! まだ皆と一緒に居たいよ!」


 悲痛な叫びが辺りに響く。俺はそれを聞いて、胸が張り裂けそうな気持ちになる。ドライアドさん達も泣いていたり、眉をハの字にしていたり、皆一様に困ったり悲しんだりしている。


「駄目ですよシャナ。貴女はテイムされましたが、私達はただの魔物です。人間に紛れて街で暮らすことも出来ますが、強い人にはバレて討伐されてしまいます。実際にあの学園長という人にはひと目でバレていました」

「やだやだやだやだ! やだもん! まだ一緒にいるもん! マスターも皆も一緒にいるんだもん!」


 代表格のドライアドさんがどうにか説得しようとするが、シャナは泣き止まない。むしろどんどんと悲しみが深くなっているように見える。いや、感じる。


 なんで俺はテイマーなのに普通の魔物がテイム出来ないんだ! テイムできればこの人達も一緒にいられるのに!

 ……いや、そもそも俺がもし普通のテイマーだったとしても、ドライアドさん達は強すぎて俺の魂の容量を越えてしまう。俺がドライアドさん達より強くならなきゃテイムは現実的じゃない。


 本当は強いのに弱い状態で出てきたフブキ達や、子供かつ弱ってる状態で契約したシャナとは条件が違う。


 くそ! 何か出来ることはないのか!


 俺がそう悩んでいる間にも、シャナの悲痛な鳴き声が耳に届き、千切れそうなほど悲しんでいる感情が俺に流れてくる。


「あ、そう言えば……」


 俺はそこで1つの可能性を思いつく。一切の根拠も確実性も無いが、もしかしたら今回の問題を解決出来るかも知れない能力を。あの新しい力を。


 俺は心のなかで新しい力を発動しろと願う。確か名前は……眷属世界だ。


「へ?」


 俺が眷属世界と心の中で言った瞬間、眼の前に扉が現れる。木製のよくある扉。というか俺の実家の玄関。


 俺はそれを見て変な声が漏れてしまった。ドライアドさん達もシャナもフブキまでもがその扉を凝視している。


『主様主様~! 眷属世界手に入れてたんだね~! 凄いよ~!』


 珍しくフブキが凄く興奮している。俺の頭の上で飛び跳ねている。

 頭の上で飛び跳ねるの止めてね。首折れちゃうからね。


 まぁそんな願いでフブキが止まるわけもなく、早く開けてと脳内で急かしてくる。


『今開けるから待ってて』


 俺はドアノブに手をかけて扉を開く。扉は真っ暗で、先に何があるか分からない。


『ほら早く入って主様~』

『ちょ、これ危険じゃないの!? 大丈夫!?』

『大丈夫だから~』


 フブキに急かされて渋々中に入っていく。ゆっくりゆっくり指先、腕、肩、全身って感じに。


「うわぁなにこれ」


 中に入ると、小さな草原が広がっていた。家ぐらいなら普通に建てて庭も出来そうな範囲に。そこの範囲の外には、真っ白な壁が出来ていた。


「わー! なにこれ凄いー!」


 俺がその意味の分からない光景に混乱していると、いつの間にかシャナもこっちに来ていてはしゃいでいた。さっきまで泣いていたのが嘘だったかのようにはしゃいでいる。


 それなのに、ドライアドさん達が一向に入ってこない。俺はそれが不思議に思えて外に出た。


「あぁ出てきた! 良かったです! 急に何も無い所に消えたのでどうしたのかと!」

「何も無い所ですか?」


 俺が扉を閉めて指差すが、ドライアドさんは何も無いという。ドアを再び開けて黒い空間に腕を突っ込むと、俺の腕が無くなったと言う。


「本当に見えてないんですね……なんでだろう」

「私達がテイムされていないから、じゃないでしょうか」

「あー確かにそれはありそうですね」


 俺と代表ドライアドさんが話していると、フブキが黒から出てくる。


『ねぇねぇ主様~』

『どうしたフブキ?』

『なんでその人達を入れないの~?』

『入れない?』


 フブキがそんな言い方をしてくる。まるで俺が拒否しているかのようだ。


『うん~なんで入れないのかな~って思ってたんだ~』

『いや、入れないって言うかドライアドさん達は扉が見えてないみたいなんだ』

『あ~そっかぁ~主様と魂の繋がりが無いから見えないのか~』


 フブキはそこで納得すると、黒の中にまた入っていた。と、思ったらシャナを連れて出てきた。


『主様~シャナちゃんに話しかけて良い~?』

『脳内でか? 全然いいぞ』


 特に断ることじゃないので許可する。テレパシーかなんかで俺に助けを求めてたくらいだから脳内での会話も平気だろう。


 俺のその考えは当たっていたようで、シャナは動揺する素振りなく、2人で話しているみたいだった。シャナはニコニコしてフブキを抱きかかえて見つめ合っている。



 そんなほのぼのする光景をドライアドさん達と眺めながら暫く待っていると、急にシャナが物凄く喜びだした。


「やったやったやった! 直ぐにしてくるね!」

「えっと、どうしたんだシャナ?」

「あのねあのね、ふぶきくんが良い事を教えてくれたの!」

「良いこと?」


 シャナは嬉しそうにドライアドさん達に駆け寄っていった。


『良いことって何なんだフブキ?』

『えへへ~秘密~』


 そんなお茶目で可愛らしいフブキに俺は見事に黙らされ、俺はシャナの行動を静かに見守る事になった。


 シャナはドライアドらしく近くにあった木に触れると、小さなコップを5つ作り出した。そして、風魔法で自分の腕を切った。結構深く。


「「「シャナ!?」」」


 俺とドライアドさん達の悲鳴が重なる。それもそのはず、シャナがいきなり自傷しだしたからだ。

 代表ドライアドさんがシャナを捕まえようとするが、シャナは痛みを気にしてない様子で逃げ回り、作ったコップに自分の透明な血を注いでいった。そして、5つのコップに注ぎ切ると木で傷を塞いだ。


「見ててね!」


 シャナはそう言うとコップを1つ持ち、むむむっとそれに向かって何かを送っているようだった。おそらく魔力だ。

 魔力を送られたコップの中に透明な血は淡く光り、そしてシャナが念じるのを辞めると光も止まった。それを5つ分にやる。


 その作業が終わったシャナは満面の笑みでコップを持って、ドライアドさん達の方に駆け寄る。あんなにいっぱい持って走ったら転んじゃいそうだ。


「皆! これ飲んで!」

「これを?」

「うん!」

 

 シャナが無邪気な笑顔でコップを1人ずつに渡す。そして渡されたドライアドさん達は困惑した表情だ。

 まぁそれも無理もない。いきなり魔力を注いだ血を配られたらそうなる。


「早く早く!」

「分かったわ」


 ドライアドさんの1人がシャナの押しに負けて血を飲む。


「嘘……」


 血を飲んだドライアドさんが口を抑えて驚いて、目を擦ったりしている。そして、その視線は俺が出した扉に向いている。


「み、皆も早く飲んでみて!」

「え~どうしたのよいったい?」

「良いから早く!」


 ドライアドさんの強い押しでほかのドライアドさん達も全員が血を飲み、全員が同じ反応をしている。


 え、もしかして……?


「あの、もしかして全員扉見えてますか?」

「「「見えてます……」」」


 何故か見えるようになったのだった。





 あ、因みにこれは後で聞いたのだが、ドライアドの血は樹液みたいなものらしく、別に血を飲むこと事態には嫌悪感はないらしい。よかったね。

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