第101話 眷属世界。すげぇ
何故かドライアドさん達が、急に扉が見えるようになった。
なのでその調子で入れるかもしれないと思い、そのままみんなで中に入ろうと挑戦してみると……。
「うわ、まじで入れた」
ドライアドさん達全員を含めてこの場にこれた。何もないちょっとした広さの草原に。
「でもなんで急に入れるようになったんだ?」
「それはシャナちゃんとドライアドさん達が
「へーそうなのか……ってフブキ声に出しちゃってる!!」
何故か急にフブキが脳内じゃなくて声で話し出した。
なんで!? 反抗期? 反抗期なの!?
「落ち着いて主様〜全部説明するよ〜」
「あ、あぁごめん。取り乱した。説明お願いします」
「ここはね――」
そこからフブキは詳しく説明してくれた。
この世界は『眷属世界』と言い、黒の粒子であるエンシェントテイマーだけが持つ特別な空間なのだとか。外界とは一切合切全てが断絶されており、俺の魂と結び付きがある者しか入れないそう。
つまり、俺がテイムした子しか入れない。
じゃあなんでドライアドさん達が入れるようになったのか。それの理由が先程フブキが言った群長の契約のお陰だそう。
これは一部の魔物の群れがやっている事らしく、血を提供した者を頂点として仲間が部下になり、一心同体とでも呼べるような存在に成るのだとか。
メリットは連携力の強化と群れ部下の能力向上。デメリットは長が死ぬと部下も全員死ぬ事。
この群長の契約をした事で、ドライアドさん達はシャナの部下であり、一心同体的存在としてシャナの魂と結び付いたらしい。シャナよりも下という存在として。
そうなれば、シャナの一部かつ間接的に俺とも魂が繋がっているわけで、ドライアドさん達もこの世界に入る事が出来るようになるらしい。
「なるほどな〜ってドライアドさん達はそれで良かったんですか!?」
「えぇ私達は別に……ねぇ?」
「うん、大丈夫」
「問題ないです」
「だいじょーぶです」
「平気ですよ」
ドライアドさん達が口々にそう言う。けれど、マスターとしてこれはシャナを叱らなきゃだめだ。
「シャナ」
「なにー!」
シャナが満面の笑みで胸を張る。それを見て俺はしかるのが心苦しくなるが、ここは心を鬼にしなければいけない。
「あのねシャナ。今シャナがしたのは、ドライアドさん達の今後の人生を左右するものだよ。それは分かる?」
「うん……」
俺の声の感じで怒られると分かったのか、シャナが一気にしゅんとする。
「シャナがもし倒れちゃったら、ドライアドさん達全員も一緒に倒れちゃうんだよ。シャナはそれをドライアドさん達に聞かずに勝手に決めちゃったんだよ。どう思う?」
「よくない……」
「そうだよね。じゃあドライアドさん達に謝れる?」
「うん……みんなっ、勝手に決めてっ……ごめんなさいっ」
シャナは泣きなりながら自分の服を掴んで、消えそうな声で謝った。
俺はそれを見て強烈な罪悪感に襲われるが、シャナの為にはこれは怒るべきだった。
他人の人生を左右するような決断を、他人に確認する事なく押し付けるのは良くない。今回は結果的に誰もが了承はしたが、今後そうとは限らないからな。
そういう理不尽を押し付けるような子になって欲しくない。
「良いんですよシャナ。私は気にしてませんから」
「……うん、ごめんね」
悪役は俺で良い。くっ!
「……マスターも、ごめんね。……怒ってくれてありがとう」
「ううっ! なんで良い子! 大好きだよシャナ!!」
まさかのシャナが俺にまで抱きついて謝ってきた。なんて賢くてなんて素直でなんて良い子なのだろうか。
「うんうん、シャナちゃんは良い子だね〜」
「あ、フブキさん。アナタには別でお話があります」
「あれ僕も~? ごめんね主様〜」
「許しません。こっちに来て下さい」
子供ならまだしも、フブキさんがあれを黙っていたのはもっと良くないよね。
閑話休題。
「よし、これならもう大丈夫そうですね!」
俺はドライアドさん達に向けてそう言い放つ。すると、ドライアドさん達は何のことだか分かっていないようだった。
「えっと、何がでしょうか?」
「いやいやあれですよ! もうシャナも泣かないですね!」
「あっ! そうですね! 確かにそうです!」
ここでようやく代表ドライアドさんが理解する。そして、代表ドライアドさんが他のドライアドさん達にも教えて、全員がそれに気づく。
そう、ドライアドさん達がこの世界に入れたのならもう問題はないのだ。これからは、俺が扉を出せばシャナはドライアドさん達に会える。なんなら、シャナとドライアドさん達は一緒に暮らしたって良い。
少しこの世界は狭いけれど、ドライアドさん達が住むだけなら大丈夫だ。植林とかをする必要はあるけれど、それはドライアドさん達の本業だからいけるだろう。
そんな感じで俺とドライアドさん達が計画を立てていると、俺に怒られてしょんぼりしたフブキが俺の脚にすり寄ってきた。
ちょっと怒りすぎたかな。
「どうしたんだフブキ」
「もう怒ってない~?」
「もう怒ってないよ。だからほら、おいで」
「わ~やった~!」
フブキが俺の胸の中に飛び込んでくる。なんて可愛い子猫ちゃんだ。あ、違った。子獅子ちゃんなんだ。
「あのね主様~あそこの木に行って~」
「木? どこに木なんてあるんだ?」
フブキの向いている方を見ても、どこにも木なんて無い。もしかして俺に怒られたショックで幻覚を……?
「フブキ怒ってゴメンな。あそこに木はないよ。君が見ているのは幻なんだ。大好きだぞフブキ」
「違うよ幻覚じゃないよ~あそこだよ~。もっと下~」
「下?」
そう言われフブキが見ている方向の地面を見てみると、確かにこの世界の中央辺りに小さな小さな木が生えている。木というかもう草程度の大きさだ。
俺はフブキの指示通りその木に近づく。近くで見ると更にその小ささが鮮明に分かる。
「これがどうしたんだ?」
「これにね魔力を注ぐんだよ~」
「魔力を?」
「主様でも良いし僕でも良いし~シャナちゃんでもドライアドさん達でも大丈夫だよ~」
俺はそのフブキの言葉に従って魔力を少し注ぐ。すると木は本当に少しだけ成長した。小指の爪分くらい伸びたかな?
「おぉ、少し成長したな。で、だからなんなんだ?」
「も~もっといっぱい注ぐんだよ~魔力多いんだから頑張って~」
「いやでも今日結構使ってるんだけどな……」
東の森での討伐に、シャナの回復の時の魔法の肩代わり、シャナの魔力枯渇回復のための譲渡などなど。
魔力消費が今日は多くて、正直疲れ切っている。全ての問題が片付いたら速攻で寝たいくらいだ。
「そっか~確かにそうだよね~」
フブキが残念そうにしていると、ドライアドさん達がおずおずと手を上げて俺達の視界に入ってきた。
「どうしたんですか?」
「あの、話が聞こえちゃったんですけど、それなら私達が魔力を注ぎましょうか?」
「え、良いんですか!」
代表ドライアドさんがそんな提案をしてくれる。俺的には願ってもない事だ。
「植物に魔力を注ぐのは好きですし、こんな外敵のいない居場所を提供して下さるんですから、それぐらいはさせて下さい」
「じゃあすみません。お願いします」
「はい、皆! やるよ!」
「「「はーい」」」
代表ドライアドさんの掛け声で全員が木に集まって、魔力を注ぎだす。すると、木は淡く光りだして見るからに成長しだした。
小指程だったのが、8cm……10cm……12cm……と成長していき、最終的には15cm程まで成長した。
「もう……もう無理です……」
ドライアドさん達は皆一様にヘトヘトになっており、全力で魔力を注いでくれたということが分かる。そこまでやってくれるなんて感謝してもしきれない。
そして、木がここまで成長すれば、俺も変化に気づく。フブキが俺をここに誘導した理由にも気づく。
「本当に凄いな。この木に魔力を注げば、この木が育って、この世界も大きくなるのか」
「そうだよ~」
明らかにこの世界の大きさが広がっているのだった。
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