第102話 登録。可愛い!!!

「すみません~」


 俺は今テイマーギルドに来ている。


 それもこれもシャナとドライアドさん達が離れ離れになってしまう問題が解決できたので、早速シャナをテイムした登録をしないといけないからだ。


 後は冒険者ギルドで討伐依頼の達成報告もしないといけないけれど、その為にもテイム登録をしなくてはいけない。万が一にも冒険者ギルドでシャナが討伐されたりなんかしたら最悪だ。


「はーい、なんでしょうか。ってヴェイル君ですか、お久しぶりです」

「お久しぶりですリンさん」


 この薄い水色の髪をした可愛らしい女性はリンさん。ラン先生の姉で、テイマーギルドの受付嬢をしている。


「今日はどんなご要件で……ってその子関係ですよね? 初めて見る子ですし、テイム登録という事でよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 リンさんは丁寧な態度ながらも、どこかソワソワしたような顔で1枚の紙を手渡してきた。


 その紙に前回と同様にシャナの事を書いていく。名前、性別、特技、年齢。そして種族。


「はい、では確認しますね。名前シャナ、性別は女の子ですか、じゃあシャナちゃんですね。そして特技は風と毒、年齢は7歳ですか。そして種族が……ポイズン・ドライアド」


 リンさんが静かに驚愕する。流石は受付嬢だ、驚いても大声で驚いたりはしない。


「この種族名は正確なものですか?」

「はい、確認方法は言えませんが間違いないです」

「分かりました。……種族鑑定の魔道具を使ってもよろしいですか? 使い方を教えますので、先にご自身でフブキくんに使って下さって構いません」

「分かりました」


 眼鏡のような魔道具を渡される。そして、それをかけて魔力を流してフブキの事を見る。


【種族:白獅子王】


 こんな簡単に種族がバレるのかと少し驚きつつ、本当に種族名しかでなかったのでリンさんに返して、シャナを見ることを了承する。そしてちゃんとフブキは机の下に行ってもらって見えないようにする。


「はい、確認できました。ポイズン・ドライアドで間違いありませんね。新種ですよヴェイル君!」


 事務的ではなく、素の笑顔でリンさんが喜ぶ。そんなリンさんを見てなんだか照れくさくなる。


「そうみたいですね。運が良かったみたいです」


 リンさんが小声ではあるが、少し興奮した様子で身を乗り出しかけている。乗り出してはいない。乗り出しかけているだけだ。

 そして、直ぐに冷静さを取り戻す。


「ふぅ……本当に凄いです。どうしますか、テイマーギルドの魔物図鑑に載せてもよろしいですか? 報奨が出ますよ」

「うーんそうですね」


 登録するか? いやでもあんまり特別だって知られない方が良いかも知れないよな。あー……でも街中歩くし、逆に図鑑に載ってる方が他の人的には安心なのか。うーーん。


「お願いします」

「はい、少々お待ち下さい」


 俺は悩んだ末に登録することにした。

 登録することでシャナの情報を知られる可能性もあるけれど、まぁ知られて困るような情報――寵愛を受けしものっていう称号とかね――は教えていないし、未知の魔物っていう見られ方よりは良い見られ方をされるようになるだろう。なんて考えたからだ。


 俺の返事を聞いて、リンさんは少しルンルンとしながら裏へと消えていった。

 俺はそんなリンさんの背中を眺めながら、シャナの頭を撫でる。まぁ待ってる間暇だからシャナと遊んでいよう。


 シャナを肩車して揺れる遊びをすること5分。リンさんが帰ってきた。


「お待たせしました。こちらテイムの証のリングです。そして、こちらが登録する内容です。ご確認下さい」

「はい」


 俺はテイムした証のリングを受け取り、シャナの事が書かれた紙も受け取る。


「シャナ。これから俺と一緒に街で過ごす為には、ずっとこれを付けていないと駄目なんだけど、どこに付けたい?」


 俺はしゃがんでテイムの証をシャナに見せる。シャナは証を手に取り、回したり傾けたり光に当てたりして観察している。


「わー金色で綺麗ー! これくれるのマスター?」

「うん、それはシャナの物だよ」

「シャナこれずっと持ってる! ふぶきくん、お揃いだね!」


 そう言うとシャナは自分の左手首にリングを付けた。そして、リングは少しの余裕を残して縮みだし、シャナの細い手首からぴったり外れないようになる。


 シャナがフブキに左手首の証を見せて、フブキも尻尾の先端にある証を見せる。そしてそのままじゃれ合っている。



 んー……可愛い!!!!!



 嬉しそうに飛び跳ねているシャナの頭を撫で、俺はシャナの情報が書かれた紙をじっくり見る。隅から隅まで全て。……が、書かれているのは本当にちょっとしたことだった。


『ドライアドの変異種。肌は薄い紫色で、桃色とも解釈できる。髪の毛は薄い灰色をしており、それ以外は人と変わらぬ見た目をしている。小さな子供。非常に可愛らしく、知能が高い』


 こんな感じ。

 属性は書かないんだな。俺が見た魔物図鑑には属性も載っていたので、これはリンさんの気遣いなのかも知れない。


「はい、これで大丈夫です」

「ではこれで記載しておきますね。こちら新種発見と記載許可による報酬です」

「ありがとうございます」


 小さな小袋を開くと、中には3枚の硬化が入っていた。それは茶色でも銀色でもなく、眩しい輝きを放っている。


「き、金貨ですか!?」

「声が大きいですよヴェイル君」

「あ、すみません」


 俺とリンさんは周囲を見渡す。幸いにも、ギルド内には職員以外誰もいないようだった。


「ふぅ……良かった。それにしてもこんなに貰えるんですか?」

「今日日、新種の発見報告は殆ど無いですからね。これぐらい支払われるんですよ」

「そういうものですか」

「そういうものです。臨時の収入だと喜んで下さい」

「そうします」


 なんてやり取りをして、少し雑談をしたらテイマーギルドを出る。今日は疲れたから早めに切り上げだ。




『それにしても、フブキが大きくなった事よく気づいたよなリンさん』

『ね~凄いね~』


 最後の雑談でフブキが大きくなったのをリンさんが指摘した。フブキは3匹の中でも全然変わったない方なのに、気付いた。本当に凄い。



 そんな風にリンさんの観察眼の凄さに感嘆していれば、冒険者ギルドに到着する。


 俺は慣れてきた冒険者ギルドに躊躇いなく入って、一番空いている受付に向かう。夕方で酒場も非常に賑わっているのに、本当にあの受付だけはガラガラだ。


「シュバインさん~」

「ヴェイルっ!!」


 俺がシャナと手を繋ぎながら呑気にシュバインさんに話しかけると、俺に気づいたシュバインさんが受付から身を乗り出して肩を掴んできた。


「えっちょっどうしたんですか!?」

「大丈夫か!? 怪我はないか!?」


 シュバインさんは軽い身のこなしで受付を飛び越えると、俺の全身を下から上までじーーっと見ていく。俺が混乱して動こうものなら、軽く押さえつけられてしまう。


 力つえー。


「……どこにも怪我はない、か。ふぅ……」

「えーっと、これは……?」


 シュバインさんってばどうしてしまったんだ、と俺が困惑していると、隣で受付をしていた女性が助け舟を出してくれた。


「サブマスター、ヴェイル君が困ってますよ。早く受付内に戻って下さい」

「あ、あぁ、すまない」


 シュバインさんは受付嬢さんの言葉でハッとし、静かに受付の中に戻っていった。そして、受付嬢さんは苦笑いしながら俺にも事情を説明してくれる。


「ごめんねヴェイル君。サブマスターってばヴェイル君が全然帰ってこないから心配してたのよ。『俺が受注許可を出した依頼で何かあったのか……無事なのか……』って。うじうじうじうじ、もう女の子みたいだったわ」

「お、おい! うるさいぞ仕事に戻れ!」


 受付嬢さんの話を聞いてシュバインさんが怖い顔で怒鳴る。怒られた受付嬢さんは少しも悪びれた様子なく、すみません~っと笑いながら謝って業務に戻った。


 そして、俺とシュバインさんの間に微妙な空気が流れる。


「えーっと、ご心配おかけしました」

「ごほん。いや、良い。俺が勝手に心配しただけだ。ヴェイルは普段から依頼達成報告が早いからな。何かあったのではないかと勘ぐっただけだ」


 シュバインさんは照れくさそうに頬を掻く。強面の大男がやっても可愛くはない。……けれど心配してくれたその気持は純粋に嬉しい。


 なので俺は依頼達成報告と合わせて、事の経緯を全部説明した。


「――って事があって報告に来るのが遅れました。あ、そうだフォレストウルフの素材はいつもの所で良いですか?」

「素材はいつもの所で良い。それにしてもそんな事があったんだな。まぁなんだ、無事ならそれでいい」


 シュバインさんはそれだけ言うと依頼達成の手続きをして、報酬を俺に渡す。


「じゃあもう疲れてるだろう。今日は素材を渡したら帰れ」

「そうですね、そうします」

「またな」

「はい、また!」


 シュバインさんは自分が照れくさいから早く話を切り上げたかっただけなのかもしれないが、手をしっしっと振って早く帰れと促してきた。だがその顔は不器用に笑っている。


 もしかしてシュバインさんて可愛い人なのか……?



 そんなこんなで、テイマーギルドと冒険者ギルドでの用事も終わらせ、臨時収入もあったことだしホクホク気分で寮に帰る。


 今日はもう休むかどうか迷いどころだ。ドライアドさん達のことも、眷属世界の事もまだまだ知りたいことはある。どうしようかなー。

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