第103話 どうしてここに?
あの後、寮に帰ってラン先生と食事をした後にのんびりしていたら、リオンとショウが修行から帰ってきた。
そして、二人して眷属世界を開いた事をどうにかして感知したのか、唐突に眷属世界に行きたいと言い出した。
はい、だから来ましたよ。
「おぉ! まさしく眷属世界!」
「素晴らしいですね。外敵の居ない空間、落ち着きます」
リオンとショウが興奮しながら俺に向かって話しかけてくる。
普段あんまり感情を表に出さないショウまでこの有り様なのだ。この子達がどれだけこの空間を待ち望んでいたのかが理解できる。
っていうかなんでこの空間の事知ってるんだろうな。
「王よ、早く世界を拡張しよう。そして我の空間を作るんだ」
「とは言っても魔力が無いからねぇ」
「リオン、我儘を言うな主の迷惑だろう。主、そういう事なら私がやりましょう」
「お、良いの? ショウ」
「はい、私はまだ魔力が有り余ってますので」
「む、ショウにだけ良い格好はさせられんか。我も行くとしよう」
「結局リオンも行くんかい」
そんなやり取りをして3人で中央の木に向かう。
「まだまだ小さいな。これでは世界も小さすぎるぞ」
「今日初めて来たんだから仕方ないでしょ」
リオンの文句に適当に返事しながら、3人で魔力を注ぐ。扉は寮の中で開いたし、今日はもう何もやることが無いから俺も魔力を注いで問題ない。
魔力を注ぐと木は段々と伸びていき、俺達魔力がほとんど尽きる頃には20cmを超えるかどうか程度まで伸びた。縦に伸びるにつれて横幅も出てきてるので、縦の伸び率が悪くなっている感じがある。
これからどんどん巨木になっていくって感じかなぁ。
そして面白い事に気づいた。それは『木の成長に伴って世界も大きくなる』という事象が結構自由度が高いということだ。
『西方面に大きくする』とか『世界の中心を拡張』とか『世界の端っこだけを拡張』とか俺が思えば、その通りに世界が大きくなった。
魔力を注いだ人物が誰かは関係ないみたいだ。
「結構自由度が高いんだねこれ」
「そうみたいですね。地形とかは変えられるんでしょうか?」
「あーどうなんだろう。うーん……まぁ今日はもう魔力も無いし、それは一旦置いておこっか」
「分かりました」
ショウと2人で木と世界の検証を終了させて、俺は改めて眷属世界を見渡す。
適度に雲もあって、柔らかな日差しも射している。少しひんやりした風が吹けば、草原が揺れて草葉が擦れる音が気持ちいい。外夜とか関係ないんだな。
「んーいい天気だねぇ」
なんてしみじみ思っていれば、シャナが駆け寄ってくる。
「ねーねーマスター遊ぼ!」
「おっとっと、シャナは元気だなぁ」
シャナが無邪気に俺の腕を引っ張って、ドライアドさん達の所に連れていく。天真爛漫という言葉が良く似合う良い笑顔だ。なんだかお爺さんみたいな気持ちになるよ。13歳だけどね。
「こらシャナ、マスターさんの迷惑でしょう? 今マスターさんは大事な話をしていたのよ」
「あ……ごめんなさい。マスター」
「ううん、大丈夫だよ。謝れて偉いね」
代表ドライアドさんは無理やり引っ張られてきた俺を見て、びっくりした様子でシャナの事を叱った。まぁ教育には叱るということも必要だ。
だけど、別に大切な話はしてなかったし気にしなくても良いですよ~なんて思ったりもする。
というかやっぱり何か代表さんだけじゃなくて、ドライアドさん達は俺に対してどこかぎこちない。この世界に来てから特にそれが顕著になった気がする。
せっかくシャナに連れてきて貰った事だし、俺は代表ドライアドさんに話しかける。シャナはフブキ達に任せよう。
「代表ドライアドさん、少しお話しませんか?」
「お話、ですか……?」
代表ドライアドさんは俺の改まった言い方に少しビクリとする。俺はそれを見て失敗したと気づいた。この言い方では何か良くないことを言うみたいだ。
「あぁいえ別に悪い話とかではないですよ! これからこの世界で一緒に暮らしていくんですし、お互いのことをもっと知っていけたらなと思っただけです」
「そうだったんですね。皆も呼んできます」
代表ドライアドさんは胸に手を当ててあからさまにホッとしている。なんで俺こんなにビビられてるんだ?
代表ドライアドさんに集められて、ドライアドさん5人と俺は1つのテーブルを囲んで座る。
因みにこの机と椅子は特寮の部屋にある堂の机と椅子だ。ずっと特寮1階の食堂を使ってるから持て余していた。なので丁度良いからこの世界に持ってきた。
んーでも後でこれは元の所に戻して、この世界用の家具も買わないとなぁ……はぁ、お金が……。
「それでお話とはなんでしょうか?」
俺が家具とお金について考えていると、代表ドライアドさんが遠慮気味に聞いてくる。やっぱりどこか怯えているような気がする。
本当になんでだろうか。何もしていないと思うんだけどな。
「えーっと、ドライアドさん達とシャナが今までどう暮らしてたのかとかを聞きたかったんですけど……その前に1つ聞いても良いですか?」
俺は自分が思う最大限に優しい声で表情も気にして、ドライアドさん達に怖いと思われないように注意して話す。
もう何も考えずに聞いてしまおう。なんで俺に怯えてるんですか! って。だから話し方には気をつけなければ。
「はい。なんでも聞いて下さい」
「えっとじゃあ……もしかして俺の事怖いですか?」
「ッ! そ、そんなことは!」
ドライアドさん達の表情が一瞬にして固まる。代表ドライアドさんに関しては真っ青だ。必死な形相で弁明しようとしている。
「あぁいえ! 俺のことが怖いって言ったって、別に責めたり今更出て行けとか言いませんよ。シャナのためにも普通に俺的にも追い出したりなんて考えてないですから」
俺はそんなドライアドさん達を見て、直ぐに弁明する。
犯人探しとか断罪とかそんな感じの空気じゃなくて、仲良く楽しく過ごしたいんだ。そのためにはこのドライアドさん達の俺への壁が何なのかを知らなければいけない。
「……正直言うと、少し怖いっす」
今まで全然口を開かなかったドライアドさんが口を開いた。そのドライアドさんは俯きがちに俺のことを怖いと言い、だけど、と話を続けた。
「それはマスターさんがじゃなくて、また居場所を失うかもしれないって気持ちからっす」
「また失う?」
「そうっす。私達は……1度居場所を失ってるんす。本当に疲れたっす」
そのドライアドさんは何か張り詰めていたものが切れたかのように泣き出した。それを代表ドライアドさんが背中を擦って慰める。他のドライアドさん達も涙目だ。
シャナがフブキ、リオン、ショウと遊んで楽しそうな笑い声を響かせている。そんな明るい声が聞こえていても、この場の空気は重たい。何か事情がありそうだ。
「その話、聞いても良いですか?」
俺は遠慮せずにまっすぐ代表ドライアドさんにそう言う。俺は絶対にこの人達を追い出したりしない。シャナが悲しがるし、俺も賑やかな方が好きだからだ。追い出す理由がない。
だけど、それを言ってもドライアドさん達自信が納得してくれないと思う。
だから、話を聞く。話を聞いて解決できるかは分からないけれど、話を聞いて、そして改めてこの世界から追い出したりしないって真剣に言えば、何かが伝わるかも知れないよな。
「分かりました。あんまり楽しい話ではないですが――」
代表ドライアドさんは俺の目を見て話しだした。他のドライアドさん達も静かに代表ドライアドさんを見守っている。
ドライアドさん達に何があったのか、どんな内容でも俺はこの人達を見捨てたりはしない。その態度を見てドライアドさん達も安心してくれたら良いな。
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【あとがき】
どうも作者です。いつもお読みくださりありがとうございます。
先ほど読み直した所、102話より前のドライアドさん達の話し方をプロットから書き換えるのを忘れていました。ほんの少しの変化ですが、書き直してあります。(本話は修正後の話し方です!)
読み直すのも大変だと思いますので、ドライアドさん達の話し方は以下の感じです。
代表さん:ありがとうございます。楽しいですね。
ドラAさん:ありがとうです。楽しかったです。
ドラBさん:ありがとう。楽しかったな。
ドラCさん:ありがとうございます。楽しかったですわ。
ドラDさん:ありがとうっす。楽しかったっす。
まぁ正直あんまり気にしなくても大丈夫です。ドライアドさん達はドライアドさん達です。
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