第1章 学園入学編
第24話 入学。きたきたぁ!
4月1日。
ついにこの日がやってきた。
そう! 学園入学! イェーイ!
俺が学園に合格できたかどうかでドキドキしていたのは3月中旬まで。3月中旬に俺の合否判定が届き、その中身はなんと合格! 最高の気分だったぜ。
肩から重荷が降りた俺はもうそれはそれは入学までの期間を楽しんだ――はずだった。
「そんな暇ないわよ」
ノワの一言で俺は天国から地獄に落ちた気分だった。
俺だって基本的には楽観的だし、受験するまで缶詰状態で勉強漬けだったわけじゃない。遊ぶ時は遊んでいたし、テイマーとして外に行って魔物たちと触れ合うのも勉強の一環だったから息抜きはあった……とは言え! 重圧を感じなかったわけではなくて、寧ろ公爵家からの絶対に受かれという言外の圧をひしひしと感じていたのだからもうこれは酷かった。すこーしずつながーくどうしようもないストレスを抱えてる感じ。
それから開放されたと思っていたのに!
「入学準備をしないと駄目でしょう」
ごもっともでした。
というかそもそもなんでそんなに準備が必要なのかと言うと、学園は全生徒が寮暮らしとなるのだ。王都に住んでるとか貴族とか関係ない。全員が全員寮に暮らさなくてはならない規則だ。不思議だよな。
俺もそう思ったけれど、ノワ曰く夜遅くまで訓練をするためだとか学園に住んだ方がより多く学ぶことが出来るだとかあるけれど、結局は生徒達のやる気を出させるためらしい。
やる気? なんでやる気に繋がるんだ?
答えは簡単だ。成績によって寮のグレードと色々な待遇が変わるから。なんて世知辛い世の中でしょうね。
というわけで特殊金券を使って買い物をした。
ノワに特殊金券を使って必需品の買い物をしろって言われたから仕方なくだ。本当は全部奢って貰うようなマネはしたくないんだが、俺が冒険者をして稼ぐぐらいのお金では到底賄えない。というのが半分で、残り半分はノワに特殊金券を貰ったという形式上、中途半端な生活を俺がしていてはブルノイル家の甲斐性なんかを疑われるらしい。だからもっと使ってくれとの事だ。なんでかね。
まぁそんなこんなで準備をする事半月。あっという間に入学式ですよと。
今俺が着ている制服は全支給制で、白を基準として黒の差し色がされている。ある程度改造するのは許可されているようで、全体的に見て50%暗い原型が留めてあれば良いとかなんとか。職業によっては隠し武器とかも必要だし、動きやすい服装というものが存在しているからなのだろう。
「諸君らは厳しい試験を乗り越えて合格した優秀な生徒達だ」
ダムラ先生が話してる言葉を軽く受け流しながら、そんなことを考えていた。あの時の試験官ダムラ先生っていうんだな。
というか厳しい試験ねぇ。10000人が受験して500人しか残らない。もっと言えば入学試験試験を含めれば何万人居たのかも想像つかない程だ。厳しいの一言で済むのだろうか。
「諸君らは選ばれた生徒達だが、油断をしていては足を掬われるとうい事をゆめゆめ忘れる事のないよう——」
そう言葉を途中で終わらせてラムダ先生は壇上から降りた。相変わらず堅物そうな人だ。
今度は20代前半ほどの女性が壇上に登った。
学園長の話も聞いたし、ダムラ先生も話が長かったんだ。もう勘弁して欲しい。そんな気持ちが沸々と湧き上がってくる。
「みんな疲れてるでしょう? 私が最後だからもう少し我慢してね」
そんな俺達の気持ちを感じ取ったのか、壇上に登った女性は可愛らしくウインクをし、その愛らしい容貌をフルに活かして男子生徒の関心をあの女性へと向けさせた。
うーん、でもなんか俺ああいう感じの人って惹かれないよなー。どちらかというとノワとかアイファみたいな人の方が……っと、今はその話はいいか。なんか重要そうなことを言ってるぞ。
「——という感じで我が学園はこの場所に建てられたのよ。そしてスレイン王国が大陸でも権勢を誇っている理由でもあるのよ。ほら、スレイン王国ってどこの分野を取っても優秀な人材が多いでしょ? それはスレイン王立学園が原因って訳ね。これは特に隠蔽している情報でもないから自国に持ち帰っても良いわよ。と言っても、その情報を得たからと言って何か出来るという訳でもないでしょうね。出来ることはせいぜい新しい世代を我が学園に送る事だけかしら」
最初とはまるで別人の様に凛とした女教師の言葉に、この場にいる生徒全員—―新入生のみ—―がざわめきだつ。
それ程までの情報だったみたいだ。俺は重要な部分を聞き逃してしまった。惜しい事をした。
「実際に行ってみるのは明日よ。組毎に行くからそう思っておいてね。じゃあまたねっ!」
先ほどまでの脅すかのようなセリフと、凛とした態度は鳴りを潜め、また愛らしい容貌を前面に押し出した雰囲気に戻った。
どちらが本当の彼女なのだろうか。俺的には説明中の彼女が本当だと思う。うん。
これで長苦しい先生方のお話も終わり、各自教室へ移動することになった。
クラスは全部で10クラスで、1クラス50人。主席のアイファと次席のミエイル様が別クラスというところを見るに、実力順にクラスが構成されている訳ではなさそうだ。
自身のクラスに移動する。
俺は7組だ。クラスメイトには見覚えのある人物がいた。ノワ・ブルノイルに、アイファ・ディ・スレインの2名だ。
「やっぱり私とヴェイルは同じクラスなのね」
「やっぱり?」
「えぇ、だって私がヴェイルに特殊金券をあげたんだもの。同じクラスになるだろうとは思っていたわ」
「あーやっぱりそういう意図的な事はあるのか」
「基本はランダムでしょうけどね。でなければこの女が同じクラスになったりはしないわ」
そう言いながらノワは視線だけで、ノワと反対側の横にいる女性を話題に上げた。
「この女とは無礼が過ぎるんじゃないか? ノワ・ブルノイル」
「あら、貴女が気楽にして良いって言ったんじゃない」
2人が黒い笑みを浮かべ合いながらオホホとおしゃべりしている。
怖いから辞めて。とは言えないよなぁ……。
「まぁノワ・ブルノイルの事は良い。これからは同じクラスの生徒だ、よろしく頼むぞ。というか既に何回も会ってるのだから今更だな」
アイファがノワを押しのけて俺の手を握ってくる。
実はアイファとは既に何回も会っているし、会話もして多少は仲良くなっている。
入学試験試験後、ブルノイル家に行く機会が多く会ったのだが、そのタイミングでブルノイル家に来たアイファと会ったり、ノワに連れられて王城に行った際に会ったりと、結構頻繁に会話をしていたのだ。というか何度か食事も一緒にしたのだから、平民の中では一番仲が良いと言っても良いだろう。
その何回か会った時にアイファにはこう言われた。
『ノワ・ブルノイルのお守りは大変だろうから何かあったら私に言うと良い。それと私はこんな性格をしているものでな、礼儀なんかには興味がないから気楽に接してくれ。敬語なんていらないぞ』
それにしてもアイファってこんなに気安い人だったんだな。って思った。もっとこう、「私の言うことを聞いておけば全て上手くいく!」的な人だと思ってた。
『じゃあお言葉に甘えて……俺はヴェイル。これからよろしくアイファ。ノワを俺がお世話してるっていうよりかは、逆に俺がお世話されてる感じだからまぁ大丈夫だよ。でも何かあったら相談させてもらうよ』
『あぁ分かった。是非仲良くしよう』
こんな感じで、にこやかに俺とアイファが握手を交わして挨拶はできたのだ。
なんて、嫌な予感に現実逃避している間にも、2人が俺を間に介して言い合いをしていた。
「アイファ、私のヴェイルに唾を付けるのは辞めて欲しいわね。横から奪うなんて王族らしくないんじゃないかしら?」
「唾を付けるだなんて言いがかりだな。ブルノイル公爵家が、それもノワ・ブルノイルが目を付けた存在が居るという事実が気になったまでだ。それにヴェイルくんはそれほど迷惑してないようだが?」
「いいえ、ヴェイルは迷惑しているわ。それに早くその手を離した方が良いんじゃないかしら。王族が、それも未婚の女性がそんなにも長く手を握っていたら、あらぬ疑いをかけられるかも知れないわよ」
「あらぬ疑いだと? ……そんな事は無いだろうが、ここはヴェイルくんに免じて私が引いてやろう。では、またな」
苛烈な言い争いはノワが制したようだった。アイファは俺に免じて、と言っていたが何が俺に免じてなのだろうか。それに少しだけアイファが照れていたような? ……な訳ないか。
こうして俺の楽しい学園生活が幕を開けた。
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