第23話 「選定」 sideアルフォンス・ディ・スレイン
僕はアルフォンス・ディ・スレイン。
スレインの名がついている通り、スレイン王国の王族だ。
それも第一王子。最も知名度が低いけど、第一王子。
僕は第一王子だけれど王妃の子ではない。第二側妃の子だ。
お父様は困ったことに王妃、第一側妃、第二側妃と同時に婚約するも、実際に婚姻するまで王妃に手は出せないからといった理由で第一側妃と第二側妃に手を出した。
第一側妃は十分な対策をしていたが、僕のお母様である第二側妃は対策が不十分で僕が生まれてしまった。
全く、お父様の我慢弱さには困ったものだ。
お母様は身体が弱い。弱いと言っても寝込みやすいというだけで大きな病気を抱えているわけでもないが。
そんな体質を僕は受け継いでしまった。僕は生まれつき身体が弱く、身長はあるけれど線が細くて女性にですら勝てそうにない体格をしている。
そんな倒れやすく頼りない人間は国王に向いていない。そういう理由で僕は次期国王候補から辞退した。お母様もそれに安心しているようだった。
お母様は政争なんて興味がなく、本当にお父様を愛しているだけだから、僕が王位継承争いなんかで怪我をするのが嫌みたいだ。
「まぁ僕と違ってミエイルとアイファは健康に育って良かったよ」
ミエイル・ディ・スレイン。
アイファ・ディ・スレイン。
僕の弟と妹で、『次期国王』と呼ばれる女の子と、『その出がらし』と揶揄される男の子。けれど国民の皆はちっとも分かってない。あの2人は5歳年下だけど僕なんかより才覚に溢れており、よっぽど国王に相応しい王族だ。
呼び名を見て貰った通り、民の支持ではアイファが国王になることを望まれているようだね。やはり人を導き国を急速に栄えさせてくれる覇者の風格が滲み出ているのだろう。
かと言ってミエイルが全く支持されていない訳でも無い。ミエイルは聡明で慎重だ。間違えてはならない判断を絶対に間違えない。着実に国を発展させるのならミエイルが適任だろう。出涸らしなんて言われてるけど、あんなものはミエイルの策略に決まっている。
「うんうん。僕の弟と妹は優秀だな」
あとは王妃と第一側妃が仲良くしてくれれば良いんだけど……
「まぁ今はいいか」
思考を一度停止させ、二度深く呼吸をする。
そうすれば公務の気分に切り替わる。
今日は王立学園の受験生たちの合否判定をしなければならない。今日までに職員達がある程度の選別をしていうようだけど、それも含めての最終確認だ。第一王子兼王立学園副学園長としての公務を果たさなければならない。
さて、大物が集まっているという期待の世代を見に行こうか。
◆◆ ◆◆
「――以上が本年度の優秀な受験生となります」
「うむ、良くまとめてくれた。それにしても今年は豊作じゃのうダムラ先生」
800番台の入学試験代表をしていたダムラ先生が、本年度の優秀受験生を名乗りあげていった。例年は10人程度、それが今年は30人もいる。
非常に優秀な学年で頼もしい一方、何やら問題が起こりそうな予感に今のうちから頭を抱えたくなる。ダムラ先生と会話している学園長はなんともなさげで羨ましい。肝の座り方が僕とは大違いだ。
「今年度は我が国の有力貴族に加え、他国からの重鎮に世界有数の豪商、賢者の弟子も受験しているという噂です。ですのでこの結果は当然かと」
「まぁそうじゃのう、ダムラ先生の言う通りじゃわ」
「それにですが、実際はもっと実力者は多いかと考えます。実力を隠そうと、明らかに手を抜いていた受験生も多数確認されたそうです。その子達が本気を出したらどうなるか……」
確かに今年は有名どころが揃っている。そしてそのどれもが非常に優秀だ。確かさっき貰ったこの報告書に優秀生徒30人が書いてあったはずだ。
アイファ・ディ・スレイン(スレイン王国王族)
ミエイル・ディ・スレイン(スレイン王国王族)
ノワ・ブルノイル(ブルノイル公爵家)
サラリナ・ウィンテスター(ウィンテスター公爵家)
ミイナ・グランヴェル(グランヴェル公爵家)
王族が2人に全ての公爵家の子が居るなんて普通に考えたらありえないだろう。一つの世代に1人居れば、その世代のリーダー間違い無しの地位を持つ者たちだぞ。
それに他にも侯爵家が6つに辺境伯家まで居るときた。もうそれはそれは……って感じだ。
我が国の貴族以外にも有名な者たちが居る。
ガウル・ウルフガンド(ウルフ族族長の息子)
シュラ・ミミアリア(ウサギ族族長の娘)
キューラ・フウラベア(ベア族族長の娘)
エフリア・ウェイド・ミラリア・ルフ(エルフの巫女)
ビビット・サライラエ(サライラエ大商会の息子)
等々。
とりあえず目についた人物だけを上から挙げていったが、この合計10人以外にも有名な氏族や貴族が多数居る。平民も何人も居るが、全てを合わせた何処かに賢者の弟子やいまだ見ぬ実力者もいるのだろう。
それにダムラ先生が言っていた通り、実力を隠している子もいるのだろう。本当に今年の受験生はどうなってるんだ……。
「それで誰を首席にするかじゃのう」
学園長がそう呟いた。
それを聞いてこの会議に参加している教員全員が同じことを思っただろう。誰を選んでも波風が立ってしまう、と。
だがそんな中でもダムラ先生だけは違う。悩んでいる表情を一切出さずに、淡々と話しはじめた。
「そうですね。試験の点数だけで見れば、実力試験ではアイファ・ディ・スレイン、学力試験ではミエイル・ディ・スレイン、面接試験ではノワ・ブルノイル、総合点ではサラリナ・ウィンテスター。といった所でしょうか。ですが、他の点数も悪くなく更に細かい部分だけで見ればミイナ・グランヴェルやシュラ・ミミアリア、平民ではヴェイルという少年も面白い回答がありました」
「多いのう」
「良いことではありませんか」
ダムラ先生と学園長のやり取りを皆が静かに聞いている。今のところ候補者は7人ということだろう。
報告書に書かれているその7名の点数を見る。それぞれ100点満点の試験が3つだ。
名前(実力試験/学力試験/面接試験:合計)
アイファ・ディ・スレイン(100/89/97:286)
ミエイル・ディ・スレイン(90/99/97:286)
ノワ・ブルノイル(92/94/100:286)
サラリナ・ウィンテスター(96/96/96:287)
ミイナ・グランヴェル(92/93/95:280)
シュラ・ミミアリア(93/82/88:263)
ヴェイル(80/83/85:248)
具体的に良かった点を比べてみるしか無い。
アイファは言うまでもなく武力が抜きん出ている。
持ち味のカリスマ性もあって面接試験の点数も高いが、学力試験が足を引っ張っているな。実力試験では制限有りの試験官を倒したらしいので非常に高評価だ。
ミエイルは全て90点台と優秀だが、実力試験の点数が首席にするには惜しい。やはり武力や力強さというものはそれだけで味方を安心させるものだ。そして多分だが手を抜いている。
ノワ・ブルノイルは流石の一言だ。面接試験の100点なんてものは初めて見た。面接終了後、全試験官が狂ったようにノワ・ブルノイルを信仰しだしたらしいが……ブルノイル家だ、と思って諦めるしか無い。信仰しだしただけで他は害も無いし、人心掌握という観点で優秀なのは事実だ。
だが、危険だ。そして彼女もまた手を抜いているだろう。
サラリナ・ウィンテスターは全てが高水準で弱点らしい弱点がない。だが、各分野で自分よりも優れている者が居るというのは足枷となるかも知れない。だがまぁ有力候補ではある。
ミイナ・グランヴェルは点数だけで見れば今までの4人に劣るが、普通に考えればこれでも相当優秀な部類だ。他の学年なら首席も狙えるかも知れない点数だ。それにこの子は面接で面白いことを口にしている。そこは評価できるが為政者には向いていない。
シュラ・ミミアリアは実力試験で目を見張る物があった。試験官を倒せてはいないものの、不正ギリギリの方法で試験官を圧倒した手法は聞いた時には頭を抱えた。不正感が強いため点数は控えめだが、実力は申し分ないだろう。
ヴェイルはこの中で唯一の平民だ。点数は最も低いが、学力試験では唯一最終問題を正解――正解というか好ましい答え――している者だ。
ミエイルですら間違えているのだが、『嫁に貰う』と解答したそうだ。ミエイルでは思いつくわけもない解答だな。それに条件付きとは言っても、魔物と明確に会話できるテイマーなど聞いたことがない。簡単な意思疎通ではなく完璧な会話だ。特別な何かが彼にはあるのだろう。それに試験官の報告では、何らかのカリスマ性を感じたともある。ブルノイル家の特殊金券というのも選考に考慮されているが……。
脳内で7人を評価し、結論を出す。
後ろの3人は駄目だ。ある点においては優秀だったり面白さがあるが、全ての学生の頂点とは言いがたい。
サラリナウィンテスターは点数が高いが、やはり全てにおいて2番手というのが良くない。ノワ・ブルノイルは駄目だ……彼女も望まないだろう。
残るはアイファとミエイルだが……
「首席はアイファとしましょう。異論はありますか?」
未だに結論を出せずにいた会議室に僕の声が響き渡る。王位継承権が無くとも王族だ。皆が一様に僕に注目し、その発言を聞き入れる。
一種の権力行使ではあるし、身内贔屓と思われるかも知れないが、大々的に反対する程の贔屓でもないはずだ。それに、本心から適任だと思っている。
「うむ、儂もそれで良いと思うぞ」
権力に屈さない学園長の言葉もあって、これで決定だ。
首席:アイファ・ディ・スレイン
次席:ミエイル・ディ・スレイン
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