第85話 話し合い後半。まだまだだなぁ

「そもそも、お2人はこの話について来れていませんよね」

「は、はい」

「そうですね。何がなんだか」


 ミイナ様の問にビビットさんと俺は首を縦に振る。いまいち状況を理解できていないのは本当の事だから否定する必要もない。


「ではお紅茶休憩の間にわたしがお話しましょう」


 そこからミイナ様の説明が始まった。

 ミイナ様曰く、ブルノイル公爵家は貴族を処罰する一家なのだと言う。ただしそれは、無闇矢鱈に悪いことをした貴族を全員殺すという事ではなく、国民に影響が行かないようにバランスを保ちつつ処罰をしていくという役割らしい。

 だからサラリナ様の強行的な告発に憤慨した。


 確かに以前ブルノイル家に言った時に、ミルガーさんは面白い人を見逃したくないだとか、人を善悪のみで判断するとか言ってた気がする。

 言われてみれば貴族の処罰をしてそうではある。それに国民、平民の事をよく考えていた。


 他にもミイナ様から聞いた話は、以前から王妃派閥からは良くない噂を聞き、ミイナ様含め第1側妃派閥も、ノワ達公爵家を筆頭に国王派閥も慎重に王妃派閥を調べていたらしい。

 けど、明確な尻尾は掴めなかった。そんなヘマをするほど王妃は馬鹿じゃなかった。


 最近はアイファも個人的に動いているとの話も出ているらしい。ついに王妃に陥落されたか、心境変わらずで自分から敵地に飛び入ったか。それは定かではないが、アイファもわざと疎遠にしていた王妃との接触を開始したらしい。

 もしかして最近の学園に来れてなかったのはその事なのか?


「――概ね間違ってないですよね? サラリナさん、ノワさん」

「そうね、間違ってないわね」

「間違ってないわよ」


 話の終わったミイナ様がサラリナ様とノワに確認を取る。どうやら間違ってないようだ。

 うーん、もう聞いてしまったから手遅れだが、本音を言えば聞きたくなかったかもしれない。平民の俺が知るには内容重すぎないかな?


「それにしても良く調べているわねミイナ」

「サラリナさんの監視網ほどではないですが、わたしの情報網もそれなりに広いですから」


 おほほ、うふふと貴族特有の笑いの攻防を起こしつつも、三大公爵家の会合は続いていく。


「それで、王妃が絡んでいるというのは本当なのかしら? 私達ブルノイル家が調べても確定的な証拠は出てこなかったのよ」


 確かにそれは俺も気になった。今まで尻尾を出してこなかった王妃が、ここに来てそんな簡単に尻尾を出すのだろうか。


「勿論本当よ。取引相手があの狼だもの、情報統制なんて取れていないわ。それに、私達にバレるのは織り込み済みでしょうね。そうでなければあの狼と取引する危険を犯す必要がないもの。それにこっちは暗部を11人失ってるのよ、その意味が分からない貴女達じゃないでしょう」

「そう……中枢まで潜ったのね。すでに情報の在処は変えられてるでしょうけど、それは重要な情報ね」


 11人失った。それは死んだ……殺されたってことか!? 

 確かに貴族社会は泥沼だと理解してはいるが、そのガウル君との取引や薬の製造っていう情報を引き出すためだけに11人が死ぬのか? 想像以上すぎて言葉が出ない。


「だから貴女達には言っておくわね。私は王妃を王族の座から引き摺り下ろす。他派閥の手はかりないわ。その代わり、邪魔もしないで頂戴」

「邪魔をしないでと言っても国民に被害が行くようなら介入するわよ。それがブルノイル公爵家の使命なのだから」

「私は私の気に入った景色を壊されなければ介入する気はありません。ただし、私の好きな景色を壊した場合は敵対もやむなし……ですからね?」

「分かったわ。その条件を飲みましょう。しばらくは黙認してくれると助かるわ」


 3人は何の契約も結ばない。ただの口約束だ。

 けれど、そこには明確に契約書が存在しているかのようだった。誰もその約束を破らないだろうという空気が流れる。破れば派閥のバランスが乱れるのかも知れない。他になにか要因があるのかも知れない。

 だが俺には分からない。ただただ、今は何も起こらないことを願うしか無かった。



 その後もいくつか話をし、話し合いが終わる頃にはもう片方の準決勝戦であるアイファ対ヴァレアの勝負が終わっていた。

 観客席に起こっていた混乱も、しばらくしてから混乱が収まる様子を見せない事に見かねて、国王が直接声をかけたことで収まったとの事だ。その後に2人の模擬戦を始めて、長い時間をかけてのアイファの勝利だったらしい。


 心の底からあの2人の試合は見たかったね。


 因みにガウル君は、拘束されて風紀委員に連行されたらしい。

 ノワが言うには、風紀委員会はアイファと協力して情報を掴んでいるらしく、中立の立場を明言している辺境伯の娘である風紀副会長が代表して連れて行ったらしい。教師も貴族が多く、派閥の関係で信頼できないから風紀委員が調査すると言い切ったらしい。

 派閥はここにも絡んでくるんだと少し萎え、俺の知らない世界を知ってしまった弊害を感じている。


 てかノワの情報網どうなってんのって感じ。闘技場の観客席に戻る途中、風紀副会長のアイリスさんに出会って挨拶してただけだよね? 何処でそこら辺の情報仕入れてるのよノワ。



 閑話休題。



 観客席に戻ってしばらくすれば、決勝戦が始まる。決勝戦はサラリナ・ウィンテスター VS アイファ・ディ・スレイン。

 俺はその試合を自身の修行のために目に焼き付けたいし、熱い試合に興奮して歓声をあげたい。


 けれど、さっきまでの話がチラついて試合に集中できない。サラリナ様とアイファの試合なのだから尚更さっきの話が脳内にチラつくのだ。


 結局、その決勝戦はアイファが辛勝した。

 辛勝と言って良いのか分からないが、獣人達に囲まれて本気を出した時と同じ金色の粒子を纏った姿で戦闘を行い、消えたり出現したりするサラリナ様を正面から打破した。その負担から、戦闘後は疲労困憊の様子だったのだ。

 それにサラリナ様はただ消える事が強みなのではなく、しっかりと武術にも秀でていた。ガウル君と正面から戦っても勝てたのではないかと思えるほどだった。それだけ強かった。


『優勝はアイファ・ディ・スレイン選手です! 皆さん大きな拍手をお送り下さい!』


 観客席からアイファに盛大な歓声と拍手が送られ優勝者が決まる。そして、3位決定戦を例年はするらしいが、今年はガウル君が捕まってしまったので、必然的にヴァレアが3位となる。


 1位:アイファ・ディ・スレイン

 2位:サラリナ・ウィンテスター

 3位:ヴァレア・グーディリア

 4位:ガウル・ウルフガンド(捕縛)


 更にこの後、教師3名対上位6名の試合をするらしく、6位までを決める必要があるらしい。何度も言うがガウル君が捕まったから3対5だ。

 だがこれも戦闘は無しで決まった。十分魔道具紹介出来たから良いというビビットさんと、私は遠慮しますと言ったミイナさんが辞退したのだ。その為、教師との模擬戦に出るのは、シュラさんとエフリアさんの2人に決まった。


 6位:シュラ・ミミアリア

 6位:エフリア・ウェイド・ミラリア・ルフ

 8位:ミイナ・グランヴェル

 8位:ビビット・サライラエ

 16位:バビディ・ハーピリア

 16位:ミエイル・ディ・スレイン

 16位:ホワイトノイズ

 16位:シャイナ

 16位:キラニア

 16位:ミュード

 16位:サクラ・タチバナ

 16位:メイズ・ノーンブルウ


 こう見ればうちのクラスは凄いんじゃないだろうか。10組ある中で、上位16人に3人が入っている。相当すごいと思う。


 そんな偉そうな事を言っていても、俺はトーナメントに出れてすら居ない。

 俺が5人がかりで1人のヴァレアに苦労したというのに、アイファは2人のヴァレアに勝っていた。それに、サラリナ様もそのアイファと良い勝負をしていた。シュラさんだってヴァレアといい勝負をしていた。



 そんな強者の中の強者であるアイファ、サラリナ様、ヴァレア、シュラさん、エフリアさんが教師3人と戦った。教師はシュミレイ、メリナ先生、入学試験の時に代表をしていたダムラ先生の3人だ。


 結果は生徒の惨敗。


 勝者となった生徒たちに上には上が居ることを伝えるためか、先生方は最初から超本気だった。

 シュミレイは前線で双大剣で暴れまわり、メリナ先生は魔法陣を活用した多彩な魔法で援護をしていた。驚きなのはダムラ先生で、怖い見た目とは異なって、形成魔法という珍しい魔法で、闘技場を瞬時に色々な形に作り変えて、他2人の先生をサポートしていた。


 アイファとシュラさんはシュミレイとの戦闘で持ち前の戦闘センスと攻撃力を活かして果敢に攻めた。だが、全てをシュミレイの異常に大きな大剣に打ち破られていた。

 シュミレイは2人の生徒の完全上位互換とも言えるかも知れない。


 ヴァレアは本来の動きである隠密性を活かし、サラリナ様は持ち前の消える技を活用してアイファとシュラさんの援護しようとするが、それら全てをメリナ先生に阻止されていた。

 どうやら魔法陣で闘技場全体を監視しているらしく、ヴァレアとサラリナ様が隠れる隙がなかった。それに魔法の種類と展開スピードが異常に早く、ヴァレア2人とサラリナ様の3人の動きが管理されていた。


 ダムラ先生はエフリアさんの精霊魔法の阻止に注力していた。精霊魔法は遠距離からの援護が強いが、その援護の全てをダムラ先生が地形を変えることで混乱させた。ほぼ完封だった。


 特に凄かったのは先生方の連携だ。お互いが全力で自分の出来ることをしているのに、お互いの邪魔をしていない。それどころか、全員が全員動きやすいように連携している印象を受けた。

 それに対して、生徒たちはお互いの動きが干渉し合って、本気を出せていないように見えた。もう少し皆強かった気がするのだ。

 

 はぁ、俺なんてまだまだだな。全員の動きから学びがあったが、特に先生方の連携は見習わなきゃ駄目だ。


『王よ、帰ったら修行だな。我も王も強くなろうぞ』

『私もお手伝いします主』

『僕も頑張るよ~』

『ありがとう皆、俺頑張るよ』


 改めてリオン、ショウ、フブキと決心し、教師対生徒の試合を観る。こうして俺達の模擬戦は終了した。

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