第61話 模擬戦開始。まじかよ……

「ついに始まりました! 毎年恒例! 1年生による全クラス合同模擬戦の時間です! 実況はワタクシ、2年8組『拡声実況祭人』のオンエイが務めさせていただきます!」


 学園にある巨大な闘技場に大きな声が響き渡る。

 闘技場は中心に団体戦が出来そうなほど広いスペースがあり、その周りを観客席がぐるっと囲っている。綺麗に並べば1年全員が普通に並べるだけの大きさだ。


 そこに1年生全員が並び、見学に来ている先輩たちと教師達が観客席に座っている。


 解説をしている先輩は、観客席の中で少しだけ出っ張っている場所に座っており、解説先輩は棒状で先端に少し大きい球体がついた何かを握って話している。

 あれがこの大音量で声を届けている魔道具だろうか。


 そして、その解説の人達が座っている出っ張りの上には、更に出っ張っている場所がある。聞いた話では、あそこには上級のお貴族様や国王様、他国のお偉い様なんかが来ているらしい。


 ん? てか、あの実況の人の隣に座ってる朱色の髪の毛の女性って……


「解説にはスレイン王立学園教師兼現Aランク冒険者のシュミレイ先生にお越しいただきました! シュミレイ先生どうぞよろしくお願いします」

「紹介にもあったように俺がAランク冒険者のシュミレイだ! よろしくな!」


 やっぱりシュミレイだ。あいつ学園教師なってたのかよ!


「うおすげぇ、あれがシュミレイか」

「シュミレイってあの『朱剣の狂人』だろ?」

「ゴブリンコマンダー率いる群れに単身突撃したって奴か……」


 シュミレイが紹介されると、周囲の1年生達がざわめき出した。シュミレイは俺が思ってる以上に有名だったらしい。


 てか朱剣の狂人て。かっこいいじゃん。俺もあんな二つ名が欲しいな。


「なぁノワあんな感じの二つ名って――」

「ダサいわね」

「えっ」

「何よ」

「いや……何でも?」


 嘘だろダサいのかあれ!? かっこよくない?


「ではこれより始まります模擬戦につきまして! 選手の皆様に守っていただくルールがございます!」


 解説先輩が拡音の魔道具を持って立ち上がる。


「今回模擬戦に使用される闘技場と演習場には、全ての場所に幾何魔法学専門メリナ先生による治癒魔法陣が敷設されています! こちらは四方にある魔法陣と補完作用がありますので、地面の破壊による魔法陣の停止はありません!」


 説明に合わせて闘技場の周囲を見てみると、場外の四隅、それも結構離れた場所に人間大の石で出来ている何かが建っている。

 あれが魔道具だな。


「こちらはあくまでも中級の治癒魔法であり、部位欠損の修復は出来ませんので、参加される方達は部位欠損をしない・させないようにご注意下さい! そして次が絶対のルールです!」


 解説先輩が体を反って大きく息を吸い、一際大きな声を出す体勢を取る。


「絶対に殺さない!! こちらをぜっっったいにお守り下さい! 故意に相手を殺害した者は、永久に学園から追放、そして国による然るべき罰を受けて頂くことになります!」


 故意の殺人。じゃあ故意じゃなければ許されるのか? 

 いや、勿論殺人なんて恐ろしい事はしないが、少し言い方に引っかかった。


「故意じゃない場合は、状況に応じて対応していきますのでご承知おき下さい! ではこれより、選手宣誓を行います!」


 故意じゃない場合は罰の大きさが変わるってことね。なるほど。


「本日は我らが国王陛下、王妃殿下がお越し下さっています! 選手宣誓はあちらの国賓席に向かって行い下さい!」


 やっぱり国王陛下が来ているみたいだ。それにどうやら王妃も。つまりアイファのご両親だな。アイファも両親が見てくれて嬉しんじゃないか?


 そう思いノワと反対の隣をこっそり見てみると、アイファの表情はピクリとも動いていなかった。

 真顔と言うか真剣な表情と言うか、まぁこれぐらいで喜びを外に出しちゃうようでは情報戦で負けちゃうもんね。

 

 予想外の表情に俺が意味の分からない言い訳を一人でしていると、解説先輩の持つ魔道具と型違いの魔道具の前に、隣の団体から1人の少女が歩いて向かった。

 金髪縦ロールツインテのアイツだ。俺が最も苦手意識を持ってるお貴族様。


「宣誓。私達スレイン王立学園学生は、王国の名の下、正々堂々己の力を発揮し――……こんなんじゃ駄目ね」


 金髪少女、いや、サラリナ・ウィンテンスターが選手宣誓を途中でやめて、国賓席に背を向けてこちらを向く。


 え、おい! 何やってんだ! ありえない不敬だろそれは! 


「私は私の信じる道を行くわ。だからあなた達も道を間違えてはいけないわよ。……必ず優勝するわ。以上」


 あまりにも逸脱したその行動に、1年だけでなく教師陣や他の学年の生徒も黙ってしまう。これだけの人数がいるとは思えない静けさだ。


 それなのに、サラリナ・ウィンテスターは清々しい表情をして悠然と歩いて戻ってきた。

 『あなた達も道を間違えてはいけないわよ』だって? 何を言ってるんだ本当に?


「え、えーでは、これで選手宣誓を終了しまして……えー模擬戦の方に移りたいと思います。 じゅ、準備は良いかお前らーー!!」

「「「お、おおーーーー!!」」」


 あまりの空気感をなんとかしようと、解説先輩が無理やりテンションを上げる。それに便乗して俺達も大声を出す。


 

 なんだか締まりの無い、ある意味大番狂わせだった開会式が終了し、これから模擬戦が始まる。



◆◆  ◆◆



 俺達7組が模擬戦をする開場に移動してきた。俺達の会場は演習場大4だ。疎らながらに観客席も埋まっている。


 因みに全クラスの会場分けは以下の通りだ。

 ・闘技場:1組、2組、3組(舞台を三分割して同時に実施)

 ・演習場大1~4:4組、5組、6組、7組

 ・演習場中1~3:8組、9組、10組



 最初はクラス内で上位10人を決める戦いだ。

 戦いの形式はサバイバル戦。全員が1人で戦っても良いし、何人かで徒党を組んで、グループ同士の戦いでも良い。

 まだ同じクラスになって日が浅い者達がどのように戦うのかが観物だと言われている。


「じゃあ7組の皆集合だよ~! 今日はあたし1人じゃ見られないからメリナちゃんを呼んだよ。呼んだよっていうか、メリナちゃんからやるって言ってくれたんだよね」

「授業で会った子達もいるわね。私はメリナ・ビューラリーって言うわ。よろしく」


 ネイリア先生が俺達全員に聞こえるように大声で集合をかける。


 この演習場はネイリア先生とメリナ先生が審判役をしてくれるみたいだ。

 メリナ先生は入学式の時に見たし、確かラン先生に昼食を奢ってくれている先生だ。良い先生が審判で良かった。


 なんて考えていると、メリナ先生にもの凄く見つめられている気がする。え、なになに。俺なんかした?


「じゃあこれから模擬戦の説明するね。大体はさっきの拡声実況祭人の人のした説明と同じで――」


 そこからさっきされた説明をもう一度聞き、全員が了承したことで模擬戦が始められる体制となった。




 第一回目の模擬戦。それは総勢50名のサバイバル戦だ。

 これは確実に仲の良いメンツと組んだほうが良い。それも強い子。


 まず誘うのはアイファとノワだな。

 俺がそう思ってアイファとノワの方に振り返ると、既に2人は大勢の人に囲まれていた。


「アイファ様、私と組みませんか!」

「ノワ様、どうか僕とご一緒を!」


 方や複数の女子にキラキラした目で見られ、方や複数の男子に跪かれたり花束を差し出されたりしている。

 

 いや、花束どこから出したんよ。


「ごめんなさい。私既に組む人は決めてるの」

「すまない。私はもう一緒に行動する人を決めている」


 ノワが花束をそっと押し返し、無情に男子君の願いを砕きちった。

 アイファが申し訳無さそうに眉を下げて謝った。


 そして、その流れで2人共俺の所にやってくる。


「ほら、ヴェイル一緒に行動しましょう」

「ヴェイルくん、一緒にどうだ?」


 この流れはやばい……絶対にやばい。


「ぐぬぬ……ヴェイルの野郎! なんでいつもノワ様と一緒なんだアイツ。許せん!」

「アイファ様ってばなんであんなにヴェイルさんに優しいのかしら。不思議ね」


 クラスメイトの大半から嫉妬と羨望の視線が突き刺さる。


 痛い痛いやめて! 物理的ダメージは無いけど精神的ダメージが凄いよ!



 なんだか集中的に狙われる予感がした。

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