第62話 作戦会議。そうか
「それじゃあ始めよっか!」
ネイリア先生はそう言うと懐から1つの魔道具を取り出した。手のひらサイズの筒状の物体だ。
「じゃあ皆少し中央から離れて~」
ネイリア先生の指示通りに俺を含めたクラスメイトが離れると、ネイリア先生はモア道具についていたボタンをカチリと押した。
ゴゴゴゴゴゴ。
地面が揺れて、大小様々な岩や壁が地面から出てくる。
「これはこの演習場専用の『障害物ツクール君大4』だよ。効果は見て貰った通り、この演習場大4に障害物を作るものだね。治癒魔術の魔法陣は問題ないから気にしないでね」
「この魔道具との併用の関係で、四隅に魔道具を置かなきゃいけなくなったのよ。私は幾何魔法学の専門だって言うのに、魔道具との組み合わせも考えなきゃいけないのは大変だったわ」
ネイリア先生の説明に、メリナ先生も付け足して説明をしてくれた。説明っていうか愚痴だったような気もするけど。
まぁとにかく、少し魔法陣のある地面を破壊して良いのかって思ったけど、元々こういう使い方が想定されてる上で作ってるから大丈夫だよってことね。
「じゃあこれから腕輪を1人1つ配るわ。それを全員利き腕に付けなさい」
メリナ先生が持っていた袋から腕輪を50個取り出した。何の装飾もされていない質素な鉄の腕輪だ。
「それは治癒の魔法陣による治癒限界を感知した際に光る魔道具よ。それが光ったら戦闘不能とみなし、すぐに退場しなさい。退場中は、戦闘中の生徒の邪魔をしないこと、退場中の生徒に攻撃しないこと、退場中の生徒が退場してない生徒に攻撃しないこと。それらのルールを守らなかったものは退学とするわ」
退学、の言葉に誰かの息を呑む音が聞こえる。それだけは避けなくてはならないので、腕輪はきちんと見なくてはいけない。
「じゃあ準備は今から10分! 皆好きな所にバラけて~」
俺達の緊張感が急上昇してきた所で、ネイリア先生の言葉で模擬戦開始の最終準備が始まった。俺達も早く準備をしないといけない。
周囲を観察してみると、早速グループで話し合っている者。単独で障害物に向かって行く者。未だに一緒に行動する人を探している者達がいた。
その様子を見て、本当に模擬戦が始まるのだと実感する。
よし、まずは俺達がどんな動きが向いているのかを考えないと駄目だ。
俺達のグループ構成は、
・ヴェイル:テイマー、戦闘力小
・アイファ:剣士?、戦闘力大
・ノワ:不明、戦闘力無(多分)
・リオン:獅子王、戦闘力大
・ショウ:黒獅子王、戦闘力中
・フブキ:白獅子王、戦闘力中
こんな感じだな。俺とノワが戦闘が苦手だから、アイファとうちの子達に戦闘をして貰うことになる。
……あれ? そういえば俺2人と仲良いと思っていたけど、2人の職業知らなくね? アイファは戦闘系だとは分かってるけど、ノワってなんなんだ?
「今戦略考えてたんだけどさ、ノワって何が出来るんだ?」
「どういう意味かしら?」
ノワが笑顔で詰め寄ってくる。
やばい! 言い方間違えすぎた!
「違う違う! 馬鹿にしたとかじゃなくて、ノワの職業とか出来ることを知らないって思ったんだよ! だから聞いたんだ!」
「あー職業の事だったのね。確かに言ってなかったわね」
ノワはそこまで言うとチラリとアイファの事を見た。
アイファもそれに気づいたのか、「少し席を外そう」と言ってこの場から離れた。
「どうして離席させたんだ?」
「私は王妃派じゃないもの」
「王妃派……?」
「貴族と王族も一枚岩じゃ無いって覚えておけば良いわ」
ノワは珍しく寂しそうに言うと、パンッと手を叩いた。
「じゃあ私の職業について教えるわよ」
「お、おう」
「誰かに少しでも情報を漏らしたら分かるわよね?」
ノワのひんやりとした手が右頬に触れる。
「はい! 勿論でございます!」
「ヴェイルの家族、私の家族、その他全員から何を聞かれても答えちゃ駄目よ?」
「分かった」
「信じるわよ」
ノワはそう言うと両手を俺の顔に添え、少し眉を下げながら微笑んだ。そしてそのまま俺の耳に口を近づける。
「私の職業は『記載者』。対象の過去、現在をみる事が出来るわ」
「過去と未来を……? みてどうするんだ」
俺もノワに合わせて顔を近づけて小声で話す。薔薇のような甘い匂いが鼻をくすぐるが、今は煩悩に飲まれるわけにはいかない。
「みるだけでも情報戦で大活躍できるのよ。それに私の職業名を考えてみてちょうだい」
「職業名……それって――!」
「話はここまでね。アイファ、戻ってきなさい」
ノワはそこで話を強制的に終わらせ、アイファを呼んだ。
こうなってしまってはノワとの約束があるので、俺はもうこの場でこれ以上ノワの職業について聞くことは出来ない。
俺はノワの職業について考える。
職業名、『記載者』。
記載って言えば、何かに書き込むことを意味してるはずだろ? そして、対象の過去と現在を見る事が出来るんだ。と、なれば考えられることは1つだ。
ノワは対象の過去を書き換えられる?
そんな恐ろしい発想が浮かび上がる。だが、その事にすら俺は違和感を禁じえないでいる。
なぜか? ノワがそんな簡単に連想できる情報を与えて、それでいて答えを渋る訳が分からないのだ。確実にまだ何か言っていない能力がある。
それこそ過去の書き換えよりもやばいような――
「……イル……ヴェイル!」
「はい!」
「何ぼーっとしてるのよ」
ノワが俺の顔を覗き込んで、手を振ってくる。どうやら考え事に集中しすぎていたみたいだ。
「で、結局どうするのよ」
「私は席を外していたからな。ヴェイル君が作戦を決めてくれ」
「あ、あー作戦ね! おっけい、ちょっと待ってくれ」
作戦はもう単純明快で行こう。
『各個撃破』だ。
ノワの対象の情報を読み取る条件が分からない以上、戦力として数えるのは駄目だろう。
だから、戦闘はノワ以外でやる。俺も出来なくはないが、主にやるのはアイファとリオンだ。だが、そこで1つ問題が生じる。アイファにリオンが話せることを言わないといけない。
別にこれ言ったって俺が凄いんじゃなくてリオンが凄いってなるよな。だから言っても平気だよな?
「アイファには俺のリオンと一緒に行動して欲しい」
「リオンか。確かにリオンからは武人の気配を感じるな。よろしく頼む」
「で、アイファ。これは秘密にして欲しいことなんだが、言っても良いか?」
「む、秘密か。分かった、第1王女として秘密を他言しないと誓おう」
俺が真剣にアイファの顔を見ると、アイファも真剣な表情をして返事をしてくれる。第1王女という名まで出したのだから大丈夫だろう。
俺はまたノワの時のように、小声で話すためにアイファに顔を近づける。
「アイファ、リオンなんだが……実は人語を理解して話すことが出来る」
「なに!?」
アイファが驚きのあまり、大きな声を出した。いやまぁ普通に魔物が話すってのはそれぐらい驚くことだよな。
でも驚きすぎだって。色んな経験してる王族でしょう?
「声大きいよ」
「す、すまない。つい」
「気をつけてくれ。で、俺はテイマーだからリオンとお互いに考えてることが遠くても多少は分かる」
「そうなのか」
テイマーにあんまり詳しくないであろう事を逆手に取り、テイマーだからの言葉で誤魔化しつつ、リオンと俺が意思疎通できることも伝える。
「だから、アイファにはリオンと2人で協力して敵を各個撃破しつつ、状況を俺に伝えて欲しい」
「了解した」
「俺とノワは全体の状況を把握できるように、あの中央にある1番大きな岩を拠点に守っておくよ」
中央にそびえ立つ、一際大きな岩を指差しながらそう言うと、アイファは少し微妙な反応を示した。
「あそこは確実に他のやつも狙いに来るぞ、ましてヴェイルはその……私とノワ・ブルノイルのせいでだな……」
なるほど。アイファの言いたいことが分かった。まぁそれも戦略の1つだ。
「大丈夫だ。こっちにはフブキとショウもいる。それに俺も多少は戦えるからな。アイファが居ない間に、俺とノワが脱落するなんてことは無いから安心してくれ」
「そうか……そうだな。分かった、私は出来るだけ早く全員を倒してくる。だからそっちも任せたぞ?」
「おうよ!」
俺は胸を張って任せろと強く頷く。
……あの、フブキさん、俺今かっこよく決めた所なんで、頭の上に乗るのだけはちょっと……?
「ノワ・ブルノイルも無様に負けるなんて事はないようにするんだぞ」
「言われなくても分かってるわよ。貴女こそ変に力んでミスしないことね」
「こちらこそ言われなくてもそうはならないさ」
「どうかしら」
この2人は相変わらず憎まれ口を叩き合っているが、お互いにどこか楽しそうな雰囲気だ。
「あと2分で始めるよ~!」
そんな会話をしていれば、残り時間が2分というネイリア先生の声が響き渡った。
俺とノワとショウとフブキは急いで大きな岩山の頂上に向かい、アイファとリオンはその麓に仁王立ちで構える。
よし、ついに模擬戦開始だ!
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