第92話 声。勘違いじゃない
フォレストウルフ20体討伐の依頼を受けて、東の森へと到着した。
『まぁ結局まだまだうちの子は増やさなくていいかなって感じだね』
『そうだね~』
脳内でフブキ達と会話をしながら森の奥の方へと進んでいく。王都近くの東の森は、浅い部分はミニマムスライムやスライム、レッサーラビット、ラビット、ゴブリンなんかの弱い魔物しか現れない。
フォレストウルフが出てくるのはもう少し森の奥に行ってからだ。
レッサーラビットやミニマムスライムの気配をショウが感じ取るが、それを無視して森の奥へと進んでいく。討伐する理由がない時は、襲われる以外で無駄な殺生はしたくない。
『前方にフォレストウルフ3体の気配です主』
『了解、いつもの連携で行こう!』
『御意』
『分かった』
『は~い』
俺の指示でショウが木々に紛れ込み、リオンがファレスとウルフの元へ走っていく。そのリオンの後ろを俺とフブキがついて行く。
「いた! リオンは右の1体をお願い!」
そうそう。いざ戦闘している所を他の冒険者に見られた場合、すべてを脳内で話しているとそれはそれで怪しくなるので、一方的な命令で事足りる場合は、できるだけ口に出すことにしているのだ。
その方が自然だからね。
走ってフォレストウルフに接近した俺達は、俺の指示通りに右の1体をリオン、左の2体を残る3人で討伐するように動く。
リオンはフォレストウルフ如きに1対1で負けるわけがないので1人で任せる。とは言っても、一応ショウにはリオンの方も気にしてもらっている。
俺とフブキは姿を堂々と現したまま、左のフォレストウルフ達に向かって走る。
その2体は俺達の足音で少し遅れて狙われてると気づき、好戦的に俺達に向かってくる。
相手から見えているのは俺とフブキだけ。フブキは少し離れた所で止まってフォレストウルフを見据えて魔法を準備し、俺は2体の内の右のフォレストウルフに向かって剣を振った。
最近の特訓で意識していること。ただただ剣を真っ直ぐ、そして素早く振り降ろすことだけに集中した。
その結果剣は勢いよく風を切り、肉を切り、骨を割った。
『ギャインッ!』
「1体!」
ファレストウルフとすれ違った瞬間に、俺の剣はまっすぐにフォレストウルフの胴体を横から切り裂いた。斬られたフォレストウルフは、俺とすれ違いながら地面に崩れ落ちた。
「まだ俺じゃあ骨は断てないか……」
俺はもう1体のフォレストウルフに背を向け、あたかも隙を見せているかのような状況を作る。あからさまな罠でも、それを罠だと理解できるほどの知能はフォレストウルフには無い。
そうした事でもう1体のフォレストウルフは俺に向かって牙を剥こうとしてくる。
が、勿論そのフォレストウルフの攻撃は俺に届かない。
『
『
俺に集中していたフォレストウルフは潜んでいたショウに気づかず、更には戦闘を始めた頃は注意していたはずのフブキのことも忘れて、俺らの思惑通りに2人の攻撃を全て受ける。
『ギャウンッ!』
ショウの牙で首元を噛み切られ、フブキの氷の礫が胴体に刺さったフォレストウルフは、そのまま地面に倒れ込む。
リオンの方を見てみればもうとっくに戦闘は終わっており、リオンの前に首が綺麗に胴体とお別れしているフォレストウルフがあった。
「ふぅ……やっぱリオンって強いな。でも俺達だって結構良かったよな。やっぱりヴァレアとかアイファが異常に強いだけで、俺らもある程度冒険者活動できるぞ」
そんな事を呟きながらフォレストウルフ達をそのまま魔法袋に入れていく。
公爵家で貰ったこの魔法袋は非常に性能が良い。これだけ大容量だといくらするのか気になるけれど、まぁ聞かないほうが良いだろう。これ以上借金を増やしたくないよね。ありがたく頂いておこう。
戦闘の興奮を少し落ち着かせるために切り株でほんの少し休み、その間に水を飲む。こういう時間は、初心者脱出したての冒険者に多い、勢いだけで行って怪我をするという状況を予防することにも繋がる。
「じゃそろそろ次行こうか」
小休憩を終えて、再度フォレストウルフ狩りを始める。後17体だ。サクサク行こう。
「フブキはそこで全体のカバー! リオンと俺が2体ずつ相手にするから、ショウも隙を見て倒しちゃって!」
フォレストウルフ4体との戦闘。さっきとは少し違う陣形での戦闘を試みて、圧勝。
「今回は俺1人で行くから、危なくなったらカバーお願い!」
フォレストウルフ2体との戦闘。フブキの援護ありとはいえ、これぐらいならさっきもやったから問題なく勝利。
『え? リオンが1人で行きたいの? あれ3体だよ?』
『我も自身の強さを確かめたい』
『分かった。危ない時は助けるからね!』
リオン対フォレストウルフ3体。俺の忠告なんて全くいらなかったようで、危なげなくリオンの勝利。強い。
その後もショウ対フォレストウルフ2体、フブキ対フォレストウルフ2体をして、合計16体を討伐した。
経過時間は1時間、物凄く順調だ。この調子なら今日は3つ依頼を受けられるかも知れない。
『あと4体、ちゃちゃっと行っちゃおう!』
『は~い』
『うむ』
『分かりました』
その後も順調にショウの気配察知のお陰でフォレストウルフを見つけ出し、3体、2体と倒した。結果的に21体倒してしまったけれど、素材も売れるし良しとしよう。
青々と生い茂っている気に背中を預け、もふもふ3匹を抱えながら小休憩する。別に運動した後だからもふもふ3匹は暑い、なんて思ってないよ?
そんなほのぼのとした休日を少しだけ味わい、次の依頼を受けるためにそろそろ王都に戻る事にする。
「そろそろ戻ろ――」
『誰か助けて!!!』
「――え?」
急に脳内に響く声。その声は可愛らしい女の子のようで、うちの子達とは全く違う。けれど、脳内に響いたという事実から、俺はついうちの子達が何かを言ったのかと考えてしまう。
『今なんか言った?』
『む? 我は何も言っていないぞ』
『僕も言ってないよ~』
『私も言っていません』
『ん~そっか、そうだよねぇ……』
まぁやっぱりそんな訳もなく。
俺の勘違いだったのかな?
『お願い! 誰か!』
またもや同じ声が響く。さっきよりも緊迫していて切実な声だ。緊急事態に違いない。
「やっぱり勘違いじゃない。行くよ皆!」
『どうしたのですか主!』
『なんか女の子の声が聞こえるんだ! 皆と話してるみたいに脳内に!』
『そんな事が……?』
困惑しているショウをよそに、俺は声の元へと走り出す。
何故か声がどっちの方角から聞こえてきているのかが分かる。脳内に直接響いているからだろうか。
声の方へと全力で走っていくこと3分、ようやくショウの気配察知にもその声の主が反応するようになった。
『気配察知に反応あありました! 魔物1体と人の気配です!』
『おっけーすぐに行こう!』
ここまでの間にもずっと女の子の声が聞こえている。その声は段々と弱々しくなってきている。
早く行かないと声の子が死んじゃうぞこれ!
『王よ! 我が先に行こう! 我が一番早い!』
俺の感情を感じ取ったのか、リオンがそんな事を言ってくれる。俺としては非常に助かる提案だ。リオン単体なら俺達よりも圧倒的に速い。
『ごめん! お願い!』
『うむ、では行ってくる!』
そう言うとリオンはものすごい勢いで先へと走っていき、俺達はそのリオンを追いかけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます