第49話 戦闘。……え?

 ゴブリン討伐への参加。


 まぁ冒険者ならば誰しもが通る道だ。

 小さな子供が戦うには危険だと止められるけれど、戦闘系の職業を授かった瞬間に余裕だと言われる魔物代表。何なら農具を持った農家でも1対1なら倒せるぐらいの魔物だ。


「いやぁ、皆の強さを見てたから平気なのは分かってるんだけど、いざ自分が戦うってなると緊張するね」


 いざという時のために昔から父さんに剣の扱いは教わってきたが、それを実際に扱った事はない。

 それだからか、特に危険だと言える相手ではないのに変に緊張してしまう。


「大丈夫だよ主様〜僕達がいるしね〜それに主様強くなってるから〜」

「ありがとなフブキ、頑張るよ」


 頭の上で寛いでいるフブキに鼓舞されつつ、ショウがゴブリンを見つけるまで森の浅瀬を適当に散策する。

 




「そういえば皆は俺と学園行ってない時は何してるんだ?」


 ふと思ったが、俺がいない暇な時間は皆は何をしてるのだろうか。

 フブキはゴロゴロ寝たり、ショウはじっとしてるイメージが出来るが、リオンなんかは性格的に動き回ってそうだ。


「僕はね~主様のベッドでゴロゴロしてるよ~主様の匂いがして落ち着くんだぁ~」

「まったく、可愛いが過ぎるぞフブキ~!」


 フブキは予想通りゴロゴロしてるみたいだった。それも俺のベッドでだそうだ。しかも落ち着くってもう! 可愛い! なにそれ! 


「私は街を散策しています。住んでいる街の全貌を把握するのも護衛の努めですので」

「我も出かけている。王城や衛兵の訓練所は非常に面白かった」


 おっとぉ……? リオンさん凄いこと言ってません? いや、気のせいかも知れないよな!

 

 ……うん、きっと気のせいだ! ……取り敢えずショウから聞いてみよう!


「ショウは王都のどこらへんまで見て回ったんだ?」

「貴族たちが住んでいる北側を主に見て回っていました。有力な貴族の家や危険な思想を持つ貴族を把握しておきたかったので」


 き、貴族……? おやぁ?


「もしかして家の中も入っちゃったり?」

「はい。手練れの兵が居ない家には入りました。悔しいのですがノワ殿の実家であるブルノイル公爵家には侵入できませんでした。あそこには入れる気がしません」

「あーうん……そっかぁ……」


 全然駄目だった! ショウも駄目だった! 前に王城は駄目って言ったもんね、だから入ってなかったんだろうね。貴族街も人様の家も駄目って言ってないもんね……。


「ちなみにリオンは王城に侵入ってどういう事……?」

「うむ、我はショウとは違ってこそこそと侵入したわけではないぞ」

「え? じゃあどうやったの?」


 おっと、これはまさかのリオンは平気なパターンか!


「正面切って入ろうとしたら捕まりかけたが、アイファに助けて貰ったのだ。我としたことが今の王城には入れないということを失念していた」


 駄目じゃーーーん! 全然駄目じゃん! 捕まりかけてるじゃん!


「……ってアイファ!?」

「うむ、アイファだ」


 リオンからまさかの人物の名前が出てきた。

 アイファの名前が出てくるってことは本当に最近の話ってことだろう。


「アイファどんな感じだった? 最近学園に来てないから心配なんだよな」

「うーむ、アイファはいつも通りだったと思うぞ? 強いて言えば殺気立ってたぐらいだな」

「殺気……なんでだろう」

「訓練していたからであろうな。我がアイファに会った時は訓練をして疲労していた様子だった」

「訓練……そっか、ありがとう」


 学園を休んで訓練? 空き時間に身体を動かしてたって感じか? まぁ何にせよ体調が悪いとかじゃなくてよかった。訓練できるくらい元気なら、王城での問題が解決すれば戻ってくるだろう。



「主。あちらの方向にゴブリンの反応が2体です。向かいますか?」


 俺がアイファの事を考えていると、ショウがゴブリンの出現を教えてくれた。進行方向に2体のゴブリンがいるみたいだ。


 よし、初戦闘といこうか。


「ありがとうショウ。じゃあ向かおう」

「御意」


 ショウの案内でゴブリンのいる場所へと向かっていく。

 これから俺自身が戦闘をするのだという緊張で、変な汗が額から流れ落ちてくる。


「大丈夫だ王よ。フブキも言っていたが王は強くなっている。なんの問題もない。胸を張れ」

「……そうだな。ありがとうリオン」


 横を歩いているリオンにも励まされ、1歩1歩森を進んでいく。

 俺はリオンの言葉に不思議と安心感を感じるようで、既にさっきまでの気持ち悪い汗は引いていた。


 フブキの言葉は癒やされるし、ショウの言葉は落ち着く。やっぱり俺の子達は最高だな。

 変なタイミングだが、そう再確認できてなんだか心が踊る気分だ。


「主、接敵します。どうしますか?」

「俺がさっきのリオンの役をやるから、皆は俺が危険だと思ったら助けてくれ。俺が1人でも戦えるかどうかを知りたい」

「御意」

「分かった~」

「行って来い、王よ」

「おう!」


 皆に激励され、父さんのお古の剣を抜いてゴブリンに歩み寄る。隠密や不意打ちなんていう技術を使わない、正面からの衝突だ。無策の突撃とも言える。


「ようゴブリン! 俺はヴェイルだ。お前らに恨みはないが、討伐させてもらう!」

『ギャグガッ!』

『ガガグギャガ!』


 ゴブリンが俺に対して下卑た笑みを浮かべて突撃してくる。それを俺は腰を落とし、剣を中段に構えて待ち受ける。


 父さんから教わった姿勢はこれだ。右足を前に出して手は臍の高さ、剣先を相手に向けてその時を待つ。無闇矢鱈に攻勢に出ず、相手の出方を伺う戦闘法だと聞いた。


『ギャガッ!』

「ここだ!」


 一足先に俺のもとに辿り着いたゴブリンが、ご丁寧にも隙が大きい飛びつきをしてきた。


 後ろに皆が居るという安心感もあって、俺はその圧迫感にも屈することなく冷静に対処できる。

 身体を半身ズラして、ゴブリンの通る動線に合わせて頭部に剣を振り下ろすだけだ。


 脳内で考えた行動を実践し、ゴブリンに強烈な一撃をお見舞いする。全身に力を入れた渾身の一撃は吸い込まれるようにゴブリンに吸い込まれ、鈍い音を響かせた。


『グギャアッ!』

「ふぅ……よし。って、え――?」


 ゴブリン1に攻撃が入った事を確認するためにすれ違ったゴブリンを見ると、俺が想像していたよりもゴブリンの損傷が酷かった。それに絶命している。


 それこそ、戦闘職が力任せに叩いたかのような――


「しゃがめ!」

「えっ――ッ!?」


 急なリオンの言葉に屈むと、リオンとゴブリンが俺の頭上でぶつかった。


 どうやら残っていたゴブリンが呆けていた俺に飛びかかって来ていたようで、リオンが咄嗟にそれに対処して強靭な噛みつきで絶命させたみたいだった。


「主様大丈夫~?」

「何をやってるんだ王よ。戦闘中に気を抜くなど言語道断だぞ」

「リオン、主に対して無礼だぞ」

「いや、良いんだショウ。リオンの言う通りだよ。ありがとうリオン」

「うむ、分かれば良い」


 リオンの言うとおりだ。敵との戦闘中、しかも敵を目の前にして気を抜けばすぐに死んでしまうかも知れないのだ。リオンに叱責されるのも仕方ない。

 むしろ怒ってくれるというのは心配してくれたということなのだ。感謝をすることはあれど、それを理不尽に感じるなんてありえない。




 だが、あれは俺が動揺するにはあまりにも十分な出来事だった。


「なぁフブキ」

「何~?」

「俺が倒したゴブリンがさ、物凄く強い力で攻撃したような攻撃痕になってるんだが、あれっておれがやったんだよな?」

「そうだよ~?」


 やっぱりそうだ。いや、そうであるのが当然なのだが、俺がこのゴブリンを殺したんだ。

 ……が、やはりどう考えても力が強すぎる。俺程度の力じゃ頭部への攻撃は即死までは至らないはずだ。精々ふらついて倒れるくらい。


 じゃあなんでこうなってるのか。考えられるのは1つ。


「強くなってる――」

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