第48話 皆の実力。ん?

 学園に入学して初めての休日である土曜日。

 今日はショウ、リオン、フブキの3人を連れて王都の外にやってきていた。目的はゴブリンの討伐だ。


 俺がいきなりゴブリン討伐という冒険者としての依頼を受けることになったのは、ラン先生からの課題だからだ。


 

 あれは昨日の夕飯の時のこと。

 ラン先生と楽しく特寮の食事を楽しんでいると、先程まで食事に夢中だったはずのラン先生が何かを思い出したかのように突然口を開いた。


「そうだ、課題だす。テイムした子達と連携確認してきて」

「連携ですか。テイマーとしての動き方ってやつですよね?」

「そう。冒険者として依頼でも受けてきたら?」

「分かりました。何か受けてきますね」

「ん」


 と、いうことで冒険者ギルドでゴブリン10体討伐という低ランク依頼を受けることにしたというわけだ。




「王も我らと一緒に戦うか?」

「んーどうしようかな。悩みどころなんだよね」


 ゴブリンと言えばFランクの最低等級の魔物で、スライムなんかと同等級も魔物だ。勿論等級内でも強さの差はあるので、スライムよりかは圧倒的に強いのだが、まぁ体格の良い子供でも倒せるレベルの魔物だ。

 だが、今日の目的はあくまでも皆を上手く連携させることであって、ラン先生の言う指揮役として経験を積んでこいって事だと思うんだよな。


「主様ならゴブリンぐらい大丈夫だよ~」

「そうです。それに私達がいますので、主に危険が及ぶことはありえません」


 俺が悩んでいると、フブキとショウまでもが俺が一緒に戦うことを勧めてきた。フブキは好奇心旺盛で俺と遊びたいからだろうと想像できるが、慎重派なショウまでもがそう言うとは思わなかった。


 いや、ゴブリンはショウですらそう言うほどの雑魚魔物ってことか。護身用に父さんのお古の剣も持ってきてるし、ちょっとくらいは良いだろう。


「んーじゃあ、最初は皆だけで戦ってもらって、その後は俺も一緒に参戦してみようかな」

「それではそうしよう」


 そう決まれば後はゴブリンを探すだけだ。

 

 今日俺が来てるのは、この前シュミレイと王都の外で会った時に話題に出た東の森だ。深いところは少し強めの魔物が出るため、今日居るのは勿論最も浅瀬の森で、すぐに王都に帰ることが出来る。

 現在この森は、つい先日の異変でAランクを含んだ冒険者による討伐隊が出たことで、東の森の魔物の数自体が減ってるので非常に安全だ。


「それにしても魔物の気配が少ないですね」


 気配探知が得意なショウが言うのだから、安全さ加減はバッチリだ。


 そんなんじゃあゴブリンの数も減ってないか? と思わなくもないが、あいつは魔物の中でもトップレベルで繁殖力の強い魔物だから気にする必要がない。

 多少見つけづらくとも、余裕で10体以上は発見できるだろう。

 

「ショウ、ゴブリンはいそうか?」

「500m先に3体います。そこまではっきりとは感じられないのですが、その少し奥にも数体いるかも知れません」

「よし、じゃあその3体を討伐しよう。作戦はさっき言った通り。戦闘中の指示は念話で出すから注意してくれ」

「了解した」

「は~い」

「御意」


 作戦は単純だ。

 1番対面戦闘力の高いリオンが正面切って突撃し、それをフブキが得意の魔法で援護する。その行為自体を目眩ましとして利用し、ショウが気配を消して不意を突く。といった作戦だ。


 我ながら皆の性格や能力、本人たちの動きを見て決めることの出来た、シンプルかつ最適な作戦だと思う。




 そんな事を考えながら森を進んでいれば、ゴブリン3体が視認できる距離まで近づいてきた。


『じゃあ皆、作戦通りに。――行け!』


 俺が念話で皆に指示を出すと、ショウが気配を消してゴブリンの背後に走り出し、リオンが堂々とゴブリンの前に姿を表した。フブキは俺の頭の上で待機中だ。


「我は獅子が王! リオンである! 敬愛する我が主の為にお前らの命を頂こう!」

『グゲッ?』

『グギギ』

『ゲゲッ……グギャッギャッギャッ!』


 リオンが正々堂々と騎士のような口上を述べるも、ゴブリン達は下卑た笑みを浮かべながらリオンの事を馬鹿にして爆笑している。


 言葉が分かるか否かは関係ないのだろう。小さな子猫であるリオンが1匹で出てきたのを嘲笑っているのだ。


 獲物がやって来た、と。


「戦士を前にしてその態度――」


 悠然と歩を進めていたリオンが、ゴブリンにある程度近づいた所で身体を沈めて力を溜め、四肢で地面を思い切り蹴った。

 次の瞬間にはゴブリンの目の前にリオンが移動し首に噛みついていた。


『ギャ……!?』

「――失格だ」


 リオンを馬鹿にしていたゴブリンはそれを避けることも抵抗する事も出来ずに、そのまま首を噛みちぎられて倒れ込んだ。


『ナイスだリオン! この隙にショウは俺からみて左側のゴブリンを! フブキはそれに動揺して隙を見せた残るゴブリンに攻撃だ!』

『御意』

『は~い』


 倒れた仲間を見て激昂した残るゴブリンが叫びながらリオンに向かっていくが、リオンはそれを意に介さず俺の元へと戻ろうとしている。


 それもそのはず、俺が瞬きした次の瞬間にはショウが左のゴブリンに爪の一撃を食らわせ、その後少しの時差でフブキの魔法である氷の礫がゴブリンの顔面目掛けて飛んでいったからだ。



 これで俺達の完全勝利だ。


「みんなお疲れ様。本当に凄いよ!」


 かかった戦闘時間は2分。Fランクの魔物とはいえ、超短時間での一方的な戦闘だったと言えるだろう。リオンもショウもフブキもめちゃくちゃに強い。

 

 それなのにも関わらず、3匹からは少し残念そうな感情が伝わってきた。


「申し訳ない王よ。ゴブリン程度の首をハネるのに時間をかけ過ぎてしまった」

「え? いやいや、本当に凄かったよリオン! メッチャクチャ強かったじゃん!」

「いや、この程度じゃまだまだだ。やはり早く取り戻さなくては……」


 なぜだか物凄く落ち込んだ様子のリオン。そして何か気になる発言をしている。


「取り戻すって――?」

「主、すぐ近くにゴブリンの気配です。こちらに向かってきてます」


 リオンの気になる発言に俺が反応すると、ショウがゴブリンの反応を教えてくれた。


 なんだか非常にタイミングが悪いが、今はゴブリンの対応をしなくちゃいけない。違うことに気を取られて怪我をしたら元も子もないからな。


「分かった。どっちに何体?」

「あちらに2体です」


 ショウが視線を向けてのは俺等が来た方向とは反対側、さっきのゴブリン達が来た方向だ。

 すぐにこちらに向かってきている事も踏まえると、もしかしたらさっきのゴブリン達の仲間だったのかも知れないな。 


「じゃあさっきと同じ作戦でもう1回行こう」

「御意」




 その会話が終わると同時に2体のゴブリンが襲ってきたが、リオンによる正面からの攻撃と、気配を既に消していたショウの攻撃で即終了した。


 フブキは参加すらしておらず、ゴブリン相手では危険という考えが出ないほどには余裕そうだ。


「お疲れ様みんな」

「主も的確なご指示ありがとうございます。次は主も参戦しますか?」

「あーそうだね。もう半分の5体を討伐したし、次は俺も参戦してみるよ」


 ゴブリン討伐も折り返し地点、連携の仕方も実践で試すことが出来たし、取り敢えずは良いだろう。俺も俺自身がどれくらい戦えるのか知っておきたいし、次は俺も参戦だ。

 リオン、ショウ、フブキの強さを考えればゴブリン位への挑戦なら安全と言えるだろう。何も問題はない。


 安全の確保、絶対、だ。

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