第20話 面接試験。えぇ!?

「ではこれより面接試験会場に移動する。面接は私達試験官は行わない。これまで案内したことで多少は人となりを知ってしまったからな。先入観を無くすための措置だ」


 簡潔にそれだけを述べて、移動が開始された。相変わらず武人みたいな試験官だ。


「ヴェイル様、実力試験はどうでしたの?」


 俺が試験官たちを観察していると、ウェルミアが話しかけてきた。なんだかすごく笑顔だ。


「まぁ良かったよ、高評価貰えたと思う」

「あら、そうでしたの! 私も高評価して頂けましたわ! 試験官様に褒められましたのよ!」

「ほほーそれは凄いな。結構堅物そうな印象だけど褒められるなんてな」

「高評価されてる私を見て他の方たちは驚いてましたわ! 凄く良い気持ちでしたの!」

「良かったね」


 なんとも素直なお嬢様だ。ただね、お嬢さんの声が大きくて今の会話内容的に一部の受験生からの目が痛いよ僕は。




 周囲の視線を気持ち的に躱しながらみんなの後を付いていくと、先程の学力試験の会場に戻ってきた。

 とりあえず全員席に座って順番を待つようだ。俺とウェルミアもそそくさとそれぞれの席に座る。ウェルミアは俺と席が離れているため終わるまでは会話も出来ないだろう。


「ではこれより面接試験の説明を始める。面接は1人辺り15分を目安に3対1で行う。1回で10人ずつ呼ぶため自分が呼ばれるまで待つように。呼ばれたらこの張り紙に書いてある会場に各々向かい、到着したら入室して面接開始だ。面接が終わったらそのまま解散して構わない。では800番から809番まで面接だ」


 早速最初の10人が呼ばれ、面接が開始された。

 俺は829番だから3回目か。30分後だな。


 面接もノワに言われたように対策はしてきたため、今更必死になってやるような事もない。気持ちを整えておくだけだ。

 そのため周囲の人達を観察することにしたのだが、100人も居れば様々な人がこの部屋に居るわけで、既に派閥を作ろうと動いている動きすらありそうだった。


「ノウリア様、ミデリア伯爵家のアミラと申しますわ」

「アミラ様と仰るんですのね。宜しくお願い致しますわ」


 なんて貴族の令嬢同士が親睦を深めている。

 面接試験待機中という事もあって、静かな教室で試験官達も見ているのというによくやるもんだ。権力を常に持ち続けている弊害だろうか。



 それを見て、迷惑だとは思いつつも暇や不安を紛らわせるために隣同士でコソコソと話をしている女子受験生達や、遠慮がちなのか臆しているだけなのか声を大にしきれないような声量で武勇伝らしき話をする男子受験生を観察していると、あっという間に30分が経過した。



「では820番から829番まで面接だ」


 面接試験会場へと向かう。

 『第19小会議室』か。マップを見る限りすぐ近くの場所だな。



 記憶した道順を頼りに1~2分ほど歩くと、目的地である会議室に到着した。確か到着したら入って良かったはずだ。


 コンコンコン


 ドアを3回ノックして入室する。

 中に入るとそこは、装飾や調度品なんかは一切なく必要最低限のテーブルと椅子が置いてあるだけの部屋だった。部屋に入って正面には横幅5~6メートルはありそうな机に3人の試験官が座ってこちらを向いており、俺が座るであろう場所は少し豪華な椅子が1つ置いてあるだけだ。

 俺は面接試験官の案内のもと椅子に座って姿勢を正す。先程まで緊張していたのだが、いざ試験官と相対してみると不思議なことに緊張が和らいでくる。


「君が特殊金券の子だね?」


 挨拶もそこそこに、真ん中に座っている長い耳の男性試験官が問いかけてきた。あの長い耳はエルフか。


「はい、そうです」

「公爵家かい? それとも王族かな?」

「ブルノイル公爵家です」

「あーあそこかぁ……君も大変だろう? あそこの一家は変わり者が多いからね」

「ははは……まぁ確かに大変な事もありますけど、皆さん優しいので仲良くさせて貰っています」

「そうか、それは良かったよ」


 エルフの男性は無表情ながらも優しさを滲ませる声だった。エルフが表情に乏しいという情報が載っていた本は嘘じゃなかったみたいだ。


「で、君の職業は……そうか、君はテイマーなんだね」

「はい」


 なんだか不思議な何かを見ているかのように、エルフの男性は目を少しだけ大きく開いた。


「テイマー、テイマーかぁ……」


 書類と俺の顔を交互に見て小さくつぶやく。


「君、本当にテイマー?」

「え……? いや、本当ですよ! 実際に実力試験でテイマーとしての実力を見て貰いました!」

「あーいや言葉が足らなかったね。本当にただのテイマー?」


 一番気づかれては行けない部分に疑問を持たれ、つい動揺してしまう。この動揺が相手に伝わってしまえば何かあるとバレてしまう。まずい、まずいぞ。


「うーん、確かに猫のあの子が実力試験をした記録も残ってるね。しかも評価が高いときた……もう一度聞くよ、本当に君ってテイマー?」

「テイマーです! ブルノイル家にも聞いてみて下さい! 公爵家に特殊金券を頂いておいて嘘なんてつけません!」


 少しでも疑われないようにすぐに答えを返す。ブルノイル家の名前を出せば信憑性は高くなってくれるだろう。多分!


「……そう。そこまで言うんならテイマーだと思うことにするよ。でもね、ブルノイル家だからこそ怪しんだよ。君はまだあの家の事をよく知らないみたいだね」

「え? いったいそれはどういう――」

「じゃあ次の質問をするね。職業に関して君が一番得意な技を見せてくれるかな?」


 先程の言葉はいったいどういう意味なのだろうか。『ブルノイル家だからこそ怪しい』……か。

 

 考えても分からないものは分からない。これ以上の情報なんて持っていないし、エルフの男性もこれ以上教えてくれなそうだ。今は面接に集中しよう。

 それに今の質問でラン先生が俺にこいつを預けてくれた理由が分かった。あ、ラン先生は実力試験の時の猫帽子のテイマー先生のことね。


「魔物との完全な意思疎通をしてみます」

「完全な意思疎通か。面白いね、やってみてくれるかい」

「はい」


 俺は胸ポケットに入って休んでいた魔物を軽くつついて起こす。


「寝てる所ごめん、俺の上をぐるっと飛び回ってくれないか?」

『チュン……』

「いやごめんって、ラン先生じゃないからって怒るなよ」

『チュチュン』

「はいはい、後でな。頼むぞ」


 だいぶ渋られたが、この面接が終わった後に餌をご馳走するということで解決した。そしてその魔物が胸ポケットから飛び出して俺の頭の上を3回転する。真っ白で中々見る機会のない手のひらサイズの鳥だ。


「おぉもしかしてその鳥はホワイトバードかい?」

「はい、そうです。ラン先生にお借りしました」

「猫のあの子がテイムしてる子か。他人がテイムした魔物でも平気なんだね。うん、凄いじゃないか」

「こちらに害意を抱いている魔物だと意思疎通は出来ません。少しでも友好的な感情がある魔物だけです」

「それでも十分だよ」


 その後もホワイトバードちゃんに活躍してもらい、先生方の指示通りのことをやってみたり色々と意思疎通できていることを証明した。先生方の評価はだいぶ高そうだ。


 そして意思疎通のお披露目後も質問を何度かされ、無事に15分が経過して面接の時間は終了となった。最後まで俺の職業は疑われていた気もするが、核心を突かれたわけでもこれ以上深堀りして聞いてくることも無さそうだから大丈夫だろう。






 試験のすべてが終了し、特に学園に居座る用事もないため外に出る。まだノワは試験が終わっていないみたいなので馬車の中で待つことにした。ノワの試験が終わるのを待てばブルノイル家に帰宅だ。


 


 ちなみにちゃんとラン先生にホワイトバードちゃんを返し、後日ホワイトバードちゃんへの餌プレゼントも兼ねて先生と出かけることになったぞ。


 あとは合格発表を待つだけだ。

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