第21話 「簡単な作業」 sideノワ・ブルノイル

 前書き


 今日はなんとなく3話更新するわよ~

 全部sideよ~

 楽しんで頂戴~


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 ヴェイルと分かれて受付を済ませて会場の中に入った。分かれたというか置いてきただけなのだけれど。


 手元にある鉄札には99という数字が書かれているわ。これが私の受験番号。一番最初のグループではあるものの、その中では一番最後のハズレ番号なのよね。

 そんな事を思いながら試験官の説明を聞く。試験の順番は実力試験、筆記試験、面接試験の順らしい。


 眼の前で試験の説明をしているのは王妃派閥のグダ子爵夫人。特徴的な鷲鼻に濃い赤色のメイクを施した目尻が、彼女のキツそうな容貌を更に彩っている。勿論悪い意味で。確か舞踏会のマナー講師だったかしら。


 そんなグダ夫人が私のことをチラチラと見ながら説明を続けている。その額には大粒の冷や汗をかき、手元も微かに震えているかのように見える。

 どうやらマナー講師の癖して自分の説明に不備がないか怯えているようだった。


 私も怖がられたものね。王妃派閥だからって問答無用に潰すわけはないけれど、それは彼女が安心する材料にはならないわよね。


 ニコリと微笑みかけてあげた。


「で、ではこれより実力試験へと参ります。皆さん私について来て下さい」

 

 グダ夫人の顔が引きつった気がするけれど気のせいだろう。

 グダ夫人の後をついて実力試験の会場へと向かう。試験会場の周囲にいた6人の試験官達もついてきている。グダ夫人と合わせた7人で実力試験の相手をしてくれるみたいだ。


 私は誰が相性良いかしら。



 そんな風にいつもの癖で念入りに人物観察していると、グダ夫人と視線があってしまった。それも私が人物観察しているタイミングでだ。


「ひっ」


 いくら私の目が怖いからって悲鳴を上げる必要はないと思うわ。……はぁ、駄目ね。お母様にも「ノワが人間観察をしている時の目は人殺しの目よ」って言われたものね。治せないものかしらこの癖。




 怯えた状態のグダ夫人についていくこと5分。目的地である演習場に到着した。


 7人の試験官から1人を選んで実力を示すという簡単なお題。私はあの人に相手して貰いましょう。朱色の綺麗な髪の毛をしている女性なものだからつい気になっちゃったわ。面白い人だったら仲良くしましょうかしら。



 列に並ぼうとすると列を譲られる。貴族からは特に素早く譲られ、それを見た平民も空気を読んで列を譲ってくれるという事態が発生する。

 これだから私は長蛇の列とか人が密集している所には行けないのよね。


「よし、最初はお前が俺に挑戦するのか?」


 朱色の髪をした女性は高身長で引き締まった体をしている見た目通り、明確に戦士の血を感じる話し方だった。悪く言えばがさつな話し方とも言える。


「はい、よろしくお願いします」

「いい度胸だ! 俺はシュミレイ。A級冒険者だ。いつでもかかってこい!」

「これはご丁寧に。私はノワ・ブルノイルと申します。職業は『記載者』です。戦闘系ではないので戦闘はしません」


 なにやら勘違いをしているようなので私がそう伝えると、シュミレイさんは目を大きく見開いて固まってしまった。


「戦わないのか……?」

「戦闘系じゃないですので」

「本当に……?」

「本当です」


 お互いにお互いの目を見つめ合うこと数秒、シュミレイさんが意識を取り戻した。


「はっ! すまない、あまりの衝撃に固まっちまった。でも俺は正直言って戦闘以外はてんで駄目だぞ。どうするんだ?」

「私の記載者の能力を確認してもらいたいです」

「記載者か。どんな能力だ?」

「使ってみれば分かります」


 シュミレイさんに近づいて手を差し出す。すると人というものは手を差し出し返すものなので、その手を私は握った。


「ん? ああ握手か? どうしてまた急に」

「イルミリア――」

「――それを何処で聞いた」


 能力で視た情報を口にした瞬間、私の首元には剣刃が触れていた。私と変わらない大きさをした大剣の刃が。


 これは失態だわ。つい口にしてしまったけれどイルミリアと言えば大陸の北側に位置小国の名前だわ。その小国の名を関する姓という事は……


「失礼しました。これが私の能力なのです」


 周囲の人達、特に貴族が騒いでいる。それも無理はないだろうけれど、今は私の身分でも心許ない。

 私は大国の公爵家の一員、彼女はおそらく小国の王族。国の規模が違いすぎるためどちらが上とははっきり言えないが、位だけで見れば彼女のほうが上だ。

 私の勝手に身分を暴くという行為は、問答無用に殺すとまでは行かないものの相当な無礼に値するだろう。


「能力……だとしてもその情報を知られているのはまずい」

「殺すのですか?」


 無言の殺意が私を襲う。今すぐにでも私の頭が身体と別れを告げてもおかしくないくらいの殺気。


「そうしたいのは山々だが……お前は公爵家の人間だろう。いくらなんでもそんな無謀は出来ない。が、私も引くわけにはいかない」

「そうですわね。ではこうしましょう、後ほど招待状を送りますので一度我が家にお越し下さい。ゆっくりとお話をしましょう」


 私は殺意なんて込めない。

 ただただ大国の公爵家という権力と今の彼女の状況を利用した単純な脅しだ。


「……はぁ、分かった。招待状を送ってくれ。俺の宿の場所くらいは簡単に分かるだろう?」

「はい。では試験はこの辺に致しましょう。高い評価を楽しみにしております」

「はっ、食えない嬢ちゃんだな」


 ここまでずっと大剣を首に添えられたまま。正直言ってこの大きさの剣を片手で扱っている彼女の腕力は常軌を逸していると言える。力に特化した職業なのだろう。

 それに対して私は武力の欠片もない少女だ。だからこその交渉。権力を用いた言葉によるやり取り。小声ながらも大胆な戦闘術。


 周囲には私達が一触即発の様子で肉薄したまま、どちらも動きを止めているという固唾を呑んで見守るしかない状況だ。


「よし! 嬢ちゃんの実力試験は終了だ」

「ありがとうございました」

「……次!」


 周囲の人間は唐突な実力試験終了の声に戸惑いを見せるものの、私に直接聞いてくるようなマネはしてこなかった。それがまずいことぐらいは誰しもが理解しているようだ。




 私もまだまだ未熟だわ。もっと良い方法があったわよね。少なくともお母様やお父様ならもっと上手く事を運べたはずだわ。

 まぁ今は反省は置いておきましょう。今の情勢で彼女の情報を知れたのは大きいわ。是非他の情報も有意義に使わせて貰いましょう。これから楽しいことが起こりそうね。



 他の受験生の実力試験の様子を眺めながら内心笑いが止まらない。決して全員にとって良い結末とはならないかも知れないけれど、少なくとも自分にとっては良い結末となる。

 そんな予感をひしひしと感じながら、次の試験会場へと移っていくのだった。

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