第18話 入学試験。むむむっ!

 時の流れは早いもので、入学試験当日の3月1日。今度こそ本番の入学試験だ。

 そして今日も例のごとくノワが迎えに来ているのだった。


「ノワちゃん、ヴェイルのことをよろしくね」

「はい、お任せ下さい。ヴェイルは責任持って面倒を見ますので」

「面倒を見るって言い方ないだろ」


 俺もびっくりなのだが、母さんは俺が思っていた以上の適応能力を見せてくれた。半月前の放心していたあれが嘘かのように、ノワと親しげになっている。それもこれもあれからノワが頻繁に我が家に来るせいだ。


『ノワちゃんが凄く良い子だからよぉ』

『いえいえ、お母様が素晴らしいお方だからですよ』


 なんてやり取りをしているのを見かけた。それに母さんの裁縫能力が高いやら何やら言っていたが、そこら辺はもう全部母さん任せだ。母さんの出産を手伝ってくれるなんて話もあることだし、ノワと母さんが仲良くなるのは大歓迎だ。


「じゃあ母さん行ってくるよ」

「ヴェイルなら大丈夫よ、頑張ってらっしゃい」

「うん、ありがとう。じゃあ!」

「では私達はこれで失礼します。サナさんもお腹が大きいんですから無理しないで下さいね」


 俺達が馬車に乗って出発するまでずっと母さんは手を振ってくれていた。後2ヶ月程度で出産予定なのだから無理しないで欲しいんだけどな。


「ヴェイル」

「ん?」

「絶対に合格するのよ。まぁあなたなら問題は無いのかも知れないけれど」

「分かってるよ、油断せず自分を信じて頑張るよ。最近は何時にも増して『勉強』を頑張ったから。ただ知識を吸収するだけじゃなくて勉強したんだ。絶対に合格するぞ」

「ふふったまにはかっこいい顔もするのね」

「いつもかっこいいだろ俺は」



 整備された道を走る心地よい馬車の揺れを感じ、過ぎ去っていく景色を眺める。人生が決まると言っても過言ではない今日を無事に過ごすために、ゆっくりゆっくり自分の鼓動に呼吸を合わせていった。







「スレイン王立学園を受験する方はこちらですー!」


 つい先日来た学園の門には、前回よりも受付が多く設置されていた。今回は学園の門の前で受付のようだ。なぜ?


 前回の方が人数が多かったのだから配置の数おかしくないかと思わなくもない。だが、先日の入学試験試験はただ木札を配るだけだったのに対して、今回は木札に書かれてる番号の照合と入学試験費用の支払い、更に自身の職業や合否通知を送る場所も書かなくてはならないのもあって、1人あたりの時間が前回よりも長いからなのだろう。


「行くか」

「ええ行きましょう。それと職業は『テイマー』よ、分かってるわよね?」

「勿論分かってるよ。そんなヘマはしないって」

「なら良いわ。それと受付は一番右にしなさい。その受付に金券も見せるのよ」

「ん? あぁ、分かった」


 それだけ言うと、ノワは踵を返してスタスタと真ん中の受付に歩いていった。

 ノワに気づいた人は一部の人が道を譲り、それを見た人達も道を譲っていた。最初に道を譲ったのがノワを知ってる貴族でその後に続いたのが察した平民かな?


 なんて勝手な予想をしつつ、俺もノワに言われた通り一番右の受付へと歩いていく。

 到着した列は少し長かったが、回転率が高いようで10分も待てばすぐに番が来た。


「木札と入学試験費用をお出し下さい」

「はい。木札とお金です」


 受付の人に促され、少し大きめの腰につけるポーチ……と偽っている空間収納袋から木札と費用を取り出す。ノワからのプレゼントだ。


「はい、確かにいただきました。受験番号はこちらです」


 そう言われ今度は829番の鉄札を渡される。複数の受付があるが、ここはこれくらいの番号なのか。とくだらない考えを浮かばせながら、特殊金券を出さなくてはいけないことを思い出した。急いで収納袋の中から取り出す。


「すみません、これもお願いします」

「金券……ですか?」


 受付さんは俺の顔を見て訝しげな表情をした後、特殊金券をじっくり見て笑顔に変わった。


「ブルノイル公爵家の特殊金券ですか……楽しみですね。ではこちらでそのように処理しておきますので、こちらの紙を記入したら学園の中にお入り下さい」


 渡された紙には左上に『特殊』と書かれており、その紙に記入する項目は後ろ盾の貴族名と自身の名前、そして職業だった。

 そこに俺はブルノイル家、ヴェイル、テイマーと記入して学園の中に歩を進めた。




 ノワと合流しようと周囲を探すも、ノワの姿が一切なかった。ノワが受付をしていたであろう箇所を見てもそこにノワの姿はなく、反対に学園の敷地内の方向を見てみるも、そちらにもノワの姿は既になかった。


「先に行ったのか? 俺の面倒見るとか言ってた癖に置いて行くんかい」


 なんとなく寂しい感じがしてそう愚痴をこぼすが、いないものは仕方ないと考え直して進んでいく。所々に何番から何番はこちらという看板が立っているから迷わないで会場に行けそうだ。


 案内板に従って学園内を進んでいき、『800~899番会場』という紙が入口に貼られている場所にたどり着いた。学園校舎の中の一室だ。

 会場に入って自身の席を探して席につく。50人くらいは既にこの部屋にいるだろう。そわそわして落ち着かない心を無理やり落ち着かせるために深呼吸をする。絶対に落ちれないプレッシャーと確実に受かれるだろう努力をした安心感に挟まれ、なんとも言えない感覚に陥る。感情が迷子だ。



 続々と受験生が部屋に入ってきて、用意されていた席もどんどんと埋まっていく。



 30分ぐらい経つ頃には席は全て埋まっていた。そしていよいよ開始予定時間だ。

 俺が来た時から一番前にある大きな机の前に座っていた大男が立ち上がった。


「ではこれより入学試験を開始する。我が学園は毎年非常に倍率が高い。全100会場――つまり10000人が受験しているが、合格するのは500人のみだ。皆全力を尽くすように」


 10000人が受験して500人が合格、倍率は20倍か。狭い門だ。


「試験の説明を開始する。試験は全部で3つ。1つ目学力試験、2つ目実力試験、3つ目人物試験だ。この会場は学力試験会場である。君たちにはこれから配る問題を解いてもらうが、制限時間は120分だ。では配布する」


 本当に必要最低限の説明だけをされ、問題を配布される。配布される際に受付で書いた紙も見せる。

 試験官は説明をしていた大男1人と、左と右と後ろに2人ずつの計7人。絶対に不正を許さないというオーラがマシマシだ。


「配り終わったな。では、開始!」


 学力試験が何の躊躇もなく始まった。

 俺は1度心を落ち着かせるために深呼吸をし、問題冊子を開く。まずは全部の問題に目を通すのが先決だ。




 目を通した感じ問題は全部で100問。

 簡単な計算問題や記憶ゲーの歴史・地理もあるが、中には複雑な魔法理論を用いた魔法図の効率化なんて難易度の高い問題もあった。問題の確認で5分は使ったので、残り115分だ。これは全部解けるか怪しいぞ。


『第1問:この特徴を持つ野菜は何か。【普段は地中に埋まっているが、抜かれると大声を出して泣く野草】』


 ふむ、これは有名な引掛けだ。単純に考えればマンドラゴラなのだろうが、マンドラゴラは野菜ではなく魔物だ。抜かれると喚く野菜は『マンドラゴラもどき』だな。っと。

 何が違うんそれ? なんて思ってはいけない。



『第2問:スレイン王国は海と森と2つの国に囲まれている。スレイン王国を囲む2つの国を答えよ』


 ズギダリン王国とアミーリスラ聖国。アミーリスラ聖国はスレイン王国と同じ四大大国の1つだ。いつかは行ってみたい。




 素早く順調に問題を解いていき、残り40分で残り20問まで来た。


『第81問:ここに記されている魔法陣は効率が悪い状態である。効率が良くなるように書き直せ』


 はい、分からんスキップ!


『第82問:貴族が不敬罪を宣言した際、不敬罪が免除となる場合がある。3つ答えよ』


 お、簡単だ。これはノワが出ると思うわよって教えてくれたところだな。

 1、不敬罪に問われた側が身分を偽っていたより上位の貴族であった場合。

 2、第三者で、より上位の貴族が不敬罪を撤回させた場合。

 3、不敬罪を宣言した貴族が死んだ場合。

 他にもあるがこれで3つだな。



 急に難易度が上がってきた問題に悩みながらも、解ける所は解いていき、無理そうならすぐに諦める作戦で最終問題に辿り着いた。残り時間は5分だ。


『第100問:王族であるアイファ・ディ・スレインを殺さなくてはならない。どのような手段を用いて殺害するか述べよ』


 これは……あれを書くか。それに受験者を使うなよ、が書きづらいだろ。



 答えは『アイファ・ディ・スレインを嫁に貰う』だ。

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