第41話 研究活動。いや違うんだ
あれから3匹分のベッドを契約し、1週間後に出来るという事で話がついた。トイレに関しては、テイマーギルドに便利な物が売っているらしいので、それを買って帰る事にした。
なんでも魔力を注ぐことで洗浄魔法が自動で発動して、面倒なトイレ交換が必要ないらしい。最強の発明品だろ。
そんな良い物があるならラン先生早く言ってよって感じだが、まぁ案内して貰ってる上にそんな事は言えませんよね。
「でもまさか本当に強くなるだなんて思いませんでした」
「うん。嘘ついてない」
「いや本当にすみません。あれは違うんですよ……」
無表情の中に少しだけむくれてる面影を感じるラン先生と話しながら寮に戻る。ラン先生も学園に戻るらしいので一緒の帰宅だ。……帰寮? まぁいいか。
おばあさんのお店を出てから1時間。ようやく学園に帰ってきた。
トイレを買う為にテイマーギルドに再度寄って、リンさんとラン先生の会話に巻き込まれていたら相当な時間が経ってしまっていた。もうすっかり真っ暗だ。
というかラン先生の言ってたリンさんの話が長くなるってのはあの事だったんだな。あれは長い。ラン先生が逃げるのも頷ける。
そんな事を考えながら寮に向かい、途中にある教師棟の前で足を止めた。
教師棟は学園に入って教室棟に向かうまでの途中にある。教師棟は教師が寝泊まりできる造りになっている為、ラン先生とはここでお別れだ。
「じゃあ先生今日はありがとうございました」
「ん。じゃあねヴェイル」
「はい!」
「研究待ってる」
「え?」
ラン先生はそれだけを言い残し、さっさと教師棟の中へと入っていってしまった。
「研究ってなんだ?」
相変わらず言葉数の少ない先生に振り回されるが、だからといって教師棟に入って聞き直す程でもない。そう思い、そのまま寮へと戻った。
それにこのタイミングでラン先生が俺に言うってことは、どうせすぐに研究とやらが始まるのだろう。
とにかく明日はノワに会った時にベッドのことを言わないとな。
◆◆ ◆◆
翌朝。
ノワが来るのを寮の1階で待つ。
昨日は帰ってからすぐにトイレだけを倉庫に設置し、何とも言えない寂しさのある部屋が出来上がった。
ここにベッドが追加されれば多少は……なんて思いもしたが、まぁ確かに生活必需品だけじゃなくて飾りなんかも必要だよな。
『装飾は王の威厳を表現する手法の1つであるからして、少しは飾っても良いと我は思うぞ』
『僕は真っ白が良いな真っ白~』
『私は現状に何も不満はありません』
そんな買い忘れの反省を3匹と一緒にお風呂に入りながらして、その後は3匹が乾くのを待って一緒の布団に入って寝た。
もふもふ3匹と一緒に寝れるなんて最高すぎた。いやもう本当に。まじで。
「なにニヤけてるのよ」
「はっ! ノワ!」
俺が3匹の可愛さの思い出に耽っていると、いつの間にかノワが来ていた。見てはいけないナニカを見てしまったとでも言いたげな表情だ。
くそっ予想外だ。いつもならもう少し遅く来るじゃないか!
「べ、別にニヤけてないが?」
「意味ないでしょう、今更その見栄は」
「ぐっ……!」
なんて痛い所を突いてくるんだこいつは!
「はぁ……ほら早く行くわよ」
「いやアイファを待たないとだろ」
「今朝連絡があったのよ、今日は一緒に行かないらしいわ。彼女にも用事があるんでしょきっと」
「ふーんそうなのか。まぁそういうことなら行くか」
「ええそうしましょう」
まぁアイファは王族だから俺なんかよりも遥かに人付き合いが多いよな。それに首席だし学園関係の何かをやってるのかも知れないしな。
ノワと2人で学園に向かって歩き、相変わらず人が自動で避けていく様子を眺める。
ブルノイル公爵家に対する尊敬や畏怖から道を譲られているのだろうが、これがもし自分だったらと考えると、なんだか地味に傷つく気がする。
教室に到着したらいつもの席についてネイリア先生を待つ。周りを見渡してみたが、アイファは教室にも居ないみたいだ。
用事が長引いてるのかな?
「おはようございます。ノワ様」
「おはよう」
ノワは席に座った途端に令嬢たちの挨拶ラッシュが始まっている。もうこれは毎日やるのだろう。
そう言えば、国によっては目下の貴族が目上の貴族に話しかけるのは駄目な所もあるのだが、スレイン王国では問題ない。
平民が王様に話しかけるみたいな、あまりにも地位が離れすぎている場合はお咎めがあるかもくらいだ。
貴族教養科目で使う教材の最初の方にそう書いてあった。
「おはようだね~みんな」
昨日のベッドの件も合わせてしばらくノワと談笑していると、ガラガラと音を鳴らしながら扉が開いてネイリア先生が入ってきた。相変わらず小さくて可愛い。
トテトテと教壇に歩いていく先生を目で追う。
「はいみんな座って~」
教壇に立ったネイリア先生が手に持った資料を教壇にトントンと叩くことで揃え、席に座ったクラスメイトを見渡す。なんだか今日のネイリア先生は機嫌が良さそうだ。
「今日は家庭の事情でアイファ君は休みだから……うん! 全員揃ってるね。素晴らしいね」
「家庭の事情……」
ネイリア先生の言葉にノワがボソッと反応する。なんだか気になることでもあるのだろうか。
アイファは王族なのだから、俺が言うような家庭の事情とは規模が違うだろう。そんなアイファが家庭の事情と言って休むのは、それほど不思議なことでも無いと思うんだけどな。
「どうしたノワ?」
「……いや、なんでもないわ。ちょっと気になる事があっただけよ」
「気になることって?」
「本当に些細なことだからヴェイルは気にしなくて良いわ」
「そっか。分かった」
気になる事、ねぇ。
まぁ確かに普通に考えてみれば、王族に最も近い公爵家であるノワからしたら王族の家庭の事情が何かって気になるのは当たり前か。それこそブルノイル公爵家の一員であるノワが知らないとしたら、政治的にも大切な情報になるかもしれないよな。
そんなノワの様子に気を取られている間にもネイリア先生の話は進んでいるので、一旦ノワとアイファの事は置いておいてネイリア先生の話に耳を傾ける。
「――じゃあそういう事で今日から研究活動があるから、各自今日中に好きな先生の所に行ってお願いするんだよ。今日は研究だけだから最後に集まらないからね。いいね?」
「「「「はい!」」」」
キラニアさんを筆頭にクラスメイトが元気に返事をしている。
と、いうことは俺は完全に乗り遅れたというわけで。そういう事とはどういう事って感じなわけで。
『フブキ、今先生なんて言ってたか聞いてた?』
でもだいじょーぶ! だって俺にはフブキが居るからねっ! 今日はショウとリオンはお留守番でフブキが着いて来てくれてるからねっ!
『う~ん……僕寝てたから分かんないや~……』
『ん~そっかぁ~寝てたならしょうがないよね~?』
あー可愛いっ! なにそれ! お目々掻いちゃって眠たかったよね~ごめんね起こしちゃったね~?
……嘘だろ……終わった。
「何やってるのよさっきから」
「はっ! これは……!」
いつの間にか床についていた膝を叩いてホコリを落とし、何事もなかったかのように立ち上がる。
今朝の俺とは違う!まだ挽回は可能だ。
「な、何もしてないが?」
「だから無理でしょうそれは」
「ぐっ……!」
我ながら再現度高すぎだろ。
ま、まぁそれは一旦置いておいて。
ノワならあの状態でも話を聞いていたに違いない。ここはもう素直にノワに助けを求めるしかない。
「さっきの先生の話を聞いてなくって、何がどうなって研究活動の話になったか分かんなかったんだ」
「それであの奇行を?」
「いやっあれは――!」
だめだ。ここでフブキが寝てたのが可愛すぎて悶えてた、なんて言ったら変人になってしまう! それに少しでもフブキが自分のせいだと思ってしまわないようにしたい!
「――そ、そうだが?」
「変人ね」
「ぐはぁっ!」
結局変人扱いされるのかよ……バタッ。
ちなみにベッドの料金の件はなんの文句も言われずに了承されました。というかもっと使えって言われました。
う~ん、ノワ様ですねホント。
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